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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

聖邪の矜持。~世界救済の勇者パーティーと、追放された素性不明の魔法使い~

作者: ありしあ

あとがきもよろしくです_(:3 」∠)_






「おい、ヴェイン。結局、お前は何者なんだ」

「国王陛下より、勇者様御一行の補佐をするように命じられた者にございます」

「それは知ってる! 俺たちが訊いているのは、お前がどこの誰で、いったい何が目的で旅に参加しているのか、ってことだよ!!」

「ふむ……?」



 ――世界救済の勇者パーティーには一人、素性不明の者がいる。

 国王の肝いりで、仲間に加わった彼の名前はヴェイン。勇者の身内で固められた一行の中で唯一、魔法使いであること以外の情報が開示されていなかった。

 かれこれ一年に渡って旅をしてきたが、そのことにヴェインを除くすべての者が不満を抱いている。だが肝心の魔法使いは首を傾げるばかりで、核心的な内容は口にしなかった。



「何が目的か、ですか」

「当たり前だろ! 国王陛下の命であったとしても、理由も明かさずに命を懸ける戦いに身を投じる酔狂な奴なんて、信じてたまるものか!!」

「そのようなこと、些事に思いますが?」

「うるさい! それに、それ以外にも理由はある!!」



 ヴェインの態度に、痺れを切らす勇者は続ける。



「先日の盗賊討伐の際のことだ。どうして町の者たちからの報酬を無碍にした? 俺たちは相応の働きをしたのだから、受け取るのが道理というものだろう!」

「そのことですか。それについては、貴方も同意したと思っていました」

「そんなわけがない!! あれは相手の厚意を無為にする行いだ!!」



 肩を竦める魔法使いに、勇者はさらに激昂した。

 そして感情そのままに唾を飛ばしながら、こう宣言するのだ。



「お前のような素性も分からない男をこれ以上、パーティーに入れていてたまるか! 魔法使い、ヴェイン! 貴様は本日を以て、この勇者パーティーから――」




 目を血走らせ、肩で息をして。

 ヴェインの眉間に指を突きつけながら。




「追放する……!!」――と。







 ――それから、一ヶ月が経過した。

 勇者一行は国王の肝いりという重荷を脱ぎ捨てて、晴れやかな気持ちで旅を続ける。戦力的にも大きな問題はなく、行く先で誰か、新しい人材を見つければ良いと考えていた。

 その只中で勇者たちは、ある貧しい村に立ち寄ることとなる。

 そこでは現在、魔物の襲撃を受けて作物がろくに育てられない、という問題が発生していた。



「なるほどな。それなら、俺たちに任せてくれ」

「おぉ、勇者様! そのお言葉は、本当でございましょうか!?」



 村長に気さくな声をかけた勇者。

 その言葉に対して、長は感極まったように声を潤ませた。

 彼ら勇者の力が噂に違わぬものであるなら、あのような魔物は取るに足らないはず。事実として、その村の周囲に棲むとされるのは、下級の冒険者でも相手可能だった。

 それでも金も人材もない村では、人手を集めることもできない。

 ただあるのは、痩せた大地で採れる僅かながらの作物だけであった。



「あぁ、なんということか。この御恩、どのように――」



 ――であれば、いかにして勇者への恩を返すべきか。

 村長は痩せ細った手を擦りながら、涙を流して考えるのだった。

 そんな彼に向かって、勇者は満面の笑みを浮かべてこのように伝える。



「なに、たいした礼は要らないさ。とりあえず、倒してくる」

「ありがとうございます。ありがとうございます……!」



 何度となく頭を下げる村長。

 しかし、そんな相手を見る勇者のそれは不敵なものに変わっていた。







「そ、そんな……! 礼は要らぬ、そう仰ったではないですか!?」

「『たいした礼は』って、話だっただろ?」



 果たして魔物は討伐され、村には平穏が訪れた。

 だが村長の表情は曇っている。その理由は、勇者の要求にあった。



「い……いや、しかし我が村はいま、食糧が困窮しておるのです! 作物は魔物に荒らされ、とても勇者様にお渡しできるものは――」

「備蓄してある食糧で良い、って言ってるだろ? これから頑張って作物を育てれば、来年からは良いものが収穫できるはずだ。それ食えば良いじゃねぇか」

「で、では……それまで村人は、飢えをいかにしのげと……!?」

「あ……? 作物がないなら、他所から買えば良いじゃねぇか」



 そう言いながら、勇者一行は倉庫にある作物を運び出す。

 村長が力で敵うわけがなく、無理な話を突きつけて彼は笑っていた。その行いはもはや強盗とも受け取るに近いものであり、横柄という言葉が相応しい。

 ただ、それが始まったのは何もいま、というわけではなかった。



「……ったく、それにしてもシケてんな。どれも実が小さいのばかりだ」

「う、うぅ……! まさか、あの噂が事実だとは……!」



 村長は信じ難いとばかりに言いながら、膝をついてうな垂れる。

 勇者一行には、きな臭い噂があったのは事実だ。旅の者曰く、その街や村の人々に無理な要求をしては、半ば強引にものを奪っていくという。

 だが世界救済を謳う者たちが、そのような悪行を働くものか。

 そう思っていたのは、間違いだった。



「あ、悪魔……! 貴方たちは、悪魔だ……!」

「は? 勇者だっての。文句があるなら、勝手に言ってろ」



 長の言葉は、しかし勇者に響くことはない。

 それどころか吐き捨てるようにそう言い残して、馬車を走らせるのだ。




 果たして蓄えを失った一つの村は、飢餓に苦しむことになる。

 しかしタガの外れた勇者たちに、良心の呵責は欠片ほどもないのだった。









「まったく、俺たちを誰だと思ってんだろうな?」

「そうよねぇ? シケた報酬しか出せないのに目を瞑って、我慢してやってるのにさ!」

「ホントに、タダ働きなんて御免だぜ。あの魔法使いを追放して正解だな」



 馬車に揺られながら、勇者と仲間の二人は言葉を交わす。

 一人は治癒術師、もう一人は戦士だった。彼らは勇者の言葉に同意をし、ケタケタと意地悪く笑う。国王の肝いりという魔法使い、ヴェインの追放以降、彼らの旅は不必要に快適なものになっていた。そこにはもう世界救済など、単なる立て看板にすぎない。

