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ドール

リョウは今Bコースの講義室にいる。

はじめに入ったBクラスは正直たいした意味を持たない。

クラスで活動するのは学校の大きな行事の時のみだ。

一年の大半はクラスよりも、コースの人と過ごすことが多い。


「分かるか?これが割り算っていうやつだよ。ここで引っかかるとあとがめんどうだからな?」


今教壇に立っているのは、ヒューズ・マクアドル。

Bコースの授業の先生だ。

実践はまた別にいるらしい。

和服を着てそうで、聡明そうには見えるが面倒くさがり屋にも見える。

リョウは実践に出たいとは思っていたが、このような授業もあることは予想していた。

知識も大切なのだ。

先生の話に必死に耳を傾けていたのだが…


「…」


リョウは疲れ切っていた。

いや、クラス50人弱はほとんどが疲弊していた。

この学校の授業は日本の大学と似ている。

Bコースの中で更に、自分の出たい授業を選びそれに参加するのだ。


「(ま、まさか初日に実践が1分たりとも用意されてないとは…)」


ようやくチャイムが鳴り、授業の終わりを告げる。


「よし、今日の授業はこれでおしまいだ。予習なんていらないから今日の内容は理解しておくように」


マクアドルが何ともないような顔で教室を出ていく。

リョウたちは、8時から4時までのうち6時間をこの講義室で過ごした。

しかもマクアドル先生からの講義でだ。

教える側の人といえども疲れるだろう。

だが、何ら変わりもなくマクアドルは出ていった。


「(いくら高校でも6コマすべて同じ部屋で座って授業なんてなかったぞ?馬鹿なのか?)」


彼は、疲れを癒すため寮へ戻っていった。




――――――――――――――――――――




寮に戻ってくると荷物を放り出しベッドに横になった。

クロはまだ帰ってきてないようだ。

Cコースは両方を掛け持ちするのだから大変なのだろう。

飯の時間になるまでしばらく寝ていよう。

6時前にはクロも戻ってくるだろう。

そう思い寝ようとするとインターホンが鳴った。


「クロだったら…呼び出す意味ないよな」


独り言を呟くと、リョウは腕輪をいじり始める。

さすが科学が発展しているだけあってわざわざ決まった場所に行かなくても相手の顔も見れるし、会話もできるのだ。

画面を開くとマーシャが映っていた。

後ろにもう1人知らない女子が映っている。


「マーシャ、何か用?」

「ちょっとこの子のことでね。とりあえず部屋にあげてもらえないかしら」

「分かった」


画面を閉じるとまた腕輪を操作する。

本当に便利だと思わずにはいられない。





5分後2人がきた。

こういう時、転移装置のタイムラグが未だに慣れない。

来てるほうはすぐに来ただけなので何の違和感もないかもしれないが待ってるほうは嫌な感じだ。


「まず紹介するわ。彼女はフィリア・リトルトリア。Cクラスだけど同じBコースの生徒用よ」


すると隣の子が小さな声で「よろしくおねがいします」といいながら頭を下げる。

見覚えがない人だ。


「リョウ・アマミヤです。よろしく」


特徴的なのが灰色の髪の毛。

ポニーテールだ。


「この子、すごい人見知りでね。自分から話しかけることがまずないの。だから友達作るのも苦手でね」

「…それで俺になにをしろと?人見知りを直せと?」

「そんな難しいお願いじゃないわ。ただ何かあったらその時お願いっていうこと」

「十分難しいお願いだな」

「身の周りの世話をしてやってってわけじゃないわ。ただペアになれとか、共同作業じゃなきゃ難しい時とかに手を貸してやってっていうことよ」


お前は母親か、とつっこみたかったがフィリアが可哀そうなのでやめておいた。


「まぁ、それくらいなら構わないが。でも、そういうのは同じ女子に相談するべきじゃないのか?」

「そうしたいのはやまやまなんだけどね、私の知ってる女子はBコースのにはいないのよ」


マーシャはCコースだ。

居ないのも無理はないかもしれない。

だが


「なんでお前、Bコースじゃないんだ?格闘技は自信あるんだろ」

「…いろいろあってね、私も迷ってるの」


突然暗くなるマーシャ。

彼女が何を抱えているのか、リョウはまだ知らない。

話しかける言葉が見つからず困っているとフィリアが口を開く。


「ね、ねぇマーシャさん。やっぱりいいですよ…。迷惑かけたくないですし…」

「何言ってるのよ。私だってできればしたくないわよ。でも、困ることは必ずあるわ。友達としてあなたが心配なのよ」

「でも…」


フィリアに話しかけられてすぐにマーシャもいつもの調子を取り戻す。


どうやらフィリアはリョウに断られたと思っているようだ。

ここは引き受けておくべきだろう。


「そういうことなら構わないよ。よろしくね、リトルトリアさん」


「えーっと…」と戸惑っている。

まだ少し困っているようだ。


「ほら、引き受けてくれたんだから。それでいいじゃない」


マーシャも背中を押す。


「…じゃあよろしくおねがいします」


ようやく決めたようだ。


「じゃあ私たちは帰るわ」

「もう帰るのか?」

「用は済んだしね。それに結構時間も食ってしまったし」


そう言われて時計を見てみると5時を過ぎていた。

時間の流れ方は分からないもんだなぁ。


「ホントだ」

「じゃあ明日からおねがいね」


そう言うと帰ってしまった。

フィリア・リトルトリア。

ここの人は基本積極的だったからあそこまで人見知りな人を見るのは久しぶりだった。

ここも日本と大差ないんだなと思いながらクロが帰ってくるまで寝てることにした。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




その日は朝6時ころ起きた。

あまり寝過ぎると逆に眠くなるというが12時間も眠るとむしろ目が覚める。

…ん? 12時間寝た?


