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継母

別れた夫は世間から見ればいい男だった。確かに恋人だった時は尽くしてくれるし、優しいし、私のことだけを考えてくれる最高の男だった。ただそれも、妻の立場になってみるとまるで違って見えた。

夫は私のことだけしか考えていない。近所の男性と立ち話をしているところを見かけただけで「俺の妻に慣れ慣れしくするな」と相手を怒るし、人の家に呼ばれて帰りが予定より少しでも遅れると「いつまで引き止めているんだ」と怒鳴り込む。私を着飾らせるために稼いだお金の殆どを使ってしまうため、親や友人に贈り物を買うことさえ出来ない。勿論、夫のプレゼントを密かに買うことさえ。

周りの人に夫の愚痴を言っても理解は得られず、逆に贅沢な悩みだと叱られることが多かった。私自身も自分が選んだ相手だし、大切にされているのだと嬉しく感じることもあったから、それだけならばまだ我慢しようと思えた。

その我慢が限界に達したのは子供のことがきっかけだった。妊娠したと告げるとこれまで以上に私を大切にしてくれた。過保護なまでの愛情は思い通りに動けない体にはとても有難かった。子供のことを本当に喜んでくれているのだと私も嬉しかった。しかし、感謝していたのも束の間、夫の愛情は相変わらず私にしか向いていなかったことがわかった。

初期が苦しいと言われて脅されていた悪阻があまり酷くなかった私は臨月近くになって初めて妊娠の辛さを知った。腹が張って苦しい。安静にしているように言われてからは一日の大半は寝てばかりで、心配してくれる夫や親に申し訳ない気持ちだった。

そんなある時、ベッドで寝ている私に夫が言った。

「そんなに苦しいのか?」

「ええ……でも、もう大丈夫よ。心配かけてごめんなさい」

「生むの、やめるか?」

真面目な顔をして言われたその言葉に私は耳を疑った。男性に父性が芽生えるのは女性よりも遅く、体の中で子供が成長していく感覚を味わうことの出来る女性とは違うのだということは理解していたつもりだ。でも、これは何かが違うと明らかに感じてしまった。得体の知れない違和感をどうにか咀嚼して飲み込んだ。この体の中に守るべき子供がいるのだ。こんなことで心を挫かれていてはいけない。

「そんなこと言わないで。私は大丈夫だから」

そう言って私が微笑むと夫はそれ以上、自分の意見を押し通すようなことはせず、さっきの言葉は何かの間違いだったかのようにいつも通りに振舞った。その姿を見て魔が差しただけかと胸をなで下ろした。

娘が生まれてからも喉の奥からこみ上げてくる不安は拭い去れない。しかし、娘に対してとてもいい父親となった夫を見て取り越し苦労だったと反省した。時折、あの時の言葉を思い出すことがあっても、やはり毎日胎内で生きていることを実感できる母親とは違い、父親は姿を見てその腕に抱かなければ子供を一つの生命として認めることが出来なかったのだろう。考えなしの軽率な発言は誰にだってあるものだ。自分にとっては胎内に生きる子供を殺せと言われたことと同義語だったが、彼にとってはそうではなかった。別の人間なのだから価値観の違いは当然だ。そう思って自分を納得させた。

実際、夫の手助けなしではやっていけない。毎日休みなく娘の様子を伺って、数時間おきに世話をするのは大変だ。愚痴をこぼしながら忙しなく動く私を見ても彼は娘を邪魔者扱いしなかったし、夜泣きする娘に起こされても文句一つ言わない。そんな夫を過ぎた話で責めるのは気が引けたし、責めた結果によっては初めて生んだ娘を一人で育てることになる。夫の手助けがあるからこそ出来ることを夫なしでどうやって育てて行くのかと考えると、ここは私が我慢して納得するべきなのだと現実が教えてくれた。

それも二人目の子が出来るまでの話だった。娘に、あまり年の変わらない妹ができるとわかった時、やはり夫は喜んでくれた。娘も詳しい意味はわからないまでも嬉しそうだった。

この子は祝福されて生まれるものだと思っていた。しかし、一人目の時にはなかった悪阻が私を苦しめて、食事は勿論、水さえ受け付けなくなってしまった。病院で腕に針を刺され、無理矢理栄養を与えられるようになった私に夫は言った。

「子供、本当に生むのか?」

「どういう意味? 生むわよ。当たり前でしょう」

「子供がいなければ君はそんなに苦しまなくてもいいんだ。こんな苦しいことはやめよう。無理しなくていいんだ」

「ここに子供がいるの。命があるのよ。殺せっていうの?」

私が思わず声を荒げると夫は訳がわからないといった顔をした。

「どうして怒るの? 君を守るためなら仕方のないことだろう。僕は君が大切なんだよ。苦しむ姿なんか見たくない。愛してるんだ」

そう言う夫の顔はとても優しく微笑んでいた。これが日常の些細な喧嘩なら許してしまっただろうが、その時の私にはそれがまるで人間ではない生き物のように見えた。恐ろしかった。私の言葉を否定しなかった。きっと何を言っても、夫は子供を捨てることでしか私を救えないと思い込んでいるのだ。

「例え冗談でもそんなことは言って欲しくないわ。私を愛してるなら、私に何があっても子供を守ると誓って欲しいの」

はっきりそう告げると夫は困惑気味に渋々ながら頷いてみせた。

夫にとっては家族という単位に意味はないらしい。私以外の人間に価値を見出せず、私だけが大切なのだ。私に服や装飾品を買い与えるように、私が子供を欲しがったから与えただけ。それのために私が苦しんだり、辛い思いをするのなら捨ててしまえばいいと本気で思っているのだ。

それからというもの、少しでも隙を見せれば夫は上の娘やお腹にいる子供を私から取り上げようとするかも知れないという恐怖から、必死に自分の体調を押し隠した。被害妄想が激しいのではないかと自分でも馬鹿馬鹿しく思うこともあった。だが、妊娠してから起こり始めた体の異変に戸惑っている私に夫が向ける視線に時々背筋が震える程冷たい感情が見え隠れしていた。その視線の意味が解らなかった。解らないだけに恐ろしかったのだ。

本来ならば安らげるはずの家庭内に身を守らなければならない敵がいるというのは恐ろしいことではあったが、芽生えたばかりの命をこの手に抱くまでは逃げる訳にはいかなかった。今すぐに行動を起こすにはリスクが高すぎた。

私が苦しい顔もせず、辛い表情も見せずに頑張っている間だけは無害だった。だが、私が立ち眩みや吐き気を催すと子供を放り出して私の手を取ってしまう。その時に子供がどんな危険な場所にいても夫にとっては大した問題ではないことがわかってしまうと、そればかりが目に付くようになる。

寝室で横になっている時、目が覚めると私の寝顔を機嫌よく眺める夫の姿がそこにあった。

「何をしているの? 娘はどうしたの?」

起き上がるなり怒鳴りつける私に夫は困惑した表情を浮かべた。

「一人で遊んでいるよ。心配ないからゆっくり休んでいるといい」

その言葉を聞いても納得出来ず、それどころか妙な胸騒ぎがした。慌てて部屋から出て様子を見に行ってみると、リビングに散らかったオモチャで遊んでいた娘はキッチンに忍び込み、お皿やナイフが入っている棚に手を伸ばしていた。

