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親睦会

時間というのはどんなに悩んでいても、どんなに楽しくても、同じペースで過ぎていく。

遅く感じたり早く感じたりするがペースは変わらない。


リョウはこの親睦会当日までクロの行動をいつも以上に気にして見てきた。

悪いことをしている気分だったので時間の流れが遅く感じられた。

この一週間の監視の成果はほとんどゼロだった。

怪しい行動が見られなかったということは嬉しいことだったが、無実も証明できなかった。

マクアドルには「親睦会の時も目を光らせおいてくれ」とくぎを刺された。

リョウは素直に親睦会を楽しめる気がしなかった。






「リョウ、ネクタイはこんな感じかな?」

「いいんじゃないか?きまってるぞ、クロ」


クロがそうかなぁ、と嬉しそうな顔をする。

今2人は部屋を出る直前で服装の最終チェックをしている。

特にクロは人前でダンスをするのだから変な服装は出来ない。

かなり厳しく見ているようだ。


「他に変なところない?」

「大丈夫だよ。かれこれそうやって10分も確認してるぞ?いい加減行こうぜ」

「ん~、そうだね。あっちに行ってペアの人にも見てもらうよ」

「まだ確認するのかよ…」


転移装置に乗り、行き先を会場に設定する。

今の2人の服装はほとんどタキシードみたいなものだった。

男性の正装といえばこの世界でもこれのようだ。

もちろん親睦会での服装は自由なので制服でも私服でも問題ないし、鎧を着てきたってなんの注意もされることはない。

しかし、この世界の人は地球の日本人と似たような性格をしている人が多いらしく、個を出すよりも協調する傾向がある。

どちらかというと積極的な人が多いにも関わらず。

なので大抵の人はタキシードに近い服を着てくるのだ。


会場につくとすでに人があふれかえり賑わっていた。

映画で見た豪華な社交会を彷彿させる光景だ。

クロを気にしながらもテンションを上げているとクロがペアの相手を見つけたらしく手を振っている。

人が多くて誰がペアなのかリョウには分からなかった。


「じゃ、僕は組んでる人と待ち合わせあるから」

「おう、ダンス頑張れよ」


そう言うとクロは人ごみの中に消えていった。

監視するとはいってもそこまでついていくようなことはしたくない。

1人になったリョウは控室にいるであろう友達を冷やかしに行くことにした。

これもまた転移装置を使えばすぐなので転移装置まで戻る。

男子の控室にはすぐについた。

そこでは晴れ舞台で目立とうと、カッコつけようとタキシード以外の服を着ている人もたくさんいた(さすがに鎧はなかったが)。

そんな中、レックスは奇抜とまではいかないが結構派手な服を着ていた。


「そんな派手だと目立ってしょうがないぞ?」

「リョウか。こんなのおとなしいほうだ。お前みたい服はむしろ地味でダンスには向かねぇよ」

「俺は出ないし。おまえ優勝する気なのか?」

「当たり前だろ。やるからには勝つ!」


話していると放送が鳴る。


『連絡します。10時からAブロックの予選を、Bブロック以降は20分おきに行います。Aブロックの参加選手は会場の受け付けまでお願いします。受け付けは開始5分前までにすましてください。繰り返します…」


