いまさらだけど、自己紹介。
「そだ、お母さんの説得に行かねば」
「だから待てぃ!」
「大丈夫だってばぁ、この子のことも魔法のこともナイショにするから」
「ナイショにするのはいいけど、なんと言って説得するつもりか先に聞かせろ」
「えっとぉ、タッくんの所に泊まる?」
「要らぬ誤解を受けるわぁっ!」
「じゃあ、どうすればいいんだよぉ!」
「だから、わざわざここに泊まらなくてもいいだろう、歩いたって30秒くらいの距離しかないんだからさっ!」
「やだぁ、30秒もかかってたら、タッくんだったら一回できちゃうっ!」
「なにをだよぉっ!」
「だったら魔法で移動すれば? どんなに離れてたって1秒かからないわよ」
「そっか! 瞬間移動の魔法だね!」
「そうそう、ただし、自分で使えるようにならないと意味ないのはわかるわよね? イザっていうときに、いちいちあたしに連絡してたんじゃ、30秒かけて歩いた方が早くなっちゃうからね」
「なるほど、確かにそだね」
「つまり、アンタがまずやらないといけないのは、瞬間移動魔法の習得ってこと。わかった?」
「わかった!」
「じゃ、これで問題解決ってことでいいわね?」
「うん」
元気よくうなずく奏。
「ホントにいいのか? 結局これって論点すり替えただけだよな?」
彼がさりげなくあたしの隣に来て、奏には聞こえないようにこそっと耳打ちした。
「本人が納得すればそれでいいのよ」
小声で返すあたし。
「ところで──」
今度は、奏にも聞こえるように言った。
「あたしまだ、アンタの名前を教えてもらってないんですけど?」
「あっ!」
ハッとした彼は、苦笑を浮かべると、
「はははは、確かに、タイミング逃して、ずるずる来ちゃった気がする」
「じゃあ、どうせだから改めてあたしから」
そして咳払いをひとつ。
「テュマ・トゥ・ウェル、16歳。史上最年少で大魔導師の称号を得た大天才よ」
「トマト植える?」
「ちがーうっ!」
奏のボケに力一杯ツッコミを入れる。
「テュマが名前で、トゥは最上位、ウェルは魔導師っていう意味よ!」
「テュマが名前で、あとは名字じゃないんだ?」
「名字でもいいんだけど、称号を得ている場合は、そちらを使って名字は省略するのが一般的ね」
「なるほど」
うなずいた彼は、
「じゃあ、オレの番」
そう言って一呼吸置くと、
「成宮拓斗。16歳。成宮が名字で拓斗が名前な。職業は高校生。称号は……持ってないかな」
最後の方は冗談ぽく付け足した。
「へぇ、この世界では自己紹介で、名字と名前を逆に言うのね?」
「この世界というよりは、この国な。外国では名前を先に言う所もあるよ」
「わかった、もし他の国にも行くことがあったら、参考にさせてもらうわ」
「はいはーい、じゃあ、今度はアタシね」
手を上げる奏。
「アンタはもうわかってるからいいわ」
すかさずイジってやると、
「いやぁだぁ!」
ぶるんぶるんと頭を振り、駄々をこねる。
「はいはい、冗談よ、どうぞ」
「五十里奏」
一呼吸待ったがその続きを言う気配がない。
「それで終わり?」
あたしが聞くと、
「うん」
うなずく奏。
「やっぱりいらんかったわ!」
あたしがすかさずツッコミを入れたのは言うまでもない。