新たな出会い
読んでくれている方々ありがとうございます。
3話目から読み始めた方…はいますかね?
これからもよろしくです。
クラスの目の前まで来て涼は立ち止まった。
こんな感じでドキドキするのは初めてだった。
今まで、ずっと同じ地域で生活してきたのだから無理もない。
確かに幼稚園に入学するときはあったこともない人ばかりだった。
でも緊張したなんて人は少なかっただろうし、緊張していたとしても覚えていないだろう。
小・中学校、高校でさえも地元に通っていたのだから知っている人ばかりだった。
少し緊張しながら扉を開く。
彼はこの時緊張しまくりで忘れていたが、沢山の地域から人が来ているのだから案外周りに知っている人がいないという同じ境遇の人は少なくなかった。
シンと静まり返っているわけではないがめっちゃ活気が溢れているわけでもない。
とりあえず自分の席を見つけ座る。
「(そういえばマーシャも同じクラスだったはずだけどまだ来てないのかな?)」
友達はほしいが正直自分から話に行くほど積極的ではないし、なにを話したらいいかわからない。
そう考えていると制服ではない女の人が教室に入ってきた。
「はいはい、みんな座ってね。これからどう行動したらいいか教えるよ」
生徒が座っていくなか「美人だね」「何歳だろ」「俺はタイプじゃない」と聞こえる。
全員が座る。
「まず自己紹介するね。私はあなたたちの担任になったフレア・ランパード。これからよろしくね」
青い髪が特徴的な人だ。
「じゃあ早速だけど自己紹介してもらおうかしら。みんな、いろいろなところから来たはずだから知らない人しかいないって人も多いでしょ?どんどん自分を出してね。じゃあ、まずそっちから」
おっ、俺からは離れているな。後の方とは有り難い。
「~です。これからよろしくお願いします」
「これからよろしくね。えっとじゃあ次は…」
リョウの番だった。
自己紹介の内容は頭の中にある。
それはいいのだがこの先生、天然なのか?
「リョウ・アマミヤ」
言った。
サラリと俺の名前言いやがった。
おかしいだろ。
それ本人が言うべきだろう。
「リョウ・アマミヤです。よろしくお願いします」
よし、おそらく問題ないだろう。
むやみにこれが好き、とか言ってこの世界にないものだった場合に怪しがられるのはごめんだ。
「ありがとう。これからよろしくね。じゃあ次は…」
「ふぅ~~…」
今、リョウは寮で休んでいた。
一年生は入学式が終わると放課らしい。
自己紹介の後の入学式は好調の話が以上に長かったのが苛つ…印象的だ。
そのあとは解散。
そしてこうやって寮で休んでいるのだ。
「ねえ、君」
呼ばれたような気がしたのでそっちを見る。
すると身長155cmぐらいの子供らしき人がこっちを見ている。
特徴的なのが、男だか女だかわからない顔のつくり。
よく言えば美少年とかいうやつだろう。
「リョウ・アマミヤさんだっけ?」
「君は?」
「B組のクロツェフ・アリアジート。同じクラスだよね」
確かにリョウもB組だ。でも知らない。
50人の自己紹介を聞いたのだ。
覚えている人の方がすごいというものだろう。
「ごめん。せっかく自己紹介したのに覚えてなくて」
「いや、仕方ないよ。1クラスだけで50人もいるんだもん。まぁ同じ部屋になったんだ。これからよろしく」
「よろしく、クロツェフ。リョウって呼んでくれ」
「クロでいいよ。前はそう呼ばれてたから」
「分かったよ、クロ」
そう言うと、嬉しかったのかクロは満面の笑みを浮かべた。
…正直かわいい。
少し茶色がかったショートカットの髪。
さっきも書いたがいろいろな意味で顔のパーツもある程度そろっている。
…いかんいかん。
俺にそっち系の趣味はない。
「ねぇ、今日の夜ご飯一緒食べに行かない?」
なっ、食事の誘い…だと!
このまま進んでしまうと…、いかん。
これは友達になるための誘いだ!
なぜやましいほうに考える!
