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レン VS ビージャス③

 途中で視点が切り替わります。

「が、がはっ……」

 

 背から胸へと突き通した剣を一気に引き抜く。

 胸と背から激しく鮮血を迸らせ、崩れるビージャス。

 その返り血を浴びて、おれは血にまみれながらも冷たい目でビージャスを見る。


「フ、フフフ……く、【真紅の悪夢】か……」


 血を吐きながらも、先程までの表情とは打って変わって笑みを浮かべるビージャス。


 前世でのおれは囮と示威行為も兼ねて、戦場でも目立つ白い服を身に着けていた。

そして、何人もの返り血を浴びて白い服が鮮血に染まっていくその姿――故に、つけられた二つ名が【真紅の悪夢】。


 要するにおれもビージャスのことは言えない、狂気に満ちた大量殺戮者の一人であったということだ。


「戦場の悪夢が具現化したという貴様には勝てなかったが……」


 カヒュー、カヒューという雑音の混ざった息をしつつ、声を搾り出すビージャス。


「い、いいことを教えて……やろう……おれが、この数日感……何もしなかったと……思ってるのか?」


「どういことだ?」


「リッド村」


「て、てめぇ!」


「いい村だったなぁ……ああいう村に住めたら、おれも違う人生……送ってたかもなぁ!」


 カヒュカヒュと咳き込みながらも笑い声を上げるビージャス。

 くそ!

 村に何しやがった。

 母さんは、ロゼさんは! 村のみんなは!!


「そうだ! その面が見たかったんだ! ククク……戦場の悪夢のその絶望した面」


 くそったれ! 

 こいつに関わってる場合じゃない。


「……あばよ、昔馴染みの顔に会えて嬉しかったぜ……」


 最後まで笑いながら、ビージャスは死んでいった。

 ほんとにやってくれた!


 すぐにでも移動したいが、《神移》の影響でまだ足が動かない。

 とてつもない焦燥感に突き動かされ、それでもおれは村を目指して歩き出した。





 一体何者なのか、あの少年。


 九天(くてん)の一人であるこのわたしと対等に打ち合い、そして結局わたしが引くことになってしまった。

 村人だと言っていたが、ただの村人にこのわたしが制圧しきれないなど、ありえるはずがない。

 現に、野営している彼らを見張っている今も、わたしは彼らの姿が焚き火の炎でようやく人影が認識できるかどうかという距離を保っていた。


 あのレンという少年の警戒範囲が広すぎるのだ。


 これだけ離れた位置であっても、視られていることを察知しているのか、時折こちらの方へと視線を投げかけているのがわかる。


 正直、九天の中でもこれほどの警戒範囲を誇るものは数人しか思い当たらない。


 わたしなら、この距離であれば殺気でもあればともかく、絶対に気がつかないと断言できる。情けないけど。

 

 ルーナディカ王女を殺すのがわたしの任務だが、あれでは迂闊に近づけない。

 あのレンに負けるとは思ってないが、こちらもただでは済まない気がする。


 それに――


 あのレンという少年、わたしの母の名を知っていた。そして、わたしの剣筋を知っていたようにも感じた。

 母を知っているとは、見た目の年齢からは考えられない。 

 だが、わたしも彼の剣筋に確かに母と似たようなものを感じた。

 もしかしたら、母の訓練を受けた誰かが彼にその剣を教えたのかもしれない。


「とにかく、彼が一体何者なのか調べてみる必要がありますね」


 それにしても、美味しそうなもの食べてるなぁ。


 監視している都合上、火は使えない。

 わたしは彼らが食べているスープを羨ましく思いながら、硬い干し肉にかじりついた。

















 街道の真ん中に大剣を構えた男が立ちはだかっている。


 あれがあのレンが言っていたビージャスという傭兵だろう。

 確か、二つ名は【豪剣】――なかなかの古強者だ。

 

 わたしは一気に加速し、彼らの一行と間を詰める。

 幸い、レンも目の前にいるビージャスという男に意識を向けていて、あの信じられないほどの警戒範囲が狭まっている。

 今なら気配を消しつつ近づくことができそうだった。


 慎重に迂回をしたりしつつ、どうにか近くの茂みにまで近づくことができた。

  

 どうやらルーナディカ王女の乗った荷馬車は、この先にある村へと逃げたらしい。


 レンとビージャスの二人だけが対峙していた。

 ビージャスの表情はさっきまでのニヤケた表情から、真剣な顔つきになっており、さらに大きく距離を取っていた。


 レンから放たれている強烈な殺気のせいだ。


 わたしと戦ったときは、どういうわけか途中から戦意を喪失させていたのに。


「面白いものを見せてやるよ、ビージャス」


 聞き取れなかったが、あれは《幻装》の呪紋か――っな!?