「何をしてるの! やめなさい!」

思わず叫んで娘を抱き上げようと駆け寄った。私の声に驚いた娘は一番低い位置にあった皿を一枚落とした。泣き始めた娘に怒ったことを謝り、宥めながら夫を睨みつける。すると夫は慌てて駆け寄ってきた。

子供を一人にすることが危険だと解ってくれたのか。そう思って息をつこうとした瞬間、夫は信じられないことを言った。

「割れた皿で俺の妻が怪我をしたらどうするんだ! 危ないだろう!」

それは子供に向かって放たれた言葉だった。まるで他人を怒鳴るかのような言い方に返す言葉が見つからなかった。叱られた娘は更に大声で泣いた。その声で我に返った私は娘の小さな体を強く抱き締めた。夫は私に向かって優しく言った。

「皿は俺が片付けておくから、足に怪我をしていないか確かめよう。そんなものは置いてこっちへおいで」

「……そんなもの? 今、私の娘を『そんなもの』って言ったの?」

「言い方が気に入らなかったなら謝るよ。こいつが君を危ない目に合わせたので頭にきたんだ」

「言い方じゃない。あなたにとって娘って何? 自分の子供を愛しいとか、守りたいとは思わないの?」

「守る? その子供は無事だったんだろう」

「もし皿が娘の頭に落ちていたら? 私が来る前に皿が割れていて、その破片で怪我をしていたらどうするの? 私よりまずこの子を心配してよ」

「どうして? 僕は君だけが心配なんだ。その子のことは君が心配しているんだろう? だったら、それでいいじゃないか」

自然と涙が溢れた。言葉は通じているのに、どうしても心が伝わらない。目の前の人間は一生を共にしたいと思って結婚した夫であるはずだ。それなのに私の気持ちは何も伝わらない。理解しようとさえして貰えない。自分の無力に絶望さえ感じた。

「泣かないで。足が痛むのかい? 新しい子供が生まれるんだ。悪い子供はもういらないだろう? こんな子は何処かへ連れて行ってあげるから、大丈夫だよ」

「そんなの絶対に嫌よ。この子と別れて暮らすくらいなら私は死ぬわ」

泣いている場合ではなかった。親や友人にはまともに取り合って貰えない。これまでの話と合わせて、ただの贅沢な悩み、惚気にしか聞こえないらしい。

「大袈裟ね。子供を叱る時の言葉の綾でしょう?」

何度説明しても私の放つ言葉は誰の心にも届かなくて、たった一人で戦場に立たされているかのような気分だった。敵である夫には子供を人質に取られている。孤立無援、助けは期待できない。

それでも子供を捨てるということは考えなかった。夫の手に託せば間違いなく未来はない。この子たちには私しかいないのだ。私の命をかけてでも守らなければ、と意地にも似た感情を貫き続けて、私は二人目の娘を生んだ。

出産の直後、医師や親に呼ばれた夫が子供を私の手元に残し、席を外した一瞬の隙に私は逃げ出した。家を出て行く宛などなかった。だが、あのまま怯えて暮らすよりは明日の保証もない暮らしの方がずっと良かった。

上の娘は父親を求めて泣いた。それだけが辛かった。あんなに心無い夫でも子供にとっては求められる父親なのだ。そう考えて自分の判断に自信を失くす時もあった。その度に、腕の中にいるこの子を私から奪おうとした夫の言葉を思い出して自分を奮い立たせた。

病室の空になったベッドを見た夫は、何が起こったのか理解できないまま私を探し始めた。街中にいた私の知り合い、実家、警察や他の病院など思い当たるところを全て探し尽くした夫から生まれたての子供と幼い娘を抱えた女が逃げきれるはずもなく一度は見つかってしまった。

見つかった以上、話し合いは避けられない道だった。どんなに足掻いたところでいつかは向き合わなければならないのだ。私は意を決して子供たちを知人に預け、一人で夫が待つレストランに臨んだ。

久しぶりに見た夫はやつれて、ボロボロだった。清潔感のある逞しい夫しか知らない私はその変わりように驚いた。夫も同じ気持ちだっただろう。私も夫に負けじとやつれて、ボロボロだったから。

「どうしたんだ? 心配したんだぞ」

優しい声で、以前と変わらぬ微笑みで夫は言った。私はその目をまっすぐ見つめ、頭を下げた。

「ごめんなさい。あなたとはもう一緒にいられないわ」

「どうしていきなりそんなことを言うんだ? 今は何処にいるんだ?」

「前は友達の家を泊まり歩いていたけど、今は宿を取って暮らしてるの」

「病院から抜け出したりして、体調は大丈夫なのか? 食事はちゃんと食べてるか?」

「大丈夫よ」

私のことを心配してくれているのだ、と思うと安心して涙が溢れそうだった。と同時にふと大きな疑問が頭を占めた。

「子供のことは気にならないの?」

私が病院を抜け出してからというもの夫は子供たちの顔を見ていない。夫に見つかった時、私は買い物をしていた。市場の人混みにまだ幼い娘たちを連れて行くのは不安で、人に預けていたのだ。

夫は首を傾げた。

「子供か? そうだね。一人で子供を育てながら泊まり歩くのは大変だろう。預かり先を見つけて来ようか?」

「違うわ。そういうことじゃない。子供たちがどうしているか、気にならないの?」

「どうして僕が子供たちのことを気にするんだ? 僕は君が元気ならそれでいいんだよ」

この男は狂っている。そう確信した。これが普通の男性ならば、言葉の意味も違っただろう。私が元気ならば子供たちも共に元気に決まっている。言葉にしなくても伝わる信頼があれば言葉なんていらない。でも夫の言葉からその解釈をするのは難しかった。その時、気付いてしまったのは子供に対する夫の愛情が欠落していることではなく、夫に対する私の不信感だった。

「あの子達の父親なのに、子供たちのことはどうでもいいの?」

「僕は君と家族になりたくて結婚したんだ。子供は君が家族を欲しがったから作ったんだ。君だけに捧げると誓った愛を子供なんかに注げないよ」

「だからって子供を愛するフリもできないの?」

目の前が滲んでいく。頬を冷たい雫が流れ落ちていく。

「どうして泣くんだ?」

「悲しいの。あなたに、この気持ちの半分も伝わらないことが悔しくてたまらないの」

頭の片隅でこの心さえ通じれば普通の家族になれるのではないかと思っていた自分自身が虚しく感じられてきた。愛していた。この人と幸せな家庭が築けないなんて信じたくなかった。本当に夫が私だけを愛してくれていたのならよかった。それならば作り物の愛情だったとしても一生騙し続けてくれただろう。

娘が生まれる前までは私だけを愛してくれていると信じていたが、それは勘違いだった。夫は妻である女のことなど見てはいない。妻を愛していると言っている自分を愛しているだけだ。私を縛り逃がさぬために結婚という形を作った。自分の与える愛情の形を黙って受け入れてくれる相手なら誰でもよかった。

