それぞれの戦争
「…」
「クロ、お前…!」
「ゴメンね。でもこれしか方法がないんだ」
ミュレスの当日。
開会式は前日に行った。
なので朝起きた後、やることは今日の試合に備えることだった。
準備ができて部屋を出ようとしたとき、すべては始まった。
~ミュレス前日~
学生寮、特に4~6年生のうち4年生の寮は本当に静まり返っていた。
所々で話し声は聞こえる。
しかし、4年生にとっては初めての学校外での戦闘経験を味わうことになるのだ。
それに自分を少しでも出すため、Bコース8割がたが参加することにしている。
そしてこれは使い魔にも言えることである。
彼らは就職とかそういうことは一切関係ないのだが、一応使い魔限定の大会もある。
人の姿でも元の姿ででもいいので戦うのだ。
実はこの大会も結構人気がある。
使い魔は案外、人の姿になると可愛いものが多いので、「可愛いのに戦っているという光景がいい」という人が多いのだ。
前例では、あまりに人気があってアイドル的存在まで祭り上げられた使い魔もいる。
「リョウ。緊張してるみたいだね?」
「当たり前だろ。3段階目でどこまでいけるかは分からないけどな」
「リョウなら準決勝くらいまでいけるよ。段階の壁なんてぶち壊しちゃえ!」
2人は自分の部屋で明日に備えている。
クロはAコースに入ったので、明日の試合には出ないようだが。
リョウは3段階目が4段階目に勝てるよう、作戦を練っている。
以前はまず無理といったが不可能ではない。
戦略次第では1,2段階ぐらいの差なら埋められるのだ(かなり難しいのだが)。
実際、フィリアはそうやって勝ち上がっている。
リョウと同じ3段階目なのだが、数々の4段階目を下しているのだ。
初めから策士としてやってきたことだけはある。
「まかせろよ。とびっきりの作戦建てて、いいところまで行ってやるよ」
「勝ち上がれれば3段階目ならきっと注目されるよ!サクも頑張ってね」
「無論です。ノティスとして、そしてリョウ殿の強さを見せつけるためにも負けるわけにはいきません」
「サクが勝ってもリョウが強いことにはならないと思うけど…」
「少なくとも私がすぐ負ければリョウ殿は弱く見られます。なら勝つしかないのです!」
「頑張れよ、サク」
「もちろんです!」
平和な日常だった。
ミュレスがあるとはいえ、別に明日で人生のすべてが決まるわけじゃない。
明日、死闘を繰り広げるわけじゃない。
そのはずだった。
災害とは忘れたころにやってくるのである。
リョウだってミュレス当日にことが動くなんて思ってもみなかった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「安心して。殺さないから。みんな特別待遇で迎えてくれるって言ってたよ」
「みんな…?」
頭を何か鈍器のようなもので殴られたらしく意識がはっきりしない。
「うん。僕たちラブトリアが全員」
「クロが…ラブトリアの1人?」
クロの顔はいつも通り笑顔だったが、どこか寂しそうな申し訳なさそうな顔をしていた。
「じゃ、僕時間だから」
「じ…かん?」
「今からミューズデルを攻撃する」
「な…!」
「リョウは寝て待ってて。すぐ、終わるから」
クロの体が崩れ始める。
「お前…!」
「じゃ、またあとで」
リョウはそこで意識を失った。
―科学の会場4―
リョウがクロに襲われた時間と同時刻。
試合が始まる直前だった。
記念すべき第一回戦目はレックスが登場している。
科学側では4年生の間ではかなりの有望株だ。
対戦する相手とレックスが所定の位置についたとき事態が動いた。
遠くで爆発が起きたのだ。
全員がそちらを見る。
「えっ?何」「爆発っぽいよ」「あそこは6年生の会場だよな?」「事故?」
観客がざわめき始める。
「キャァァァァァァァァ!」
悲鳴が聞こえた。
そこには以前見た覚えがある格好をした謎の人物がいる。
体は正体を隠すためか全て黒でおおわれている。
そいつの手には人の頭が握られていた。
隣の観客の体のみが席に座っている。
こうなれば観客は大パニックだ。
我先にと人がどんどん逃げだす。
警備員のいうことなど少しも耳には入っていない。
そんな中、男は首を放り投げるとレックスの方に向かってきた。
「…」
黙ったままそいつから目を離さない。
「…度胸だけはあるようだな」
「お前、何者だ?」
「ラブトリア兼、国家厳重未知検察官であるグリージョ・V・ラナターシャ」
「ラブトリア?」
