待ち伏せ
駅に着いて改札を出ると、自動販売機の前に森岡が立っていた。
暁生を見てうれしそうに手を振っている。止めていた自転車を引いて近づいてきた。
暁生は足を止めた。
「君……いつから待ってたの?」
「鞄持ちますよ」
「いいよ」
べたべたする森岡を制して歩き始める。のどが渇いたので、自動販売機で水を買った。
「大丈夫? 顔が赤いけど」
「ちょっと飲みすぎたかも」
酒はそんなに強い方じゃない。けれど、今日は少し多めに飲んでいた。
「もう遅いし、早く家に帰れよ」
「家まで送ります」
「大丈夫だよ。家はどこなの?」
「小野寺さんの家の近くです。自転車だと本当にすぐなんですよ」
結局、家までついてきて階段を一緒に上がって行く。
「今、何時?」
時計を見るのも面倒くさくて、森岡に尋ねると、十時ですと返事があった。
「やっぱり帰れ。こんな遅い時間までここにいちゃいけない」
「一緒にいたいんです」
ぐいっと腰に手が廻り、ぴたりと森岡の体が密着する。
ぞわりと鳥肌がたった。
「すごくいい匂いだ」
首筋に鼻をこすりつけてくる。暁生はやばい情況に気がついた。
「何するんだ…」
「男が好きなんでしょ?」
誤解だと叫びたかったが、声が出ない。勝手に鞄から鍵を探り出し部屋のドアを開ける。
「入って、小野寺さん」
「いやだ…」
拒否したが、森岡の腕力には叶わなかった。部屋に押し込まれ、鍵がかかる音を聞いた。暴れると何をされるか分からない。深呼吸をして、冷静に話をしようと思い込む。靴を脱がずに森岡に向き直った。
「僕は何か勘違いさせることをしたのだろうか。悪いけど、男なら誰でもいいわけじゃないよ」
「あなたが好きでした。前から知ってたんです」
靴のまま、部屋の中に入ってくる。暁生は後ずさりしながら、鞄の中にある携帯電話を探った。携帯電話が点滅している。通話を押してポケットに移動させた。
「春臣の邪魔がなければ、あなたはもっと前に、俺のものになっていたんです。あいつさえいなければ」
「どういうこと?」
「あなたを傷つけたくない」
いつの間にかそばに立っており、手首をつかまれた。指が食い込み、息を荒くしている男が力任せに抱きしめてくる。恐ろしさのあまり、体がこわばった。
「やめてくれ……」
首筋を噛み付くように吸い舐められる。
森岡にはもう声は届いていないようだった。
フローリングに押し倒され、下着ごと一気にズボンを下ろされた。
「ひっ」
冷たい手で肌を撫でられ、全身が震えた。
やめて、やめてくれ…っ。助けて、助けて…。
その時、ドアを叩く音が数回して森岡がはっと体を起こした。
鍵が、ガチャンと開いて春臣が飛び込んできた。




