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王都で⑤

 説明回になってるかな。

 さて、困った。


 サリア(サーナリアの愛称だよ、幼い頃のね) は前世とはいえ、おれの娘。

 トムさんを斬ったとはいえ、斬るわけにはいかねぇ!


 というか、傷もつけたくないよ!


「どうしましたか? さっきまでの威勢がなくなったように感じますが?」


 舞うように振るうその剣は、シレーネが振るっていたその剣技そのままだ。


 あいつは九天(くてん)にこそなれなかったが、匹敵するだけの実力は持っていた。  戦場で無表情に《八葉》を使って、無双していたのをよく覚えている。

 

 美人だったけど、最初の印象はおっかなかったものなぁ。


 流麗なその剣をどうにか避け、時には剣で受ける。

 おれがいま十四歳だから、サリアはいま十六歳になるのか。

 二歳の時におれ死んでしまったし、きっと親父のことは覚えていないんだろうけど。

 その卓越した剣さばき、シレーネに習ったもの。


 

 剣で受けながらも、嬉しかった。



 毒で死んでしまったとき、心残りの一つだった最愛の娘サリア。



 その彼女が敵対した状態とはいえ、おれの前で剣を振るっている。



 ここまで力を身につけるには、途方もない訓練を重ねてきたに違いない。



 家名を名乗るのを嫌がる理由もわかる気がする。

 どうしても、最強の英雄と呼ばれた前世のおれ、アークライト・ウィンズベルと比較されてしまうだろうし。


 あの、英雄の娘として――


 それでも、サリアは努力を重ねついには父と同じ称号である九天(くてん)の地位にまで上り詰めた。これは、親の七光りなんかで得られる称号ではない。


「……? どうして泣いているのですか?」


 鍔迫り合いをしていたら、サリアの顔が訝しげなものとなり、大きく飛び退った。


 いつの間にか、おれの両目からは涙が溢れていた。


「おかしな人です。村人でありながら、その若さでこの九天(くてん)の一人たるわたしと渡り合える剣技。しかも、その剣筋はどこかわたしに似ている」


「何でもないさ」


 おれは袖で涙を拭った。

 みっともないけど、それでも嬉しかったんだ。

 あのちっこくて抱き上げると今にも壊れそうだったサリアが、こんなにも強く美しく成長していてくれて。

 


 でも――



「なあ、何であのお姫様を殺さなければならないんだ? そもそも、一軍を率いる九天(くてん)のあんたが、どうして軍を率いてないんだ?」


「皇国の将たるわたしが軍を率いてこの国に入ったら、属国であるとは言えこの国ばかりか他国をも刺激してしまいます」


 皇国の人間として最高位の地位となる九天(くてん)

 

 本来は、皇国とその属国である十二国において、ありとあらゆる分野の中から、何かしらの分野で多大な功績を挙げ、その功績を聖皇女が認めたものに与えられる地位である。

 この地位を与えられたものは、皇国の最高意思決定機関である二十一賢人会議への参加が許され、皇国の運営に関わることができる。

 その二十一人の席は皇国サイドからは九天が、残りの十二席は属国の王たちが名を連ねるものだ。

 

 おれが死ぬ直前の九天は全員が軍人だった。

 まあ、内戦直後で聖皇女がまだ即位したばかりであり、自分の基盤を固めるためには、自らを支えくれていた仲間たちを据えるのは当然だろう。


 まあ、すぐにおれの席が空いたけど。


 その九天(くてん)に名を連ねる程ということは、単独で砦の一つは軽く落としてしまうほどの力を持っているということだ。

 皇国勢力内の十二国はともかく、皇国と対立関係にある西方諸国連合や南部諸国同盟なんかは、九天が動いただけで、軍を動かしかねない。


「なあ、なんでだ? サーナリア。九天が出張ってまで、あんなまだ幼い女の子をどうして殺す必要があるんだ?」


 九天が出張るということは、それは皇国の意思が決定したこと。


「……わたしだって、こんなことはしたくない」


 おれに向けていた剣を下げ、サリアが小さく呟く。


「あんなまだ、小さな王女を殺すために剣の腕を磨いてきたわけじゃない。九天にまでなったわけじゃない」


 ほとんど泣きそうな声になっている。

 

「でも、彼女は危険なんです。殺さなければ、世界が滅びるかもしれないのですよ!」


 世界が滅びる!?


