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VSチート  作者: 柊柳
7/10

魔法試験:1



「おい、ハルト坊。勝手に中に入って大丈夫なのか?」


 リンドウさんが心配げに訊いて来る。

 それもそうか。

 リンドウさんに取ってみれば、ボクが勝手に学園に入って行ったように見えてしまう。

 そりゃあ、心配の一つや二つしてもおかしくはないだろう。

 だけど、ボクからして見れば、そんな心配は無用の産物。

 むしろ――。


『へー。お前さん、騎士学校に入学し損ねたのか。そいつはご愁傷様だな』


 ボクの目の前を飛んでいる火の玉の対処に困っていた。

 盛大に馬鹿笑いする火の玉は火の精霊イフリートと名乗っているが、本当かどうかは定かではない。

 だって、精霊って言ったんだぞ。しかも、火の精霊イフリートだってさ。

 元素の序列一位の精霊って大魔法使いでも謁見が許されないほどの大精霊であったはず。

 それが……。


「神話クラスの大精霊様がボクの目の前にいるなんて言っても、誰も信じてはくれないだろうな」


 気が付いたら、溜息がもれていた。


「……あら? 貴方たちは」


 試験場のプレートが飾られているドアを開こうとして、教師であろうと思われる女性と鉢合わせになる。


『おう、ココア嬢ちゃん。受験生二人を連れて来たぞ』

「イフリート様、探していたんですよ。勝手にどっかに行かれては困ります」

『おう、悪い悪い。ちょっと面白い奴らに出くわしてしまったものでな』


 全く悪気が感じない謝罪の言葉であった。

 この女性が甘いのか、それとも相手が大精霊と言う事もあってか、ココアと呼ばれた女性はあっさり「気を付けてくださいね」と一言咎めるだけで終わってしまった。


「イフリート様、この先生は?」

『あぁ、恐らくお前さん達の試験を担当する、ココア・ヴァリアブルだ。見た目は可愛い顔をしているが、怒らせると鬼の様に怖いから気をつけろよ』

「だ、誰が鬼のようですか! いくらイフリート様でも、言っていい事と悪い事……が?」


 目を見開くココアさん。

 さっきまで、抗議の声を上げていたのだが、何やら信じがたい目でボクとイフリート様を見ていた。

 ……あぁ、もしかして。


「もしかして、魔法使いでもイフリート様を見て会話出来る人って珍しいですか?」

『ん? ……そうだな。確かに、多くはないよな。お前さんと目の前のココアを含めて10人か?』

「3人です。適当な事を言わないでください。てか、この子は何なんです? イフリート様と普通に会話しているし、一体全体どこの何者なんですか!?」

『ちょっ、落ち着け。そんな事で取り乱すな』

「そんな事!? イフリート様を認識できる事がそんな事ですって! イフリート様、もう少しご自分の認識を正確に把握してくれませんと困ります」

『だから落ち着けって言っているだろ! お前さん達もなんか言え』


 言えと言われてもなぁ。


「えっと……。初めまして、エアハルト・ブリューゲルです。こっちが……」

「リンドウ・アレイスター。俺達、この学園の入学試験を受ける為に来たのだが」


 ボクは呆れながら、リンドウさんは訳も分からないと言いたげに首を傾げながら自己紹介する。

 そこで、ようやく混乱状態から回復したのか、それともこちらが頭を下げた反射神経から、ココア先生も頭を下げた。


「初めまして、ココア・ヴァリアブルです。本日は貴方たちの審査係になります」

『ちなみに、歳は24の未婚だ』


 そんな情報は聞いていないよ、イフリート様。

 案の定、余計な事を言われたココア先生は「イフリート様っ!」とイフリート様に向けて睨み付けるが、肝心のイフリート様は全く反省した様子は見られない。


『それより、ココア嬢ちゃん。このガキ、八矛の息子だぞ』

「……えっ!?」


 イフリート様の言葉に二度目の驚愕の声を上げるココア先生。慌ててショルダーバックから書類を取り出したかと思うと、ボクと書類を見比べて「ほんとだ」と納得の声を上げていた。


