第四話:優しい言葉
ほのぼのと物語は流れます。
二人で仲良く笑い合っていると・・・・・グゥー。見事なお腹の虫が鳴る音がした。
「・・・・腹が減ってるのか?」
斬紅朗が引き攣る口を抑えながら聞くと藍璃は顔を真っ赤にしながら頷いた。
「・・・・少し待っていろ。薪と食料を取ってくる」
そう言うと斬紅朗は早足で山小屋を出た。
暫らく山には笑い声が響き渡ったそうだ。
そして一時間後・・・・・
「どうだ?美味いか?」
取って来た野兎を丸噛りする藍璃を見ながら斬紅朗は言った。
野兎を丸噛りする姿はとても中納言の姫君とは思えない姿だが斬紅朗には関係なかった。
「はい。とても美味しいです。斬紅朗殿」
藍璃が笑顔で答えた。
斬紅朗はその穢れの無い笑顔が眩しくて目を細めた。
「どうかしましたか?斬紅朗殿」
キョトンとした表情で藍璃は言った。
「・・・・・い、いや何でもない。それより明日は早いからもう眠れ」
「斬紅朗殿はどうするんですか?」
「俺は起きて火の番をする」
「・・・・でも、そうしたら斬紅朗殿は疲れるのでは?」
襲うのではないかという不安と斬紅朗の身を案じる心配の両方の感情を宿した眼差しで斬紅朗を見た。
「心配するな。お前を置いて消えたりもしないし、襲ったりもしないから安心して眠れ」
幼い子供を寝かす様に優しい口調で言った。
「・・・分かりました。それではお言葉に甘えて・・・・・・お休みなさい。斬紅朗殿」
斬紅朗の目を見て安心したのか藍璃は静かに寝息を立てながら眠った。
斬紅朗は藍璃が眠ったのを確認すると静かに自分の着ていた陣羽織りを肩に被せると再び元の位置に戻り刀を肩に掛けると静かに寝息を立てる藍璃を見始めた。
藍璃が着ていた和服は絹で作られていて端から見ても良い所の姫だと分かるだろう。
『明日、一番で市に行って旅装束を手に入れないとな』
藍璃にはどんな着物が似合うのか楽しみだと斬紅朗は笑みを浮かべた。
妖しである自分が人間のまだ十代の娘に僅かな数時間で心を奪われるとは・・・・・・・・・
『歳を取ると情に脆くなると“あいつ”に言われたが本当だな』
ここには居ないが何処かで旅をしている知人に斬紅朗は苦笑を漏らした。
それから夜が明けるまで斬紅朗は藍璃の寝顔を眺め続けた。
友人とは夜叉王丸の事です。