夫が頬を伝う涙を拭おうと手を伸ばした。私はその手を払った。夫は傷ついた顔をした。

「あなたは私のことなんて少しも見ていなかったのね。もしいつか、私が本当に望んでいることにあなたが気付く日が訪れたら、また何処かで会いましょう。さようなら」

それだけ告げて席を立った。追いかけてこようとする夫から逃げるようにして走った。必死で娘のところまで走り、顔を見るなり泣き出した。大声を上げて泣いた。優しい娘は戸惑い、共に涙を流しながら、いつも妹をあやしている時のように手を握り、声をかけ続けてくれた。

泣きながら、娘たちの前で涙を見せるのはこれで最後にしようと決めた。もう泣いて目の前に並べられた現実から逃げる時間は終わりにしよう。逃げる相手はいなくなったのだから、これからは娘たちのために生きよう。夫のような他人を愛することのできない人にならないようにこの子達を大切に育てることが私に残された仕事だ。

そう思うと自然に私の心は前向きになった。体もよく動いた。

子供を預けられる場所を探し、仕事をするために色々なところへ行った。知り合いの伝手は頼れるだけ頼ったし、一度でも子供を預かってくれると言った相手には図々しい程にお願いした。形振り構っている場合ではなかった。乳飲み子を抱えた女に出来る仕事は少なかったが、それでも何とか食うに困らない程度には稼げることになった。住む場所も友人が見つけてくれた。

厨房の皿洗いから、建物の清掃、工場の作業員など、出来そうな仕事には片っ端から手をつけていた。仕事に対しての条件は毎日必ず家に帰れること。

朝、子供たちに食事をさせて知人の家に連れて行って預かって貰い、仕事へ出かける。午前中は工場、昼は皿洗い、夕方は清掃と掛け持ちをして、疲れきった体に鞭打って子供たちを迎えに行く。笑顔で駆け寄ってくる娘とお昼寝の後でまだ少しぼんやりしている娘を抱き、預かってくれた知人に礼を言って帰る。

そんな生活を送り、たまに休みの日があると子供達と目一杯遊んだ。辛い顔なんて見せる余裕もないくらい目まぐるしい日々だった。

それでも私を育ててきた母親から見ると疲れが顔に出てしまっているのだろう。心配と私の体を労わる言葉と共に別れた夫とよりを戻すように言ってきたが、私の答えはいつも決まって同じだった。

「無理よ、母さん。私とあの人は合わないの。だから別れることにしたんだから」

私にとってその答えが揺らぐ理由はない。仕事は確かに大変だ。同時に家事と子供の世話、どれも自分一人でこなさなければならない。子供の具合が悪そうな時は病院に行くために仕事を休み、薬を飲ませて知人に預け、後ろ髪引かれる思いで生活のために仕事に行かなければならない。

そんな時、自分の体が二つあれば、と思うことは何度もあったが、夫がいればよかったと思ったことはない。自分が選び取った今の生活には何の不満もなかった。

そうは言っても母親が納得するはずがない。夫と一緒に暮らしていた時の愚痴ばかりの生活より、今の方が余程辛い生活に見えるのだろう。理解を得られるとは思わず、半ば諦め気味に返事をしていた。

幾度とない説得に応じない私を見て別れた夫とよりを戻すことが難しいとわかると、母は今度は違う男と夫婦になるように言ってくるようになった。

「子供には父親が必要よ。仕事ばかりで忙しい母親より、一緒にいてくれる母親の方がいいはずよ」

説得する母の言葉に私は思わず顔を顰めた。上の娘が父親を求めていることは知っている。父親のいる家族を見て羨ましそうな顔をすることも、それを私に悟られないようにしていることもわかっている。だが、その現実を自分で認めるのと母親とはいえ他人に言われるのとでは違う。心が痛んだ。

とはいえ、現実問題私に恋愛している余裕はなかった。知り合う男性は皆、既婚者だったし、何より私自身が男性を愛する方法を忘れてしまった。信用することは出来ても、その人のために何かしたいとか、一緒にいたいとか、まして生活を共にしたいなどと思うことはなくなっていた。

母が持ってくる見合いの話はずっと断り続けていた。家に帰れば笑顔で迎えてくれる子供たちがいて、助けてくれる友人たちがいる。貧しいけれど、今の生活は不幸ではない。満ち足りた生活の更に上を求めるほど強欲にはなれなかった。

一度だけ、母が私のいないところで上の娘に聞いていたのを立ち聞きしてしまったことがある。

「新しいお父さん、欲しくない?」

そう言った母に対して娘は、少し困った顔をして考え込み、答えた。

「お父さんは一人いるから、新しいお父さんはいらないの」

「でもお父さんが一緒に住んでいないと寂しくないかしら?」

「ううん。お母さんも妹もいるから大丈夫。お友達もいるから、寂しくないよ」

上の娘はにっこりと笑った。母が残念そうに眉を寄せると、娘は続けてこう言った。

「お母さんが寂しいなら新しいお父さんがいてもいいよ。でも新しいお父さんは私たちのことも大切にしてくれるかな? 邪魔になって捨てられたりしない?」

それを聞いた母は娘を抱き締め、小さな声で謝った。それ以来、私に再婚を強く勧めることはしなくなった。出会いの少ない場所にいる私の気が変わった時のために時々男の人の話をするが、それも私が乗り気でないと見えるとすぐに話題を変えるようになった。

このまま一生、一人で娘を育てて行くのだと思っていた。唯一受けることになった見合いの話も、職場でお世話になっている方の頼みでなければ絶対に会わなかっただろう。

「食事だけでいいから、行ってみて」

そう言われて渋々行くことになったお見合いの席。普段はとても行かないようなレストランで、私は少し緊張していた。初めて会う、しかもお断りする前提のお見合いである。どんな話をしていいものか、皆目見当もつかない。

相手の男性も少し緊張している様子で、挨拶が済んで料理が運ばれてくるまでの間は無言のまま、時々目が合ってぎこちなく笑い合うだけで気まずい時間を過ごした。

料理が運ばれて来ると男性は静かに食べ始めた。そして小さく呟いた。

「シンデレラも連れて来たかった」

誰にも聞こえないように言った、もしくは心の中の声が思わず口から出てしまったかのような言葉に私は思わず問いかけた。

「シンデレラって?」

「娘です。一人娘で……死んだ妻によく似ているんです」

迷うように付け足された言葉から壁を感じた。死んだ人のことを根掘り葉掘り聞かれるのが嫌なのだろう。私はその話題に触れないよう気を付けた。

「私も二人の娘がいるんですよ。だから周りが再婚しろってしつこくて……お見合いの席でこんなこと言うのもおかしいですけれど、再婚する気はないんです。娘がいれば十分なんです」

そう言うと男性は少し安心した表情をした。

「そうですね……娘は母親がいなくて寂しいかもしれませんが、無理に望まない人と生活を共にする必要はないと思っているんです」

私は心の底からその意見に頷いた。誰にも伝えられなかったことを彼が言葉にしてくれた。初めてわかってくれる人に出会えたことが嬉しかった。

それから私は彼に自分自身のことを色々話した。彼は否定するでも、肯定するでもなく、ただ黙って頷いてくれた。自嘲を含んだ話題には困ったように微笑み、娘の話題になると優しく笑いながら聞いてくれた。話し始めると時間はあっという間に過ぎていき、食後の飲み物まで済ませた後、店を出た。

