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VSチート  作者: 柊柳
6/10

魔法学校へ



「ノウマク、サマンダバサラ……なんだっけ? あっ、そうそう。センダマカロシャダ、ソワタヤウン、タラタ、カン、マン」


 何の歌か知らないけど、鍬で畑を耕していると、ふと頭に浮かんでいた。

 無言で黙々とやるのも悪くなかったけど、今みたいに頭に過った言葉を口にすると気分も紛れて、中々仕事の効率が良くなっている気分になる。


「ソーラン、ソーラン、バイバイ……だっけ? ローラン、コーラン、ハイハイ……なんか違うな」


 耕すのを一時中断し、周囲を確認する。


「……まだ、半分も満たないか」


 苦笑する。

 半日以上かけて荒れた畑を元に戻しているのだが、流石にボク一人だと半分も終わる気配がない。

 畑が荒らされた翌日、リンドウさんは自分のライフワークであったはずの農作業から手を離し、机に向かって魔法の勉強を始めてしまった。

 てっきり冗談で言ったと思ったのだけど、リンドウさんは本気だったらしい。


「出来る事なら、地と水関係の魔法をマスターしたいものだ」


 と、リンドウさんは楽しげに言っていた。

 まさか、長年やっていた畑をボクなんかに一時的とは言え譲り、自分は新しいモノに挑戦するなんて誰が思ったであろう。しかも、リンドウさんの決意を止める者はいないから困る。

 リンドウさんのご両親は既に他界しているし、結婚はおろか、良い人一人いないらしい。

 農作業仲間もリンドウさんの言葉に「やってみれば」やら「頑張れよ」と激励を贈る者ばかりであった。


「……魔法使いになるのは才能がいるんだけど、な」


 一時中断していた農作業を開始する。慣れていない作業の為か、たった二時間程度しか鍬を振っていないのに腕が疲れを感じ始めている。

 無駄な動きが多いと自分でも分かってはいるんだけど、鍬で耕す事がこんなに大変だと思ってもみなかった。

 まず、鍬じたいが重い。剣までとは言わないが、先端に鉄の刃が付いている棍棒の癖に、振り上げてから振り下ろすまで多大なる力を有した。それに加えて、剣の様に対照的なつくりではない為、振り上げた時に何度もバランスを崩してしまう。


「そう言えば、一番槍は突き技だっけか」


 ボクの唯一の【剣戟】は突き技だけだった。父さんの書棚に残されていた【剣戟の書】には【剣戟・一番槍】と【特攻歩法・飛燕脚】しか記されてなかった。

 本来ならばこの二つの技術は槍術が最適なのだが、ボクは槍術よりも剣術の方が向いているらしい。あくまでも、個人的主観で言っているけどね。

 唯一無二の技を習得する為に、突きの動作ばかりしていたためか、剣術本来の基本である斬る動作を怠っていたようだ。


「……って、もう騎士になれないんだっけ」


 自分の剣術に足りないものについて思案していたけど、ボクは騎士になれる資格がない故、そんな事を考えても意味がなかった。

 そうだった。そうだったね、武装が可能な人間は騎士が魔法使いだけだったのに。


「おぉ、ここにいたハルト坊」


 聞き慣れた声が届く。

 ボクは耕すのを一時中断し、声のした方角――ボクの真後ろに体を向ける。


「リンドウさん、遅いですよ。早くしない……と」


 リンドウさんの姿を見て言葉を失う。


「リンドウさん?」

「おう、どうしたハルト坊」

「……その、マントはどうしたんですか?」


 リンドウさんの背中には五つ星の紋様が刻まれている黒衣が装着されている。

 確か、五つ星の紋様のあるマントは魔法学生候補の証だったはず。


「うむ。申し込んで見たら、一次審査通っていたみたいだぜ、俺達」


 通っていた?

 それってつまり、合格したって事ですか。


「お、おめでとうございます。一次審査を通るなんて、リンドウさんって魔法の才能があったんですね」


 一次審査は魔力検査だったはず。その人に魔力があるかないか、魔力量が多いか少ないかを見て選定する試験。

 入学希望の書類と自分の髪を数本付随して送れば、数日中には結果が返ってくると聞いたけど、まさかその日に審査依頼を出していたなんて。

 なんてフットワークの軽いオヤジさんなんだ。


「おいおい、ハルト坊。なに他人事のように言っているんだよ。お前も受けるんだよ、お前も」



 ………………。

 …………。

 ……はい?