「知らないのも無理はない。むしろ知っていればこちらの失態になる」
レックスは緊張していた。
知らない人を前にしたからではない。
このグリージョから何も感じ取れないからだ。
明確な何かを感じ取れるわけではないが、確実な違和感があった。
「俺に何の用だ?」
「別にやらなくてもいいのだが、こちらの方が早く済ませそうだからな」
「何?」
「お前ら全員を相手にしてもかまわないがお前を倒せば他の奴は「俺じゃ勝てない」と思い戦意喪失するのではと考えた」
「上等だ。やってみろよ!」
―魔法の会場周辺―
「クソッタレ!」
ケイトは今数人と一緒に敵兵の撃退に当たっている。
柄にも合わず機体ない言葉を使いながら。
爆発が起きたかと思ったら一般人に紛れていたらしく、問答無用で周りの人を殺し始めた敵がいた。
もちろんケイトたちも例外ではなく狙われてしまった。
「なんなんだよ、こいつら」
「知らないよ!とりあえずやらないとやられる!」
「ちょうどいいじゃん!大会前の準備運動だ!」
周りにいた友人が死んでいないだけまだましなのかもしれない。
いつの間にか周りは黒で体を覆った奴か、黒いドールらしきものを装備している敵兵しかいなくなっていた。
ドールらしきと書いた理由は一段階目でもないのに、全員が同じ形のドールを装備しているからだ。
「死にたくないなぁ…」
「よく言うよ。ネーム持ちのお前が死ぬなら俺たちも即死じゃねぇか」
「全く、俺たちの学年は本当に不幸だな!」
3人対数多くの敵の勝負が始まった。
―魔法の会場4―
「…」
「…」
さっきまで戦っていた魔法の生徒の亡骸の隣にシューレスは立っている。
相手の顔が笑っている。
「てめぇ、何なんだ?」
「ヒヒッ!答える意味があるのか?でもまぁ、今は気分がいい。ヒッ。ラブトリアの1人、アルゴラ・R」
「そこまで言うなら最後まで言えよ」
「悪いな、ヒヒッ!そこから先は忘れた」
「俺はシューレス・D・ジルリア。ネーム持ち同士仲良くやろうぜ?」
「私とやりあう気ですか?ヒヒッ!小童の分際で」
「これでも4年の中では最強だぜ?」
「そうか。なら少しは相手になってやろう。ヒッ!しかし、申し訳ないが私の魔法のせいで盛り上がらないかもしれないがな」
「いいぜ。こいよ、ネーム持ち!」
―ミューズデル市内の銀行前―
「ちょっと、マジやばくない?」
「チョーやばいよ、姉貴!」
自分たちの出番までかなり時間があるということで市内を徘徊していたときに爆発が起き敵に囲まれた。
おそらく目標は銀行なのだろうがたまたまこの姉妹は銀行の前にいたのだ。
「どうする?」
「決まってんじゃん!」
明らかな敵意を見せてくる敵兵を見ながら言った。
「皆殺し♪」
「いえーい!正当防衛だヨネ?」
「モチ!」
ここでは戦争というよりクリティウス姉妹による虐殺…もとい正当防衛が始まった。
あちらこちらで煙が上がり始める。
マクアドルはその光景をただ眺めていた。
「先手を打たれてしまったねぇ…」
「もしかしてこれが起こることを知っていたんですか?」
「いつか起きるっていうことはね。今日とは思わなかったけど」
視線をそらし、机のほうを見る。
そこには今日突然起こったミューズデルを離れたところでの帝国の侵攻についての状況が映し出されている。
「おそらくこの2つの侵攻は偶然じゃないですよ」
「だろうね。いつもならあと10分もすれば軍隊が支援に来るはずなんだが…、おそらく無理だろね」
映し出されている映像には苦戦を強いられている軍隊の姿が見えた。
相手の大半が魔法を使ってくるので接近が難しいのだ。
「仮にすぐこちらに向かったとしても瞬間移動装置がなければ最低1時間はかかる。こちらは私たちで対処するしかないみたいでねぇ…」
「言っておくが俺は嫁を守ることに専念するぞ?」
「今じゃ、リリア君以外卒業しちゃって残ってる君の嫁は一人だよね?クレア君」
「俺があんたの下についたのも嫁を守るためだ。あんたを守るつもりは毛頭ない」
「わかってはいたけど、いざ言われると傷つくね…。しかし、なんで君はそこまでリリア君にこだわるんだい?」
「あいつは未だに俺に惚れていない。だから惚れさせてみせる」
「…今の台詞、君が男だったら素直に応援したしかっこよかったんだけど」
「それまでは、俺はあいつの近くにいる」
「君は男を好きになることはないのかい?」
「俺より強く、クールな奴なら受け身になってやるつもりだ」
「君よりクールな人はなかなかいないな」
「とりあえず俺は行く。あんたもさっさと動きな」