会計を払うという彼に自分の分は自分で払うと言ったが、

「その気もないのに見合いの席を設けてしまったお詫びです」

と言って取り合って貰えなかった。先に店を出た私はしばらく考えて、もう一度だけ説得を試みた。それでも受け取って貰えなかったので、後日、改めて食事の機会を作ってくれるように頼んだ。

「私だってその気もないのにここへ来たんです。条件は同じでしょう? 高いものは無理ですが、私の奢りで行かせて下さい」

「それは構いませんが……今度は娘も一緒に連れてきていいですか? 休みの日はなるべく一緒にいてやりたいんです」

「勿論いいですよ。私も連れてきていいですか?」

「ええ。では、次回は公園にしませんか? 子供たちも思い切り遊べるところがいいでしょう」

「いいですね。それならお弁当作って来ますよ」

「ではお言葉に甘えてご馳走になります。よろしくお願いします」

彼とそんな話をしながら歩いた。家の近くまで見送ってくれた彼に礼を言って別れた。帰ってくると留守番していた娘が甘えながら聞いてきた。

「お母さん、いいことがあったの? 嬉しそうだよ」

私は微笑んで黙って娘を抱き締めた。誰かに話を聞いて貰って、自分の気持ちを言葉にして貰えたことでずっと一人で悩み、焦げ付いて塊になっていたものが溶けて消えていったように感じた。抱え込んでいた者がなくなったことで娘や、私の気持ちを理解しようとせず再婚を勧めてくる周囲の人たち、顔さえ見たくないと思っていた別れた夫にも優しく接することが出来そうだ。

傍から見ても私に余裕が生まれたのがわかるらしく、彼との見合いを勧めてくれた人は鼻高々といった様子で

「お見合いしてみて良かったでしょう? 彼、いい人だったでしょう?」

そう聞いてきた。私は少し考えて頷いた。

「ええ。彼は優しい人ですよね。またお会いする約束もしましたよ」

「そうなの! それはよかったわ。彼、あんまり話してくれない人だから……気になっていたの」

「そうですね。私と食事した時も殆ど私が話してばかりでした」

「あんな人だからなかなか相手が見つからないんだと思うの。気が進まないのはわかっているけど、良ければ真面目に考えてあげてね」

私は肯定も否定もせず、その話をやり過ごした。彼には人間として好意を抱いてはいるが、男性として再婚を望むような感情は持っていない。恐らく彼も同じ気持ちだろう。

それでも擬似恋愛のようで楽しかった。

公園に行って、まず子供たちに挨拶をさせる。下の娘は最近やっとはっきり発音出来るようになった自分の名前を誇らしげに何度も繰り返した。上の娘がそれを褒めつつ自己紹介をする。彼の娘は最初、少し緊張していた様子で彼の後ろに隠れていたが、そっと背中を押されて前に出ると小さな声で言った。

「シンデレラです。こんにちは」

可愛らしく頭を下げたその姿に思わず頬が緩んだ。流石はご自慢の奥さんの娘というだけあって、とても美人な子だ。人形のように愛らしく、人見知りこそしているがはっきりとした顔をした娘さんで、芯の強そうな印象だった。シンデレラは上の娘と年が同じで、学校で習っている勉強のことや、子供たちの間で流行っている遊びをしているうちに打ち解けていった。

私と彼はその様子を微笑ましく眺めながら話をした。

「お姉さんは下の子の面倒をよく見るいい子ですね」

「ええ、だから私が仕事で帰りが遅くなった時も助かってます。あまり遊んでやれないし、何もしてやれなくて苦労ばかりかけてしまってますけど、文句一つ言わない優しい子たちですよ」

我が子を見つめながら私が呟くと、彼は首を横に振った。

「娘さんはあなたがしていることを真似しているのでしょう。愛情ある育て方をされたからあんなに優しい子に育ったのでしょうね」

そう言われた瞬間、自分で自分を単純だと笑いたくなるくらい泣きそうになった。奥歯を噛み締め、涙が溢れそうになるのを堪えて俯いていると彼はさりげなく席を外し、子供たちのところへ向かった。その隙に溜まった涙を拭い、平常心を取り戻すために何度か深呼吸をした。

立ち上がって彼と子供たちのところへ向かうと、私の涙に気付いていたはずの彼はそんなことはまるでなかったかのように振舞ってくれた。有難い気遣いに心の中で深く感謝した。

それから公園の芝の上に敷物を広げて全員で私の作ったお弁当を食べた。彼とシンデレラは私の料理をてらいもなく褒めてくれる。照れる私を見た上の娘は面白がって笑った。

「お母さん、顔が真っ赤よ」

そう言われた私はまた顔を赤くし、黙って食事を進めた。三人は顔を見合わせて笑っていた。下の娘は意味がわからないながらも一緒になって笑った。

こんなに嬉しい気持ちになったり、笑ったりしたのは久しぶりだった。娘も同じように思ったのだろう。帰り際、まだ離れたくないらしい上の娘は家の近くまで送ってくれた彼とシンデレラに何度も自分のうちに泊まるように説得していた。私は口では窘めていても、本気で娘を止める気はなかった。

だが、彼は決して首を縦には振らず、シンデレラも泣きながら縋り付く下の娘を宥め、また会うと約束だけして別れた。

帰ってから娘たちは今日一日の思い出を興奮気味に話して聞かせてくれた。とても優しい親子は娘たちにとって憧れの存在になったようで、大人びたシンデレラの動きや口調をずっと真似していた。そんな上の娘を下の娘が真似している。はしゃぐ二人の娘を見ていると彼らと離れていてもまだ繋がっているような気がして嬉しかった。

やがてはしゃぎ疲れた子供たちが眠り、家の中が静かになると一日の片付けをしながら彼と話したことを思い返した。彼は褒め上手だ。指折り数えても数え切れない程、子供たちや私のことを褒めてくれた。褒め言葉のどれもが嫌味のない、純粋に喜べる内容のものばかりだ。

同時に私は自分を取り繕うことに精一杯で人を褒める余裕など少しもなかったという事実にも気付かされた。

次は褒められるばかりではなく、私も彼のいいところを見つけて褒め返せるように見習わなくてはと思った。

私たちの関係は恋愛よりも、親同士、仲間の関係に近かった。それでも母親として一生を子供に使おうと決心した女より、異性と積極的に交流している女の方が世間の目は優しい。お互いの気持ちなど無視した周囲に納得いかない部分もあったが子供と長くいられるように仕事を調節したいという願いが都合よく解釈されて受け入れられたのを機に今の状況も悪くないと割り切ることにした。

そういう話をすると彼が笑いながら頷いた。

「僕も似たようなものですよ。お節介に感じる時もありますが、心配してくれる人がいるというのはいいものですね」

彼の言葉は私にはなかった考えだった。興味本位やお節介で言われているのだとばかり思っていた。だから人がお見合いを勧めてくることも、会話の中で彼との付き合いを探られることも鬱陶しく感じていた。私は聞いた。

