第八話:悪夢
典型的な感じで書きました。
奥州まで残り七日といった所で藍璃は夢を見ていた。
夢の中で藍璃は全身を鮮血で染めていた。
・・・・この血は誰の?
全身を血で染まりながら藍璃は自分でも驚く程に冷静だった。
藍璃は前方を見ると自分を庇うように斬紅朗が立っていた。
体中から鮮血が流れていた。
『斬紅朗殿!?』
声を出そうとしたが口から声が出なかった。
斬紅朗の更に前方には藍璃の婚約者の『藤原将雅』が血で汚れた刀を持っていた。
しかし、その姿は人間の姿ではなかった。
頭からは二本の角が突き出て双眼は赤い血の様な眼を爛々と輝かせていた。
その姿は一年前に藍璃を櫻おうと屋敷に忍び込んできた大江山の酒天童子だった。
酒天童子はまだ立っている斬紅朗に止めを刺そうと刀を振り上げた。
その刹那、
「いやー!?」
藍璃は悲鳴を上げて目を覚ました。
「・・・・はぁ、はぁ、はぁ」
藍璃は頬に冷たさを感じ頬に触ってみると涙だった。
洞窟を出て無意識に藍璃は辺りを見回して斬紅朗を探した。
「どうした?藍璃」
悲鳴を聞き付け林の中から斬紅朗が出て来た。
藍璃は斬紅朗の無事な姿を見ると安堵の溜め息を吐いた。
『良かった。夢だったのね』
夢だと分かるとその場にへたり込んだ。
「・・・・・何かあったのか?涙なんか流して」
斬紅朗は持っていた薪と魚を置いてしゃがんだ。
「・・・いいえ。何でもありません」
藍璃は冷静に努めた。
斬紅朗に無駄な心配を掛けたくなかった。
「・・・・なら良いが、あまり無理はするなよ?後、七日くらい歩けば奥州だからな」
疲れを隠していると斬紅朗は思い藍璃を励ました。
「はい。私、顔を洗って来ますね」
そう言って藍璃は立ち上がると河原に向かった。
立ち去る藍璃の後ろ姿を見て斬紅朗は胸がちくりと痛んだ。
「お願いだから夢であって・・・・・・・・・」
顔を洗いながら藍璃は夢が現実にならない事を祈った。
しかし、この藍璃の願いも虚しく夢は現実になった。
ますます王道に嵌ります。