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レン VS ビージャス

 まさかの連日投稿。というか、本当は昨日ここまで投稿するつもりだったのですが、力尽きちゃいまして……。

 今回の戦闘シーンでは残酷なシーンが含まれています。苦手な方は読まない方が良いかもしれません。しかし、戦闘シーン……頭の中ではイメージしていても、文章にするのは本当に難しい。

 

――凄まじいプレッシャー。


「……あ、ああ――」


 おれの隣に立つシェリアがか細い声を出す。


「く、くそぉ……」

 

 冒険者として、それなりの修羅場を潜ってきているはずのトムさんですら、その全身に脂汗をびっしりと浮かべ、息が荒くなっている。

 いや、シェリアたちだけではない。

 味方であるはずの男たちですら、その目に恐怖の色を浮かべていた。

 

――【豪剣】のビージャス。


 二つ名持ちの傭兵。

 自称している馬鹿とは違う。戦場にて敵味方の区別なく多くの者に認められ、そして二つ名を名乗ることを許されし者。

 紛れもなく、ビージャスは二つ名を名乗るに値する実力者。


 その殺気を間近に浴びることになったルーナディカ――


 その顔からは血の気が引き、もはや蒼白を通り越して土気色になっていた。かろうじて細剣を構えているものの、剣先はガタガタと震えていた。


 

――マズイ……


 シェリアやトムさんに実力を隠すのをやめる決心しはしたが、それでも状況は最悪だ。

 ビージャスから放たれる殺気から測れるその実力が、これほどのものは思っていなかった。

 最後に戦場で見えたのは今から十七年前。

 おれが毒殺された年よりも三年も遡る(その後は軍を指揮する立場になったため、戦場で剣を交わすことがなかった)。

 この十七年というおれにとっての空白の期間中に、奴も経験を積んだのだろう。そもそも、傭兵として多くの戦場を生き延びてきた男だ。

 転生して十四年――鍛えてはきたけど、未だ成長途上の肉体であり、そして何よりも対人戦闘のブランクを考えると、例え今のおれの技量がビージャスに優っていたとしても、その仲間たちと連携されれば、負けるだけでなく逃げ切れる可能性も低い。

 敵の位置はおれたち三人を囲む五人、そしてルーナディカと対峙するビージャス。その後ろにさらに《火球》を使った魔法使いが一人を含めた五人。


 ビージャスがルーナディカに集中しているあいだに、まずは目の前の五人を片付ける!


 おれはナイフを握り締めると、トムさんの背後から一気に飛び出し、俺たちから見て一番左端の男へと襲いかかった。


「ぎゃあああ!!」


 ビージャスの殺気に気を取られ、反応が遅れた男の右手におれはナイフを突き刺した。 

 悲鳴を上げて、剣を落としたのをおれは空中で掴むと、尚も悲鳴を上げている男の腹を切り裂いた。

 

「この、よくも!」


 仲間の悲鳴に我に返り、隣にいた男がおれに斬りかかってくる。


 ――遅い!


 本来ならもっとまともに剣を振るうのだろう。ビージャスの殺気に気圧されてしまったか、まるで駆け出しの兵士のような大振りだ。しかも剣速も遅い。

 剣で受け流し、体勢を崩した男の首をひと振りで跳ね飛ばす。さらに首を失った胴体を背後にいた男たちへ蹴り飛ばす。

 

「うお!」「なに!?」


 咄嗟に交わすこともできず、二人の男が巻き込まれ体勢を崩す。

 一気に接近し、まず左手がわの男の剣を持つ右手を斬り飛ばし――


「トムさん!」


「お、おう!」


 一瞬の出来事に呆然としていたトムさんが、おれの声に我に返りもう一人の男を斬り伏せた。


 近くにいる敵はあと一人――


 ビージャスとルーナディカの方へと一瞬目を向ける。


 それはまさに蹂躙という光景だった。


 ビージャスはゆっくりとルーナディカの前へと近づく。


「あ……ああ……」


 剣は構えているものの、まるで動けないルーナディカ。先程までのその幼さからは信じられない細剣による攻撃を繰り出すこともできず、ただ歩み寄ってくるビージャスから目を背けることができないようだ。

 ビージャスが無造作に大剣を振り上げ、そしてルーナディカの構える細剣に向けて振り下ろす。


 ガキン!