「他人の気持ちをそんな風に考えたことはなかった。あなたはどうしてそんな風に考えられるの?」

突然の質問に驚いた彼は困ったように微笑んで、少しずつ言葉を紡いでくれた。

「僕の妻は長い間、闘病生活を送っていました。その間、妻は何度も僕と別れようと試みました。病気で苦労をかける妻より、他の女性を選ぶように何度も僕に言ったんです。僕はその度に申し出を断りましたが、周りの人達も妻と同じことを言うんです。子供のためにも病気の妻とは別れて他の女と再婚したらどうだ、とね。僕は迷いました。僕の心を理解してくれない人に腹を立てることもありました。周りが敵に見えて、逃げ出したいと思いました。でも、どんなに人の言葉が煩わしくても、理解が得られなくとも妻を支えるためにここにいるしかなかった。だから、耳を塞ぐことにしたんです」

「耳を塞ぐ? 話を聞かないということですか?」

「そうです。彼らの言っている言葉を有りの侭受け止めるようなことはせずに、その本心だけを自分に都合よく解釈して聞くんです。何がこの人にその言葉を言わせているのか。そればかりを考えていたら自然と他人が優しく愛おしく見えてくるのですよ」

彼はそう言って穏やかな笑を浮かべた。私は小さくため息をついた。

「強いんですね。尊敬しちゃうわ」

「弱いからこそ、身を守らなくてはいけなかったんです。臆病者の処世術ですよ」

自嘲気味に言った彼に私は首を振って答えた。彼の優しさの理由が少しだけわかったような気がした。その人間性の根底には亡くなった奥さんがいる。自分の心を守ることよりも病気になった奥さんを支えることを優先した彼は他人を排除しようとはせず、愛する人と一緒にいたい一心で迷いや苦しみを乗り越えた。今もそれを続けることで亡くなった奥さんと共に生きているのだろう。彼にとって死は終わりではないのだ。

お互いを認め合える愛が見つかることは奇跡だと知っている私にはそこまで愛し続けたいと思える相手に出会えた彼が羨ましかった。

「真似できないわ。尊敬しちゃう」

本心からそう思った。彼のように人のいいところだけを見て、言葉にして褒められる器用な生き方に憧れる人は多いのではないだろうか。少なくとも私にとってはそうだったが、彼は自分自身の生き方をあまり良いとは感じていないようだった。

「褒められるようなことではありませんよ」

そう彼は言った。まるで突き放すような言い方に私は狼狽えた。出会って数回しか会っていないとはいえ、私は出会った時と同じ、彼のことを何も知らないままだ。仕事の話、娘の話、一緒に過ごしていない休日のことや、一人でいる時間には何をしているかなど、話をするのは私ばかりで彼は黙って頷き、微笑むだけだ。奥さんが生きていた頃の思い出話も聞いたことがない。

もっと心を開いて欲しいと思うけれど、疑問や望みを口にすることは憚られた。深入りすると彼が離れていってしまうような予感がしていた。躊躇って、何も言えずに黙り込んだ私に彼の娘が声をかけてくれた。

「一緒に遊びましょう」

無邪気な笑顔で私の手をとったシンデレラは彼に似てとても気遣いの出来る子だ。私の娘が些細なことで喧嘩を始めるとそれぞれに違う話題を振ったり、行動が別になる役割を与えたりして上手に仲裁する。それでも喧嘩が止まない時は大事になる前に私を呼びに来てくれる。上の娘と同じ年だと聞いても信じられないくらい賢く、大人びた子だった。

下の娘が好んでする遊びなど上の娘はすぐに飽きて違うことをしたいと駄々をこねるのに、シンデレラはいつまでも根気よく付き合ってくれる。それも嫌な顔一つせず、楽しそうに最後まで下の娘を見ていてくれる。シンデレラが目を離さないでいてくれるので、安心して子供だけで遊ばせておくことが出来た。

私にとって彼といる時間は育児からも世間の目からも休むことが出来る、本当に数少ない時間だった。

彼がシンデレラを膝の上に載せて地面に座る。

「何をしていたんだい?」

「絵を描いていたの。上手なのよ。見て」

シンデレラはそう言って下の娘が砂の上に描いた絵を指差す。彼はそれを見て微笑み、下の娘の頭を撫でながら褒める。下の娘は嬉しそうな顔をして更に力を入れて絵を描き続けた。

上の娘が地面にしゃがみこんだ私の膝に載ろうとしてくる。私は足の間に娘の体を入れて抱き締め、下の娘の描いた絵について聞く。下の娘は機嫌よく答え、上の娘は既に描かれた絵の横に自分の絵を描き始める。

傍から見れば休日に遊びに来た仲の良い家族のように見えるのだろうな、と浮かれたことを考えていた。

しかし、私たちが本当の家族になることはありえない。彼が私に心を開いていない以上に私自身がまた別れた夫と過ごした日々から抜け出しきれていなかった。

別れた夫には今住んでいる場所も、仕事のことも伝えていない。もし知りたいと思えば母から聞き出せば解ってしまうだろう。だから私は、自分から実家に赴くことはあっても母を今の家に呼び寄せたりはしなかった。仕事のことも詳しく教えず、言葉を濁している。

そこまで警戒して気を付けているにも関わらず、怯えている。別れた夫が近くに隠れていて、私が目を離した隙に子供を何処かへ連れて行ってしまうのではないか。仕事から帰ったら夫が待ち伏せしているのではないか。私から子供を奪えばまた自分のところへ戻ってきてくれると信じて、子供を連れ去ってしまうのではないか。起こりもしない現実に怯えて、夜中に子供の寝ている部屋を覗く。ベッドの中で二人の娘が並んで穏やかな寝息を立てて眠る姿を見て安心し、涙が流れる。

外を歩く時は絶対に手を離さない。遊ぶ時は見晴らしの良い場所で決して視線を外さない。視界の隅に必ず姿が確認できるように意識していた。娘たちにも私の不安が伝わるのか、どんな悪戯をしようとも私の手を振り払ったり、姿を隠したりすることだけは絶対にしなかった。

それでも近所で別れた夫に似た人や、同じような体格の男性を見かけると緊張してしまう。人から紹介されて、例えそれが別人であると頭では解っていても近寄らないように、関わらないように意識してしまうのだ。それがどんなに優しい人でも、常識的で子供好きな人だったとしても、別れた夫に植えつけられてしまった不信感を拭えるほどのものではなかった。

私がこれから先の一生を母として過ごすことに決めたのは、そんな恐怖や不安を理解して共感できない男と一緒に暮らすことは不可能だったからだ。全く同じ体験をした者でなければ、人はいつか忘れてしまう。傷が癒える前に痛みを過去にされてしまったらと考えただけでも怖くて仕方なかった。

「まだ若いんだから勿体無いわよ。今はいいかも知れないけど子供が巣立ってからが長いのよ」

そう言ってくる人たちを心の中で馬鹿にしていた。何も知らない癖に偉そうなことを言う人たちを愚かで無責任だと罵ってやりたかった。同じことを言われているはずの彼はそんな人たちに対して何を思うのだろう。私のように醜い言葉で相手を嘲笑したりしないはずだ。

