それぞれの思惑
少し時間が開いてしまいましたー…。
申し訳ない、でもこれからもよくありそうな気がする。
あと今回、話す部分が多めになってます(7、8割ぐらい…)。
合宿が終わってから約1ヶ月が経っている。
つまり冬休みが終了して少し経ったている。
合宿での襲撃はいろいろな生徒たちに恐怖を与えたがそれも忘れられ始めたころだ。
平穏な日常が戻っていた。
「―――――というわけだが…、リョウ。どうしてだか分かるか?」
軽く眠りかけていたリョウに問いが投げかけられる。
「えっ…、あ、はい!その…」
「分からないのかい?」
どうせ寝てたんだから分からないだろ?とマクアドルの顔が言っている。
悔しいが確かに分からない。
回答に困っていたリョウにラッキーなことが起こる。
チャイムが鳴ったのだ。
「あれ、チャイム鳴っちゃったか。ならいいや。じゃあこの時間はここまで。リョウは後で私の所まで来るように」
それを言うとマクアドルは教室を出ていった。
「ハァ…」
「寝てるからそうなるのよ?」
「マーシャは答え知ってたのか?」
「授業をきいてればすぐに分かるわよ」
「なら教えてくれればいいのに」
「…一年生の逸材なんだから少しは頑張りなさいよ」
「それは周りから見た感じであって、俺はそう思ってないよ」
今リョウが言ったことは事実だ。
リョウ自身は、自分が逸材だなんて微塵も思ってない。
昔は、そんな感じで目立つことができれば気持ちいいものだと思っていたが何事も経験して初めてそのことが分かるのだ。
こんな風に目立つのは自分の肌に合わなかった。
半分くらいの生徒は普通に接してくるのだが嫉妬している生徒、先生なのに敬語を使ってくる先生、しまいにはごく少数だが崇拝してくる人までいたのだ。
今はできる限り普通に過ごすことで、そういうのを抑えようとしている。
「リョウ~、一緒に帰りましょ♪」
ミィヤである。
いまだにリョウの恋人になろうと頑張っている状態だ。
以前とは違い、「あなた」と呼ぶ頻度が減ったし、多少は度の過ぎた言動もなくなったがべったりなのに変わりはない。
なぜ変わったのかはリョウには分からないのだが。
「悪いな、ミィヤ。さっきの話聞いてたろ。マクアドル先生の所いかないと」
「そうですか。残念ですね。なら夜ご飯の時呼んでください」
「何言ってるのよ。あなた今日、茶道部があるんじゃないの?」
「…ああっ!?忘れてた!急がないと!ありがと、マーシャ」
少し焦って感じで教室を出ていった。
マーシャとは肝試しをした日から仲がいい。
何を話したのか知らないが仲がいいことはいいことだ。
「じゃあ、俺も行くよ」
「そうね。先生を待たせるわけにはいかないでしょうし」
「ああ。じゃ、またあとで」
教室を出て転移装置に向かった。
「マクアドル先生、きましたよ?」
「ああ、リョウ君。お茶出てるからそこに座ってくれ」
コタツのようなテーブルがあり、そこにお茶があったので座る。
足をテーブルの下に入れてみると暖かかった。
「先生、なんかこれ暖かいんですけど」
「そりゃ、コタツだからね。電気もついてるし」
「別に寒くないのになんで?」
「そりゃ、冬と言えばコタツとみかんだからね」
「そろそろ2月入りますよ?」
「まだ問題ないさ。私はもともと東北出身だからね。今の時期はまだ冬真っ盛りさ」
「成程。で、なんで俺を呼んだんで、うお!?」
コタツの中で足を動かすと何かムニっとしたものに当たった。
「ななななんだ!?」
「寝ている子供を蹴って起こすのはよくないと思うの」
「…お前いたのかよ」
「ミリーナはどこにでも現れるの。だからある意味どこにでもいるの」
「そうかよ。しかし、ミリーナが絡んでるとなると面倒事か?」
「そうなるのかな。まぁ、ただの現状確認みたいなものだから気にしないでよ」
「はぁ…」
真剣な話をするというのにミリーナはみかんを食べ始める。
しかしそれ以上に気になることが一つ。
「お前、ロボットなのに普通の飯食べるのか?」
「消化器官も排泄器官もあるの。内蔵は9割がたあなたたちと変わらないの」
「よくできてるんだなぁ」
「それより本題へ入りたいの」
