スリッパは叩くモノではありません!
「学校? そういえば『高校生』って言ってたよね? 奏もそうなんだ?」
「同じクラスなんだよ。昔は家族でこの近くに住んでたし、母親が友達同士だから、コイツとは物心ついたときから一緒に遊んでたけど、小学校からはクラスまで一緒で、それからずっと。腐れ縁てヤツだな」
「ふーん、こっちの学校って、どんなこと教えているの? もしかして、科学とか教えてたりするの? ファンタジー小説にでてくるような?」
興味津々に訊ねると、拓斗は苦笑して、
「そっか、そっちの世界じゃ、科学がオカルトなんだよな。ファンタジー小説のネタなんだ? こっちの世界での魔法みたいな感覚なんだろうな」
そう言っておいてから、「うん」と頷き、
「そういう授業もあるよ」
「なんか、おもしろそう」
「だったら、一緒に行ってみる? アタシの制服の替え、貸してあげるよ?」
「ホントぉ!? 行く行くぅっ!」
奏の申し出に、あたしは即答した。
「おいおい大丈夫かよ、部外者は立ち入り禁止だぞ」
「へーきへーき、生徒だってイッパイいるし、どうせバレっこないって。アニメじゃみんなやってるコトだよ」
「それはアニメだからだよっ!」
「イザとなれば魔法だってあるしね☆」
拓斗の奏へのツッコミに口を挟んだら、
「便利だな魔法っ!」
こっちにも自棄気味のツッコミが飛んできた。
「そーよ、便利よぉ、だからしっかり魔法を覚えましょうねぇ」
すかさずあたしはそれを逆利用する。
「うっ」
一瞬、動きが止まる拓斗。
「と、ところで、いつまで持っているんだ、そのスリッパ?」
「いや、なんか便利そうだから」
「何にだよっ!? それは履く物であって、決して叩く物じゃないからなっ!」
「ちぇっ」
「『ちぇ』じゃねぇよ、『ちぇ』じゃっ!」
仕方なくあたしは、スリッパを元の位置に戻すのであった。
それから数時間、ひたすら魔力集中をやり、奏がアニメを観る時間だから帰るとごねだしたので、そこでお開きとなった。
結局、今日はふたりとも魔力の「ま」の字すら制御できる気配はなかった。
あたしの世界でも、最初なんてだいたいこんなもんではあるのだけど、魔法を信じていない世界ということで、ついつい不安に感じてしまう。
このまま同じ教え方でいいのだろうか?
お風呂に浸かってリラックスしたあたしの脳裏に、ふとそんな疑問が浮かび上がる。
長期休暇なので時間は充分あるけど、もし、あたしの世界の教え方がこの世界の住人には合わないのであれば、そんなのをダラダラやっていてもお互いに苦痛なだけだ。
そんなの魔法の良さを伝えるどころか、魔法は大変だという悪い印象を与えかねない。
やっぱ誰でも目に見えた成果が出ると、楽しく感じるモノなのだ。
だから良い印象を与えるためには、できるだけ早く成果が出るに越したことはない。
明日は学校体験もできるし、効率良く魔法を教えるヒントが得られるかもしれない。
ああ、あと、あたしの魔法を打ち消したヤツも探さないといけなかった。
はあ、やることはイッパイだ。