第三話:芦屋藍璃
運命的な出会いを想って書いてみました。
武官達から逃げ切った斬紅朗は近くの山小屋に逃げ込んだ。
「・・・・・たっく。何で俺がこんな目に!!」
斬紅朗は不平を漏らした。
偶々、通り過ぎたから助けたのに人攫いと間違えられたのだから怒るのも無理はない。
「・・・・・」
娘は山小屋に逃げ込んでから何も話さなかった。
「・・・・・おい。何時まで黙り込む気だ」
「・・・・・」
「・・・何故あの武官達に追われていたんだ?芦屋藍璃様」
少し皮肉を込めて少女の名前を呼んだ。
芦屋藍璃・・・・・・・朝廷に仕える左大臣、藤原家の臣下の貴族で類い稀なる手腕で政界を生き抜いて来た名家。
その娘と分かり斬紅朗は少し苛立っていた。
『どうせ屋敷での生活が嫌になって好奇心で逃げ出したんだろうな』
しかし、少女が藍璃が発した言葉は斬紅朗の予想を裏切る言葉だった。
「・・・・・結婚する事になったから」
「・・・・・それであの武官達に追われていたのか」
「・・・・はい。逃げてる内に気が付いたら山奥に逃げてて引き返そうとしたらさっきの山に襲われて」藍璃はそれを言うと再び黙り込んだ。
「・・・・・で、これからどうするんだ?」
「・・・分かりません。どこにも行く当てなど、ありません。・・・・ただ、あの屋敷には一時も居たくなかったから」
何時の間にか藍璃の瞳からは大粒の涙が流れ落ちていた。
「生まれた時から姫らしく生きろと言われ、屋敷から出して貰えずに一族繁栄の為だと言われ何処ぞの貴族の息子と結婚しろ、・・・・・・・・・・・・・・・・と言われた屋敷に何か居たくなかったから」
藍璃はその場で蹲って泣き出した。
「・・・・・ハァー」
斬紅朗は頭を掻きながら溜め息を吐いた。
「・・・・・どこにも行く当てがないなら、俺と一緒に奥州に行くか?」
斬紅朗の言葉に藍璃は涙を零しながら顔を上げた。
「・・・・奥州へ」
奥州は僅か数十年前に桓武天皇の命令を受けた坂上田村麻呂によって征服された未開の地である。
「あぁ。そこに俺の知人が居る。理由を話せば面倒を見てくれるはずだ。お前が行きたいって言うなら連れてってやる。どうだ?」
「・・・・・何故、そこまで、見ず知らずの私のために?」
藍璃は見ず知らずの男がここまで自分に肩入れする理由が解らなかった。
「・・・・女が困ってる所を見捨てるのは、男じゃない。と知人に言われたからな」
ため息を吐きながら斬紅朗は答えた。
「・・・・・えっぐ、ひっく、えっぐ。・・・・・・・・・・ありがとうございます」
涙を零したが、それは先ほどの冷たい涙ではなく暖かい涙だった。
「あ、の、まだ、貴方の名前を聞いてなかったんですけど・・・・・・・・・?」
裾で涙を拭きながら藍璃は聞いた。
「俺か?俺の名は斬紅朗。月神斬紅朗だ。宜しくな。藍璃」
斬紅朗は様を付けずに藍璃と呼んだ。
「は、はい。宜しくお願いします。斬紅朗殿」
それが嬉しかったのか藍璃は笑顔で言った。
短くてすいません。