 その衝撃に耐え切れず、ルーナディカは剣を地面へ取り落とし、前のめりに体勢を崩す。そこへビージャスが彼女の腹部に蹴りを撃ち込んだ。

 

「――――!」


 声もなく、くの字に身体を折り曲げ崩れ落ちるルーナディカ。さらにビージャスは容赦なく彼女の右腕もろとも胴体を蹴り飛ばした。

 吹き飛び、地面に叩きつけられる。


「――う、うう……ぐふ……」


 口から吐瀉物が撒き散らし、口からは弱々しいうめき声しか出ていない。蹴りの直撃を受けたその右腕は骨が砕けたか、本来ありえない曲がり方をしている。


「ふ、ふふふ、ふははははは!」

 

 ビージャスが笑いながら倒れたままのルーナディカに歩み寄る。

 

「おいおい、汚ねぇなあ! お姫様ともあろう高貴な御方がゲロまみれで、地面に這いつくばってんじゃねぇよ!」


 折れた右腕を蹴り飛ばし、彼女を仰向けさせるとその腹部を右足で踏みつける。


「――――っ!」


 もはや、悲鳴すらも上げることができないようだ。


「ははは、お姫様がお漏らしかよ!」


 ルーナディカの股間部分が濡れていた。


「死んでなければ、精神がぶっ壊れようが、手足がなかろうが問題ないという依頼なんでな。逃げられないように、足の健を切っておこう」


 力なく横たわる王女。その両目から流れた涙が頬を濡らす。

 目に残忍な光を浮かべ、大剣の狙いをルーナディカの足首へと振り下ろす。


 ――キンッ!


 間に合った!


間一髪、おれが伸ばした剣先がビージャスの大剣の先を逸らし、王女の足首をかすめ地面に突き刺さっていた。

 その隙におれは突きを放ったが、ビージャスは力任せに地面から大剣を抜くと後ろに飛び退ってかわす。

「――おれの殺気を浴びながら、これほど動けるとは! ただの小僧ではないな、貴様!!」

「ただの村人さ、今はな!」


 左手で一気に呪紋を描く。


「《砕破》!」


 ドンッ!


 地精霊系攻撃魔法《砕破》が起こした爆発による破片を避け、ビージャスがさらに大きく距離を開ける。

 その隙におれは更に呪紋を描いた。


「《呪紋閃》!」


 おれの周囲に幾つもの光弾が浮かび、尾を引きながら前方へと飛んでいく。


「く!」


 至近距離から放つ矢なみの速度を持った魔法だったのだが、強敵に出会えた喜びに笑みを浮かべながら避けるビージャス。

 残念ながらかわされてしまったが、おれの狙いは――。


「ぐわっ!」「ぎゃっ!」


 背後にいた男たちの肩を、脚を、腹部を光弾が貫いた!

 魔法使いだった男が何らかの防御魔法を使ったようだが、《呪紋閃》の威力がその防御魔法の防御力を上回ったようだ。

 魔法使いは胸を貫かれ絶命している――。


「なるほど、狙いはおれじゃなかったわけか」


 油断なくおれは剣をビージャスに向けて構えた。そして背後に横たわる王女の様子を伺う。

 幼くも光り輝くような美貌と、気高さを放っていたルーナディカ王女。それが今は見る影もなく、自らの吐瀉物と失禁による汚物にまみれ、地面に惨めに横たわっていた。


 正直、おれにとっては先ほど会ったばかりの、しかも攻撃魔法まで向けられたこの王女を助ける義理はない。というか、シェリアとトムさんを安全に逃がすことが最優先に決まってる。

  

 でも、蹂躙されている彼女を見てしまった――。

  

 思い出してしまった――。

 

