同じ日常
春臣はこんな遅くまでいたことはない。
一緒にいて、気持ちを知られるのが恐かった。
二人きりになると、どうしても緊張する。
会うたびに年下の少年に惹かれている自分に気づいていた。気のないふりをし続けた。
泊めるなんて言い出さなければ、春臣とこんな形で別れることはなかったのに。
灯りを消してベッドに横になる。壁を向いて、背中越しのぬくもりを思い出す。
硬い背中だと言われた。春臣の背中は大きかった。
強引に目を閉じたが、また、眠れない夜を過ごすのかと思うと、気が滅入った。
朝、いつものように目を覚まし、朝食を食べて、仕事場へ行く。
暁生の仕事は事務職で、変わらない日々を過ごしている。その日も、定時に仕事が終わって家路に着いた。
森岡からは連絡はない。当然、桜子からは来ない。自分も連絡をしない。その方がお互いのためだと思った。
次の日もその次の日も同じ日常を過ごした。
金曜日の夜、同僚に飲みに誘われた。職場近くの居酒屋で酒を飲み、終電前に電車に乗った。
体に煙草の臭いが染み付いている。座席に座り、一息ついた。その時、ラインが入った。森岡だった。
『家に行ったけどいなかったですね』
『飲みに行っていたんだ』
すぐに返すと、再び携帯が振動した。見ると、春臣からの着信だった。
暁生は、思わず着信を押してしまった。
『暁生さん?』
懐かしい春臣の声がした。暁生は、ちょうど停車した電車から降りた。
『暁生さんでしょ? 俺の声、聞こえていますか?』
「何か…用事?」
声を振り絞ったが震えていた。
『少し、話をさせてください…。僕、あなたに謝りたい』
「気にしなくていいよ…」
それだけ言って、暁生は電話を切った。
春臣の悲しんでいる顔が思い浮かんだが、これでよかったのだ、と無理やり言い聞かせた。
すぐに、次の電車が到着した。乗り込んで電車に映った自分の顔を見た。
やつれた顔。
春臣と出会う前の自分に戻りたかった。あの頃は一人でも生きていけると思っていた。恋人も作らず、穏やかな毎日を過ごせると思っていたのに。
一人じゃない喜びを知ったために、今が苦しかった。
目を閉じる。
忘れるんだ。
落ちつかせるために、大きく息を吐いたが、ため息になった。