変にリョウは葛藤する。
「いいよ。特にやることもないし」
またクロは喜ぶ。
「じゃあ早く行こうよ」
「えっ、まだ早いんじゃ」
「何言ってるの。もう7時過ぎるよ。あっ、もしかして8時頃に食べる人?」
「うそっ、もうそんな時間?まだ5時頃かとばかり」
「…もしかして転移装置はじめてだった?」
「初めてだったけど特に困ったことはなかったぞ」
「でも転移装置について知ってるのって移動できることくらいでしょ?」
「それ以外に何かあるのか?」
「あれって実際早く見えるけどだいたい最初の校舎までの移動だけで20分くらい使ってるよ。体育館までの移動は今回使った転移装置なら往復1時間ぐらいだね」
「そんなかかってるの!?瞬間移動装置じゃないじゃん!」
「だから転移装置って言ってるじゃん。まあ瞬間移動装置存在はするけど値段が張るしね。それより早く夜ご飯食べに行こうよ」
便利まではまだ遠いということか…。
それよりもこの子の誘いなのだ。
さっさと飯、食べに行こう。
「そうだね、早く行こうか」
リョウが泊まっている部屋から外に出るには転移装置を使うしかない。
ここはかなり技術が進んでいるらしいが、リョウが今いるこの部屋は本当にただの寮。
食堂も学校も本来の距離に換算すると結構遠いらしい。
行先を食堂に設定し、転移装置に乗る。
ついたところは食堂の真ん前。
いつもは転移された後も少し歩かなくちゃいけないらしいが、今日は特別らしい。
「広いね、食堂」
「だな。これが1学年分だというから笑っちまうよな」
転移装置は四方四隅にある。
それほど広いのだ。
飯をたのむ方法はどうやらレトロな感じのようだ。
トレイを持ってカウンターでたのみ、それを貰う。
涼はハンバーグ定食、クロはカレーライスをたのんだ。
席は思ったより空いていなかったので空いているところに座る。
飯は…うん、悪くない。
「ここのカレー結構おいしいね。うちのと比べるとまだまだだけど」
「ハンバーグもそんなもんだな。まあ、食堂でそんなすごいもの出ないでしょ」
「そういえば、リョウってどこ住んでるの?自己紹介でも言ってなかったよね」
リョウは困ることはなかった。
確かに本当の住所を言えばもしかしたらまずいかもしれないが、しっかり考えてある。
「俺は、グベル高原あたりからきたんだ」
「へー、あのあたりなんだ。自然多くていいよね」
これはマーシャと一緒に考えて決めた地域だ。
記憶喪失だとあれかもしれないからこの少し技術が遅れてるあたりがいいと選んでくれた地域だ。
だが、リョウはそこに行ったことがあるわけではないのであまり深く訊かれるとまずい。
「クロはどこにす―――」
「リョウ、ここは慣れたかしら?」
女性の声がする。
トレイを持ったマーシャがいた。
「マーシャ。久しぶりだな」
「半日会わなかっただけじゃない。まあクラスでは見たけど、その子は?」
クロのほうを見る。
なんか物珍しい物を見る目をしている。
もしかすると制服が男子用であるにも関わらず、女子ともとれるような顔つきのクロに困惑しているのかもしれない。
「あ、あのクロツェフ・アリアジートと言います!」
「同じ部屋の奴なんだ。クロって呼んでる」
「へぇ、よろしくねクロ。私はマーシャ・クリーシャよ」
「よ、よろしくお願いします!」
なんか緊張してるように見える。
女子に耐性がないのだろうか?
「マーシャ~、ゴメン遅くなって…って誰?彼氏?」
「違うわよ。彼がさっき言ってたリョウよ」
ラーメンと食パンを持ってきた女の子がリョウのほうを向く。
なんだそのチョイスと思っていると
「あなたがリョウ?話は聞いてるわ。私はリリア・アリア。よろしくね、巨乳派のリョウくん♪」
初対面とは思えないすごいこと言ってきた。
「…マーシャ、いったい何を吹き込んだんだ?ひどい濡れ衣だぞ」
「本当のことを言っただけよ。男子なんてみんな胸で決めるんだから」
「男子全員を敵にまわしたな」
「リョウ、君は巨乳派なの?」
「クロ、だまされるな。俺は顔で決めるぞ。それに今までだってどちらかといえば貧乳のほうが多かったぞ」
なんかクロが震えてる。
違う、違うんだクロよ。
…っていうかお前が震えるのはおかしくないか。
「どうでもいいけど、そこ座っていいかしら。入学生の大半が学食に来てるのよ。席が空いてなくてね」
「俺にとってはどうでもよくない問題なんだが…まあどうぞ」
リョウの前にマーシャが、クロの前にリリアが座る。
隣では座ってすぐリリアが自己紹介してる。
「リョウ、うまくやってるの?」
「とりあえず。グベル高原で合ってるよね?」
「ええ、合ってるわ。じゃあ頑張ってね」
「それだけ!?」と言いたかったがクロ達が入ってきて中断するしかなくなってしまった。
