魔法は秘密だってさ。いろいろめんどくさい。
「や、やっぱり、ここに泊めてもらおうかな」
そう言った途端、
「むぅ!」
奏がぷくぅーっと頬を膨らませた。
「そんな顔しなくても大丈夫だって、彼は全然あたしのタイプじゃないから」
「最初はタイプじゃなくても、一緒に暮らしていくうちに好きになってるって、アニメでは王道パターンだもん!」
「「なんじゃそりゃ!」」
あたしと彼のツッコミがハモった。
「あのね、あたしにだって選ぶ権利ってモンがあるのっ! 誰がこんなのを──」
「タッくんは『こんなの』じゃないもん!」
だぁはーっ! ホントめんどくさい人だなぁ。
もう、いい加減うんざりだったんで、
「そんなに心配だったら、アンタもここに泊まればいいじゃない」
「あ、そっかぁ☆ そだね! うん、そうするっ!」
「なっ!? なに言ってんだよオマエはっ!」
「泊まるったら泊まるったら泊まるのぉっ!」
寝転がって手足をばたつかせる奏。
あーほら、スカートでそういうことするからパンツ見えてる。
「駄々っ子かぁっ!」
あさっての方向に視線を逸らしつつ、ツッコミを入れる彼。
へぇ、なかなかの紳士じゃない。
などと関心しながら、
「はぁ、もう、いいじゃない。この際だから泊めてやったら?」
投げやりに言って、さらに続ける。
「こんだけスペースあるんだから、3人で寝泊まりするくらい余裕でしょう」
「そういう問題じゃなくて、オレが白い目で見られるんだよっ! そもそもいろんな意味で大家さんが了承するわけないだろう」
「わかった、じゃあお母さんを説得してくる」
すっと立ち上がる奏。
「待てい! なんて説得する気だよ!」
歩きだそうとした奏の腕をつかむ彼。
「魔導師の女の子に魔法を教わるからタッくんの部屋に泊まる!」
なんのひねりもない。
「アホかっ! そんな怪しい説得で許可が降りるかぁっ! そもそも彼女のことは秘密だって言っただろうがっ!」
「じゃあ、タッくんと魔法習得の旅に出る!」
「とうとうその時が来たとばかりに病院につれていかれるわぁっ!
──っていうか、どんだけ魔法のこと言いたいんだよ!
魔法のことを誰かに言うの禁止!
あと、覚えても人目のあるところで使うの禁止!」
「ぶーぶー、ケチ、ケチぃ」
「ケチじゃないだろっ! 魔法なんて誰かに見られたら大騒ぎになるどころか、世界がひっくり返って大混乱だっ! 下手すりゃ戦争にだってなり兼ねない。それでもいいのかよ!? オレは嫌だ! だからそれができないんだったら、覚えるのもナシだ!」
これでもかっていうくらい頬を膨らませて抗議の顔をしていた奏だが、彼は腕を組んだまま、頑として譲る気配を見せない。
「わかった……」
唇を尖らせて、しぶしぶ了承する奏。
「よし」
満足げにうなずく彼。
なんか、丸く収まったような雰囲気だけど──
「あのさ──」
あたしは声をかける。
「論点ズレてない?」
ハッとなるふたり。