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挟み撃ち

     ……………


  「そ、そんなっ!?」


 シュウメイは目の前に広がる肉の塊から咄嗟に逃げながら、しかし驚愕と困惑に満ちた声を上げる。この場に居る全員が突然の出来事に驚きつつも戦闘態勢を整え、周囲への緊張と感知への集中を高めていく。


 そんな中、忍如は肉塊から距離を取りながら冷静に状況を分析する。


――我々に接触することで呪いが作用した……?

 既にこの街が結界に囚われてから何時間も経過している事、住民のほとんどが『肉塊』となっている事、だというのに今まで彼女は無事であったことを鑑みるとやはり『感染型』の呪いである可能性は極めて高い。

 魔術的抵抗力の有無が呪いの進行を左右するということか……?

 いや、しかし魔術結合が見えん……!


 忍如はすかさず心念に指示を飛ばす。


「心念! 呪いの魔術結合を感知せよ!」


 心念は近くに居たヨシノリを担ぎ上げることよりもその指令をまず優先する。

 彼の全神経は二メートルほど前方でシュウメイを取り逃がした肉塊へと向けられた。初めのうちは彼の感知能力にも何の魔術的影響が感じられなかったが、集中を初めて数秒、肉塊が立ち止まる心念にその矛先を向け進み始めた瞬間にわずかな魔術結合の感触を覚える。

 心念はそれを直ぐに報告する。


「なんて、この……! 僕の感知では掴みきれません!」


 忍如は長年の経験から、その報告が意味するところを察知する。


――二級相当の集中された感知を完全に欺く!?

 感染型はある程度対処可能とは言え、これでは封印も解呪もままならん……!

 根源を叩くしかない……。だが……。


 忍如はそう考えると、心念を追いかける肉塊、そして外に集まりつつある肉塊の状況を見て、浮遊術を詠唱。

 心念が感知に集中している間、ヨシノリは既に折口が担ぎあげ、彼女もまた浮遊術の詠唱を行っている。他の面々に関しても既に準備は万端。


 そして全員が一斉に外へ窓ガラスを突き破って脱出する。


『ガッシャアァアアアアン!』


 派手な音とガラスの破片は外の庭に集まりつつあった肉塊へ飛散する。魔術師たちは再び空へと舞い上がり、逃避を開始するのだった。


 折口は飛行しながら他魔術師に話す。


「天出仁の反応は?」


 シュウメイが先ず答える。


「駄目だ、屋内にいるのかもしれない」


 心念も答える。


「一応、屋内もできるだけ感知していますが、だめです」


 ヨシノリはそれを聞いて、わずかな希望はないかと提案する。


「あの、おれのこのペンダント、天出仁のものなんです。何か手掛かりになりますかね」


 忍如はそれを聞き、折口の背に乗るヨシノリに近づき、ペンダントの魔力を見る。


「フム……。手掛かりになるやもしれんな。心念! この魔力波形を!」


 心念はすぐにやってきて、そのペンダントへ触れ、その魔力に意識を集中する。数十秒の沈黙の後、目を開いた心念が答える。


「ペンダントの魔力は覚えました。ですが肝心の天出仁はそもそもの魔力が弱すぎる。隠匿なしでも二百メートルは近づく必要があります……。ましてや、あの技量」

 

 ヨシノリと折口はその言葉を聞き、落胆と焦りを覚える。

 忍如はそれを聞いて別の方策を答える。


「致し方ない……。既に死んでいるかもしれんが……。山口コウを探す必要がある」


 思いもよらない答えに心念は訊き返す。


「山口コウですか? 師匠」


 忍如は頷く。


「左様。奴は魔術的刻印を操る。儂は一度見た事があってな。どこまで範囲が指定されておるかは知らんが、奴の事。既に天出仁はマークしている筈」


 その説明の最中、シュウメイが口を開く。


「前方200メートルに家屋をなぎ倒す魔術師……。十中八九、山口だ!」


 魔術師たちは前方、住宅街の中に爆風のようなもので舞い上がる土埃が断続しているのを発見する。それは真っ直ぐどこかへ向けて走り、コンクリート壁も家も、電柱も、街灯も、もちろん肉塊も、全てを自らの素の身体で破砕して進む重機関車のような男だった。


「天出仁ンンッ!! 逃げるなァアアアアアッ!!!」


 魔術師たちは彼の走破力に漏れなく驚愕する。

その魔力を伴った全速力の走りは魔術師たちの浮遊術による速度を超え、最悪の悪路によって減速される勢いを超えるように加速を続ける。暴走特急というにふさわしい走りである。


 忍如はすかさず山口の進路に先回りし声を張る。

 

「天出仁はどこだッ!」


 怒りに打ち震えた表情の山口はその言葉を無視して叫ぶ。


「どけっ! 邪魔だァっ!」


 鬼気迫る勢いと速度に、忍如は飛び退く。

 山口コウはそのまま忍如を吹き飛ばしかねない勢いで真っ直ぐ、ある目標に向けて真っ直ぐ走っていく。

 言葉の届かなかった忍如は、しかし一縷の希望をそこに見出して、山口を浮遊術で追う。


――奴は明確な目標に向け走っている。それは間違いなく天出仁!

 言葉が通じないとなれば真っ直ぐ追いかけていく奴を我々が導として追うほかない……!

 全く、獣じみた男め。手こずらせる……!

 

 忍如の思惑を察した魔術師たちも全速力でそれを追う。

 だが、シュウメイと心念は遥か後方から恐れていたものが近づくをの察知し、同時に声を張り上げる。


ミサキ(西園寺)が来(ました)!!!!』


 ヨシノリが背後を見ると、遥か後方の空より飛来する一つの影。

 頭部は完全に水疱沸き立つ肉塊となり、身体だけが以前と同じ魔力に包まれた『肉人形』がその表情の読めない肉塊を震わせながら飛行して追いすがる。その加速力は依然と同じく徐々に、徐々に一行に迫りくる。

 ヨシノリは苦々しくそれを見て考える。


――挟み撃ちだ!

 逃げる天出仁、追いかけるおれたち、そしてそれを追うミサキさんだったもの……!

 丁度挟み撃ちの形になっている!

 地上は肉塊だらけ、逃げ出す場も少ない……。天出仁に追いついて奴を早急に排除しなきゃ、おれたちがやられる……!


 事態は一刻を争う。鳥籠のような結界に閉じ込められる魔術師たちの一世一代の鬼ごっこは満月の夜の下、死屍累々の中、続けられる。


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