魔科際の決勝戦2
「みなさん!第四試合が始まろうとしています!現状は2-1でレックス・ビルジェンタを主将とするチームが有利な状況です!このまま決着してしまうのか!?」
今リョウは決戦の場で相手と向かい合い、審判の合図を待っている。
周りの観客は盛り上がりを見せていた。
「リョウっていったか?」
相手が話しかけてきた。
「そうだけど」
「…さっきの試合、お前のチームは魔法を使ったな」
「それがなんだ?」
「今は科学同士の試合だ。なんで魔法なんて使った?」
「ルール上何の問題もない。勝つために使っただけだが?」
「…恥はないのか?」
「はぁ?」
「私たちは科学側の生徒として代表を目指している。それなのに魔法の力を使って恥ずかしくはないのかと訊いている」
この学校には日常的に顔を合わせることはないので忘れられがちだが科学と魔法が存在する。
設備にさほど差はないが、授業内容はもちろん全然違う。
そしてこの2つの勢力はどことなく仲が悪いのだ。
理由は科学側にあるとリョウは考えている。
「(ここにもいるのか…。大方、才能がないから入れなかった類なんだろうなぁ)」
魔術は才能がなければ学ぶことはできない。
それ故魔法ができるのほうが有能と思われている。
大半の人は魔法に入りたがり才能がないと言われ、科学に移動する。
そういう人たちは魔法ができる人を妬んでいるのだ。
「魔法を妬んだって何も変わらない。あんた可哀そうだな」
「なっ…!」
図星だったらしく顔が怒りに満ちていく。
「違うのか?」
「違う!科学は人を豊かにする!だが魔法は人に良くない力を与える!それだけだ!」
「(どこの世界に行っても意味分からねぇやつはいるんだな…)」
「それでは始めたいと思います!!所定の位置についてください!」
「潰してやる…」
そう言いながら相手は移動する。
試合開始の合図を待つ。
この瞬間は観客も静まり返る。
「それでは始めます。…ファイト!」
試合が始まった。
――――――――――――――――――――――――――
「マーシャさん、試合始まりましたよ」
「えっ、ちょっと待ってよ。フィリア、止めといて!」
「録画じゃないんだから無理ですよ…」
今フィリアとマーシャは救護室で試合をテレビで観戦している。
別に動けないというわけではないのだがフィリアは絶対安静と言われている。
「リョウさん、勝てますかね?」
「あなたがボロボロになってまで勝利をもぎ取ったんだもの。勝つに決まってるわ」
「そうだといいんですけど…」
「あなたと同じチームなんだから信頼してやんなさいよ」
「…そうですね。信じて待ちます」
そう言うとフィリアはニヤニヤしながらマーシャを見る。
「なに、ニヤニヤしてんのよ」
「いや、やけにリョウさんのこと信頼してるなぁ、と思いまして」
「何が言いたいのよ」
「単刀直入に言えばリョウさんのこと好きですよね?」
「ないわね」
「…いじりようのないほど即答ですね。本当ですか?」
「今は信頼できる友達、親友っていう立ち位置にいるわ」
「今は?」
「そうね。もしかしたら好きになることもなきにしもあらずだから」
リョウの試合中にも関わらず女子たちの恋バナは花を咲かせる。
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「さっさと壊れろよ!」
「そっちこそ!」
リョウは今試合中だ。
今回の戦いは殴り合いになっている。
どちらとも距離を置くことなく、近接攻撃を繰り返している。
どちらとも2つの武器は手の強化に回し残り1つを隠している状態だ。
「ふん!」
「ぐっ!」
リョウの頭に強化されたパンチが直撃してしまった。
リョウは脳震盪に陥る。
ここがチャンスと言わんばかりに相手は殴り始める。
リョウは防御もまともに行えず、Sバリアのエネルギーがどんどん減ってく。
この勝負では、Sバリアのエネルギーが空になっても負けである。
