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はじめてのれとると。

「起きろー。

 ウルバル起きろー!」


うむ……。

もう朝なのか。

麓の怒鳴り声が頭を揺さぶる。

目の前にはメガネの人が淡々と喋っているテレビが赤々と点いている。

人間の道具に触れて一日目。

気が付けば眠ってしまったらしい。


「んう……」


座布団にシミを作っていた涎を拭い、精いっぱい伸びをする。


「んー……!」


ぐっすり寝たせいであくびが止まらない。

寝すぎると逆に眠くなるってやつだ。

二回ほどあくびを出して涙目の視界に麓の顔が入ってきた。


「起きたか。

 いい子だ。

 ご飯にするぞ」


そういえば、俺結構長い間何も食べてなかった。

ご飯、という単語を聞いた瞬間おなかがきゅっと鳴る。


「ごはん、何?」


溢れ出さんばかりの涎をこぼさないようにしながら、尋ねてみた。


「ん、肉焼いた。

 肉と白いご飯とみそ汁」


しろいごはん?

みそしる?

一体何のことなんじゃらほい。


「あー……。

 そこから説明しにゃならんのか。

 やれやれ。

 いいか、ウルバル。

 よく聞け」


はい。

寝起きの頭に真面目な話は厳しいけどな。

麓は俺の前の座布団に座ると俺の頭を撫でてきた。

そういえば気が付けば狼の姿に戻っている。

ん、頭撫でられるの好きなんだ実は。


「今から私がお前に作って出すご飯は基本、人間の食べ物だ」


「!?」


思わず口を開きかけた俺に麓は人差し指を立てた。

待て、という信号である。

開いた口を閉じて不満の表情を露にする。


「いいか、仔犬。 

 人間の物だからと言って、何事も先入観を持って入るのはよくない。

 まずは試してからするもんだ」


はあ。

まぁ、何を言おうとしてるのかは分かる。


「つまり、人間の飯はうまいと」


「ん。

 そういうこと」


なるほどね。

人間のごはんか。

食べてみてもいいかもなぁ。

敵対心<食欲。


「人間ってやつはすごいぞ。

 たとえばこれだ。

 見てみろ」


麓は棚まで行くとひとつ箱を持ってきた。

パッケージには『ことことカレー』と書いてある。

何ともおいしそうな写真に緑色の線が三本。

空腹には堪える写真だった。


「かれー?」


「うまいぞ、これは。

 本来は調理するもの。

だが、人間は調理しなくても魔法の箱に入れるだけで作ることが出来るんだ」


す、すごい。

そんなことが出来るのか。

麓はパッケージを破り捨てて中身を取り出した。

銀色の袋のようなものだ。


「?」


指で突いてみる。

ぷよぷよした中に固形物が混ざっている。

冷たくて、これなら鹿を仕留めたときにかぶりつく方がおいしいというものだ。

これが食べ物?

不満である。


「そう思うだろ。

 私もそうだったさ」


そういいながら麓は何か挟み込む道具を使い、銀色の部分を切り取ると中身を皿にぶちまける。

魔法の箱ねぇ。

胡散臭いったらありゃしない。

いくら人間が万能といえ、そんなことできるのか?


「これをだな。

 魔法の箱に入れるだろ?」


麓はカレーの入った皿を持って立ち上がると台所へと歩いて行った。

俺も狼の姿のまま四足で後をついてゆく。

白い、箱のようなものの前で麓は立ち止まると蓋をあけた。

テレビのような形をしている。

その中に皿を入れ何かしらのスイッチ?を、押す。

ぴ、ぴ、と小鳥がさえずるような音がすると箱が小さいうなり声を上げはじめた。


「これはだな。

 中に入れたものを温めるのだ」


珍しい笑顔で麓がそう言う。


「へぇ……」


温めてくれる機械か。

なんか複雑な気分だ。

どうやって温めるんだろう。

毛皮とかに包むのかな。

箱のうなり声が小さくなるとまた小鳥のような声が聞こえて箱は止まった。


「ほら、触ってみ」


中から皿を取り出して俺にずいっと突き付けてくる。

鼻を突くきつい香りが、不思議なことに空腹を刺激した。

おいしそう。

 前足をそっと伸ばして肉球の先で触ってみた。


「きゃん!」


あっつぅぅうう!!!!

アホか、麓アホなのか!?

ここまで熱くなってるのならあらかじめ言ってくれよ!


「ふふふ。

 ね、熱くなってるでしょ?」


笑う麓にふくれっ面で答える。


「あらかじめどれぐらい熱くなってるかぐらい言ってくれ。

 でないと分からないだろうが」


これは許されない冗談だぞ。

熱いし、熱いし。

手についた泥みたいなやつはドロドロしていて中々取れない。

必死で舐めてこそぎ落とす。


「ま、そんなわけで。

 これもごはんに加えて朝食にするぞ。

 座れ」


あ、このカレーとかいうやつおいしい。


      ※


ご飯……おいしかった。

満腹になったおなかをさすりながらぼーっと天井を見上げる。

久しぶりにこんなにたくさん食べた。

また襲ってきた眠気に身をゆだねようと顔を動かす。


「……お?」


俺はそのおかげで微妙な所に挟まった『ことことカレー』を見つけだすことが出来た。

きょろきょろと周りを見渡して状況を確認する。

今、食べ終わってぐっすりと麓は眠っている。

このカレーとかいうやつを単体で食べてみたいなぁ。

まぁ、別に食べても大丈夫だよな?


「……これを確か」


白い魔法の箱の中に入れる。

そして何かボタンを押すんだったよな。


「これか?」


あたため、ってやつでいいんだよな。

祈って、人間の姿になりパッケージを破った。

結構簡単に破れるようになってるんだ。

ふむふむ、勉強になる。

びりびりと、全部破って中身を取り出す。


「冷たいよな?」


ぺたぺた触って確認しておく。

よし、冷たい。

銀色の物を引っ張り出して魔法の箱の中へ放り込んだ。

あたためボタンを押して、機械が動き始める。


「~♪」


いい気分だ。

鼻歌を歌いたいぐらいである。

このカレーとかいうやつはおいしいな。

はじめ辛くて熱くて「はぁ!?」ってなったけど。

魔法の箱の扉は透明になっていて中が見える。


「おお」


思わず声を上げた。

さっきまでぺちゃんこだった銀色のやつが膨らんでいたのだ。

まるで生きているみたいだ。


「おお?」


しかもめっちゃくちゃ膨らんで行く。

まだまだ、膨らむ。

見ていて楽しい。

どれぐらいまで膨らむんだろう。

俺が疑問に思ったその時


「!?」


突然、袋が破裂した。

びっくりしすぎて涙目になる。

大きな音が箱の中で炸裂した。

茶色のカレーが箱の中で飛び散る。


「っぁ!?」


麓が座布団ごと飛び起きた。

顔が真っ赤だ。

同じようにびっくりしたらしい。


「何やってんだバカ!」


それと同時に首輪がぎゅっと締め付けてきた。

ぐるじい、しぬ。

すぐに緩むと麓は俺に布きれを渡してきて


「きちんと掃除するんだな」


と、睨んできた。

遊び心もほどほどに、ということを学びました。







               This story continues.


そうなんですよ。

みなさん、レトルトをあのまま電子レンジにいれたら爆発するんです。

大変危険なのでマネしないでください。

危ないです、本当に。

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