彼だったら、と思う度に自己嫌悪に陥り、それと同じだけ彼のようになりたいと願った。

願うだけで叶うはずもないので、少しずつ良いと感じたことを言葉にしてみるようにした。例えば私が彼のことを羨ましいと言う。すると、彼はいつも困ったように

「僕はそんな風に思われる人間ではありませんよ」

と言って黙ってしまうのだけれど、嫌な顔をすることはなかったので言葉にすることはやめなかった。

二人の娘に対しても同じように接した。良いことをしたらすかさず褒めて、悪いことをしてもすぐには叱らず、まず何をしたのかを聞くように心掛けた。それだけでも娘の態度に変化が現れた。

使う言葉や行動に気を付けるようになった。上の娘が下の娘の面倒を見る時、責任感を感じられるようになり、寛大になったように思える。下の娘が持ち物を勝手に持ち出すと今まではすぐに怒って物を取り上げ、喧嘩になって二人で泣き出し、私のところに言い付けていたのだが、今は違う。

「これはお姉ちゃんの大切な物だから返して。壊さないように使えるなら貸してあげる。でも私に言ってから持って行ってね」

そう言われると下の娘は素直に物を返す。

「ごめんなさい」

と小さな声で言うと上の娘は姉らしく許して、きちんと謝れたことを褒めるようになったのだ。

泣かずに解決できるようになり、幼いながらも成長している娘の姿を見て私は感心した。

「あなたたち、大人になったわね」

「お母さんは最近優しくなったね」

そう言って笑う顔は以前と全く変わらない子供のままなのに、言うことはしっかり一人前になってきた。

我が子の変化を見て気を良くした私は職場でも同じように人と接するようにした。子供と違って褒める機会が少なく、諭すにも時間が足りなかったり、柔軟に物事を考えられず話が進まないことも多い。そんな時、つい苛立って投げ出してしまいたくなることもあったが、彼のことを思い出してじっと辛抱した。

相手の目を見つめて黙って微笑み、頷くだけで相手は驚く程たくさんのことを話してくれる。内容は様々で、会話の始まりから最後まで同じ話を貫く人もいれば途中で何の話をしていたか解らなくなるほど寄り道をする人もいる。聞いているうちに不思議とその人となりが解ってくる。

聞いている人が理解しやすいように噛み砕いて話す人は、時々私の様子を伺って話に退屈していないか、内容がきちんと理解できて聞いているかを確かめている。こちらも興味を持って話を聞くことが出来るので話したことが記憶に残りやすい。逆に自分勝手に話す人は自分の主観ばかりなので話の内容も似たり寄ったりになりがちだ。こちらが退屈してしまって真面目に話を聞いていないと見えると気分を害したように話を終わらせる。話し終えた後、その人が話していた内容は殆ど頭に残っていない。

彼と話すときの私はどちらの

改めて冷静に向き合って周囲の人を見てみると落ち着いて他人と接することが出来るようになった。理解を得られないことに苛立って毒吐いていたことが嘘のようだ。相手がどんな気持ちでそう言っているかが手に取るように感じ取れるので建前だけではなく、心から素直にお礼が言えるようになった。

職場の人から家庭のことや彼との関係を詮索されるのが嫌で深く関わらないようにしていた。仕事の内容を伝え合うだけの最低限の会話と挨拶くらいしかしていなかった。変わり映えしない仕事を毎日こなしているだけ、娘を育てるために必要だから続けているだけの仕事は辛かった。

ところがきちんと向き合うようになると、周囲の人々に対する私の意識が変わっただけではなく、周囲が私に接する態度も変わってきた。

「ねぇ、ちょっと聞いてよ!」

その言葉から始まる話は噂話だったり、職場や家庭の愚痴だったりと様々だったが私の関係ないところで行われる話は新鮮で楽しい。時々、誰かを貶めようとした話もあったけれどそれらはまともに取り合わず、聞き流した。多少の悪意や嫌味は軽く受け流せるくらいには私も成長しているのだ、と誇らしく思った。

仕事の話のついでに上司が言った。

「最近調子が良さそうだね」

「そうですか? ……そうかも知れません。仕事に来るのが少し楽しくなってきました」

「そうか。それなら仕事をもっと楽しくするつもりはあるかな?」

含みを持たせた言い方に首を傾げた。上司の提案は私に今までとは違う仕事を任せたいということだった。周囲の人たちの仕事を補助する役割であるため、責任があり連携が必要だが、その分時間には余裕があって休みも遅刻も早退も今よりずっと都合がつきやすいらしい。

「有り難く引き受けさせていただきます。今は午前中だけ知人の家で預かって貰って上の娘が学校から帰って来て妹の面倒を見てくれていますが、上の娘の学年が上がってからはどうしようかと思っていたところでした。今までより授業の時間が長くなるし、学校の行事もあるし、下の娘が病気になっても上の娘が学校を休んで看病する訳にはいきませんから、不安だったんです。助かります」

私が頭を下げると上司は穏やかに微笑んで頷いた。ふと、疑問に思った。

「どうして私にそんな大事な仕事をやらせる気になったのですか?」

思わず口にして見ると、上司は少し驚いたように目を開き、また笑って答えた。

「以前の君はあまり人と接していなかった。頑なに心を閉ざそうとしていた。だから、実力があってもこの仕事を任せるのは不安だった。他の人の意見を聞いて、その言葉以上のことを感じなければ出来ない仕事だからね。しかし最近、君は変わろうと努力しているんだろう? 人と向き合い、自分を受け入れて貰えるように心を開こうとしているのが解るよ」

「そう……見えますか?」

「ああ。例えばさっきの話もそうだよ。以前の君なら家庭の不安を自ら私に聞かせたりしなかっただろう」

私は頷いた。言われてみればそうかも知れない。私自身の事情など仕事には関係ない。心遣いに感謝して新しい仕事を引き受けると言えばいいだけだった。

「君が変わろうとしているのなら、私もその手助けをしたいと思ったんだよ」

「私に出来るでしょうか?」

「今の君なら出来るはずだよ。ゆっくり慣れていけばいい」

上司はそう言って不意に手を差し出した。その手の意味を一瞬考えてすぐに悟った。私は上司と握手をした。

「そう。それでいいんだよ」

優しく笑った上司に父親の温もりと同じ物を感じながら、私は礼を言った。

家に帰って子供たちに仕事のことを話すと、とても喜んでくれた。下の娘にとっては仕事の話など難しくて解らなかっただろうに、上の娘と一緒になって飛び跳ねた。

「お母さんってすごいわ! ねぇ、こんな素晴らしいことはシンデレラとシンデレラのパパに教えてあげるべきよ。二人もきっと喜んでくれるはずだもの」

「そうね。でも次に会う約束はまだしてないの。住んでいる場所も知らないし、すぐには伝えられないわよ」

「どうしてあの二人は近くに住んでないのかしら。毎日でも会いたいわ」

「毎日だなんて……そんなこと思っても言っては駄目よ。迷惑に思われたらもう会ってくれなくなってしまうわよ」

「わかってるわ。でも、せめてシンデレラと同じ学校に通えたらいいのに」

そんな娘の願いは悲しい形で叶うこととなった。食事の約束をした日、少し遅れて来た彼は何度も謝りながらも何処か落ち着かない様子で、別の何かに気を取られているようだった。いつもならすぐに娘たちと意気投合して楽しそうに話をするシンデレラも今日はずっと父親から離れず、会話の合間や食事の時にさりげなく様子を伺っていた。彼はそれを咎めることもなく、目が合うと優しい微笑みを浮かべてテーブルに置いたシンデレラの小さな手を握ったり、頭を撫でたりしていた。

