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覚醒

 今回は残酷描写が含まれています。

 苦手な方は読まれないことをおすすめします。

 ようやく《神威》の影響から回復して、《加速》を使いながら走る。

 ビージャスの言葉が気になる。


 急げ、急げ、急げ!


 リッド村が見えてくるまで、あともう少しというところで――


 ドンッ!


 音をともなうような爆風に、おれは思わず足を止めた。

 

 いったい、何が?


 リッド村の方角から感じられる、とてつもない魔力。

 

 なんで? ビージャスは仲間はもういないと言っていたのに。

 なのに村の方角から感じ取れるこの尋常じゃない魔力――



 頭の中で蘇るサリアの言葉。




『あの王女の身体には得体の知れない高位の存在が眠っている』




 嫌な予感が膨れ上がる。


――シェリアやルーナたちは? 母さんや村のみんなは?


「くっそぉ!」


 《加速》は体力を消費するけど、いまはそんなことに構っていられない。

 おれは焦燥感に突き動かされるように、とにかく村へと急いだ。




 





 かつては見慣れた光景。

 だけど、いままでとは決定的に違うのは、おれが認めたくないからか。


 王都に向かって出かけたのは数日前のことだ。

 その時にはけして大きな村ではなかったが、何件もの木造の家が立ち並び、煙突からは炊事の湯気が立ちのぼり、畑では顔見知りの村の男たちが野菜の手入れを、広場では子供たちが遊ぶ。

 どこにでもある田舎の村の風景。


 だけどいまは、炊事の湯気の代わりに立ちのぼるのは、いまだ燻り続けるかつては家だった残骸からの煙。

 漂う匂いは美味そうなシチューの匂いではなく、どこか鉄錆の匂いにも似た血臭と、腐敗したような匂い。


 敗残兵や離散した兵士たちによる略奪。戦時は傭兵として、戦後は山賊へ職業をかえた傭兵崩れたちによる襲撃によって荒らされた村。


 戦時中ではそれこそよく見た光景だ。

 

 村の入口で足を止め呆然と立ち尽くす。

 

 心臓の鼓動が早鐘を打つようにうるさい。

 思わず、嘔吐しそうになり、そこでおれは我に返る。

 

「母さん、それにシェリアたちは……」


 さっきから感じるこの尋常ではない魔力、それから初夏だというのに、冷たい風が吹き付けてくる。

 どうやら今いる場所から逆の方――おれや、シェリアの家がある方角からのようだ。


 走り出したつもりだったけど、傍から見ればきっとよたよたとしてるだろうな。

 それでも小さな村だ。

 ほどなくしてそこへとたどり着く。

 そこでおれが見たものは――倒壊し、最早原型すら留めていない炭化したトムさんの家。

そして、家の前で座り込んでいるシェリアと、かつて家の柱だった木材にもたれかかるようにぐったりしているトムさん。

 その黒焦げに炭化してしまった柱の表面には、びっしりと霜が貼り付き、初夏の暑いはずの日差しを受けて冷え冷えと反射している。


 


 そして――




「あ……ああ……あ……」


「……ルーナ」


 その小さな身体から、放出され続ける膨大な魔力と冷たい冷気の中心点――ルーナディカが呆然と立ち尽くしていた。








「シェリア、シェリア! 何があったんだ!?」


「……レ、レンちゃ……ん?」


 呆然と、ただルーナを見つめて座り込んでいるシェリアの頬を、悪いと思いつつ引っぱたく。


「何があったんだ?」


「わたしにもわからないの……村が見えて……お父さんが飛び出して……わたしも後を追って走って……」


 村に着きこの惨状を見たトムさん。

 荷馬車を飛び出してトムさんの奥さんであるロゼさんが待っているであろう、自宅へと

我を忘れて走り出したらしい。

 もちろん、シェリアもトムさんの後を慌てて追って行った。

 ルーナディカのことが一時的に頭の中からすっぽ抜けたとしても、この状況じゃ仕方がない。


 そして、二人の前に突きつけられた現実――


 崩れ落ちて炭化した家へよろめくように歩み寄り、崩れ落ちるトムさん。

 シェリアはただ、呆然と涙を溢れさせながらその場に立ち尽くしていたらしい。

 

 だから――


「わたしのせいだ……」


 ルーナディカの小さな声。

 その声に振り向くと、さらに離れたところで頼りない足取りで歩いてくるルーナディカがいたらしい。




「ルーナちゃんのせいじゃない……わかってるのに、でも、わたし、その時何も言えなくて……」

 

 そしてルーナディカから爆風が吹き付け、シェリアはその衝撃で倒れ、トムさんは柱に叩きつけられて気を失ってしまったらしい。


 ルーナディカの強い魔力の放出は収まらない。


 彼女を中心にして吹き付けてくる冷気と、貼り付き初めている霜はサリアが言っていた、ルーナディカの中にいる高位の存在というものの力か。


『去れ……人よ。妾を傷つけるもの。妾の平穏を乱すもの。疾く、去るが良い!』


 その言葉と共に、再びゴッ! という強烈な衝撃をともなった猛烈な爆風。

 咄嗟にシェリアを抱え込み、地面を転がる。


『妾は人を傷つけるのは好まぬ』


「言ってることと、やってることが違うじゃねぇか!」


『されどそなたもまた、もう一人の妾を苦しめている。立ち去らぬならば、妾の前から消え失せよ!』


 ルーナディカが右腕をスッとかざす。

 指先で描いたわけでもないのに、空中に青白く輝く四つの《呪紋》。

 その先から出てきた水の固まり。


 あれは、ルーナディカと出会った時に、彼女が使ってみせた《水竜弾》。

 いや、少し違うか。

 あれを四発も放たれると村が消し飛ぶ。

 威力を凝縮させたものか?

 おれの《呪紋閃》と似たようなもんだな。


「――なるほど。人為的な聖皇女様ね」


 今度は成功していたってわけだ。

 まあ、もっとも開けてみないとわからないってのは問題だな。

 しかし、この位置であの魔法を放たれると、シェリアまで巻き込んでしまう。


 ゆっくりとシェリアとトムさんから離れるように回り込みながら、ルーナディカの様子を伺う。


 《神移》で一気に間合いを詰めて、ルーナディカの意識を刈り取るか。


 さすがにいくら、水の精霊神(・・・・・)『セファリア』といえど、身体はルーナディカのもの。

  肉体的には多少鍛えているみたいだけど、十二歳の子供だし、一発当てられれば気絶はさせられるはずなんだけど。

 

 おれの中では、彼女は水の精霊神と確定させていた。


 魔族のような危険な存在であれば、すでにおれたちを吹き飛ばしているだろうし、放出している魔力の強さは、いまの今上聖下に匹敵している。

 ただの高位精霊ではありえない。


 さて、ここからどうするか。


 おれは『セファリア=ルーナディカ』の描き出した《呪紋》から、徐々に水球が膨れ上がるのを見つめ、《呪紋》を描き始めた。


 かなり難産でした。

 会議後だとうまく頭が回りません。数字がぐるぐるしてます。

 ここからが一章的な位置づけのクライマックス。うまく描写ができるかどうか、外せなかったとは言え自分で書いていて辛いシーンでした。

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