エッチなんかするわけないでしょう! ただ泊めてもらうだけよっ!
さっきまでのハイテンションが嘘のようだ。
──と、おもいきや、
「泊まるってどういうことぉっ?!」
今度はもの凄い剣幕で彼に詰め寄る奏。
「あ、いや、異世界から来て、お金もないっていうからさ」
「だからってなんでタッくんのトコに泊まんなきゃなんないのよっ!」
「仕方ないだろう」
「仕方なくないっ! 男と女で二人っきりなんて不潔だぁっ! 不純異性交遊だぁっ! 絶対にエッチしちゃうに決まってるぅっ!」
「なっ?! ばっ、なに言ってんだよっ!」
真っ赤になって慌てる彼。
なんかおもしろいんで、しばらく見てようかとも思ったら、
「ちょっ──黙ってないで説明してくれよ」
こっちにも火の粉が飛んできた。
それが呼び水となって、あたしの方を振り返る奏。
顔を真っ赤にし、目尻に涙までためて、もの凄い形相で睨んでくる。
「はあ」
大きくため息。
まったく、めんどくさいなぁ。
こっちに詰め寄ってこられる前に、先手を打つことにした。
「あのさ、いっくらアンタが彼のこと好きだからって、あたしも好きとは限らないんだけど」
「うにゃぁっ?!」
途端に、真っ赤の範囲が耳まで達する奏。
「にゃにゃにゃにゃ、にゃんのこと? そ、そ、そんなこと、ひ、一言も、言ってないもんっ! アタシはただ、タッくんが間違いを起こさないようにと思っただけで……」
おーおー、わかりやすいなぁ。
妄想はぶっ飛んでるけど、すっごく純情っぽい。
「好きでもない相手とそういうコトするつもりもないし、彼にはあたしの体に指一本だって触れさせるつもりはないの。
ただ、こんな都会の真ん中で野宿をするのが嫌なだけ。
なんならアンタの家に泊めてもらっても、あたしは構わないんだけど?」
「そりゃダメだ!」
力一杯の否定は、予想外の所から飛んできた。
「どしてぇ!」
彼に鋭く尖らせた問いを向ける。
まさか、奏が妄想したようなことを考えているんじゃ──
「コイツの兄貴はヤバイ」
その必死さに、思わず首をかしげる。
「やばい? 奏のお兄さんて、極悪な犯罪者かなにかなの?」
「いや、そういうヤバイじゃなくて、基本、いい人ではあるんだけど、なんていうか、奏以上にそっち方面が好きというか、好きなことになると見境がなくなるというか……」
語尾を濁らせる彼。
「確かに、うちに身内以外の女の子が泊まったら、無事を保証できる自信はないけど……」
「なんちゅー兄貴だっ!」
とりあえず奏にツッコミを入れたあたしは、
「──っていうか、あんたたち大魔導師をなめてない? 魔族ならまだしも、魔法も使えない普通の人間なんかに、このあたしがどうこうされると思う? 魔法で吹っ飛ばして終わりよ」
「終わらせるなよ」
苦笑しながらぼそりとツッコミを入れてくる彼。
「ふっ、甘いなぁ」
奏が腕組みをして鼻で笑う。
「そんなんでうちの兄ぃは止められないわ。一度ターゲットにされたが最後、たとえ細胞の一片になっても、とことん追いかけてくるんだから。ある意味、魔族よりタチが悪いわ」
「うっ」
思わず顔を引きつらせてしまった。
そういう連中に心当たりがある。
──あたしの追っかけにもいたし……。
もちろん、オーバーに言っているだけなんだろう。たぶん。
でも、そういう人種には関わらない方が良いと、あたしの鍛え上げられた大魔導師としての勘が警告を発している。