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VSチート  作者: 柊柳
3/10

エアハルト・ブリューゲル

 ……初めまして、エアハルト・ブリューゲルです。

 父さんの親友であるレオンハルトにちなんで名付けた名前らしいです。本当かどうか知らないけど、お母さんがそう言ったんだから間違いないと思います。

 ボクの父さんとレオンハルトさんは有名な騎士だったらしいのですが、ボクが3歳の時に行方不明になってしまいました。

 もう、あれから4年が経ち、ボクは7歳――ボクにとって人生の歩み方が決まる転換期と言える年です。

 お母さんは、ボクに学者として道を歩んでほしいそうです。さっき言った「転換期」だって、本当ならボクのような子供が正しく意味を捉えて言える言葉でもないそうですし、何より他の人達よりも計算力に優れている、と言う点に着目しているそうです。

 お母さんは「天才ね」とボクを褒めちぎるのですが、ボクは自分が「天才」と思った事がありません。だって、見ただけで昔やったように脳裏で公式が浮かぶんだよ。難しい言葉だって、この言葉はこう言う意味だ、と頭に浮かぶんだよ。

 正直、自分じゃない誰かがボクの頭に囁いているようで気持ち悪いよ。

 それにボクにとって学者はつまらないと思うし。

 難しい顔をして色んな人と口論する毎日なんてストレスで頭がはげちゃうよ。いやだよ、こんなうら若き年代からつるっぱげになるのは。

 それに、ボクには夢があるんだ。父さんのような高名の騎士になるのがボクの目標である。

 そして、皇国の白雪姫『レオナ』姫と仲良くなる……なんて、少し夢見ているかな。

 不謹慎な理由だと分かっている。けど、騎士になりたい気持ちに偽りはないんだ。

 ボクは最強の騎士になる。

 ……なんて、やっぱり夢見ている甘っちょろい子供の戯言なのかな。

 それを否定する為に。



 だからボクは――このテストに合格しなくてはならない。



「はい、次の人。エアハルト・ブリューゲル、前に来なさい」

「は、はひ!」


 名前を呼ばれ、力強く返事をしようとしたんだけど、思わず噛んでしまった。

 そんなボクの応対を聞いてどっと周囲が笑い声に包まれていく。

 中には腹を抱えて盛大に笑っている人もいるし。

 うう、恥かしい。顔が熱くなるのを感じる。穴があったら問答無用で入りたいぐらいだ。


「静かにしろ。エアハルト・ブリューゲル、緊張するのは無理ないが、少し落ち着くんだ。そんなんじゃ、貴殿の良さをフルに伝える事など出来ないぞ」


 厳格な騎士様がボクの肩に手を置いて、優しく助言してくれる。

 ボクはその言葉に応える様に大きく深呼吸を一つ、二つして、礼を述べる。


「ありがとうございました、騎士様。ボク、頑張ります」

「あぁ、頑張れよ。八矛の騎士もお前さんの合格を願っているさ」


 騎士様の何気ない一言。その言葉はボクを驚かせるのに十分な言葉であった。


「騎士様は、父上の――」

「知りたかったら、合格してこい。エアハルト・ブリューゲル、健闘による合格と勝利を祈っている」


 ボクの背中をたたき、有無を言わせに外へ連れ出す騎士様。

 騎士様のお言葉で、ボクはますますこの試験に落ちられなくなってしまった。

 このテスト、騎士学校の入学試験にボクは必ず合格しなくてはいけない。そう、改めて決意表明し、ボクは未来を掛けた戦場へ赴く。




 ☆★☆★☆★☆★




「……来ましたか」


 ボクが試験場に到着すると、一人のメイドさんがメガネを光らせてボクに近づいて来た。


「受験番号10231、エアハルト・ブリューゲルで間違いありませんね?」

「はい! 受験番号10231、エアハルト・ブリューゲルで間違いありません!」

「これより、貴殿に実技による第2試験を開始いたします。事前にお話しした通り、戦闘の用意はしてきましたね?」


 メイドさんの問いにボクは頷いた。


「では、これより実技試験のご説明を――」

「回りくどい事はいい、シャルロット!」


 メイドさんが実技試験の説明を始めようとした矢先、男の人の声がそれを遮った。


「団長様。しかし」

「何度も言わせるな。小童でもこの騎士学校の入学を志す未来の同志になりうる者だ。それ相応の対応をしてやれ!」

「分かりました。団長様の御心のままに」


 えっと……。すみません。話しが全く見えないんですが。

 ボクの胸の内による訴えが届いたのか、メイドさんは恭しく頭を下げて謝罪する。


「申し訳ありません、エアハルト・ブリューゲル様」

「……ボクはなんで謝られているんですか?」


 皆目見当つかない突拍子ない謝罪に目を丸くしていると、話しに口を挟んできた騎士様が告げる。


「そやつは、小童のお前に気を使っていたんだ。普段なら、試験内容の確認と説明などするはずないのにな」

「そう、何ですか?」

「なに、そう不安になる事はない。何せ、実技試験と言う内容はただ一つ。……この俺、蒼穹騎士団団長、クラウド・エンディミアに貴殿の実力を示せばよい」


 き、きし、だん、団長さ、ま?