クレアはドールを展開すると窓を開けて出ていった。
残ったマクアドルはなんだか申し訳なかった。
リリアに対して。
「…すまない」
罪悪感から出た一言だった。
―学生寮(女子)―
「何が起こってるの!?転移装置は動かないし!」
「分かってたら、こうやって走り回りません!」
「とりあえず、外に出るわよ!」
ミューズデルで爆発があった時刻と同時刻、学生寮(女子)でも爆発があった。
今でもどこかで爆発している音が聞こえる。
「とりあえずドールは展開しておくわよ」
「でもここじゃ狭いわ!」
「あんたのは、でしょ?フィリアあんたのは特に身軽なんだから、もしものために備えなさい!」
「分かりました!」
ドールを2人は展開する。
リリアはマーシャがお姫様抱っこする形で運ぶことになった。
もともと、外ではお祭りのようなものがあったので寮に残っている生徒は少なかった。
「ランたち、大丈夫かしら?」
「大丈夫よ。私たちが選んだ使い魔よ?そう簡単に死にはしないわよ」
「そうですよ。私たちが信じないで誰が信じるんですか?」
使い魔は今皆、会場の方に集められている。
こうなると折角の使い魔も意味がない。
「しかし、主を守るために使い魔は存在するんだからやっぱこういう、使い魔限定の戦いはよくないと思うわ」
「それは賛成ね。しかもほぼ強制だったし」
「使い魔は見せ物じゃないのになんででしょうね」
「あとで運営に言っておく必要があるわね。外に出るわ!」
目の前に扉が見える。
この扉を使うのは久しぶりだ。
しかし開けようとした瞬間、扉が砕ける。
破片がこちらに飛んできたので手でガードする。
「いったい何ですか…?」
「敵の登場ってわけね」
そこには彼女たちが知る人が立っていた。
全身黒で覆っているが特徴的なアクセサリがフィリアに一瞬で誰かを気付かせた。
「ピスさん…。何ですかその恰好」
「…どうして、分かったの?参考に、聞かせて」
(ピスが分からない人は「フィリアの休日その1」を見てください)
「そのアクセサリですよ」
フィリアが指をさした先にドクロのアクセサリがあった。
「こんなの、数は少ない、けど売ってる」
「そのドクロ、なかなかいいところに傷をつけてますね」
よく見ると目の所に傷がついている。
ちゃんと見なければ分からないような傷だ。
「以前お気に入りだと言って見せてくれました。もう3年ほど前の話ですけど」
「…失態だ」
「まったく、だからあなたは詰めが甘いって言われるのよ」
「あなたも正体晒したらどう?大方予想はつくけど」
「そうね。あなたと話すのは初めてかもしれない。でも会ったことはあるわ」
仮面を外し正体を見せる。
「やっぱり…。あなた以前そこの子と喧嘩して部屋替えで私のところに来た人ね」
「ご名答。私はカーリャ・エリスエル。以後お見知りおきを」
「正体ばれたぞ?いいのか?」
「こいつらを殺せば問題ないわ」
「以後お見知りおきをって言ったのに殺す気満々ね?」
「いや、死後の世界があることも信じてるから…言ったんだよ!」
カーリャが魔法を唱え、マーシャたちの上に球をぶつける。
天井が崩れ始める。
急いでその場を離れ、扉の外へ出る。
広い空間が広がっている。
校庭をイメージしてもらえればそれでいい。
その奥に起動している転移装置はあった。
「悪いけどそこをどいてもらうわ」
「どくと思う?まぁ、どいたところで転移装置は起動してないけど」
カーリャたちはドールを展開する。
Aコースにどちらも行っていたので、ドールは2段階目とレベルは低い。
だが、見たところ魔法が彼女らの本職のようだ。
「やるしかないわね」
「ですね。私はピスさんを抑えます」
「分かったわ。私はカーリャを。っていうかリリア、あんたはいつまで黙ってるの?」
抱きかかえているリリアを見ると気絶していた。
頭にたんこぶができている。
「…」
「たぶん、扉の破片が飛んできたときにドール展開してなかったもんだから直撃しましたね」
「折角数の上では有利だったのに…。仕方ないわね。私たちだけでやるわよ」
リリアを地面に寝かせ、マーシャたちも構える。
「安心して。気絶しているその子はあなたたちを葬った後に殺すから」
「ありがとう。ならあの子の心配はいらないわね」
「ピスさん。考え直す気はありませんか?」
「ない。私は、私が信じる、道を行く。ただ、それだけ」
それぞれが一言言い終わると、戦いは始まった。
ころころ場面が変わって申し訳ないです。
初めての作品であった故、ご容赦を。