「あ、おはよう。リョウ」


リョウは今日早く起きる必要はないがクロはどうやら授業が早いようだ。


「クロよ、今俺は朝の6時だと思っているのだが間違いだよな」

「いや、合ってるよ。昨日起こそうとしたんだけどリョウ全然起きなくて」


そんなにぐっすり寝ていたのか。マーシャに知られたら間違いなく馬鹿にされるな。

っていうか、12時間ぶっ続けで寝れるってすごいな。


「ねぇ、早く起きたんだったら一緒に朝ごはん食べに行こうよ」


断る理由なんてない。


「いいよ。5分くらい待ってくれ」

「分かった」


そう言うと嬉しそうに笑顔を見せた。

リョウに兄弟はいないがこんな弟や妹だったらほしいなと思う。

言った通り、5分で身支度を済ませる。

我ながらよくこんな早く済ませられるな?と疑問を持つスピードだ。


転移装置を使い、部屋を出て食堂まで少し歩く。

食堂には案の定、知っている人は少なかった。

大半がCコースの人なのだからまぁ、無理もない。

軽い食事をたのみ、トレイを持って待つ。


「リョウって、変わった名前だよね。リョウ・アマミヤ?だっけ」

「俺から見ればお前の名前も十分変だぞ?」

「変はひどいよ。僕は変わったって言ったのに」


待ちながらの他愛もない会話。

女子に対して耐性がないようだが、男子となればあまり日が経ってなくても昔からの友達のごとく話しかけてくる。

なんだか嬉しかった。


「そういえば、昨日の授業どうだったの?疲れてたみたいだけど」

「それがよぉ…、まさかの講義ばっかりだったんだよ。しかも6コマすべて同じ授業。たまったもんじゃなかっ―――」

「知識も必要だと思うけどねぇ…」


後ろから話しかけられ振り向く。

そこには昨日の講義の先生がいた。


「せ、先生…」

「まぁ、気持ちは分からないでもないけどねぇ。確かに書いているだけじゃ、聞いているだけじゃ暇だよね」


ちょうど注文した品がトレイに置かれる。


「まぁ、安心しなよ。今日はちゃんとあるから、実践」

「は、はい。では…」


逃げるようにしてその場を後にする。

まさかいるとは思わず思っていたことを口走ってしまった。

成績にひびかないかなぁ、と心配しているリョウだったがマクアドルは全く違うことを考えていた。


「…あの子なんだね?」


誰かにしゃべりかけるわけでもなく、ただ小さい声で呟いた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





「よし、授業始めるぞ」


今リョウは訓練場に来ている。

遂に彼の待っていた実践の授業だ。

ちなみに今授業をしているのはヒューズ・マクアドル先生だ。

本当の先生は出張中らしい。


「じゃあまずこのボールを配るぞ~」


手のひらサイズの球体が配られる。

この授業を受けて気づいたが、マクアドルは授業と私生活では口調を変えるようだ。


「大体渡ったな。説明するぞ。まずこの球体の名前はドールだ。名前の由来は知られていないけどな」


…ドール。

確か英語だったかな。

意味は人形だっけか。


この世界には英語は存在しない。

基本はミューズ語で一部の地域でのみ変わった言語を使っている。

いわば方言みたいなもんだ。


しかし、リョウは知っていた。

英語が存在しないといったが、実は魔法はほとんどが英語なのだ。