今の時間は9:40だ。


「お前、何ブロック?」

「俺はCだ。まだ時間あるな」

「クロは何ブロックか分かるか?」

「そこに張り出されてるから見てみればどうだ?」


少し離れたところに電子掲示板があった。

誰が何ブロックにいるのかこれで確認できるようだ。

クロはEブロックでかなり時間があった。

Aブロックに誰かいるのかと見てみるとフィリアとケイトがいた。


「Aに誰かいたか?」

「フィリアがいたよ。何かと緊張する場面によくいるよな、あいつ」

「からかいにいかないのか?たぶんケイトもいないし会場にいるぞ?」

「あいつはからかうと倒れかねないような気がするから遠慮するよ。たぶん今もかなり緊張してるぜ?」

「…そうだな。始まったら俺も見に行くか」

「ロボットみたいな動きでもするのかね?」

「それはそれで面白そうだけどな」









場所がかわってここは女子の控室。

放送が入る前からフィリアは緊張しまくりだった。

10時からAブロックのダンスが始まるのは事前に配られた資料を見ていたので知っていた。

だが、自分が何ブロックなのかは当日まで分からなかった。

CかDあたりがいいなぁなんて思っていたのだが蓋を開けてみればAではないか。


「よかったじゃない。一番最初にできれば待つ緊張を味わなくてすむわよ」

「そうよ。それに最初なら採点の基準も多少甘いわよ」

「…写真はなしでお願いします」

「それは無理ね。新聞部としてやらなければならないの」

「ここは嘘でもとらないというのが友達じゃない?」

「いや、私は嘘をつくわけにはいかないの」

「なんでよ?」

「新聞部は常に真実を追いかけなければならないからよ!」

「いつだか多少の偽造はありって言っていたのを聞いた覚えがあるのだけれどね」


そうやって冗談交じりで話していると呼び出しの放送が鳴った。

フィリアが一瞬固まる。


「ほら、呼び出しあったんだから胸をはって行きなさい。固まってんじゃないわよ?」

「そんなんだと折角組んでくれたケイトに恥かかせることになるよ?」

「それは絶対やってはいけないことですね…。はぁ、なんで踊ろうと思ってしまったんでしょうか」

「リョウを裏切ってまで踊ることにしたのに何言ってんのよ」

「あの時は最良の選択だと思ったんですけどよく考えれば出ない人は2割~3割。つまり、1000人ぐらいはただ見ているだけ。それだけいれば十分じゃないですか!」

「今更嘆いても意味ないわよ?」

「棄権するというても…」

「間違いなくケイトに迷惑かけるわね」

「うっ!」

「あきらめなさい。ただ踊ればそれで終わりなんだからうまい人だっているんだからここで落ちてしまえばそれで終了よ。それでいいじゃない」

「うぅ~…」

「さっ、早く行きなさい。放送もなったんだからきっとケイトも待ってるわ。待たせることもあまりよくないんじゃない?」

「…分かりました。行ってきます」


そう言うとフィリアは控室を後にした。

フィリアの背中からは、恥ずかしいという感情と同時に少し嬉しそうな感じも感じ取れたような気がした。


「なんか片思いの女の子を見ているようだわ」

「そう?そうだったらオモシロいんだけど」

「迷惑をかけない=好感度を上げたいって意味よ」

「あってるような、間違ってるような…」


するとマーシャの目にある一人の人が入った。

その人は6歳くらいの女の子で金髪の長い髪の毛をしている。

身長だけ見ればとても同じ学年には見えない。

世の中にはいろいろな人がいるんだなぁと思っていると、マーシャが見ているのに気づいたらしく近寄ってきた。


「こんにちは」

「こんにちは。あなたは?」

「私はミリーナって言うの」


口調もまるで年下の子供で、なんだか調子が狂う。


「私はマーシャ、こっちはリリアよ」

「よろしくなの。ところでマクアドルがどこにいるか知ってる?」

「マクアドル先生のこと?あの人はたぶん本会場にいると思うけど」

「本会場なの?分かったの。ありがとうなの」


そう言うとミリーナはマーシャから離れていった。


「なんか子供みたいな人ね」

「そうね。でもマクアドル先生、本会場にいるかしら」

「どっちでもいいんじゃない?あの子転移装置がある方とは違う方に行っちゃったし」

「えっ?…確かに」