その二人の様子に対して相変わらず仲のいい親子だと思う反面、違和感を感じていた。シンデレラはあまり人前で父親に甘える子ではない。どちらかというと彼が自分を気にせず、私や私の娘の相手をしていられるように父親に必要以上の関心を示さないよう気を付けていると思っていた。

私が彼に聞こうかどうしようか迷っていると上の娘がシンデレラに尋ねた。

「今日は何かあったの?」

「いいえ、何もないわ。どうして?」

「ずっとお父さんの方ばかり見てるんだもの。おかしいと思うわよ」

下の娘も頷いてそれに同意した。シンデレラは返事に困り、助けを求めるように彼を見た。彼は笑ってシンデレラの頭を撫でて言った。

「僕の体調があまり良くないので心配してくれているんだよ」

「体調が良くないなら無理に今日じゃなくても日を改めても良かったんですよ。大丈夫ですか?」

「ここへ来る前に病院に寄ってきました。薬を飲んでいれば悪くないので大丈夫ですよ。心配をおかけするといけないと思って黙っていたのですが、余計な気を使わせてしまいましたね。すみません」

そう言って彼は娘たちにも謝った。シンデレラも一緒に謝ると娘たちは水に流すと言って仲直りした。

「それに、これから少し仕事が忙しくなるかもしれないんです。しばらく人と会う時間を作れないので、せめて守れる約束は果たそうと思いましてね」

「そんなにお仕事が忙しいんですか? 残念だわ。あなたに会うと子供たちも喜ぶのよ」

「すみません」

申し訳なさそうに眉を寄せる彼の気分を変えようと私も仕事の話をした。最近、職場の人間関係に悩まなくなってきたことや、上司に認められ、新しい仕事を任されることになったこと。会っていなかった時に起こった出来事を全て話すと彼は自分のことのように喜んでくれた。

「あなたみたいになりたくて真似をしただけよ。あなたのおかげだわ」

「そんなことはありませんよ。努力した成果が認められたのですから、もっとご自身を誇りに思って下さい」

「ありがとうございます」

そんな話をしながら食事を終えた私たちは店を出た。いつもと同じように彼が家の近くまで見送ってくれる。別れ際、娘たちに彼とはしばらく会えないことを伝えると上の娘は嫌だと言って駄々をこねた。

「ずっと会えないの? お仕事はいつ忙しくなくなるの?」

「ごめんね。わからないんだ。とても長い間会えなくなってしまうと思う」

「そんなの嫌よ。お父さんが忙しくてもシンデレラは遊びに来てもいいでしょう? 私の家に来ればいいんだわ」

「無理を言っては駄目よ。住んでるところが離れているの。一人で遊びに来るなんて危ないこと、出来る訳ないでしょう」

「だって私たちはシンデレラの住んでいるところを知らないから、遊びに行けないわ。来てくれないと会えなくなっちゃう」

上の娘が泣くのを堪えてそう言うと、シンデレラが彼に言った。

「お父さん、二人で少しお話したいの。いい?」

彼が黙って頷くと、シンデレラは手招きをした。上の娘は駆け寄って、二人は少し離れたところまで歩いて行って話し始めた。

私は眠ってしまった下の娘を抱きながら、彼の表情を伺った。内緒話をするシンデレラの後ろ姿を見ながら真剣な表情をしていた。私は言った。

「何を話しているのでしょうね」

「さあ……いつか遊べる日の約束をしているのかも知れませんね」

「体調、気を付けて下さいね」

「え?」

「お仕事が忙しくなって、体調が悪化したら困るでしょう?」

「ああ、そうですね。ご心配ありがとうございます」

「シンデレラの家族はもうあなたしかいないんですから、気を付けないと」

「ええ。シンデレラが成人するより先に死んだら妻に叱られてしまいますから、しっかり頑張らないといけませんね」

やがて戻ってきた上の娘は相変わらず泣きそうな顔をしていたが、彼やシンデレラを困らせるようなことはもう言わなかった。聞き分けよく二人に別れの挨拶をして、その日は口数少なく過ごした。

それをシンデレラや彼との別れを寂しく思う故のことだと勘違いしていた。娘は私の与り知らぬところで大きな秘密を抱え、悩んでいた。胸にしまいこんだそれは喉までこみ上げて来る。その度に誰かに伝えたくて私に訴えようともがくけれど、その秘密はあまりに重く、どんな言葉で伝えればいいのか解らないまま迷っているうちに機会を失ってしまう。それを何度も繰り返し、とうとう堪えきれなくなった娘は突然堰を切ったように大声を上げて泣き始めた。

上の娘がそんな風に泣く姿を見るのは久しぶりのことで、私は懐かしさを感じながらも、何故泣き出したのか理解できずに戸惑い、娘を必死になって宥めた。顔を真っ赤にして泣く姉の様子を見た下の娘も貰い泣きをしてしまい、どうしていいのか解らなくて混乱した私まで泣き出してしまった。

私が泣くのを見て娘たちは驚き、泣き止んだ。まだ涙が止まらず、震える声で私を慰めてくれる。

「どうしてお母さんが泣くの? 私が泣いたから? ごめんね。もう大丈夫だよ」

「何処か痛いの? 大丈夫、痛くない。痛くないよ」

その優しさが余計に涙を誘った。流れる涙を拭いながら私は笑おうと努力した。

「大丈夫よ。何処も痛くない。もう大丈夫。それより、どうして泣いたのか教えてくれる?」

尋ねられた上の娘は困って俯き、黙り込んでしまった。黙って顔を覗いてじっと目を見ていると、観念したように口を開いた。

「秘密にするって約束したの」

「そう……約束を守ろうとするのは偉いわ。でも、そのせいであなたがこんな風に泣くのは心配なの。私もあなたから聞いたことは絶対に秘密にするわ。そうすればあなたが私に秘密を教えたことは誰にも解らない。だから教えて? どうして泣いていたの? 何を秘密にしているの?」

