はじめてのおうち。
「ん」
「ここがお前の家か?
ふん、みずぼらしいなぁ」
っち、やかましいなぁ。
俺の家に麓はずかずかと上り込むと一つため息をついた。
汚いも何も俺、狼だしな。
この洞窟だって仲間とさんざん喧嘩して勝ち取ったものなんだぜ?
それをみずぼらしいって言うか、普通。
俺からしたら栄光のだな……
「ん、私の感覚での話だ。
みずぼらしいものはみずぼらしい」
案の定心読むし。
そんなにみずぼらしいって言わなくてもいいじゃないですか。
「でもまぁ、見晴らしはいいし。
ここに決めた」
麓はにはーっと笑うと目を閉じて指を組んだ。
天狐っていうのは不思議なことばかりするな。
呪術でもしてるんだろうか。
俺の推測を置きっぱなしにして何やらぶつぶつと麓は口の中で言葉をつぶやく。
「……なにしてんだ?」
なんか心配になった俺は話しかけてみた。
でも
「うるさい」
と一言冷たく返ってくるだけ。
はいはい。
もう慣れましたよ。
「やれやれ……」
俺に冷たい麓はしばらくぶつぶつ言っていたがしばらくすると洞窟付近が揺れ始めた。
「じ、地震!?」
あわてて上を見渡して前足で頭を押さえる。
木などが倒れてきてもガードできるようにだ。
土なんかが落ちてきても大丈夫なように。
しっかり、がっちりと。
「なにやってんの?」
「揺れてるから体隠してるの!」
見て分からんのか!
あほか!
「ん、いや。
もう大丈夫だよ、揺れてないし」
麓は俺を見下ろすとふん、と鼻で笑った。
我に返ると確かに揺れは止んでいた。
待ってほしい。
俺は母上から教わっていたことがある。
地震の後は土崩れなんかが起こることがあるとか。
あまり動かない方がいいだろう。
「いや、もう大丈夫だから。
この地震は私が家を作るために起こしちゃったもんだし」
くるくると自分の髪を指に絡ませ、麓はくいっと顎で俺の後ろを指した。
後ろ?
俺は麓が顎で指した先に視線を向けた。
「な、な……!?」
驚きのあまり声が出なくなった。
俺が今まで住んでいた洞窟はきれいに無くなり、代わりに神社みたいなのが立っていた。
ぴかぴかの柱には赤い漆が塗ってある。
鳥居にかかっている額縁には『麓家』と書いてある。
なんか律儀なことに狛犬までついていた。
というか、若干俺に似てる気がする。
地面に伏せたまま眺めた感想が以上である。
「いいでしょ?
モデルはお前だから」
よくない。
なんか、うれしくない。
というか見てくださいこれ。
みなさん、これほら。
こう、鼻の部分がなんか違うんです。
俺はもっと……こう……。
「いやぁ……」
口からため息交じりの言葉が漏れた。
「なんだ、うれしくないのか」
ええ。
うれしくないんです。
「ったく。
ウルバル、お前少し生意気だぞ」
そういうと麓は俺の鼻をぐにっと押してきた。
思わず噛みつきそうになる衝動をぐっと抑える。
「ふふん、仔犬が。
まぁそう邪険にせずに入ってみろ」
邪険になんかしてへんやんか。
でも……正直人間の作ったような神社に住むのもなぁ……。
なんか気が引けるというか。
「いいから入れ」
はい。
そんな怖い顔しなくてもいいじゃないかよ……。
怖い顔効果に押された俺は神社の中へと入りこんだ。
立てつけの悪い扉を蹴り開けて……。
「ごるぁ!」
頭をパシーンと叩かれた。
痛さに涙が目に浮かぶ。
「な、なにするんだよぉっ……」
「どこに戸を蹴り開けるあほがいるんだ」
冷静に麓は怒っていた。
謝る、謝るしかないだろ。
「ごめんなさい」
「別にいいけどさ……」
頭をさすりながら冷静に部屋の中を見渡す。
なんだ、真っ暗じゃねぇか。
癖で目を細め、闇夜を見通そうとした。
「電気つけるぞ」
電気?
麓が言った意味が理解出来ないうちに視界を矢のようなものが突き刺した。
思わず両手で目を覆って光をガードする。
太陽が目の前にいきなり現れたかのような明るさだ。
「ふふふ。
どうした仔犬」
麓がのた打ち回る俺をあざ笑っているのが聞こえる。
くそっ、覚えてろよ……。
「目が……目がぁ……」
俺は呻き続ける。
目が見えん。
「電気すら知らないのか。
やれやれ……。
ん、よしよし。
じゃあこれから少しずつ教えてやるよ。
人間の体の使い方と一緒にね」
This story continues.
ありがとうございました。
ウルバル、電気とかまったく知りませんでした。
今から人間界を知ってゆくのでしょう。
というか、神様の家ハイテクすぎないか。
なんで電気あったし。