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マーシャとリョウ

親睦会2日目の朝8時ごろ。

リョウは部屋で1人パジャマからタキシードに着替えている。

クロは昨日のダンス会でどうどうの一位で予選を通過していた。

今朝は決勝戦に出る人は早くにミーティングがあるらしく7時ごろに出ていってしまった。

決勝戦は10時からあるのにそんなに早いもんかな?と疑問に思ったが特に何も言わなかった。

監視のことも頭にあったが考えたくなかったのだ。

いや、クロのことはいったん忘れて楽しもうと思い疑いを無理やり振り払った。





そして時間は飛んで10時前。

リョウたち観客の立場にいる生徒は(ダンスに興味のある)会場で場所取りをしていた。

昨日と違ってあまり生徒は来ていなかった(それでもかなり混雑しているが)。

理由は自分の友達が出てないから、自分が出ていないから興味がないなど様々だった。

それでも4時から始まる夜行会やこうかいでパーティがあるので大抵の人はその時間には戻ってくるのだが。


「決勝戦、誰が勝つと思う?」

「昨日のを見る限りじゃクロの組が圧倒的ね」

「あれは大したもんだぜ。ここでやるべきダンスじゃねぇな」

「私としては負けてくれた方が記事になって面白いんだけど…」

「あの組は少しの失敗ぐらい、簡単に修正するわ。そういうことはないと思うわ」

「そうよね…」


カメラを持ちながら少し肩を落とすリリア。

リョウたちは新聞部であるリリアの権限を使…、もとい場所取りを済ませて立ち話をしている。



「フィリアはあの後どうなったんだ?」

「真っ白になることはなくなったわ。ケイトを目の前にすると顔を真っ赤にするけど」

「あいつは、フィリアに頭下げてたな」

「ケイトは別に悪くないのにね。まぁ、恥ずかしい気持ちは分からなくもないけど」

「あの子たち、決勝戦いけると思っていなかったらしくてダンス1つしか考えてなかったらしいわよ」

「今日のダンスはどうするんだ?」

「そこが見どころなのよ!」


カメラを持ってない手でこぶしをつくる。

よほどおいしい記事になると思っているのだろう。

だが、よく一緒にいたマーシャにはそれだけではないように見えた。


「リリア。あんたなんか…焦ってない?」

「!!」


リリアの体がビクッとする。


「な、なんのことかしら?」

「何もないのなら別にいいんだけど、焦ってるように見えるのよ」

「そ、そんなことないわよ…」

「そう?なら別にいいんだけど」


マーシャに話しかけられた後のリリアはリョウたちから見ても分かるほど何かにおびえてるように見えた。

理由を知りたいような気もしたが、その前に決勝戦開始の合図が鳴る。

音と同時に決勝戦に出場する選手たちが入場してきた。

クロやフィリアの姿もあった。

フィリアがケイトと参加を続行したということはそれなりに好意はあるんだろうなと勝手ながら思う。

クロはいつも通り笑顔で入場してきた。

フィリアは緊張しているのか、少し動きがぎこちなかった。

ケイトも昨日よりは少しぎこちなく見えた。

だが、昨日の出来事はなかったかのように顔が極端に赤くなってるなどはなかった。


「あれなら大丈夫そうね」

「残念ね。失敗があったほうが記事になるのに」

「お前、いつかバチがあたるぞ?」

「私は今その瀬戸際に立っているのよ…」

「どういう意味よ?」

「話したくないわ」

「リリア、ならあの組はどうだ?」


レックスが指をさした先にはシューレスがいた。

その組は一言でいえば…派手だった。

奇抜を通り越した派手だ。

タキシードが大半を占めるこの会場でどこかのアイドルのような恰好をしているのだ。

目立って仕方がない。


「あれは…自信の塊か?」

「そんなにダンスうまかった?」

「いえ、全体では13位だったわよ」

「あの自信を少しでいいからフィリアに分けてあげたいわね」


その後出てきた出場者に目立った人はいなかった。

少しきらびやかにしている人もいたがシューレスのペアと比べればどうということはないのだ。

それぞれのペアの紹介が始まる。


「…紹介とかいらねぇから、さっさと踊ってくれねぇかな」

「仕方ないわよ。でも長いのは否定しないわ」

「そうよ、通過儀礼みたいなもんよ」

「よくその言葉使うみたいだけど、使い方あってるのか?」