Sバリアが張られていない状態でドールを着た相手から攻撃を受ければ簡単に肉塊になるからである。
リョウは少し治ってきた頭で考え、後退した。
上も下も分からなかったがとりあえず地面へ突っ込むという最悪の事態は防げた。
ようやく感覚がもとに戻ってくる。
「そんなに殴られて…、せっかく強化した腕もボロボロだぜ?諦めたらどうだ」
「あいにく、負けず嫌いなんでね」
そうは言うが確かに腕はぼろぼろだ。
まだ機能はしているもののあとどのくらい持つか分かったもんじゃない。
「(魔法使うべきか。でもそれ使わなくても勝てるんだぜって言いたかったんだけどなぁ)」
しかし、フィリアも自分の体をボロボロにしてまで勝ったので負けるわけにはいかない。
勝つために魔法を使うことにした。
改めて接近する。
「フラッシュなら俺には効かねぇぞ!」
「そんな分かりきったことしねぇよ」
「ならお前の負けだな!」
そう、フラッシュは使わない。
手を前に掲げると唱えた。
「ファイヤ!」
炎の弾が相手に向かって放たれる。
これは予想していなかったのか、反応が遅れ直線で向かってきてるのに後ろに下がる。
そして直撃した。
顔には当たらなかったものの強化した腕を2つとも犠牲にした。
2段階目だったりするとほとんど無傷になるかもしれないが、1段階目相手なら十分な威力を誇っていたのだ。
この時、「もうちょっと早くここに来れれば魔法を習えたんじゃないかな」と後悔した。
「てめぇ…!」
「フラッシュは、使ってないぜ。で、どうする?ただのドールじゃあ、俺の強化した腕があるドールには勝てないぜ?」
「俺が負けるわけねえだろ。相手が魔法を使う弱虫野郎ならなおさらだ!」
すると相手は突然加速してリョウに近づいた。
突然のことで反応できない。
一般人なら。
しかし
「!」
リョウはそれを見抜いていた。
接近を簡単に見破られ手札がなくなった相手は唖然とする。
「お前は俺と同じ近接攻撃派だ。そしてここまで勝ち残るほど強い。強い奴ってのは大抵変わったものを持ってるもんだ、と俺は思っている」
「だからって、あんなにもいともたやすく…」
「アクセルの使い方、1から学びなおして来いよ」
リョウが構える。
相手も構えるがどこか抜けていた。
リョウが一瞬で相手に近づいた。
相手はなにもすることができなかった。
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「よくやった!さすがだな」
「脳震盪からの大逆転、すごかったですね」
「負けるわけにはいかなかったからな」
リョウは今救護室にいる。
リョウが勝つことができたのでB組が科学側の代表に選抜された。
本当は近くの出店でクラス全員で祝う予定だったが、フィリアを抜いて祝うわけにはいかない。
ということで、救護室で祝うことになったのだ。
「でもお前が負けても俺がいたんだぜ?」
「それは頭にあったけど、フィリアがボロボロになってまで勝ったんだぞ?ここで負けたらなんか嫌じゃん」
「代表になれればいいじゃない。やっぱり男子は分からないわ」
「マーシャ、前も言ったがそれは男子だけじゃないぞ。負けず嫌いな女子だっているだろ。フィリアみたいな」
「わ、私は負けず嫌いなんかじゃありませんよ」
おずおずとではあるがフィリアが反論する。
「いや、後があるのにあそこまでやるのは負けず嫌いしかいないよ」
「いや、…気分ですよ」
「どんな気分よ…」
「でも1日空いていてほんとよかったな」
「そうね、じゃなきゃフィリアは試合参加難しかったもんね」
「ドールが壊れようと、体がボロボロになってようと参加しますよ」
「やっぱり負けず嫌いね」
「「だな」」
自分のいた世界とは違うのにそれと同じくらい楽しかった。
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夜9時、お祝いも終わり帰る途中だ。
気分よく帰ってる最中
「こんばんは」
声をかけられた。
ミリーナがいた。