 戦乱によって力なき者たちが、強者に蹂躙されていく光景を――。


 戦火によって焼け出され、今日を生きる術すらも失った人々の姿を――。


 おれはその光景を無くすために、兵士となり、戦場を駆け回り、多くの命を奪ってきたのだ。

 だから、彼女の涙を見てしまったとき思わず動いてしまった。

 

「おい、大丈夫か?」


 彼女に声をかけると、うっすらと目を開きおれを見た。そして微かに口を動かす。


 ――逃げて、と。


 それに答えず、おれは今度はシェリアたちのほうの様子を伺う。

 ビージャスを除けば最後の一人となった男を、トムさんたちに任せてきたのだ。

 力量を見るにトムさんとその男は互角。そこにシェリアが援護に加われば、問題なく勝つことができるだろう。

 

 あとはこっちだ。


「今の魔法、《呪紋閃》と言ったか? 『最も新しき遺失魔法』――小僧、どうしてお前が使える? 誰にその魔法を教わった!?」


 火精霊神系攻撃魔法《呪紋閃》


 精霊神と呼ばれるこの世界を統べる神々の一柱――その中でも最高神の一角である火の精霊神フィーリアの力を借りた魔法。

 白光するまでの超高温の光弾は、鋼鉄の鎧をまるで紙のように貫通し、よほど高位の防御魔法でもなければ容易く貫通してしまう。

 純粋に魔法の破壊力の規模で言えば、戦術級の水精霊系攻撃魔法である《水竜弾》に譲ってしまうとはいえ、殺傷能力の高さはけして引けを取らない。

 そして、この魔法を編み出したのは前世でのおれであり、誰にも呪紋を教えていないので、おそらくはおれにしか使えない魔法だったはずだ。


 だからこその『最も新しき遺失魔法』か。なるほどねぇ……。


「お前の師匠は何者だ? あの冒険者崩れの男じゃねぇな……どう考えても、お前の気配のほうがあいつよりも格上だからな」


 笑みを消し、鋭い目をおれに向ける。


「奴に弟子がいたとは聞かないし、その年じゃ奴とは直接の接点はねぇだろうしな」


「おれの師匠はトムさんで間違いないぞ? (ただし、弓矢だけどね!)」


「まあ良い。戦乱が終わって、正直退屈していたところだ」


 再び、クスクスと笑いながら大剣を構え――


 ぞわっ!


 おれの全身の毛が逆立つような気がした。

 ビージャスがおれに殺気を叩きつけてきたのだ。


「その年では、戦場を経験したことはあるまい。なのに、おれの殺気を受けて尚も平静でいられる……おもしれぇ!」


「平気じゃない。ただの強がりだ」


 事実、おれは焦りを覚えていた。

 対人戦闘の長いブランク。

 先ほど斬った男たちは不意をついた事でなんとかなったが、二つ名持ちのレベルの男となると――それに、奪った安物の片手剣は三人斬った事ですでに刃こぼれがひどい。

 ビージャスの大剣による斬撃をまともに受ければ、受けた剣ごと真っ二つは確実。

 

「行くぞ、小僧!」


 一気にビージャスが突っ込んでくる。


 ――速い!


 身の丈もある大剣を軽々と振り回し、凄まじい斬撃がオレを襲う。

 剣で受けるなんてできない。受けた途端に叩きおられ、その剣の軌道上にあるおれの胴体を二つに斬ってしまうだろう。

 とっさに後ろに飛び下がりかわす――が!


「ぉおおおおおお!!」


 雄叫びとともに、ビージャスがさらに踏み込み鋭い突きを放ってきた。


「くっ!」


 咄嗟に身をひねりながら左側に身を投げ出すようにして避ける。転がるようにして受身を取り、立ち上がると――


「おぉらぁああああ!」


 おれの動きに追随してきていたビージャスが一気に大剣を振り抜いた!