「えっと、俺達の試験はいつからになるんだ? まだ、試験内容も聞いていないのだが」


 一人だけ話しの輪に入れなかったリンドウが尋ねる。

 そうだった。もともと、ボク達は魔法学校の入学試験を受ける為に来たんだったよね。全く、受かる自信も受かりたい思いもなかったから、忘れていたよ。


「そ、そうでしたね。それじゃあ、リンドウ・アレイスターさんから試験場へ入ってください。最初は、軽い面接とちょっとした可能性を見させていただきますので」




☆★☆★☆★☆★☆




 リンドウさんから試験場へ入ってからどれぐらいの時が経ったであろう。軽く一時間は過ぎている様な気がする。


『あの老いぼれジジイ、何気なく才能ありそうだったからな。進む道さえ確り見定めれば近い未来化けるかもな』

「そんなに凄いんだ、リンドウさん。もしかして、余りの才能の持ち主だから、ボクの事など忘れてみんなで騒いでいるのかもしれないね」


 それならそれで、ボクにとっては好都合だ。

 もともと、魔法学校に通う意思はなかったから、このまま帰れるなら帰りたいほどだ。

 まだ、畑仕事だって終わっていないし、明日には馬の飼育の仕事が入っている。正直、早めに就寝したい。

 そう、今の気持ちをイフリート様に吐露したら、


『おいおい、魔法の才能を持っているのにもったいないな。俺様を認識出来る男なら、必ず大魔法使いとして大勢するぞ』

「そうかな? けど、それなら、魔法学校から推薦状が届いてもおかしくないんだけど」

『ん? お前、今日の受験は推薦ではなく、自主受験なのか?』

「一応、ね。殆ど、リンドウさんに連れられて強制的に受ける羽目になったけど」

『そいつはおかしな話だな。あの魔女がこいつの才能を見抜けられなかったはずないんだがな』

「……ま、そんな事はどうでもいいよ。それより、早く終わってくれないかなぁ」


 それから待つこと数分、ようやくリンドウさんが試験場から出てきた。

 満面な笑みを浮かべている様子から、もしかして合格したのだろうか。

 ボクはリンドウさんに「どうでした?」と聞くよりも早く、リンドウさんは親指を突き立てて「楽勝だったぜ」とガッツポーズを取る。


「楽勝? つまり、合格したんですか?」

「おう。実技が少々苦労したがな。これで俺も晴れて魔法使いの仲間入りだ」

「おめでとうございます、リンドウさん。正直、受かるとは思ってもみませんでした」

「ありがとうな。今度はハルト坊、お前さんの番だ。確りな」


 ボクの肩を二回ほど叩き、すれ違うリンドウさん。

 その顔は、ボクが受験を落とすとは微塵も考えていないほどの笑顔であった。

 後ろを振り向いて「期待しないでください」と言うつもりだったんだけど、リンドウさんの合格と笑顔に後押しされたのかな。先ほどまでやる気のなかったボクにまで、リンドウさんの前向き根性が伝染したみたいだ。


