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王都で④

 

「シェリア、トムさんを連れてすぐに治療を!」


「う、うん」


 おれはルーナディカの右手を握ると、強引におれの背後に隠した。


「……レン、すまぬ……わたしのせいでトム殿が……」


「心配するな、シェリアが助ける」


「また、邪魔が入りましたか――」


 女――いや、まだ少女というべきか、見たところおれより少し年上程度。

 殺気もまるで感じない。

 だが、ただそこにいるだけで放っているとんでもない存在感。


「……ハハ、最近はホントにとんでもない奴らとばっかり出会うな」


 ビージャスといい、どうなってるんだ?

 今のおれはただの村人なのに。


「シェリア、トムさんを命に別状がない程度に回復させたら、お姫様を連れて逃げろ」


「あいつの目的はわたしなのだ! わたしが逃げるわけには!」


「そうです。そちらの方は連れて行って構いませんが、王女には逃げていただいては困ります」


「うるさい!」


 おれが一喝すると、ルーナディカがビクッと震えておれから一歩後退る。

おれから発する気に圧されたのか。

 おれはただ視線を目の前の少女に向ける。


「いいから、ここはおれに任せとけ」


 少女も王女から視線を外し、おれへと向ける。


「なるほど――先ほどの男よりもかなりの手練のようですね。傭兵や冒険者というようでもなさそうですが」


「ただの村人さ」


 スッと彼女が目を細める――と、場の温度が一気に下がったような気がした。


 ビージャスの荒々しい殺気とは違い、静謐で張り詰めたような雰囲気。

 

「レンちゃん、お父さんの血は止めたよ」


「そうか。じゃあ、こいつを頼む」


「うん」


 おれは視線を外さずにルーナディカを後ろに押してやる。


「わたしは――」


「いいから……」


「逃すと思いますか!」


 きぃん!


「連れていけ! シェリア!」


 ルーナディカへと一気に突っ込もうとした少女の行く手を遮り、おれは少女へと斬りつけ鍔迫り合いとなった。


「邪魔をしないでください!」


 矢継ぎ早に攻撃を繰り出し、少女の足止めに専念する。


「……武運を」


 ルーナディカはようやく諦めたのか、シェリアと共にトムさんを担ぐと、この場から離れ始める。


「人を傷つけるのは本意ではないのですが、どうやらあなたを倒さないと、王女を殺すことはできないようですね」


「天帝騎士団の人間が、なぜ属国の王女を狙うんだ?」


「――わたしが天帝騎士団の所属だと、よくわかりましたね」


「わかるさ。その制服、天帝騎士団の正式礼装」


 白を基調とし、金糸で華美でなくそれでいて上品な刺繍を凝らし、どこか謹厳さを感じさせる。 


「ただの村人が、天帝騎士団の正式礼装を知るはずがないのですが」


 確かに、正式礼装というのは式典などの儀礼で着るものであり、そもそも天帝騎士団では団員の装備は自由である。

 騎士団員であることを示すのは胸元に付ける徽章のみ。

 現在の聖皇女は風の精霊神『リーシェ』の転生者であるため、その徽章は風の精霊神殿の紋様に、ひと振りの剣が刻み込まれ、その下に階級章が記載されるというものだ。


 でも、おれにとってその服は特別だ。

 何せ、おれの前世で最後に身に着けていた服がそれ。

 忘れられるわけがないじゃないか! というか、嫌な思い出でいっぱいだ。

 

「そういえば、自己紹介がまだでしたね。わたしの名前はサーナリア……家名は名乗りたくありません」


「レンだ」


 レン・リッドと名乗ってしまっては、村までバレてしまうからな。


「わたしの目的は王女だけです。引いてはいただけませんか?」


「断る!」


 何が、王女だけだ! トムさんも斬られているじゃないか!


 返答の代わりにサーナリアに斬りかかる。


 一足飛びに間合いを詰め斬撃を放つが、彼女は後方へと大きく飛んで間合いを取った。


「あくまでも邪魔をするというなら、わたしはあなたを斬ります」


「トムさんを斬ったようにか!?」


「急所は避けていました。もとより、王女を斬ったあとにはわたし自身で治療してさしあげるつもりでした」


「信じられるか!」


「残念です」


 サーナリアが地を蹴り、一気に間合いを詰めてきた。

 片手で横殴りの斬撃を放ってくる。

 ただの斬撃をおれは剣で受け止め――


「……っ!」


 両腕を、両足を、両脚を、胸から血が吹きだす。


「奥義『八葉』」


 追撃すれば、おれに止めをさせれるはずなのに、サーナリアはゆっくりとおれから離れた。

 

「お分かりでしょうが、手加減はしました。本来の威力で使えば、あなたは八つ裂きになっているでしょう」


「……片手での斬撃を囮にして、左手で呪紋を描いたのか」


「……初見でそれを見破りますか」


 おれと同じ戦闘スタイルだからな。

 

「シレーネ・ウィンズベル」


「どうしてその名を!?」


 まさか!


 この《八葉》という技、自らの剣を囮にして本命は風精霊魔法による真空の刃。

 それも八つも生み出す剣と呪紋の複合技である。

 そしてその使い手の名が『シレーネ・ウィンズベル』。


「その《八葉》の呪紋、シレーネから習ったのか?」


 痛みをこらえておれが聞くと、サーナリアが目を見開いて驚く。


「どうして母の名をあなたが知っているのです!?」


 やっぱり、そうなのか。


「答えなさい!」


 ほんとに勘弁してくれ。

 よく見れば、確かに面影がある。

 凛としたその美貌――綺麗な顔立ちだが、その細い相貌はどこか冷たさを思わせる。


「あんたのその胸元の徽章」


 少女らしい慎ましやかに膨らんだその胸元に、小さな徽章があった。

 階級章として表されるその徽章には☆が九つ円を描くように記されている。


九天(くてん)か?」


 アロンシグマ皇国の本国のみならず、属国からも優秀な人材をスカウトして形成される大陸最強の騎士団。

 その騎士団を統括するのが九天(くてん)と呼ばれる、九人の将。

 その権限は属国の王と同等とされており、名実共に皇国を動かしている最高権力者の一人の証。



「家名は名乗りたくはなかったのですが、わたしの名はサーナリア・ウィンズベル。九天の末席に名を連ねる者の一人」


 ホントにどうすればいいんだ?

 彼女の名乗りに、おれは全身の痛みをこらえて頭を抱えたくなる。


『シレーネ・ウィンズベル』

 

 彼女はおれの前世において副官を務め、後に妻となった女性だ。

 つまり、サーナリアは前世のおれこと、英雄『アークライト・ウィンズベル』とシレーネの間に生まれた一子。


 前世でのおれの実の娘だった。


 マジかよ……というか、名前で気づけよおれ。

 というわけで、ようやく主人公の前世の名前が出せました。

 ついでに娘も出てきました。

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