「な、あ、おまえは……」


 ビージャスの顔が驚愕で引き攣る。

 わたしも思わず、身を乗り出し声を上げるところだった。


「馬鹿な……馬鹿な……なぜ、なぜ!? なぜ貴様がここにいる!」


 わたしも傍から見れば、ポカーンっと口を開けた間抜け面を晒していたことに気がついただろう。


「久しぶりだな、【豪剣】ビージャス。もっとも短い付き合いになるとは思うけどな」


 声はレンのものだったが、彼の姿形はわたしにとって絵姿でしか見たことのないものだった。


 絵姿にも描かれていた、真っ白い軍衣を着た青年。

 

 物心つく前に死んでしまった父――『アークライト・ウィンズベル』。


 「【真紅の悪夢】、【聖皇女の剣】……いや、奴は死んだんだ。あっけなく……無駄だ! 幻でおれを騙そうとしてもそうはいかんぞ!」


 ビージャスが怯えたように大剣を振り回す。その声は先程までの余裕を失い、わずかに震えていた。


「幻なのは正解だけど、本人だよ」


 わたしは食い入るように見つめる。

 レン――いや、アークライトがゆっくりと近づいていく。


「魂だけ転生したのさ。風のリーシェ様は輪廻転生も司ると神殿で聞いてたけど、転生ってのは本当にあるんだな」


 転生!?


「く、本物だとしてもおれは貴様に敗れたあとも十七年も鍛錬した! 貴様を超える!」


「強くなったのは認めるよ。だけど、決着をつけようか、ビージャス。今のお前でもおれには勝てない」


「ぉおおおおおおおおお!!!!」


 大剣を振りかざし、ビージャスという男が一気に間合いを詰める。


 その動き、天帝騎士団の精鋭たちにも伍する動き。

 下手に受ければ、剣を叩き折り真っ二つに断ち切ってしまうだろう。


 【豪剣】の名に相応しい斬撃。


 しかし、次の瞬間――


 ドスっ!


 離れた距離にいるわたしでも捉えきれない速度で、一瞬の内に背後に回り込んだアークライトの持つ剣が、ビージャスの背後から胸板を貫いていた。


 崩れ落ちるようにしてビージャスが地面に倒れこむ。

 それを冷たい目をしたアークライトが見つめている。


 だが、わたしは彼の姿に視線を釘付けにしたままだった。


 『魂だけ転生したのさ』


 彼のこの言葉がぐるぐると頭の中を回っている。


 その間にもビージャスは彼に何かを語りかけたあと、最後に大声で笑い声を上げ力尽きたようだ。

 アークライトも《幻装》の魔法が解けたのか、レンの姿に戻っている。


 でも、わたしにはそんなことはどうでもよかった。

 レンが足を引きずって村の方へと歩き出す。

 わたしは身を隠しながら、その後ろ姿をじっと見つめる。


 あの少年が、わたしの父の転生――信じられない! そんなことありえるの!?


 でも、そう考えれば全ての説明がつく。



 母を知っていたこと。



 剣筋が母のものに似ていたこと。



 そして、ビージャスという傭兵を圧倒した、ただの村人として、あの年齢としては説明ができない程の異様な実力。



ビージャスの実力は間違いなく超一流。

天帝騎士団でも、高位の騎士でもなければ恐らくは一対一で戦えないだろう。


最後に使ったあの呪紋、あれはおそらく《神移》。


母から聞いた、父が得意としていた今ではもう使い手のいない『最も新しき遺失魔法』。


あの魔法で父は多くの強敵を斬ったと聞いた。

先代の九天も三人屠ったとも聞いている。


もしも、レンが本当に父の転生だったとしたら……。


わたしは、レンの背が見えなくなるまでその場でじっと考え続けた。



 というわけで、ようやくビージャスとの決着は着きました。

 思ったより呆気なく倒してしまったかもしれません。


 とはいえ、本来の主人公の実力とビージャスの実力の差はこれほど違っていました。

 ビージャス、サーナリアの戦いで少しづつ勘を取り戻しつつあると思ってください。

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