「ああ。そうだな、初めていいぞ」
ミリーナは皮をむきながら本題に入る。
「まず、リョウの言っていた、ラブトリアについてなの」
「何かわかったのか?」
「ごめんなさい。影すら掴むことができなかったの」
「そうか…」
「まぁ、そんなうまくいくもんじゃないさ。で、人の方はどうなんだい?」
「なんて言ったっけ?グリー・V・タグラン?」
「前言ってたのもあれだったけど、今のはもっと離れてるの…。たぶんリョウが聞いたのはグリージョ・V・ラナターシャなの」
「言われてみれば…」
「で、その人はどんな人なんだい?」
「帝国出身の一般人なの。表向きは」
「表向き?」
「本当の顔は一言でいえば暗殺者なの。しかも国家厳重未知検察官という肩書き付きなの」
「国家…!」
マクアドルが珍しく驚いた顔をする。
ミリーナの顔も少し深刻そうに見えた。
「なんですか、その国家なんとかって?」
「国家厳重未知検察官。存在はするけど認知されていない組織なんだよ」
「認知されてない?」
「ようは国家の秘密組織さ」
「へぇ…。で、その組織をきいてなんでそんなに焦ったんですか?」
「理由は簡単なの。かなり厄介だからなの」
「厄介?」
「その組織についている人はもちろん強いんだけどね、それよりも面倒なのがそいつらに支給される数々の技術なんだ。まぁ、実態は謎なんだけどね」
「技術…ですか」
「この世界の進んでいる技術を見てきただろう?転移装置、地面の影響を受けない車、ドール。ここの世界の技術はすごいんだ。けどそれは帝国も同じ」
「相手も独自の技術を持っていると?」
「理解が早いね。そういうことだよ。基盤は同じ。時間も同じ。でも進んだ方向は違う。相手は私たちが持っていないような技術を持っているかもしれないんだ。しかもむやみに出さないように機密組織のみに使わせていてね」
「国厳を構成しているのは7人と言われているの。全員がネーム持ち。出てくるのは全面戦争になった時だと思っていたんだけど…」
「早いよね…。めんどなことになりそうだなぁ」
みかんを食べながら話すミリーナ。
正直、言っていることとイマイチ状況が合わない。
「私はこいつについてもう少し情報を集めておくの」
「頼むよ。じゃあ、一番の謎について話そうか」
「一番の謎?」
「なぜ巫女を襲撃したのか。そしてなんでわざわざ生徒がいるときだったのか」
言われてみれば確かにおかしい。
今回の襲撃はサッド対ミィヤの一騎打ちならサッドが勝っていた。
それなのに生徒がいるときに襲撃したがために負けてしまった。
生徒がいるときに襲撃してもメリットはイマイチ考え付かないのだ。
「確かにそうですね。なんで生徒がいるときに…」
「時期を狙っていた、というのが私が唯一考えられる理由だよね」
「私もそれは思ったの。でも、あの時期だから何かがあるというのは見つけられなかったの」
「ん~…、つまりできたのは疑問だけなんですか?」
「そうだね。巫女の殺害についてもイマイチわからない。生かしたままで身柄の確保ならまだ分かるんだけど、殺害する意味が分からない…」
「それに関しては面白い情報があったの」
「それは?」
すべてみかんを食べ終わるとミリーナは皮も口にいれた。
苦い顔をしながら話を続ける。
「ある文献に書いてあったの。コロナって知ってる?」
「何だそれは?」
「形状は不明なの。だけどコロナは地球上のラテン語にあったの。意味は王冠」
「王冠…」
「その文献にはその生成方法も書いてあったの。材料のみだけど」
「まさかそこに巫女と関係ある何かが?」
「そうなの。材料はたくさんあるけどその中に巫女の霊力とあったの」
「霊力?魔力じゃないのか?」
みかんの皮を食べ終わるとまたもう一つ新しいミカンを取り出す。
「霊力っていうのはこのみかんと同じなの。皮が魔力で実が霊力だと思ってくれればいいの」
ミリーナが皮をむき実を皮の上に置く。
「もともと魔力っていうのは霊力が変換されたものなの。そして魔力に限りはあるけど霊力には死なない限り、限りはないの」
「霊力に限りがないなら魔力にも限りはないんじゃないのか?」