以前マーシャが見せてくれた光を灯す魔法、それは「ライト」といった。

他にも水は「ウォータ」、炎は「ファイヤ」というらしい。

偶然にしては地球と合致しすぎているのだ。

そもそも言語がほとんど日本語と同じ単語というのもかなり気になっていた。

考えても答えは出ないのだが。


先生の話は続く。


「そしてこのドールの中にはトリプルイーっていう装備スーツが入ってる。これも由来は不明だ。これ作った奴は何やってたんだろうな。そしてこのスーツの一番の特徴は進化するということだ」

「進化?」

「そう、進化だ。どういう仕組みか知らんがこいつはどんどん形状を変えていく。7段階、今は確認されている。そして人によって進化する方向も変わってくる。最初はみんな同じだが3段階目にはダブることのほうが珍しくなってくる。つまり自分専用の機体が手に入るってことだな」

「進化させる方法は?」


生徒が尋ねる。


「不明だ。正直トリプルイーについて分かっていることはとても少ないんだ。まっ、そんなのは機体を使いこなすことにだけ集中すればいいお前らには無関係だけどね」


さっきから言ってるトリプルイー、おそらく3Eって書くんだろうなって思いながらリョウは聞いていた。

しかし、手のひらサイズの球体からドールとやらを呼び出せるとはすごい話である。


「さ、こんな説明よりもお前らはさっさと機体を動かしたいだろ」


おっ、分かってるじゃないかこの先生。


「よし、とりあえず広がれそしたらそれから説明だ」





「いいぞ。これで全員だな」


リョウは今機体に乗っている。…いや装備している。

両足、両腕、胸に機体が装備されている。

正直、装備はドールを腕輪に読み込ませればいいので大して難しいことはない。

ちなみに例の球体はすでに先生に回収された。

腕輪に読み込ませたらあとは回収といわれた時は「何言ってるんだ?」と思ったがあとは球体を持ち歩かずとも腕輪のみで呼び出せるそうだ。

驚きだ。


「じゃあ、後は自由にしてくれ」


どうやら自由時間のようだ。

折角の時間なので堪能する。


腕を動かす。

ウイーン、ウイーンといった音は出ず、本当に静かだ。


足を動かす。

これにも同じ感想が出た。


少し跳ねてみた。

軽く10mは跳べた。


しかし、リョウがそれ以上に感動したのは空中に跳んだまま止まっていられるといこと。

地球にはない技術だ。

それが、何の訓練もなしにできるのだからこれはすごい。

もともと自分の手足であるかのようにすべて思い通りに動かせる。

リョウはこの世界を楽しみつつあった。




~~~~~~~~~~~~~~~~




放課後、リョウはいまだにテンションが上がっていた。

機体に乗れたのだ。

この喜びをクロに、と思っていると


「ちょっといいかな」


と呼び止められた。

振り返るとマクアドル先生がいた。

朝のこともあり少し、話しづらい。


「リョウ・アマミヤ君だったかな」

「はい、そうですが。…朝のことでしょうか?」

「いや、それは関係ないよ。同類を久しぶりに見つけたもんだから声かけたくなっただけさ」

「同類…ですか?」

「君、地球人だろ?」


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