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三題噺もどき4

涼夜

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくなな。

 




 心地のいい風が、カーテンを揺らす。

 窓から見える空は生憎の天気だが、月は時折雲から顔を出す。

 先週に満月を迎え、また新月へとうつり変わっていく様は、いつ見てもいいものだと思う。

「……」

 今日はありがたいことに、暑くもなく寒くもなく。

 とても丁度いいくらいの気温で、風も少々冷たく心地がいい。

 おかげで久しぶりの読書時間がとてもいいものになっていく。

「……」

 リビングのソファに座り。

 机にコーヒーを置いて。

 膝の上には本を開いて。

「……」

 今回も夏らしく、怪談を読んでいる。

 怪談というか……ホラーと言われた方がしっくり来るような内容だが、それはまぁ私の感覚だしジャンル的には変わらないだろうからどちらでもいいだろう。

 とりあえず、怖い話だ。

「……」

 こう、読んでいると、赤い口紅というのは結構恐怖の対象になりえるのだな。

 まぁ、赤といえば血の色でもあるし、それが暗闇に浮かんでいれば怖くはあるが。

 あまり私にはピンとくるものでもないな……真っ赤というのがキーなのだろうか。黒に赤はよく映えるしなぁ……。私にとってそれはどちらかというと、美しいものという対象になるかな。夜に咲く薔薇なんてとても美しいものだが、それとはまた訳が違うのか。……難しいものだ。

「……」

 この手のものは没頭こそあまり出来ないのだが、読んでいて面白いとは思うのだ。

 前回読んだ百物語的な怪談は、よくよく読めたのだけど、ホラーに寄るとどうにも……感覚が違うから仕方ないのだけど、それなりに人間と共存してきた(つもり)なので、分からなくはないのだが。しかしそれでも、その程度の感覚で読んでいるにもかかわらず、面白いと思えるのだ。素晴らしい文才だと思う。偉そうに聞こえて申し訳ないがな。

「……」

 一通り読み終え、本を閉じる。

 ちらりと時計を見ると、まだ時間には余裕があった。

 そのすぐ下にあるテレビラックの上には、冬を過ぎて使われなくなったポーチが置かれている。あれも片付けなくてはな……カイロを入れて使うやつだが、果たして今年の冬は使うだろうか。

「……」

 キッチンでは、私の従者が楽しそうに料理をしていた。

 顔には出ないが、態度によく出るから、楽しいか否かなんて音を聞いていたらよくわかる。

 まぁ、そうでなくても料理を苦に感じるようなやつではないからな。

 私も料理は出来るししたいと思うことがなくはないのだけど、キッチンはすべてアイツが握っている。

「……」

 それに、今日のエプロンは腰に紐で巻くタイプのやつだから機嫌がいい。紐が猫の尾のようによく跳ねている。休憩の時も、ご機嫌だったから、それはそれはいい一日だったのだろう。

 そうそう。アイツは暑かったのか、珍しくハーフパンツを履いているのだけど、そのせいで若干スカートのように見えてしまっている。まぁ、中性的な顔立ちをしているから違和感はないのだが、本人に言ったら嫌な顔をされそうだ。

「……なんですか」

「……なんでもない」

 見ていたのがばれて、手が止まった上に若干睨まれたので、視線を外す。

 今アイツが作っているのは、今日の夕食だ。

 最近は夏っぽい料理がよく出てくるが、今日は何だろうか。先日は冷やし中華を食べたが、アレは美味しかった。冷製パスタとかもかなり種類があったりするような……。

 昼食は最近そうめんが多いな。よくゆでておいてくださいと言われれる。

 その度にキッチンとはこんなに暑いものだっただろうかと思い知る。

「……」

 本も読み終わった上に、コーヒーも飲みきってしまったのでやることがなくなった。

 外を眺めながら、手持ち無沙汰に本をぺらぺらとめくってみる。

 なかなかに面白い本だったが、このサイズだと一日持たずに読み切ってしまうな。

 かと言って、もう少し量のあるものとなると、重い上に場所を取るからな……今でさえ本棚は限界を迎えているのに……。

「……」

「……ご主人」

 暇そうにしているのがばれたのか、キッチンから声がかかった。

 何かを手元で切りながら、こちらを見ている。

 器用なことをする。

「……先にお風呂に入ってきたらどうですか」

「……うん……まぁ、そうする」

 今日はいつもよりゆっくり入ろうか。





「……時間があるからってのぼせるまで入るのは違いますよ」

「……そんな、つもりはなかったんだ」

「ただでさえ暑いんですから、シャワーだけにしたらどうですか」

「……いそがしければそうするよ」

「……またのぼせても知りませんよ」










 お題:ポーチ・口紅・スカート

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