「変換するときに時間がかかるの。だから魔力は尽きるし、でも時間がたてば回復するの」
「成程。でもおかしくないか?死んだら霊力は生成されなくなるんだろ?そしたら殺さない方がいいんじゃないのか?」
「リョウは皮をむかないでみかんの実のみ食べることは出来るの?」
新しいミカンを取り出す。
「確かにあるといえばあるの。何か道具を使い無理くり霊力を絞り出す」
爪楊枝を取り出し、みかんに穴をあける。
「でも、こんなことをしても取り出せる霊力は少量」
爪楊枝を抜くと確かに先っちょには少しついているが汁は漏れてこない。
「なら穴を大きくすればいいんじゃないのか?でもそれは被験者に対してものすごい負担になるの」
ストローくらいの穴をあけ、ストローを差し込む。
「ちなみにみかんじゃ無理だけどこのストローを抜けばすぐに魔力の層が霊力を囲むの」と言いながら。
「爪楊枝ではとても時間がかかる。ならストローを使えばいい。でもストローを使えば体が耐えられず、おそらく死ぬ。なら殺せばいい。そういうことだと思うの」
そういいながら剥いていないみかんをコップの上で握りつぶす。
「殺してから一定時間がたてば霊力はたんまり残っているけど、魔力は消滅するの。これだけ簡単な方法があるならこれを使わない手立てはないの」
手を拭き、むいたみかんを食べ始める。
「そんなひどい方法じゃなくたって…。例えば霊力を本人に頼んでもらうとか!」
「霊力は人のみの力では外に出せないの。そして、魔力を霊力に戻すことも出来ないの」
「だからって殺すのか?」
「私がやってるわけじゃないの。でもあちらの気持ちが分からないわけでもないの」
「なんでだ?」
「私はこの世界を守りたいの。もし、ある一人の人を殺せばこの世界を守れる、そうなったら私は間違いなくそいつを探して殺すの」
「お前っ!」
「貴方は正義感が強いの。でも私にそんなものはない。この世界を守るためなら犠牲はいとわないの」
「殺したそいつはお前の守りたい世界の住人じゃないのかよ?」
「ええ。そうなの。だから私はできる限り人は殺さないの。関係ない人は巻き込まないの」
なにかミリーナに決意のようなものが見えた。
それは何年も前からあるもので、ミリーナの基盤であるような気がした。
「君たち。そういう話も大切だけど…」
「そうだったの。話を戻すの。さっき言ったコロナは正直できてしまうと私たちが勝てる確率が限りなくゼロに近くなるの」
「いったいどんなことが起こるんだ?」
「コロナ。それを身につけた人は霊力を魔力に変換するスピードが異常に早くなるの」
「…それだけか?」
「リョウ。簡単に言えばコロナを装備した人は魔力に限りがなくなるの。そんなチート野郎に勝てると思うの?」
「どんな敵に出も隙はある」
「これはゲームじゃないの。相手が戦争が始まってすぐ最強のシールドを常に張り、敵に会ったら常に必殺技が使える。そんな敵に勝てると思うの?」
「それは…無理だな」
「でも必ずこれを狙ってると決まったわけじゃないの。あくまで推測。これからも調べていくの」
「でも巫女の確保は失敗したんだろ?他の巫女だって今回の件で警戒するだろうしコロナはもう作れないだろ」
「私たちの技術力と同じならばね」
考えたくもない事実を突きつける。
「それってどういう…?」
「さっきも言っただろう。私たちとあちらでは持っている技術が違う。こっちが劣っているものもあれば、あっちが劣っているものもある。もし仮に、あちらが魔力を霊力に変換する方法を見つけていたら?」
「…」
「他の材料は手間こそかかるけど手に入れられないことはないの。もしそんな技術があればおしまいなの」
「なにか手立てはないんですか?」
「あちらの情報が全くない。尻尾を出すまで私たちは力を蓄えているしかないねぇ」
「ずっと守ってばっかりだ…」
「時期が来るまで待つしかないさ。後手に回ってばっかりなのは嫌な話だけどね」
空気が重くなる。
さっきからネガティブ発言しかないのだから無理もない。
「さて、じゃあ私はもう帰るの」
「みかんはまだあるよ?」
「食べたいのはやまやまだけどやることは山積みなの。なんとしても次は先手を打ってみせるの」
