資金源はミスリル。え?! ダメなの?!
「と、いうわけで、しばらくここにお世話になることに決めたわ」
あたしの言葉に、彼は一瞬ぽかーんと口を開いたあとで、
「はあ?! どういうことぉ?! 何がどういうわけで、そういうことになったんだぁ?!」
さすがに、いきなり言われたら、こういう反応するのは当然よね。
「だから、あたしは、あたしの魔法を相殺した人と魔法対決をしなきゃいけないわけよ。
その相手がすんなり見つかればいいけど、そうでなきゃしばらく滞在することなるでしょう?
だったら、どこか泊まる場所が必要じゃない?」
まあ、魔法対決がなかったとしても、どのみちしばらくは滞在の予定だったから、どこか泊まる場所は必要だったんだけど。
「で、どうしてオレの部屋?!」
「だって、せっかく異世界に来たんだもん。どうせならその土地の一般的な生活を体験したいじゃない?
それに、『袖すり合うも多生の縁』て言うでしょう?」
「なんでそこで、日本のことわざがでてくるんだよ?! あんた本当に異世界人かぁ?!」
「ああ、アンタの世界にも同じようなことわざがあるんだ? 格言とかことわざって、同じ意味のモノがあった場合、単語一つ一つじゃなく、一文まるごとそっくり変換されることもあるのよ」
「なんかいろんな意味で便利だなぁ、おい、翻訳の魔法って」
ヤケクソ気味に言う彼。
「まあ、精神状態に依存されるから、そのときの気分で変換されないこともあるけどね」
「それはいいとして! なにもこんな狭い所に泊まらなくてもいいだろう?! 宿泊施設を紹介するから──っていうか、もしかしてお金ないのか?!」
「失礼ねぇ、アンタ旅行するのにお金持たないで行くわけ? ちゃんと持ってきてるわよ」
「でも異世界のお金だろう? こっちでは使えないだろ?」
「ふふーん、そこはぬかりはないわ」
言ってあたしは、小指サイズの金属の棒を数本、ポケットから出してみせる。
「何かの部品?」
「なに言ってるかなぁ。ミスリルよ、ミ・ス・リ・ル。
どこの世界でもこういう希少価値の高い鉱物は、高額で取引されるからね。換金すれば現地のお金が簡単に手に入るって寸法よ」
「ミスリル? はて? どこかで聞いたことあるようなぁ……」
首をかしげる彼。
「そりゃ、名前くらいはあるでしょうよ?」
あたしの苦笑も耳に入らないくらい必死の顔で思い出そうとしている様子の彼。
「あ、そうか!」
いきなりポンと手を叩いた。
「それ、ダメだ」
「はい?」
「ミスリルって、架空の金属だ」