娘は一度口を開き、それでも躊躇ってまた閉じてしまった。そして傍らにいる妹の顔を見て、唇を噛んだ。私は下の娘に言った。

「ねぇ、お姉ちゃんはとても言いにくいことを教えてくれるみたいなの。悪いんだけど、他のお部屋に行ってくれる?」

「どうして? 私も内緒に出来るよ。誰にも言わないよ」

「そうね。でも、言えないことってあるのよ。あなたもおねしょしたこととか、玩具を壊したこと、お姉ちゃんの前では言えないでしょう?」

私は下の娘にそっと耳打ちした。下の娘はすぐに私の口を両手で塞ぎ、首を横に振った。

「お願い。わかって。お話が終わったらすぐに呼ぶから、少しだけ他のお部屋にいて」

「……わかった。でも、さっきのことはお姉ちゃんには言わないで」

「わかってるわ。ちゃんと内緒にする」

頷いて微笑むと、下の娘は聞き分けよく部屋を出て行った。足音が遠ざかるのを確かめてから、上の娘は改めて口を開いた。

「シンデレラから聞いたの。シンデレラのお父さんは病気なんだって」

「ええ、それは聞いたわ。でも病院に行って薬を貰ったから大丈夫だって言ってたわよ」

「本当は大丈夫じゃない……シンデレラのお父さんの病気はシンデレラのお母さんが死んだ病気と一緒なの」

「どういうこと?」

「シンデレラのお父さんはお仕事が忙しくて私たちに会えないんじゃないの。病気になったのを内緒にして私たちとお別れするためにそう言っただけなのよ」

娘の告白に私は動揺を隠せなかった。彼の奥さんは長い間、苦しい治療を受けていたらしい。それでも治らず、可愛い娘と愛する夫を残して死んでしまった。その病気に今度は彼が蝕まれているという。予想していなかった娘の話に大きな衝撃を受けた。

秘密にすると約束したものの、職場で単調な作業をしている時や家で一人になった瞬間にふと思い出してしまう。その度に誰かに言って楽になりたいと思った。重い秘密を叫び出したい衝動に駆られる。

それでも私が取り乱さないで済んでいるのは同じ苦しみを娘が堪えてきた事実があったからだった。母親としては娘にそんな姿を見せて心配させたくはない。特に上の娘は自分が秘密を話したことを後悔してしまうだろう。

娘はあの日からずっとこんな思いをし続けてきたのだ。まだ幼い娘なら今の私以上に苦しかっただろう。大声で泣き出してしまったのも頷ける。

娘は秘密を人と共有することで心が軽くなったのか、すっかりいつもの明るさを取り戻した。それでも時々、物思いに耽っている時がある。深刻そうな顔をしている時は声をかけて、言葉にすることで思考を整理させる。そうでない時は考える邪魔をしないように一人にしてやる。そうして気を付けて接している間に区切りがついたらしい。また落ち着きを取り戻していた。

一方私は最悪の想像ばかりしていた。彼が私を遠ざけたのは病気のせいではなく、他に結婚を考えている女性と出会ったからではないかとか、本当に仕事が忙しいだけで、病気だというのはシンデレラの吐いた嘘ではないかとか、思い付く限り色々なことを考えてみた。

しかし彼の性格上、結婚を考えていたなら正直にそう言ってくれるはずだし、母親を亡くしたシンデレラが命に関わる嘘を吐くとは考えにくい。

散々悩んだ結果、どうにかして彼と連絡が取れるようにならないか行動してみた。

まず、彼を紹介してくれた人に彼の住んでいる場所や仕事先、自宅の連絡先などをさりげなく聞いてみた。

「教えて貰わなかったの? どうして?」

「機会がなくて……彼の連絡先を教えられないようなら、私の連絡先を彼に伝えて下さい」

「構わないけど、次に会う時まで待てないような急ぎの用事なの?」

「急ぐ訳ではありませんが……」

私は言葉を濁した。彼が誰にどの程度詳しく事情を説明しているか解らない。余計なことを言って周りに話が広がってしまうのは本意ではないはずだ。とりあえず彼が公にしている言い訳に話を合わせた。

「仕事が忙しくなるとお聞きしたので、家のことやシンデレラのことで手が回らなくなるんじゃないかと思ったんです。もしご迷惑でなければ手伝いたいと思って……」

「そうなの? それは確かにアピールするチャンスよね」

「でも、急に手伝いを申し出ても断られてしまうかも知れませんから、代わりに伝えてくれませんか? せめて一時間でもいいからお話させていただく時間が欲しいんです」

「いいわよ。任せて」

そう言ってくれたことで安心して、私は緊張しながら答えを待った。彼は迷っていたようだが、その人からしつこく誘われて断りきれなかったようで、二人だけで食事をすることになった。

久しぶりに会った彼は以前と変わらない様子だった。体調が悪化したような兆候は見られない。

私はまず、無理を言って誘い出したことを詫びた。彼は笑って許してくれた。席について食事を注文し、いざ聞こうとした時、急に沈黙してしまった。何から話し出せばいいのか解らない。会えない間は言いたいことや聞きたいことが山程あったのに。言葉に詰まる私を見て、彼が言った。

「シンデレラが娘さんに本当のことを話したと聞いています。あなたも聞かれたのでしょう? だから私を呼び出したのではありませんか?」

「そうです。あの話は真実なのですか?」

彼は頷いた。そして私にどんな病気なのか、どのくらい進行しているのか、またその病気が治る見込みのないことまで教えてくれた。私は聞いた。

「どうしてそこまで詳しく教えてくれるのですか?」

「私はあなたを傷付けないために嘘を吐いたつもりでした。でも、シンデレラに叱られました。嘘はいずれ解る。真実を知った時、何も知らされていなかったとしたらあなたは余計に傷付くと言われたのです。だからもし、あなたと再び話す機会があったら真実を全てお話して謝ろうと思っていたのです。すみませんでした」

彼はそう言って席から立ち上がり、深々と頭を下げた。私はそんな彼をもう一度席に座らせた。

「治療は本当に意味がないのですか? ほんの少しでも治る可能性はないのですか?」

「完治する確率は無いに等しいと……それに集中的に治療を受けるには入院が必要で、シンデレラを家に一人残す訳にはいきませんから、今はただ少しでも長く生きられるようにするしかありません」

寂しそうに笑う彼に、私の心は酷く痛んだ。彼を助けたいという気持ちに迷いはなく、自然と言葉が出てきた。

「だったら、私がシンデレラと一緒にいますよ。それなら心配ないでしょう?」

彼は狼狽えて私の提案を拒否した。いつもの私ならここで引き下がるところだが、今日は違った。

「気にしないで頼って下さい。治療のことはお手伝いできませんけど、シンデレラのことなら少しは助けになれます」

「私の母や妻の母も面倒を見てくれると言っています。それに二人も娘さんがいて大変でしょう」

「二人も三人も変わりませんよ。それに万が一、予定よりも早くあなたが倒れてしまった時、シンデレラを助ける人間は一人でも多い方がいいわ」

静かで穏やかな気分だった。言葉は無力だと何度も思い知ってきた。それでも言葉でしか伝えられない。言葉以上に心が伝わってくれたらいいのに、と思った。この胸を切り開いて、本当の気持ちを見せられたらきっと彼も私を受け入れてくれるだろう。でも、心は見せられない。だから私は彼の手を握った。

「あなたの傍にいさせて。助けになりたいの」

彼は黙って俯き、やがて私の目を見て頷いた。

生活は彼の家ですることになった。他人の家にいるのではシンデレラが気を遣ってしまい、父親が入院していることへの不安を我慢してしまうかも知れないからだ。二人の娘はシンデレラと共に暮らせることを喜んでくれた。転校することになると言った時は少し寂しそうにしていたが、シンデレラと同じ学校に通えることになって嬉しそうだった。

掃除道具の収納場所やキッチンの使い方などを教わり、部屋を貰って荷物を運び入れた。その日から彼との生活が始まった。

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