「俺も力を貸すぜ」
「ありがとう。でもあなたは現場で働くタイプなの。時期が来たら知らせるから力をつけていてほしいの」
「そうか。分かった」
「それじゃ。あとマクアドル。あなたもリョウを見習って力をつけておくといいの」
それだけ言うとミリーナは消えた。
ミリーナが消えた後、マクアドルは「私のドールは5段階目で限界なのに。しかも今年47歳だぞ」とため息をついていた。
―――――――――――――――――――――――――
「…」
5人が長いテーブルについている。
1人はOと呼ばれていた少年だ。
誰もしゃべらない。
1人の男がテーブルを指で叩いているが不思議と音がしない。
そんな無音な世界に扉の開く音が響く。
「お待たせしました」
ジーク・T・エリオスだ。
それだけ言うと空いている席につく。
「マスターは?」
「少し遅れるそうです。今後の方針につ―――」
「おい」
屈強そうな男が話を遮る。
「何ですか?」
「てめぇ、今回の作戦失敗したようだな?」
「そうなりますね」
「なんで制裁が一切ないんだ?」
Tの目が鋭くなる。
「どういうことですか?」
「サッドは失敗して制裁を加えられた。なのにお前は何もなしだ」
「そりゃ、おめぇ、ヒヒッ、Tがマスターのお気に入りだからに決まってんじゃん、ヒヒッ!」
別の男が話に入る。
「秘書もかねてるしな、ヒヒッ!仕方ないさ」
「R、口を慎め。お前は俺より格下だ」
「おお、怖い。ヒッ!なら黙りましょうかね、ヒヒッ!」
「今はそんなのどうでもいい。俺は直談判に行くぞ?」
「なぜ君がそこまで私を嫌いなのかは知らないが勝手にすればいい。君の寿命が減るだけだ」
「なんだと!?」
「やめろ、A。Tの言う通りだよ」
ただ1人の女が口を開く。
「L!お前はこれでいいのか!?」
「マスターが決めたことだ。私たちが口をはさむ余地はない」
「しかし…!」
Aが何か言おうとすると扉が開く。
マスターと呼ばれる男が入ってきた。
「すまない。遅れた」
「私たちもさっき集まったところです」
「そうか、なら今後の方針についてはなそう。T」
「はい。今回のアメミリア森林での作戦は失敗。巫女の殺害も出来ませんでした」
「痕跡は?」
「森林の下に作っていた基地は跡形もなく壊しました。問題ないかと」
「そうか、なら」
「おそれながらマスター」
「…なんだ?」
「なぜ、Tは一切制裁を受けていないのですか?作戦を失敗しました。死とまではいかずとも何かしらあるべきではないかと」
「Tの今回の作戦内容は本作戦を気づかれないように一番近くのキャンプを奇襲することだ。よって彼は作戦を失敗してはいない」
「しかし、巫女の殺害はおろか身柄の確保すらできませんでした。なにかしらあるべ」
「作戦は失敗していなかった」
マスターの声に明らかに怒気が含まれる。
Aは身の危険を感じた。
声のみで殺されるのではないかとありえないことを考えてしまうほどだった。
「まだ、何かあるか?」
「…いえ」
「なら、話を進めよう」
「巫女の霊力確保に失敗してしまったので、作戦αを実行します」
Rの顔が歪む。
「つまり…、待つのか?」
「はい。巫女の魔力は手に入れました。まずは魔力を増やします。その後にこれを霊力に変換します」
「かかる時間は?」
「最低でも3年」
Rがうなり声をあげ髪の毛をかきむしる。
「かまわん。もともと国はそれを提示していた。早とちりし過ぎたのかもしれないな」
「申し訳ありません。お力になれず…」
「かまわないといっているだろう。3年後、結果を出せばいいだけの話だ」
そして、マスターは立ち上がり言った。
「お前たちはそれまで力を蓄えていてくれ。私たちの作戦は成功すればミューズデルをかなり弱体化することができる。私たちは失敗できないのだ。後戻りはできない。自分の家族、恋人、友達のためにも頑張ってくれ」
「「「はい、我がマスター!」」」
この作品は作者が書いた初めてのものです。
話の中の時間が飛んでしまうのは、申し訳ありませんが今ではどうしようもありません。
こんな作者ですがこれからもよろしくです。