 なんか、急に話がでかくなった……いや、九天が出てきている以上、結構でかい事態なんだろうけど。


 うーん、シリアスしているサリアには悪いけど、おれは一気に引いちゃったな。


「ええっと、いくらなんでも世界が滅びるって? そこ笑うとこかな?」


「まあ、それが普通でしょうね。わたしにも彼女を見ていてそうは思えませんし」


 なんとも言えない顔をしているおれを見て、サリアは自嘲気味の笑いを浮かべた。


「皇国の建国由来を知っていますか?」


 

「――千年前に倒した魔王が再び復活した際に、その撒き散らす滅びを止めるため、最高の戦力を集中できるよう皇国が作られた――ってやつか?」


 

 千年前――突如降臨した魔王は、魔族や魔物を創造し、人類を滅ぼさんと攻め込んだ。

 その戦争で多くの国々が滅び、当時栄えていた文明のほとんどが滅びたという。

 四大の精霊神たちは、自らの中から一柱が人へと転生し、神々と高位精霊たち、さらには竜族や妖精族、幻獣たちの力を束ねて魔王を封印することに成功した。

 その後、転生した精霊神はいつか来る魔王復活の日に備え、皇国を建国し、そこに最高の力を集結することにしたという。


 これがアロンシグマ神聖皇国の歴史となる。


 このあたりは、子供の頃に近くの教会にでも行けば教わるので、子供でも知っていることだ。


「――この時、降臨した魔王ってのは、その当時に隆盛を誇っていたカシナート帝国の皇帝が不死を望み、儀式魔法を用いて自らの肉体に高位の存在を降臨させる禁術を施した。しかし、その高位の存在こそが魔王であったというのが真相だったよな」

 

 そう、このロクでもない皇帝の野望が魔王爆誕の真相。


「やはり、ご存知でしたか。教会や国の上層部、それに研究者にしか知られていないことなのですが」


 《呪紋》という技術を確立させ、大陸北部で隆盛を誇ったかつて覇者カシナート帝国。

 魔王と魔族により、いまでは雪と氷に閉ざされた不毛の大地となっている。


 だけど、サリアがいまこの話をしてきたということは……。


「そうか、あのお姫様に」


「今から二十年前、この国はあの禁術を施しました。そして十二年前にあの王女が生まれてしまいました。あの王女の身体には得体の知れない高位の存在が眠っている。ゆえに人類最高戦力の一人としてわたしがここにきました」


「何でまたそんなことを?」


「推測になりますが、人為的に聖皇女の降臨を創り出そうとしたのではないかと」


 二十年前か、当時はまだ聖皇女が不在の時代だ。


「権力を握りたいがために、まったく愚かしいことです。ですが、その試みは真の聖皇女が存在してしまったことで、意味を為さないものとなってしまった。それよりも、なんの存在が彼女の中に降臨したのかわからない状態を作ってしまった」


サリアがスッと目を瞑り、一回深呼吸をする。


「身勝手な欲望によって、あの子は命を失わねばならない」


 そして再び双眸開く。

 その目に宿る光は強い意思の光――


「なあ、あのお姫様はまだ何もしちゃいない。それでも殺す必要があるのか?」


「眠っている存在が起きてからでは遅いのです」


「それにしたってビージャスみたいな傭兵を雇って、あんな酷い目に合わせる必要はないんじゃないか?」


「ビージャス?」


 その名前に訝しそうな表情を浮かべるサリア。


「どうやら、わたし以外にも動いている者たちがいるようですね」


 ビージャスはサリアというか、皇国の差金ではないということか。


「どうやら、王女はわたしの結界範囲内から逃げおおせたようです。あなたの目論見通りに。わたしから事情を聞き出しつつ、時間を稼いでいたのでしょう?」


 気づいていたのか。 


 再び深く溜息をつくと、おれに叩きつける気を緩めてサリアは剣を納める。


「これ以上、戦意のないあなたと戦っていても意味はありません。九天のわたしに手を抜いていること、そして先ほどの涙の理由など、聞きたいことは山ほどありますが、ここは引きましょう」


 そりゃあ、可愛い娘に本気を出せるわけがない。

 本気出したところで、いまの錆び付いてしまった腕では勝てるかどうかわかんないけど。


「ですが、王女を殺すことはわたしの使命。邪魔をするなら、次は……」


 殺すってか。


 去っていくサリアの後ろ姿を見つめながら、おれはただ立ち尽くす。


 ルーナディカを見捨てるつもりはない。だが、サリアとも戦いたくない。


 おれはいったいどうすればいい!?



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