今回の親睦会は魔法側と科学側の交流を深めるためのものであり、一般客は招待していない。

だから、マーシャたちは普通に接して場所を教えた。

しかし、さっき会った女の子は教えた場所とは違う方向に行った。

さらに、よく考えてみればここは女子の控室だ。

先生といえど男性が立ち入る場合はよほどの理由が必要になる。

そんな場所で女の子はマクアドルを探していた。


「もしかしてあの子、本当にこの学校の生徒じゃないんじゃ?」

「ありえないと思うけど…、どうかしらね。それより私たちも会場に行きましょう。フィリアのダンスが始まっちゃうわ」

「…そうね。気にしても仕方ないし」





―――――――――――――――――――――――――――




「フィリア、遅いな」

「そんなことないですよ。俺が早く来すぎただけです」


リョウは今本会場でケイトと話している。

知り合いが躍るというのだから見ない理由なんてない。

それで会場に戻ってきたところケイトに会ったのだ。

レックスは「タキシードは地味だ」的なことを言っていたがケイトはタキシードを着ている。

ケイト曰く「課題の曲に合わせたらこれしか見つからなかった」ということだそうだ。


「でも締切まであと5分だぜ?さすがに…」

「すいませーん!」


リョウが話しているとフィリアが小走りで来た。

おとなしめのドレスを着ている。

2人とも普通で地味と言われれば否定できないが、模範ともいえるペアだ。


「すいません、遅れました」

「大丈夫ですよ。まだ受け付け締め切りまで5分もあります」

「5分しかないだろ?さっさと行って来い。俺は楽しく観させてもらうよ」

「あまり期待はしないでくださいよ?じゃ、また」


あからさまに緊張しているフィリアにケイトは「気軽にやりましょう」と笑顔で軽い調子で話しかかる。

彼なりの緊張のほぐし方だろうか。

ケイトたちが見えなくなるとリョウは場所探しを始めた。

この本会場は5000人収容できるようになっている。

しかし、ここは体育館ではない。

本当にパーティをするために作られている施設だ。

親睦会も想定されている施設なので実は2階建てなのだ。

さすがに3階では1階でやることが見えにくいということで取り消しになった。

1階で観たほうが分かりやすいが人が多い。

リョウは2階で観ることに決め、場所を確保した。

ちょうどいい場所を決めた時にアナウンスが鳴った。


『只今より、Aブロックの予選を始めます。この予選を突破できるのは3組のみとなっております。優勝目指して頑張ってください。それでは始めます』


アナウンスが終わるとさっきまで賑やかだった会場が静寂に包まれる。

そして音楽が流れ始めた。

曲名はリョウは知らなかったが流れるような曲でやさしい感じがした。

社交パーティにぴったりなのかなと思った。

30組が同時にダンスをするのだからフィリアたちを見つけるのは大変かと思ったが案外簡単に見つかった。

理由は地味だった…もとい模範になるような服装をしていたからだ。

他のペアは派手とまではいかないが多少はきらびやかにしていた。

あともう一つ、2人の髪の色だ。

金髪や茶髪はこの世界で普通の髪色として知られている。

白や灰色は地球と比べれればはるかに多いほうだが、こちらの方では少ない色だとカウントされてるらしい。

そんな2人がペアとなれば必然的に多少は目立つのだ。

髪の色は紫外線が云々かんぬんとか聞いていたリョウだったのでなぜこんなにカラフルになるのか、黒髪が少ないのかそこは疑問点だった。


で、2人のダンスだが…よくできているとリョウは思った。

まったくダンスなんてやったことない、と2人とも言っていたがセンスがあるのか素人に見えなかった。

激しいダンスをしているわけではないが気品のあるダンス。

フィリアに緊張の色がまだ見えるがそれを感じさせないダンスだ。


「(いいセンスしてるな…。あのままいけば決勝戦いけるんじゃ?)」


そんなことを思いながらフィリアたちを眺めていると服の裾を掴まれる感じがした。

後ろを振り向くと、泣きそうな顔をしたミリーナが立っていた。

服に関する知識の少なさが仇となり分かりにくい(いつも通りなのですが)。

服は皆さんの想像にお任せします。

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