―――――――――――――――
「マーシャさん達、いい人たちだったね」
「そうか?マーシャは濡れ衣かぶせるし、たぶんあのリリアって人は誰かをいじるのが大好きそうに見えたぞ」
今2人は食事を終えて、寮に戻ってきている。
リョウにも理由はよくわからないがこの部屋は何となく落ち着いた。
「でも面白そうじゃん。初日で3人と話せるなんて思ってなかったよ」
「俺もマーシャと以外話せるとは思っていなかったよ」
「リョウってモテるんだね」
「俺の知り合いだったのはマーシャだけでリリアは違うぞ。それに2人とも知り合いだったとしても2人くらいじゃモテるとは言わないだろ」
「そんなことないよ。僕なんて女子と話すだけで緊張しちゃうし」
「なんで?」
「なんでって、異性だよ!?体の構造が違うんだよ!?」
やっぱりなかったのか、耐性。
「でもおなじ人間だろ?」
「いや、そうだけど…」
「いや、別に緊張することが悪いって言ってるわけじゃないさ。とりあえずマーシャからでも慣れてみろよ。口調も性格も男勝りだから」
「…そうだね、せっかく友達になったんだから頑張ってみるよ。リリアさんとも話してみる」
マーシャは分からないけどリリアはクロをいじるのがなんとなく好きそうだから、たぶんなんとかなるなと思った。
「あっ、ねぇ。リョウは選択どっちにしたの」
「せんたく?」
「学科の選択だよ」
学科の選択。
この学校は実は一年生のうちからある程度自分の行きたい学科を決める。
簡単に言えば研究をして技術の向上を目指すか、軍事に貢献するか。
一応この世界にも国と国との争いがあるらしい。
研究がAコース、軍事がBコースだ。
「俺は、Bコースだ。クロは?」
「僕はCコースなんだ。まだどちらにするべきか決まらなくて」
Cコース
軍事と研究の両方を手に付けるコース。
まだ夢が決まっていない人用だ。
「まだまだ人生これからなんだから選択なんてまだ大丈夫だよ」
「でもリョウはもう選択しているじゃん。すごいね」
「でもCコースは一番多いじゃないか。俺はもしかしたら決断が早すぎたのかもな」
実は本心は早すぎたとは思っていない。
ロボットに乗ってみたいのだ。
憧れているだけだ。
「そんなことないよ。僕も早く決めてAかBに移動するつもりだよ」
この学校ではCコースの一年生は好きな時にAかBに変えられる。
2年生になるまでには必ず決めなければならない。
「自分に合うのがどちらかわかるといいな」
「ありがとう。さ、そろそろ寝よう。お風呂先に入ってもいい?」
「ああ、構わないよ」
そういうとクロはバスルームへ入っていった。
「…」
クロがいなくなるとリョウは情報を整理しはじめた。
まぁ、たいした量はないが。
正直元の世界へ帰る方法が1ヶ月ほど経つ今も全然わかっていない。
転移装置のことを考えたが無理だろう。
「(そういえば瞬間移動装置もあるといっていたな。でもここにはないとなると試すことさえ不可能だ。まぁ、楽しそうだから帰れるとわかってもすぐには帰らないけど…)」
マーシャの叔父から貰った手帳に少ない情報を書き込む。
まだ確かに帰る気はないがいつでも帰れるようにはしておきたい。
しかし、一番謎なのはどうやって自分がこの世界に来たのか。
誰かが連れてきたのでは?とも思ったがそれならばたちが悪い。
あんな人気もないところに食料も与えず置いていったのだから。
「(せめてこの世界に―――)」
「なにそんな厳しい顔してるの?」
「ん?…うわぁ!」
すぐ近くにクロがいた。
よほど集中していたのか全く音に気付かなかった。
「早くない!?まだ5分くらいしか経ってないだろ!?」
「僕、長湯するとすぐのぼせちゃうんだ。だから基本シャワーだけ」
…、かわいい。
シャンプーのいい香りもする。
そう思ってしまったリョウは首を振る。
「じゃ、じゃあ俺も入るから」
「分かった」
そう言うとクロは自分のベッドへ戻っていく。
リョウは風呂に入り、また情報を整理し始めた。
雑念を捨てるかのごとく。
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同じころマーシャはベッドに入り寝ようとしていた。
同じ部屋で今寝ているのはリリアではないが、いい子でマーシャとも気が合っていると思う。
「…」
1人、リョウのことについて考えていた。
「(おかしい。今考えてみればもっとおかしいところを見落としていた。あいつ自分は今まで好きになった人は貧乳が多かったと言っていた。記憶喪失なのに今まで?前は聞き違いかと思って気にしなかったがそうじゃない。なんで記憶喪失のふりを?)」
考えるが答えが出るはずはなかった。
結局モヤモヤしたまま彼女は寝てしまった。