覆る絶対
ミィヤは朦朧とする意識の中、目を覚ましていた。
さっきまで気絶していたのになぜか?
それは周りから神を召喚するときの力を感じたからだ。
「(いったい誰が…?)」
しかしその魔法の構成は自分のに一番似ていた。
ありえないと思いながら力の感じる方向を見る。
そこには確かに青龍を召喚するときと同じ構成をした魔法陣が出来上がっていた。
――――――――――――――――――――
「ちょ、冗談だろ!?」
サッドは巫女を殺そうとしてその手を止めた。
後ろからありえないはずの力を感じたからだ。
しかし、サッドが振り向くとすぐに足元に魔法陣が広がってくる。
急いで魔法陣から抜け出した。
するとすぐに魔法陣から長い物体が現れた。
正体はすぐに分かった。
だけど頭はありえないと、否定している。
4神を召喚できるのは巫女だけだ。
それは絶対だ。
今まで同じように札を手に入れた輩が魔力を込めて魔法陣を展開したことはあった。
しかし、魔法陣は出てくるものの、それだけだった。
神は現れなかった。
一度も成功した例はない。
その結果が今、ここで覆されていた。
リョウは無我夢中で札に魔力を込めていた。
青龍が現れた後も、見とれながらこめていた。
巫女が召喚したものと形は全く一緒だった。
ただ、一つだけ違うとこがありそれは色だった。
リョウの青龍は緑色をしていた。
それ以外は全く一緒だった。
「…はっ、ははははははは!」
サッドが大きく笑いようやくリョウは我に返って魔力の放出をやめる。
「ずいぶんとたいそうなものを作ったなぁ。まったく、神の模造品をつくなんて罪深い奴だ」
「模造品?」
「当たり前だろ、その神とやらは巫女にしか召喚は出来ない。決定事項だ!そして巫女の家系には女しか生まれない!お前に巫女の血が入ってるはずがねぇんだよ!そしたら模造品以外ありえねぇだろ!」
リョウは自分の出した青龍を見る。
自分でもこれが本物なのか似せて作られただけの偽物なのかは分からない。
「そこの雑魚の模造品だ!この剛石龍に勝てるわけぇんだよ!」
その言葉を合図に剛石龍がリョウの青龍に襲い掛かる。
しかし、剛石龍はすぐに止まってしまった。
いや、少し揺れているところから動こうとはしている。
しかし動くことができないようだ。
言うなれば蛇に睨まれた蛙のように。
「何してやがる、剛石龍!さっさと、堕とせ!」
サッドの顔に焦りが見え始める。
ありえないはずのことが次から次へと起こっているからだ。
剛石龍は動けないのならと、ブレスをはく。
青龍も同じくブレスをはいたが、レベルが違った。
剛石龍のはいたブレスはただの一秒も耐えることができぬまま青龍のブレスによってかき消される。
たった10秒足らずでサッドの常識が崩れていく。
「な…、模造品がなんで」
「模造品じゃないからよ」
いつの間にか移動していたミィヤがしゃべる。
「模造品じゃない?ありえるはずねぇだろ!」
「ええ。初めは私もあなたと同じ意見だった。でも、今ので分かったわ。あれは本物よ」
「んなことがあってたまるかよ!4神ってのはお前ら巫女しか召喚出来ないんだろ!?」
「そのはずだったのだけど…、今は好都合ね」
ミィヤの青龍が起き上りサッドを狙う。
剛石龍は助けに向かうが
「青龍!!」
リョウの青龍に行く手を阻まれる。
そして青龍の眼光が紫色に輝いた瞬間、…破裂した。
「なっ!?」
剛石龍の体がその場から一瞬で消え、周りに肉片と鮮血がはじけ飛ぶ。
あまりのことにサッドは頭が追いつかない(リョウ自身もここまですごいとは思っていなかった)。
とっさにサッドは青龍の攻撃をかわすが、ミィヤの攻撃が待っていた。
「雷記電礼!」