「えっと、すみませんリンドウさん。いま、何か言いました? あっ、いいえ。別に言わなくてもいいです。おそらく、ボクの聞き間違えかと思いますし」

「あのな……。騎士に対して未練があるのは分かるが、ここは心機一転して俺と一緒に魔法学校でリスタートしようぜ」

「そ、そもそも、ボクの願書はどうやって偽造したんですか。髪なんて誤魔化しようないでしょ!」

「余裕っ!」


 満面な笑みを浮かべて親指を突き立てるリンドウさんに軽く殺意が芽生えた。

 何が「余裕っ!」なのか色々と聞きたいのだが、次の日に魔法学校へ願書を出すほどフットワークが軽いオヤジの事、きっと色々と細工を施したのであろう。


「……受けるのはいいですが、受験を受けられるだけの金銭的余裕はボクにはありませんよ」


 数日前に騎士学校の入学試験を受けたばっかりで金銭的に余裕がない事をリンドウさんは知らない。なら、それを理由に断る、と言う流れを作るつもりだったのだけど……。

 さっき、この人、気になる事を言ってたっけ。


「そいつは知っている。親御さんから聞いたからな」


 やはりか。

 母さん、息子の失敗談を一体全体どれだけの人に広めたんだよ。

 どうやら、この様子だと外堀も埋めて来たんだろうな。

 知っていた魔法学校の入学試験に誘ったと言う事は、金銭的にも問題ないと判断したのだろうか。

 まさか、リンドウさんが払ってくれる訳じゃあるまいな。


「……分かりました。んで、いつ試験日なのですか?」

「今から」


 このオヤジ、一回絞めないとダメじゃないかな。

 ボクは引っ手繰るように、リンドウさんから差し出された魔法学生候補のマントを受け取った。




☆★☆★☆★☆★☆




 魔法学校。

 かつては、貴族や金持ちにしか入学資格が与えられるず、別名『黄金の巣窟』なんて言われていた魔窟であった。

 数十年前に地を司る竜『グランゾート』が襲撃してきた事を境に、魔法の才能を持つ者は誰でも入学資格が与えられる事になった。

 細かい事情は知らないけど、やはり貴族や金持ちだけでは国を護る事は難しいみたいだ。もともと、魔法を会得しようと考えていた人達は「闘う」為に習得したのではなく「生活に便利」だから習得しようとしていたらしい。

 今では国を第一に考える魔法使いの育成が主である。今後、いかなる襲撃者が来ようと、それに迅速に対応出来る魔法使いがいれば、国民も恐れる事無く生活できるであろう、と言うのが国王様の配慮であった。

 しかし、魔法が国民に浸透してから、問題も増えていたりするが、今ここで言う事ではないか。


「き、来てしまったな」


 そびえ立つ第三の城とも呼べる学校の門前に立つボクとリンドウさん。


「そうですね。なんで、ボク達はここにいるんでしょ」


 既に魔法学校の威圧感に呑まれているリンドウさんを見て、呆れ声を上げるボク。まだ、敷地内に入っていないのにも関わらず、全身が緊張で震えあがっている。

 そんなんで、魔法学校の試験をパス出来るとは到底思えなかった。


「それで、最初はどこに行けばいいんですか?」

「……さぁ?」


 ……は?


「さぁ? って、手続きしたのはリンドウさんじゃないですか」


 まさか、一次試験をパスした事で舞い上がって、二次試験の詳細を聞いていないんじゃないだろうな。

 十分ありうるから怖いな。

 睨むように目を細めると、たじろぐリンドウさん。


「俺は、迎えが来るからここまで来いとしか連絡を受けていないぞ」

「迎え?」


 周囲を見渡すが、人の気配はない。

 あるとすれば……。


「今、目の前をウザったいぐらい飛び交う火の玉ぐらいですよ」

「は? 火の玉だと。どこに?」


 どこにって……。

 ボクの目の前にうるさいハエの様に飛んでいる火の玉があるじゃないか。


『へー、冴えない奴かと思ったけど、俺様が見えるのかガキ』


 どこからか声が聞こえる。しかし、周囲を見渡しても声を掛けてきた人らしきものはなかった。


『どこを見ているんだよ、ここだよここ。ガキの目の前にいるだろ』

「……まさか、この火の玉なのか?」

『正解。まさか、この俺様ことイフリート様を肉眼で確認出来る人間が来ようとは思えなんぞ』


 信じられない事に厳格のある声の主は、ボクの目の前を飛び交うハエじゃなくって、火の玉であるらしい。


「なぁ、ハルト坊。お前さん、さっきからぶつぶつと何を言っているんだ? 正直、気持ち悪いぞ」

「へ?」


 どうも、リンドウさんには自称イフリート様が見えないようだ。

 まさか、幽霊の類じゃないよね。


『普通なら、そこの老いぼれジジイの反応が正しいんだがな。……ガキ、名は?』

「エアハルト・ブリューゲル」

『ブリューゲル? お前の父親は、もしかして八矛の騎士・デュラン・ボルヒャルトか?』


 ボルヒャルト?


「違うよ。ボクの父さんはデュラン・ブリューゲル。確かに八矛の騎士って呼ばれていたけど」

『なんだ、デュランの旧名を知らなかったのか、お前。しかし、それなら納得だな。あの悪戯っ子のガキ、か』

「まるで、父さんの事を知っているみたいだけど、イフリートは一体……」


 何者なんだ、と問うよりも早く、イフリートが盛大に笑い上げた。


『ガハハハ、こいつはおもしれえ! だから、人間と関わるのは止められねえ。こういう面白イベントが満載だから、興味につきねえな、おい』

「……リンドウさん、迎えの人ってまだなんですかね?」


 自称イフリート様が意味不明な言葉を発し始めたんで、このまま関わると危険と判断し、何事もなかったようにリンドウさんに話しかけた。

 ボクが自称イフリート様が話している間も人らしき者はなし。……本当に、今日試験をやるのか、と思えぐらい閑散としている。


『なんだなんだ、お前さん達、受験に来たのか? そんならさっさと言えよ。俺様が直々に試験場まで案内してやる、感謝しろよな』


 自称イフリート様の申し出に、どうするか考える。

 このまま待っても、人が来る気配はなさそうだ。それならば、胡散臭い奴だけど、この自称イフリート様に案内してもらう以外方法はなさそうだ。それなら、そうするしかないかな。このまま突っ立っていても話しが進まないし。


「案内できますか、イフリート様」

『おう、任せておけ』


 自称イフリート様と話している最中、怪訝そうな眼差しで見てくるリンドウさんを無視して、ボクは魔法学校の敷地内に進入する。

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