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はじめてのかがみ。

「まぁ、とりあえず座れ。

 お座り」


俺は犬か。

これでも狼としてのプライドぐらいあるわい。

食事が欲しいあまり人間との共存を選んだ奴らと一緒にするな。

……でもな。


「はいはい」


逆らうと怖いんだよこいつ。

この短時間で理解できたのはそれだけだ。

とりあえず適当な返事を返して麓の言うように座る。

地べたに寝そべるようにだ。


「で、だ。

 まず人間の体の使い方だ」


麓は俺が寝そべっているのをまじまじと見つめて言葉を繋げる。

何。


「いや……。

 まぁとりあえず。

 手わかるな?」


俺は改めて自分の体を見た。

狼の時とは違い手のひらにはぷにぷにのものがない。

肌色の手は五本の指があって、一本一本が独立して動くらしい。

爪はひっこめたり出来ないのか。

というか爪どれだ。

足も似たような感じだけどこっちは一本一本をきちんと動かすことは出来ないらしい。

もし謝ってひっかいたりしたらどうするつもりなんだろうな。

人間は分からん。


「ん、これ。

 自分の顔よく見とくように」


麓はそういって俺に水面のようなものを渡してきた。

そっと覗きこむ。


「きゃん!」


で、目をやられた。

光の量から電気とやらが中に入っていたらしい。

罠だ。

麓の罠だ。


「それは鏡っていうの。

 なんていえばいいんだろうなぁ。

 現を直接移すもの……。

 まぁ見れば分かる」


いや。

いやいやいや。

電気入ってたよだって。

見たら目をやられたんだよ?


「それはお前が電気からの反射を直接受け止めたからだ。

 バカだな」


バカにしたような笑いを浮かべやがって。

バカバカ言うな。

天狐のくせによくわからんことをいうお前が悪い。


「……やれやれ。

 口だけは達者だな」


そういうと麓は右手をぱちんと鳴らした。


「うがっ!」


首をぎゅっと締め付けはじめる感覚。

あわてて謝る。

逆らうと死ぬ、ってまさにこういうことなのだ。


「ごめんなさい」


「ん」


するりと首の締め付けが緩む。

くそ、これ邪魔だよ……。


「で、鏡だが。

 見てみろ」


「きゃん!」


「……いい加減にしろ」


首の締め付け来た。

ふざけてすいませんでした。


「いいか?

 鏡はすべてを映し出すものだ。

 だから電気の下なんかで見るなタワケ」


麓は俺から鏡を奪い取るとひとつため息をついた。

すいません、なんか。


「謝るぐらいなら初めからしなければいい」


俺から奪った鏡を麓は自分で見つめ髪や身だしなみを整えている。

ごろんと寝そべった体を起こしてふわふわの座布団の上に移動することにした。


「で……だ。

 とりあえず人間の体の使い方だが。

 うん、使って慣れろ」


俺の様子を見て出した結論らしい。

半ばあきらめ気味の表情の麓は手を振りに俺に追い打ちのため息をつきやがった。


「はぁ?」


使って慣れろだと?

ちょっと待ってくれよと。

狼→人間になったんですよ、俺。

まず生き物からして違うんですよ。

この意味がお分かりか。


「うん。

 私もはじめはそうだったんだ。

 使って慣れろ。

 結構すぐに慣れるもんだぞ?」


そんなもんなのかなぁ。

麓は手に持った鏡をくるくると回して見せつけてくる。

そのたびにきらきらと鏡が電気を跳ね返して俺の目をついてくるではないか。

正直つらい。

やめい。

慣れない手を動かして麓の腕を掴んだ。


「まぁ、とりあえずだ。

 鏡ぐらい使えるようになろうな。

 人間の姿でいる以上これは欠かせない。

 身嗜みとしてだ」


つまり狼でいうと、舐めて毛づくろいをしてる感じでいいのかな。

身嗜みとか気にしたこともないけどさ。


「大体あってるよ」


ふむ。

麓から鏡を受け取り、指の使い方に苦労しながら受け取る。


「くっ……難し……」


「ん」


たっぷり五分ほどかけて関節をぎしぎし言わせながら鏡の取っ手を掴みとることに成功した。

ほっと、一息ついて額の汗を拭う。


「覗いてみ」


麓が、鏡の表面を指差す。

また何か罠があるんじゃないかと警戒しながら覗き込んでみた。

まず第一の感想としては水面みたい。

第二の感想としてはなんか怖い。

目をパチパチさせると鏡の中の人間も目をパチパチと動かす。


「これが……俺の顔か」


水面で見たときも唖然としたが鏡で見ても唖然とするな。

狼から人間に変わったってことで多少なりこう――精神にくるわけで。

ハンサムかどうかだなんて分からないし……。


「そうだ。

 よく見て覚えておくように。

 あ、でもだな。

 かわいそうだから狼と人間の姿を使い分けられるようにはしてやるよ。

 頭の中で念じれば変われるはずだ」


面白い。

やってやろうじゃないか。


「あー結構軽くでいいよ。

 簡単に変えれるようにしといたし」


じゃあ軽く念じるだけにする。

狼。

狼だぞ俺。

あーおなか減ったな。

何か食べたいな。

出来れば血が滴るような肉。

それ以外は求めないぞ。


「ちゃんと祈れ」


頭をすぱんとハリセンで叩かれた。

ぐっ……心読むのやめろよーもう……。


「はい。

 祈り開始」


まだまだ文句を言いたかったのにぐっと我慢して素直な俺は頭の中で祈る。

――狼。

目を閉じて本気で思う。

俺の本来の姿。

頭からじんわりと人間になった時と同じ、ぬるま湯につかったような気分が返ってきた。

若干吐き気が起こり、次の瞬間消える。

ぬるま湯の間隔も消え俺はゆっくりと目を開いた。


「おーおめでと。

 よしよしいいこいいこ」


頭をわしゃわしゃと撫でられる。

むー……やめい。

つん、と狐の匂いがしてああこいつも動物だったなと思い出す。


「ほら、鏡。

 よくできました」


麓が手に持った鏡には一匹の狼が写っていた。

目の色が違う以外はいつもの俺だ。

あと首輪か。


「鏡の使い方分かった?」


また祈って、すぐに人間の姿に戻る。

鏡の使い方……ね。

自分を見る以外に……。


「こうやって使えることもあるんだなー」


電気を反射させて麓の顔面に光を向けた。

なるほど、こうすれば相手のところに行くんだな。


「っちょ、バカ!」


麓に光を当てて遊んでいたらむぎゅっと首輪が締め付けられる。

くそっ、少しぐらいいいじゃないかよ!


「ダメだ。

 死ね」


死ぬ。

洒落にならん。

意識が遠のきかけたときようやく締め付けが緩んでくれた。

精いっぱい空気を吸い込み酸素をむさぼる。


「はぁはぁ……」


「ったく。

 これからどんどん人間のものについて教えていくんだから。

 いちいち私を苛立たせるな。

 いいな」


はい。

――ほんと、すいませんでした。

小さな復讐したかっただけなんです……。






               This story continues.


ありがとうございます。

しばらくこんな感じでほのぼのと続けていきまする。

和んでいただけると嬉しいです。


ではではっ。

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[気になる点] 天狐さすがに横柄すぎない‥?
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