メッセージ
運よく電車がすぐに到着した。乗り込んで家路に向かう。最寄り駅で降りてアパートまで走った。
アパートの下から見上げると、部屋に明かりがついていた。階段を上がり、呼吸を整えてドアノブを廻すと、案の定、開いていた。
部屋に入ると、ベランダに春臣がいた。
「お帰りなさい。走っているのが見えました」
「待たせるの、嫌なんだ」
背広を脱いでハンガーに掛けると、春臣は部屋に入ってきた。
「姉に言われました。暁生さんに迷惑をかけるなって」
「迷惑じゃないよ……」
「姉と付き合っているんじゃないんですか?」
「え?」
「仲がいいの知っていたから」
「桜子は大学からの友だちだよ」
「家に何度か来ましたよね」
「うん……」
春臣はずっと誤解していたのだろうか。
話さなかったのは、桜子の話題になるとどうしても避けられない話が出てくるからだった。それについては触れたくなかった。
「知りませんでした。暁生さんは、男の人しか好きになれないんですね」
突然の事で、暁生は言葉を発せなかった。
「恋人、いるんですか?」
「え?」
「相手は、男の人ですよね……」
春臣の震える声が耳に届く。
彼はどう思っているのだろう。気持ち悪いと思っているのだろうか。
それとも、少しは自分に好意を抱いてくれているのだろうか。
「君は、僕のことをどう思う?」
「俺……、暁生さんのことはお兄さんのように思っていました。一緒にいるとすごく楽しくて。でも、男の人が好きだと聞いて……」
「そっか……。ごめん。気持ち悪かったよね」
春臣が驚いた顔でこちらを見る。
「大丈夫だよ、僕は君のことは何とも思ってないし」
その瞬間、春臣は目を吊り上げて暁生を睨んだ。
「もういいです。お世話になりました」
そばをすり抜けて出て行く。
ドアが閉まっても暁生はその場を動けなかった。
思いがけず、涙が出た。
暁生はしゃがみ込んで、泣いている声が誰にも聞こえないようにと唇を噛んだ。