『さて、いよいよお前さんの番だな、小僧』

「だね。……てか、イフリート様はいつまでボクにまとわりついている訳?」

『固い事は気にするなよ。お前さんの勇士、とくと俺様に見せてくれよ、な』


 火の大精霊様に見守られての試験、か。

 少しは面白くなってきたじゃないか。

 どうせ、この試験に受かる自信などないんだ。

 なら、思う存分楽しまないと損だよね、父さん。

 決意を固め、目の前のドアを四度ノックする。


「どうぞ」

「失礼します! エアハルト・ブリューゲル、入ります」




☆★☆★☆★☆★☆




 視点:ココア・ヴァリアブル


「失礼します! エアハルト・ブリューゲル、入ります」


 はきはきした声で、試験会場に入室するエアハルト君。

 年相応の元気の良さに思わず和んでしまいそうになるけど、これは試験。

 試験管らしく、キリッとした緊張めいた顔にならないといけない。


「はい。エアハルト・ブリューゲル君、7歳? あれ? キミは魔法学校の推薦を貰っていないの?」


 魔法学校に入るには二通り存在する。

 一つは、エアハルト君みたいに、自ら志願して、少しでも魔法適性があると判断されたら合格される者。

 もう一つは、理事長である【可能性の魔女】に見定められた者が、適齢になったら推薦状を出して魔法学校の入学を勧められる者。

 魔法学校に入るのに年齢の制限はかけていない。どんな人でも魔法の才能がある者は、入学の権利を与えられる。

 けど、ここ最近の傾向からしてみると、自主受験を行う者はほとんどいない。むしろ、私の記憶上でもリンドウ・アレイスターさんとエアハルト・ブリューゲル君が初めてだ。


「推薦状、ですか? いえ、ボクはもらっていませんが……」

「本当なの?」

「ウソをつく必要があるとは思えないんですが」


 確かに、こんな所で嘘をつく必要はないわね。

 しかしこの子、7歳にしては随分と難しい言葉を使うわね。歳不相応と言うか、まるで体は子供、頭脳は大人って感じかな。

 ……って、まさかね。そんな架空上の存在がいるなんて、ありえないし。


「そうですね、ごめんなさいね。では、本題に入りましょう」

「はい、よろしくお願いいたします」

「よろしくお願いいたします。まずはですね、あなたの可能性を視させていただきます」

「可能性、ですか?」

『正確には【未来視】だな。現状のお前さんの未来の姿を、このココア嬢ちゃんが覗き見るって訳だ』

「確かにその通りですが、人聞きの悪い事をおっしゃらないでください、イフリート様。ほら、間に受けてしまったじゃありませんか」


 イフリート様の余計な解説のせいで、少々怯えていた。


「大丈夫よ。エアハルト君はただ眠るだけでいいんだよ」

『なるほど。眠っている隙にパクリと食べてしまうんだな』

「イフリート様!」


 人の邪魔をしないでいただきたい。今までみたいに、あなたの茶々が届かない相手じゃないんですよ。

 しかも、相手はまだ穢れを知らない純粋な子供。貴方様のお言葉で誤解を与えて、試験に支障が出たらどうするつもりですか。

 なんて、強く言えたらいいのですけど、私ごときが火の大精霊様に言える訳ないですし……。


「な、何か、大変そうですね。お察しします」


 こんな小さな子供に同情されちゃったよ。


「……ありがとう。キミは小さいのに礼儀正しいのね」

「そうですか?」


 その肩を竦む仕草だって、私が知る限りの子供はしない。

 よっぽどご両親の教育が良かったのか、それとも年齢を誤魔化しているかだけど、今ここで後者を行うメリットはないか。


「さて、イフリート様が余計な口出ししてたけど、これからあなたの可能性大の未来を視させてもらうわ。さっきも言ったけど、あなたは寝ているだけでいいからね」

「はい、よろしくお願いいたします」


 深々と頭を下げるエアハルト君。ほんと、他の受験者もこれぐらいやりやすいと助かるんだけどね。

 若すぎるせいか、大抵の受験者は私の事を「見習い女教師」ってレッテルを張って小馬鹿にする傾向がある。

 特に、同性の子からの疑惑の目が多かったっけ。そう言う意味では男の子の方がやりやすいかな。まぁ、目線が必ず胸に集まるけど……。


『おい、ココア嬢ちゃん。小僧、既に準備出来ているぞ』

「……え?」


 ちょっと考え事をしている隙に、いつの間にかエアハルト君は目を瞑って夢の世界に旅立っていた。


「緊張していたのかしら? 睡眠の魔法を掛ける前に眠るなんて」

『それはそれで、ある意味図太い神経をしていると思うがな』

「そう? 緊張で眠くなる子なんて珍しくないわよ」

『やけに嬉しそうだな、ココア嬢ちゃん』

「嬉しそう? そうかもね。やっと、子供らしい一面を見られたから、ほっとしたのかも知れないわ」


 さっきまで、実年齢を誤魔化した子供やら、子供に変身した変質者と思っていたけど、こうして寝顔を見るとやはり子供ね。


『嬢ちゃん、いくらなんでもそんな子供を狙うのはどうかと思うぞ?』

「し、失礼な! そんな事、考えていません。ったく、人がほのぼのしていたのに、イフリート様は人の情緒を少しは察する努力をした方が良いですよ」

『ヘイヘイ。それよりも、さっさと【未来視】しろよ。こいつの可能性の未来、少し興味があるんだよ』

「そうですね。お連れの方を待たせている事ですし、始めましょう」


 指を鳴らし、必要な道具を呼び寄せる。

 未来視を行うには、この子の【根源たる魂】を覗く必要がある。

 魔法と一言で総称しているが、種類は幾千幾万と分けられている。

 元素を操る魔法を扱う者、私の様に人の未来や過去を覗ける者や、人の怪我を治療出来る者と人の数だけの魔法が存在する。

 その人が使える魔法は未だに明確化されていないが、私から言わせると【根源たる魂】つまり、その人の生き方の意志に左右されると思う。

 なんて、難しい事を言っているけど、結局の所は何もわかっていないのよね。こう言うのを神のみぞ知ること、と言うのかしら。


「魔法陣展開完了。エアハルト君のフェイトラインにアクセス、完了」


 私の命令で魔法陣、六星のマジックサークルが展開され、高速回転してエアハルト君の身体を通過していく。

 これで、私の魔力と彼の魔力が繋がった。あとは、命令を下せば【未来視・ヴィジョンアイ】を発動出来る。


「……では、イフリート様」

『あぁ、一丁小僧の運命とやらを見てやるか』

「同調開始」



【未来視・ヴィジョンアイ】



 数秒後、彼ことエアハルト君の未来を覗き見て、私とイフリート様は言葉を失う事になる。


「……何よ、これ」


 筆舌に尽くしがたい光景であった。

 口で言うには簡単だけど、それを実際に口にして言った所で、正確に表現出来る自信がなかった。


『これが、この小僧の運命なのか』

「だとしたら酷すぎますよ。この子に救いも何もないじゃありませんか。たった一人、たった一人でドラゴンと魔族に戦いを挑む事になるなんて、どんな運命ですか」


 そう。

 私とイフリート様が見た、エアハルト君の可能性の未来はたった一言で表現出来る。


 死地。


 炎に支配された大地に、血塗れになったエアハルト君がたった一人で敵と対峙していたのであった。

 災厄の案内者と謳われた地底竜と炎に身を包んだ死神を相手に、エアハルト・ブリューゲルは近い将来、戦う事になる。

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