「そんなのいいのよ。通じれば」

「新聞部が聞いてあきれるわね…」


話している間に紹介が終わる。

それと同時に音楽開始のブザーが鳴る。

大半の人が「いきなり!?」と思っただろう。

ダンスする側も聞いていないのかあたふたしながら準備するペアが見られた。

会場が少し暗くなり、音楽が流れ始めた。








「~でした。そして1位はアリアジートとフリミレスのペアです!おめでとうございます!!」

午後6時。

優勝のペアの名前が発表された。

実を言うと9割がたの人がクロのペアが優勝するということを確信していた。

すべてを通して見てもそうだったが、開始1分ほどで大抵の人がクロの勝ちを確信したのだ。

途中でこければまだ他の組にも可能性は、と考える人はほとんどいなかった。

誰もクロのペアがこけるような姿を想像できなかったからだ。

リョウは「天と地の格差ってこういうことをいうんだな」と呟き、それがのちにリリアの書いた1年生に配られる新聞に載せられた。

今は、まさに社交パーティのようになっている。

ある人はグラス片手に他の人と話し、ある人は流れている音楽に合わせ踊っている。

そんな楽しい空間の中、リョウは人気がほとんどない2階でマクアドルと話している。


「クロに怪しいところはありませんでした」

「…そうかい」


高そうなワインを、持参したのかテーブルに置きグラスにそれを注ぐ。


「…監視はまだしなければいけませんか?」

「そうだね。まだ必要だ」


言いながらワインの香りを楽しんでいるのかグラスを少し揺らす。


「なぜ、こんなに重要な話の時にそんなことしていられるのですか」

「私から見れば大した話題ではないからねぇ。私から頼んではいるがね」

「自分の生徒が疑われているのに重要ではない?」

「自分の生徒を疑うのは確かに胸糞悪いけどね、今でも疑ってるのは私だけだ。学校は別の人を疑ってるよ」


ワインを飲み始める。


「学校が疑っていないなら、なぜあなたは疑っているんですか」

「…できれば伝えたくないんだ。ある意味最悪かもしれないしね、君にとっては」

「…あなたもミリーナも俺に対して期待しているといっておきながら重要な何かを隠す。それはいったいどういうことですか」


ワインを飲み終わったのかまた注ぎ始める。


「君は、誰か1人にでも自分のことについて話したことはあるかい?」

「話を逸らさないでください」

「答えるんだ」


マクアドルの目が鋭くなる。

何かしらの恐怖を感じた。


「…いや、信じるとは思いませんので」

「マーシャ君にもかい?」

「話していません」


マクアドルはため息をつく。


「君は恩知らずだね」

「マクアドル先生は教えたことはあるんですか?」

「この世界で私を拾ってくれた親に対してはね」

「信じてくれました?」

「…ああ。その人たちは信じてくれたよ。証拠も何もなかったのにね」

「そうですか」


リョウにとってこの会話は正直どうでもよかった。

この世界に来てから別に過去のことを話さなくったってやってこれた。

いつかもしかしたら話すかもしれないが今は関係ない。


「話を戻したいのですが―――」

「もし、君が私たちからすべてを聞きたいというのなら」


マクアドルはワインボトルを持ちその場を離れ始める。

そして転移装置の目の前まで来たところで止まり


「君自身のことを誰かに受け入れさせるんだ」


そう言うと転移装置に乗りどこかへ行ってしまった。

リョウは1人になると壁に体を押し付ける。

そして考えた。

おそらく、あの2人は自分に本当のことを話すつもりはないのだろうと。

話す気があるのならばもともと話してるし、こんな無理難題を押し付けたりはしないからだ。

さっきの話で言っていた、マクアドルのこの世界での両親もマクアドルが言ったことは信じなかったのだろう。

さっきの会話のトーンから何となくそれは分かった。

もしかすると親なんていないのかもしれない。


この世界で宇宙と言う存在を知っている人はほとんどいない。

以前、これだけ科学が発展しているのになんでだとマーシャに訊いたら

「そりゃ、空の向こうに何を使ってもいけないからよ。確かロケット?とか言う乗り物で幾度となく試しているみたいだけどいつまで行っても青い景色が続くらしいわ。そして最後は燃料が尽きて落下してくるそうよ」