全然気配を感じなかった。
「飛ばされてからしばらくは全然現れなかったのに、ここにきてラッシュか?」
「こっちもいろいろあるの。それにしても怒らないの?」
「少し頭冷やしたからな。それに…」
「この世界のこと少し気に入ったの?」
ニッコリしながらリョウの心を読んでいた。
「おまえ、子供だよな?」
「ミリーナは永遠に子供なの♪」
「…永遠の〇歳はイタイと、とられることがあるぞ?」
「…夢がないの」
「で、何の用だ?」
「そっちは私に質問あるんじゃないの?」
「答えてくれるのか?」
「時間内なら、ある程度は」
…この子の言う時間とはいったい何なんだろうと思う。
初めて会った時もまるで制限時間があるかのようにいなくなった。
「戦争についてできる限り」
「…前にも言った通り10年以内に戦争は起こるの。詳しく言うならもうすでに始まっているの」
「どういう意味だ?」
「所々で小さい戦争は起きてるの。簡単に片づけられてしまうから公表されないの」
「小さい戦争?」
「例えば…、最近ミューズデルで銀行のコンピュータがハッキングされたの」
「それ戦争って言わないんじゃ…」
「ハッキングされたのは夜、ドアが開けられても警報が鳴らなかったの。でもその時盗まれたのは現金じゃなかったの」
「銀行に入ったのに金を持ってかなかったのか?それ以上に価値があるものか?」
銀行に入ったのに金は盗らない。
リョウにはなぜかいまいちわからない。
「うん。情報なの」
「情報?」
「それも国家機密レベルのなの。幸いこの国を出る前に捕まって情報流出は止められたの。こんなことが今月だけで17件起きてるの」
「…盗んでくるのはミューズデル帝国の連中ってわけか」
「うん。…今回はたまたま誰もいなかったから何にもなかったけど実際死人も出てるの。規模が小さいから死人が少なくて済むけど戦争になれば恐ろしい数になるのは間違いないの」
「だが、俺にはその戦争を食い止めるすべはないぞ」
そう。
正影はここに連れてこられたものの、ただの一般人。
何かしら特別な能力があるわけじゃない。
「戦争は決定事項なの。止めることはできないの。それでも死人を減らし、戦争をいい方向に進める方法はあるの」
「それが俺だと?お前の直観が言ってると?」
「…正直無理なお願いだとは分かってるの。でもあなたを帰すことはできないの。私はこの国を守りたいの。そのためなら私は何でもするの」
「お前の故郷なのか?」
「私の故郷はこの世界すべてなの」
「ならなんでこの国にこだわる?この国も人もどうなろうとお前には関係ないだろう」
「…詳しい理由は今は話せないの。ごめんなさい」
「そうか。ならいい」
「なんか今日はあまり怖くないの。なにかあったの?」
「…」
「話したくないなら必要ないの。それに私もそろそろ限界なの」
「そうか。また教えてくれ。できれば時間があるときに。こんな時間が毎回少ないと、いつすべて話し終わるかわからないからな」
「…ありがとう」
「俺としては帰してくれれば万事解決なんだがな」
「ごめんなさい。もう限界なの。そろそろ私の活動可能時間が0になってしまうの」
活動可能時間?
疑問を問う前にミリーナは消えた。
1人でしばらくその場にいた。
そしてリョウは何事もなかったかのように帰り始める。
しかし、頭の中では考えていた。
「(…まさか俺がこの世界を好きになっているとはな。はじめは帰ることばかり考えていたが、ここにきてたった2ヶ月でその意思が薄れ始めてる。いいことなのか、悪いことなのか)」
どちらにしてもリョウは今を守ると決めた。
「(戦争は嫌だ。死にたくはない。それに俺の力でできることなんてたいしてない。でもこれから伸びていく可能性はある。だけど、戦争かぁ)」
自分が何を考えても意味はないと思い、リョウは考えるのをやめ明日に備えるため足早に帰った。
読んでくれている方々どうもです。
楽しんでいただけてますかね…。
これからもよろしくです。