 あれ?



 おかしいな。

 ボク、物凄くこの場にいるはずのないお方の名前を聞いたような気がする。


「現実逃避して申し訳ありませんが、エアハルト様。団長様が仰っている事はすべて事実です」


 絶句しているボクに追い打ちをかける様に言うメイドさん。

 この試験、合格出来る人間なんて絶対にいないだろ。てか、合格させる気ないな、騎士学校。


「何をしている、エアハルト・ブリューゲル。時間は有限だ、貴殿を品定める時間がなくなっていくが良いのか?」


 どうやら、うじうじしている暇など与えてくれないようだ。

 ……覚悟を決めるしかないらしい。

 本当は嫌だけど、嫌に決まっているけど――夢の為ならば、逃げられないよね、やっぱり。

 騎士団長様がいる場所へ歩み寄るボク。腰にある剣――父上がボクの年頃の時に愛用していたロングソードを鞘から抜き、正眼の構えを取る。


「デュラン・ブリューゲルとイリス・ブリューゲルが一子、エアハルト・ブリューゲル。本日は騎士団長様の胸を借りる次第です」

「うむ。八矛の息子が入学試験を受けると聞いて、楽しみに待っていたぞ」

「光栄に存じます」

「亡き父上に代わって、貴殿の勇士をとくと拝見させていただく。……こい、エアハルト・ブリューゲル!」


 騎士団長様の言葉と同時に、俺は大きく剣を振りかぶって斬りかかって行った。

 まだ、騎士団長様は抜刀はおろか、柄に触れてもいない。実力差など雲泥の差と分かり切っている以上、好奇な瞬間などこの時しかない。

 そう思って、俺は特攻のつもりで間合いを詰めたのだが、急な寒気と嫌なイメージが過る。

 本能がこのまま斬りかかるのはダメだ、と警告して来ているのだ。足を止め様と勢いを殺した瞬間、団長の手が既に剣の柄を握っており、あまつさえ既に抜刀しているじゃないか。


「っつ」



【抜刀技・二の太刀いらず】



 白銀がボクの腹部寸前を横切って行く。

 銀色の閃光が弧を描き刃が完全に静止したの見計らって、後ろに跳んで間合いをあける。

 思わず、騎士団長の剣が捉えていたであろうお腹を押さえ、斬られていないか確かめてしまった。


「ほぉ。今の一撃を寸前で避けたか。中々やるな」

「光栄です。……騎士団長が燕返しをしていたら、ボクは確実に負けていたでしょうけどね」


 どうやら、ボクは自分が思っている以上に混乱していたみたいだ。

 目の前の騎士団長が「飛燕の騎士」と謳われていたにも関わらず、何の策も弄せずに突っ込むなんて。

 相手は、神速の抜刀術と返技を極めた十年に一人の逸材と言われた天才だ。こんなガキがただ闇雲に突貫した所で勝てる相手じゃない。

 さて、どうする……エアハルト・ブリューゲル。


「どうした、来ないのか? 今度はこっちから行こうか?」


 じょ、冗談じゃない。ただでさえ実力差がはっきりしているのに、相手に先行権を取られたら、こっちの勝率はないに等しい。

 今のが軽い挑発だと分かっているけど、それに乗る以外の選択肢はボクにない。


「……いえ。申し訳ありませんが、先にいかせてもらいます!」


 考えたって答えなど見つかるはずがない。実力差がはっきりしている敵に出来る事など一つしかないじゃないか。

 正眼の構えを崩し、右半身を後ろに下げ、剣先を騎士団長へ向ける。


「――剣戟」


 膝を軽く曲げて、脚へ力を溜める。

 騎士団長様は俺の攻撃の姿勢を楽しげに見やり、剣を鞘に納めた。おそらく、先ほどと同じように抜刀術で迎撃を図ろうと目算しているのだろう。

 ま、こんな構えを見せたらボクが繰り出す攻撃の正体など直ぐに看破されるか。

 そう、この技は――。



【剣戟・一番槍】



 刺突による万歳アタックなのだ。

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