と言われた。

そんな世界に住んでいる人たちに「違う世界から来ました」と言っても信じないのは無理もない話だ。


だけど辛かった。

数少ないリョウのことを分かっている人だ。

しかし、分かっている人はどちらともリョウを信用してないのかどこか大切なことを教えてくれない。

変な話だが孤独というのを初めて感じた。


「リョウ?」


声をかけられた。

マーシャがいた。

少し暗いのでよくわからなかったが顔が赤く見えた。


「マーシャ。…何か用か?」

「何か用かって、みんなの所いかなくていいの?」

「それを伝えに?違うことがあるんじゃないのか?」

「…」


顔を俯かせるマーシャ。


「なんだよ」

「…あの、その、もし暇なら…」


小さな声で何かを言う。

リョウにはそれが聞こえなかった。


「何?お前らしくないぞ?」

「あの、暇なら、私と、ダ、ダダンスを…」


と言ったところでマーシャは顔を上げる。

そこで初めて気づいた。

リョウの顔が笑っていなかった。

いや、笑っていなではなく表情が無で固まっているのだ。

何かに悩んでいるのは明らかだった。

悩み事がとても大きな何かだということまで分かった。

日常で「明日のテストやべぇ」とかいうようなレベルじゃないといことが分かった。


「リョウ、何かあった?」

「…何もないよ」

「もしかして、あなたの過去のこと?」


リョウは少し反応してしまった。

小さい反応だったが、マーシャなら見逃さない。


「記憶が戻ったの?」

「…」


マーシャには記憶喪失と伝えている。

彼女がそう思うのも当然だ。


「嫌な過去でもあったの?」

「…そうじゃないよ」


マーシャは黙る。

リョウにはそれが慰めの言葉を考えているように見えた。

1分ほど間があった。


「話してくれない?」


1分も考えたのにそれかよとリョウは思った。

話せば少しは楽になるとか思っているのだろう。

今のリョウには悪い方向にしか考えが働かなかった。


「…1人にしてくれ」


一番いい考えだと思った。

1人で考えて、整理する。

そして考えをまとめて、いつも通りに戻る。


「それは出来ないわ」


マーシャはリョウを強い意志があるような目で見ていた。


「マーシャ、1人で考えても答えは出るから」

「嘘」

「…」

「私が何も知らないと思っているの?確かにほとんど知らないけど。それでもまず、あなたが記憶喪失じゃないことぐらいは分かってたわ」

「…」

「あなたに事情があって過去を隠しているのは分かっていたの。…私は訊かないでおこうと思っていた。あなたが話してくれるまで」

「…」

「だから、…これからも訊くつもりはないわ」

「えっ?」

「無理には訊かないといってるのよ」

「…じゃあ、なんで1人にさせてくれない?」

「決まってるじゃない」


マーシャはリョウに背を向ける。


「聞きたいからよ」

「今、俺が言う気になるまで待つって言ったじゃないか」

「それに、あなたが悩んでる。一緒にいるだけでもなにか力になれるんじゃないかと思ったしね」


マーシャはすごい。

おそらくそれはリョウにとってのみだがすごい人だ。

道端で倒れていたリョウを救い、この世界について教えてくれた。

それだけでも十分リョウから見ればものすごい感謝に値する。

それなのに今度は重いと分かっている悩み事を聞こうとしている。

一緒に考えてくれるといっている。


「1ついいか?」

「何?」

「記憶喪失以外にも少しだが分かっている感じなこと言ってたな?」

「仮定の話よ。あなたはもしかしたら違う世界みたいなところから来たんじゃないかって」


リョウは嬉しかった。

この星以外の概念が存在しないというのに違う世界から来た、ということを仮定としてでも立てていたからだ。

それでもリョウはなぜか今はまだ話すべきではないと思った。


「…いつものマーシャからは想像できないような非科学的な発言だな」

「私だってそう思うわ。でもこれが一番合点がいくのよ」

「俺を笑わせるために対してはいい冗談だと思ったけどな」

「私は本気よ?確かに辛気臭いのはあまり好きじゃないけど。でもあの仮定はほんとよ?」


リョウに表情が戻っていた。

さっきまであった不安は消えていた。

信じてくれるであろう人がいるだけで気が楽になった。


「分かった、いずれすべて話すよ」

「約束よ?」

「もちろんだ。さっ、戻ろう」


歩こうとしてリョウは思い出す。


「そういえばマーシャ、みんなが待ってるって言ってた他に何か言ってなかった?」

「えっ?あ、ああ。いや、あれは別に…」

「そう?じゃあ、俺から一つ」

「な、なによ?」

「…ありがとう」


マーシャが顔を赤くする。


「…。別に私は何もしてないわよ。変な奴。先いくわよ」


そのまま転移装置に乗っていってしまった。

少しの間、そこに立ち尽くしていた。

もう一度だけリョウは「ありがとう」と言うと、マーシャを追った。

今日、3話一気に投稿したのはしばらくの間投稿ができなくなるからです。

せっかく10万字超えたことですし無謀ながら2回OVLにでも挑戦しようと思いまして。

インターネットがないと辛いですよね…。

何はともあれ読んでくれている方々はこれからもよろしくです。

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