「――――っ!」


 あ、あぶねぇ……。


 ビージャスの背後の方向、大きく離れた間合いを取りながらおれは荒い息を吐いていた。


「あの一瞬でそこまで移動するか……やはり、あの男の魔法だな。『最も新しき遺失魔法』を、《呪紋閃》以外も使えるのか」


 おれの切り札の一つ――《神移》


 肉体強化系魔法の奥義。

 簡潔に言えば《加速》の上位魔法である。

 数秒間だけであるが、術者を数十倍にも加速してくれる魔法だが、肉体――特に脚部への負荷が大きく、この未成熟な身体では連続使用はできない。

 一日でも四回程度が限界だ。それ以上使うと、まず間違いなく脚を壊してしまう。

 この魔法もおれが編み出し、誰にも教えていない魔法の一つである。

 本来であれば、《神移》で相手の背後に一瞬で廻り込み攻撃するのだが、いまは避けるので精一杯でとても攻撃する余裕がなかった。

 ちなみに加速中に攻撃すると、その衝撃がおれにも返ってくるので術を切って攻撃しなければならない。

 なんにしろ、前世のおれが最強と言われた理由の一つの魔法である。


「どうやら連発はできそうにないな」


 ゆっくりと振り返りおれを見るビージャス。

 荒い息を吐くおれ――


「ぉおおおおおお!!」


 再び、ビージャスが突っ込んでくる。

 振りかぶってからの斬撃を掻い潜るようにしてかわす。そして一気に懐へ飛び込もうとしたが、さっきの《神移》の反動でおれの足の反応が悪い。

 ビージャスが振り切った勢いそのまま身体を回し、おれの胴体を狙った横殴りの斬撃を放つ。

 後ろに飛び退きつつ、剣でかろうじて大剣の軌道を逸らす。

 さらに後方へと飛び下がるが――


「はぁはっはっはっは!!!」


 ビージャスは大声で笑いながら、追随してくる。

 どんな体力してんだよ!

 思わず叫びたくなってくる。


 ビージャスが突きを放つ! おれはそれを剣で逸らす。

 

 ビージャスが斬撃を放つ! おれはそれを後方へと飛ぶようにして避ける。


 間合いを取ろうとするおれに追随するかのように追って斬撃を放つビージャス。

 すでにおれとビージャスの戦闘が始まって、数分の時が経っていた。


 ――その時。


「――レン坊!」「レンちゃん!」


 よっしゃ!


 シェリアとトムさんの声。


「ぉおおおお!!」


 声が聞こえたと同時に放たれたビージャスの斬撃を、これまで以上に大きく後方へと飛んで下がる。


「なに!?」


 王女が倒れていた場所に、リッド村の馬車が止められていた。

 シェリアが王女を抱え荷馬車に乗り込み、トムさんが手綱を握っている。


 最後まで生き残っていた男を仕留めたトムさんとシェリアが王女を救出する隙を作るため、おれはビージャスを王女たちから離すために回避に専念し、後方へ――彼らから離れるように下がっていたのだ。


 そして狙い通り、王女は救出され馬車へと乗せられた。

 ならあとは逃げるのみ!


「《爆裂火球》!」


 連続して爆発する火球をビージャスに叩き込む。


「ぐぉ!」


 大剣を振り回し、火球を打ち落とすビージャス。

その隙を突いておれは一気に奴の横を駆け抜けると、馬車の荷台に飛び込む。


「出して! トムさん!」


「おう!」


 荷馬車が加速し、一気にビージャスの横を駆け抜ける。

 跳ね飛ばさんとばかりに加速してくる荷馬車を見て、さすがのビージャスも罵声を上げながら横に飛び退いた。

 

 しかし――いや、ほんとにこの十七年間に奴に何があったんだ? ほんとに化物じゃねぇか……。


 小さくなっていく奴の姿――おれは右手に持った片手剣に目を向ける。

 何度も奴の大剣をいなしたその安物の剣は、ひどい刃こぼれでもはや刃物として用を為さない代物に成り果てていた。


 迫力のある戦闘シーンってなかなか書けないですねぇ。イメージが伝わってくれればいいのですが。

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