隠していたこと
守は、何を隠していたのだろう。
今さら、謝って許して欲しいと言われても、もう過去のことなのに。
「暁生さん?」
険しい顔をしていたせいか、気づけば春臣が目の前にいた。
「どうしたの? 怖い顔をして。変なラインでも入った?」
暁生は、顔を上げて恋人の顔を見た。
どうしよう。春臣に相談しようか。
でも、黙っていて、ばれたときに誤解されたくない。
暁生は、ごくりと喉を鳴らしてから春臣を見た。
「暁生さん?」
「春臣、ちょっといいかな」
「うん」
暁生の様子を見て、春臣は少しだけまじめな顔をした。
「まさか、別れ話とか、そんなんじゃないよね」
「違うよ」
暁生は慌てて言った。
「なら、いいや」
春臣が屈託なく笑顔になる。
暁生はほっとしながら、何から話せばいいのだろうと思った。とりあえず、高校生の頃の話なんだけど…と切り出した。
「僕は高校生の時、一人だけ、付き合った人がいたんだ」
「えっ?」
春臣が目を見張る。
「男の人?」
「うん」
打ち明けた時、少しだけ後悔したが、春臣は口を真横に結んでから、ふっと力を抜いた。
「それで?」
「ごめんよ、もし、嫌な思いをさせたら…」
「平気だよ。だって、今は関係ないんでしょ」
「うん。その人とは、高校三年生の時に付き合っていたんだけど、大学進学と同時に自然消滅しちゃってね、一度も会わなかったんだけど、今日、図書館でばったり会ったんだ」
「えっ、そうなんだ」
春臣は、驚いた顔をする。
「連絡先を教えてほしいって言われたから、あまり考えずに教えたんだけど、今、メールが来て、高校生の頃のことを謝らせて欲しいって言われた」
「ふうん……」
春臣が言って、少し考える顔付きになった。
男前がまじめな顔をすると、少し怖い。
「暁生さんは会いたいの?」
春臣が小さく聞いた。
「僕は…」
暁生は目を閉じた。