ミィヤから放たれた電撃がサッドにむかうが、青龍がやっとでかわすことができない。
「グ…。う、…ああああぁぁ!」
言葉にならない雄叫びを上げながら水の弾をあらゆるところに打ちつける。
数が多く、そこらじゅうが水浸しになり始める。
感電すると思いミィヤは電撃をやめる。
「はぁはぁ、えほっ!」
「攻撃を受けてる間でも考えることができるのね。やるじゃない」
「てめぇ…!」
「悪いけど、降参したら命は助けてあげるなんて言わないわよ。私はあなたを殺すわ」
「正当防衛に…あたるからか?」
「犯罪者になるかもって話?証言してくれる人はみんな私の仲間よ。もしもの時は口裏合わせるわ」
「それでも巫女かよ」
「最後の言葉はそれでいいかしら?」
ミィヤが歩いてサッドに迫る。
さっきとは立場が逆転している。
しかし、サッドはさっきのミィヤと違い意識がはっきりしていた。
「このままおとなしく俺がやられると思ってるのか?」
「そのつもりだけど」
「なめやがって…。O、こい!」
風が吹く。
強風ではなく、そよ風。
するとさっき破裂した剛石龍の破片が一転に集まり始める。
それは人の形を模り、やがて一人の少年になった。
「伏兵がいたってわけね…」
少年は体の調子を確かめるように手を広げたり閉じたりする。
確認が終わるとリョウの方をむいた。
「…初めまして。Oです」
「目の前に私がいたのにリョウの方をむくって大した度胸じゃない」
「もちろん君にも挨拶するつもりだったけどリョウの方が重要なんで」
「言ってくれるじゃない」
「悪く聞こえたのなら謝ります」
「おい」
自分が呼び出したのに気にしないOに腹を立てたのかイラついているのがわかる。
「サッドさん、なんですか?僕は今回戦線には剛石龍でのみ、参加するはずだったのでは?」
「状況が変わった。青龍が2体だ」
「はい、見ればわかります」
「一時撤退だ。俺を連れて退いてくれ」
「それは無理です」
サッドが顔をしかめる。
「ああ?」
「今回、あなたの命令は巫女の殺害とその身柄の確保。しかし、確保どころか殺害すらできていない。よって撤退は認められません」
「想定外のことが起こったんだぞ!?次やればいいだろ!」
「次はありません。作戦を遂行できないというのなら…死んでください」
「てめぇ…!」
少年はミィヤのほうを見る。
「邪魔をしましたね。ところであなたはこいつを殺す気だと聞いたのですが?」
「ええ。殺すわ」
「なら構いません。どうぞ好きにやってください」
「自分の仲間なのに冷たいのね?」
「命がかけられた方が彼も本気を出します。そうすればもしかしたら、勝てるかもしれませんし」
「…あんたがそいつの仲間ってなるとあんたも殺したい気はするけど邪魔しないならいいわ。さっさと消えて」
「分かりました。ではこれで」
少年の体が崩れ始める。
崩れ始めた断面図からは内臓のようなものは見えずただ黒い。
「…グリージョ・V・ラナターシャ」
少年の体の崩壊が止まる。
今話したのはサッドだ。
「俺を連れて撤退しろ」
「…そこまで命が惜しいですか」
「いいから俺を連れて撤退しろ!俺を置いていくというのなら死ぬまでラブトリアのこと話すぜ」
「それでも組織の人間ですか?」
「知るかよ。今俺は生き残るのに必死だ。いいからさっさと俺を連れて退け!上官命令だ!」
「…分かりました」
崩れかけた体を動かし、サッドに近づく。
「させると思うの?」
「申し訳ありません巫女さん。しかし上官命令ですので」
「そういうことだ、ここは退かせてもらう。改めて殺しにきてやるよ。O、体を作り直せ。その時間は俺が稼ぐ」
「いえ、その必要はありません」
「何言ってやがる。今お前の体、顔の3割と左ほとんどが崩れ落ちてるんだぞ?逃げ切れるわけねぇだろ」