 手段と目的が反転した勇者一行は、完全に道を誤っていた。


 それを彼らは理解しているのか。

 いいや、そのようなことは最初から承知の上だった。

 それに苦言を呈していたのがヴェインであり、足枷となっていたのだ。



「さて、次はどこに行く? そろそろ、金がほしいな」

「だったら、貴族がいる街にしない?」

「そうだな! 臭い寝床は、もう勘弁だぜ!!」



 周囲の目など、気にもしない。

 大義名分のもとに行われる残虐な所業は、誰にも止められなかった。止められるはずがないと、誰もが思うのだ。何故なら彼らは、世界救済を託されるに足る実力者だから。

 しかし――。



「おっと、なんだアイツ……?」



 そんな彼らの乗る馬車の前に、一人のフードを被った男性が立ちはだかった。

 急停止するそれから飛び降りた勇者は、首を傾げながら男に言う。



「おい、邪魔だろ。どいてくれねぇかな、そこのボンクラ」

「………………」



 だが、その男は何も言わずに剣を構えた。

 その様子を見て残りの二人も馬車を降りてきて、苦笑する。



「なんだ、コイツ……マジ? 俺らが誰か分かってねぇの?」

「良いんじゃない? ダサい盗賊一人、タダで殺しても」

「そりゃそうだな!」



 そして、各々に得物を構えた。

 一対三の圧倒的不利な状況ではあるが、しかしフードの男性は引き下がらない。そのことに勇者が微かな違和感を抱いた。その直後だ。




「――がっ!?」

「な……!」




 目の前から男の姿が掻き消え、戦士の短い悲鳴が聞こえたのは。

 驚き振り返ると、そこには首からおびただしい血を噴き出す彼の姿。驚愕する勇者と治癒術師だが、その隙を見逃す相手ではなかった。

 瞬きの間に、一気に距離を詰めたフードの人物は――。



「――ぐ、う!?」



 次に、その剣を治癒術師の腹部に。

 貫いたかと思えば、迷うことなくそれを引き抜いてみせた。治癒術師は血の塊を吐き出し、何とも呆気なく絶命する。そして残るのは、勇者だけ。

 彼は剣を引き抜いて構えるが、その足腰は惨めなまでに震えていた。

 相手が一歩近づくたびに、また一歩後退する。そして、




「あ、あ……!!」




 そんな情けない声を漏らしながら、尻餅をつくのだ。

 フードの男性を見上げる形となってようやく、その顔を垣間見る。




「お、まえ……!? まさか、ヴェイ――」




 見覚えのある顔に、勇者は喉を震わせ。

 そして、その名を口にしようとした瞬間だった。




「か、はぁ……!?」

「申し訳ございません、勇者様。これも命ですので」




 迷うことなく。

 そのフードの男性――ヴェインが、彼の胸に剣を突き立てたのは。それにより悪行を重ねた勇者は命を絶たれ、すべてに幕を閉じられた。

 しかしフードを脱いだ元魔法使いに、笑みは一つもない。

 それどころか、淡々とした様子で馬車の中を確認して言うのだった。




「そこの馭者。この作物は、元の村に返すように」

「ひ、は……はい……!」




 そして、踵を返して立ち去ってしまう。

 まるで勇者の死に、欠片ほどの興味もないかのように。









 ――果たして作物が戻り一件落着。

 しかしその場に、ヴェインの姿はなかった。



「事は済んだか、ヴェインよ」

「……はい、国王陛下」



 彼の姿は、王城の謁見の間に。

 国王にかしずくヴェインは、静かに事の子細を報告した。

 すると国王は何度か頷くと残念そうに、しかし満足げに言う。




「毎度のことながら、お前には汚れ仕事ばかりだな」

「いえ、お気になさらず。私もこの役割には、慣れております」




 するとヴェインは淡々と答え、おもむろに立ち上がった。

 そして、踵を返しその場を去ろうとする。



「待て、ヴェイン。何故、お前は汚れ仕事を請け負う? 褒美も求めず、その手を血に染め続けるのだ?」

「………………」




 だがそんな彼に、国王は一つ訊ねた。

 するとヴェインは立ち止まり、肩越しに国王を見やる。




「今日はひとまず、その答えだけを聞こう」




 そして、そんな相手の言葉に眉をひそめながら。

 彼はただ一言だけ応えるのだった。




「強いて言えば、ではありますが――」




 あくまで、淡々とした口調で。






「これが私の矜持、でございますから」――と。




 


思い浮かんだ話を書きました。


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― 新着の感想 ―
魔王討伐はどうするの? ヴェインが勇者として討伐しに行けば、盗賊を勇者として任命する必要がないよね?
短編ありがとうございます よくあるロールプレイングの勇者が民家に入って荒らすヤツですね 大義の為に過酷な旅を続ける勇者一行! その行いは無償で有るべきか? 有償ならばいくらが妥当か? 今の政治家や公務…
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