「だから、必要ないんです」
サッドの動きが止まる。
何かがおかしいことに気づく。
Oはただニッコリしている。
「お前、何を考えてる?」
「何も。ただ撤退しようとしているだけですが」
「体を修復しているようには見えないが」
「する必要がないもん。火力は少し落ちるけど」
「火力?どういうことだ?」
するとOの体が膨れ上がり始める。
体にヒビが入りそこから光が漏れる。
何が起きるのかその場の全員が理解する。
「てめぇ…!」
「裏切り者には制裁を」
「連れて帰れば何も言わねぇんだぞ!?命令が聞けないのか!」
「これは上官命令です。我がマスターからの」
「ま、マスターからの…」
「こちらにも事情があるので。それでは…」
Oは爆発した。
それはミィヤのいるところまで軽く爆発は及んだ。
札を落としてしまっているミィヤに防ぐすべはなかった。
爆発が終わり周りが静かになる。
ミィヤは目を開けた。
「なんで…私」
前にある影。
目の前にリョウとその青龍がいた。
リョウの青龍が爆発を完全にカットしたのだ。
それほどまでに強いということになる。
ミィヤの青龍ではとても無理な話だ。
「あんた…」
呼びかけようとしたときリョウの青龍が消えた。
リョウも倒れた。
「ちょっと!」
急いでリョウに駆け寄る。
「大丈夫!?しっかりしなさいよ!」
「大丈夫だよ。ただ魔力を使いきっちゃったから…」
「待ってなさい!サリス、ノリス!」
ミィヤの周りに薄く体が透き通った2人が突然現れた。
「水を持ってきて頂戴。それとあれば治療用の札も」
「「分かりました」」
するとまた消えた。
「あの人たちは…?」
「私の使い魔よ。私が生きている限りあの子たちは死なない」
「薄くなってたぞ?」
「一度やられたからね。無理もないわ」
「便利だな」
言い方が引っかかったらしく怪訝な顔をするミィヤ。
「あの子たちは物じゃないわ。そんなこと言わないで」
「…すまない、そんなつもりじゃなかったんだけど」
「ならいいのだけれど。…ってそれより、どうやったのあれ!?」
「…あれ?」
「あなた、青龍出したじゃない!なんで出てきたのよ!?」
「なんでと言われましても…。無我夢中で魔力を込めたらなんか出てきたんだよ」
「それだけ!?何かあるでしょ?」
「…いや、本当になにも…」
「はぁ~…、あなたはまさに問題製造機ね」
「そりゃ、どうも」
「でも…、助かったわ。あ、ありがとう」
少し、顔を赤らめながら言った。
なんだかそれがおかしかった。
「ちょ、何笑ってるのよ!」
「いや、そんなつもりはないんだけど…。なんだかな」
「何よそれ」
「ミィヤ様、水と治療用の札、お持ちいたしました」
2人の目の前に水と札が置かれる。
「ほら、それだけ元気なら水は自分で飲めるでしょ?」
「ああ。悪いな」
「ミィヤ様、治療は私たちが」
「私は大丈夫よ。蹴られただけだから、今はほとんど痛くないし」
「ではリョウ様の方を」
「それは私がやるわ」
「しかし、ミィヤ様はたった今戦闘に…」
「分かってる。でも私は彼に助けられた、せめて治療くらいはしてあげたいの。それに…」
「…分かりました」
それだけ言うとサリスたちはまた消えた。
消えても呼べば現れるということは目の前にいるのだろう。
なんかいい感じがしない。
「さっ、楽にして。痛いことはしないから」
「そうか。ならお願いしようかな」
ごろんと地面に寝っ転がる。
しかしリョウは気づかなかった。
夜だったから。
そして自分の周りに焦げ臭いにおいがあふれていたから。
自分のキャンプ場から煙が立ち上っているのに気付くことができなかった。
2日に1話出す予定が申し訳ないです。
明日も投稿する(たぶん)のでよろしくです。




