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混濁

     ……………


 心念は智衆を助けるべくこぶし大の石数十個を魔術で投石する。

 ほとんど同時に火球掃射を続ける忍如も石のつぶてを魔術によって智衆の援護に回る。

 上と下同時に無数の石が『肉片』へと襲い掛かり、ズタズタに引き裂かれた肉の中から智衆の姿が現れる。

 が、彼は未だ何か呪文の詠唱を続けている。

 心念と忍如の投石攻撃は続き、再生しようとする肉片を抑えていた。

 しかしながら、徐々に肉片の回復速度が上昇していき二人の攻撃が追い付かなくなっていく。

 忍如はその動きを子細に分析する。


――防御に割いていた魔力を全てこちらに集中してきている……!

 儂の術に対しても防御を解き始めている。奴とてこの火力で本体を攻撃されれば無事では済まされん筈!

 それだけあの智衆の行う術が問題だということ……!

 奴は、恐らく内部からあの霊自体を『解呪』するつもりだッ!


 忍如は一層苛烈に自身の火球掃射と石による物理攻撃を肉片へと差し向ける。

 だが、その勢い虚しく肉片は凄まじい勢いで智衆を包み込み、攻撃をもうほとんど受け付けないほどに堅牢な魔力防御を施されて行く。


 心念は師と共に行った攻撃が無為になるところを目前にして動揺を隠せずにいた。


「そんな……! ここまでやっても効かないほどの……。やはり、圧倒的魔力の前には……」


 心念のその絶望的な心境の吐露はヨシノリの耳にも届く。

 その言葉にヨシノリは拳を握り、自身の魔力量、力、魔術の扱い、全てにおいて何もできないということを再度自覚して怒りを覚えていた。


「まだなのか!? あとどのくらいで岩を操れる?」


 彼は振り返り『偽即身仏』を見る。

 痩せこけたその呪物は答える。


「対象を絞ったことで長引いています。あと1分25秒ほどです」


 ヨシノリはそれを聞き、別の手を考える。


――どう考えてもこの状況では智秀さんが1分以内に取り込まれてしまう。

 何かオレにできる事……。

 いや、それは少ない。出来ることと言えば精々……!

 だが、いや、一か八か……。

 やってみるしかない!


 彼は即座に行動へ出る。


『オカグレサマのお移りです、畏み畏みお願い申し上げます。オンキリキリ・バサリ・マシサダ・ソワカ・シドジュウソ・ソワカ』


 彼は詠唱により『オカグレサマ』の結界を解く。

 そして心念に叫ぶ。


「心念さん前へ! コレで奴を足止めします!」


 投石に集中していた心念はその声でハッとして一気に前へと浮遊術を操作。

 それと並行しながらヨシノリは再度呪文の詠唱を行う。


『オカグレサマのお目覚めです。畏み畏み申し上げます。どうか、どうか、お守りください。畏み畏みお願いします。オンキリキリ・バサリ・マシサダ・ソワカ・シドジュウソ・ソワカ』


 再展開されたオカグレサマの結界は夜叉母の霊体をすっぽりと覆い、不可避の魔術効果を適用する。

 智衆を覆いつくしていた肉も突然もがくような動きをはじめ、ランダムで混乱したような動きを見せて散り散りになり出した。

 霊体の内部も騒然として、沸き立つように霊体の輪郭がブレ始める。


 ただ、結界内には忍如やアナスタシヤも取り込まれそれぞれ精神的な混乱が発生し始めていた。当然、智衆も結界内にてその影響を受けるはずである。

 しかし、智衆は霊体内で一人、未だ冷静な様子で呪文の詠唱を続けていた。

 その異様な光景は魔術知識のある心念さえも驚愕するものだった。


「まさか……。結界内で対象に取られないなんて結界の強度を上回る異常な魔力を放出すること以外ありえない。結界に対抗するにはそれ相応の魔術を適宜行うほかない筈なのに……」


 そして、結界の影響を全く受けていない様子のまま智衆は詠唱を終え、魔術結合を紡ぎ出す。

 その結合はみるみるうちに夜叉母の霊体内に広がってゆき、その霊体自体を分解していった。


 複雑な言葉や詩的・呪術的表現によって紡がれた夜叉母を構成する魔術の本体は智衆の術により完全に解体され、夜叉母はその存在自体をこの世界から消滅させられてゆく。


 戦いのために実体を虚ろにした、虚ろな霊魂はその存在性すらも虚ろなモノへと変化し、消滅するのだ。


 精神を揺るがし意識を混濁させる『オカグレサマ』の魔術が襲う結界の中、夜叉母は深い怨嗟を込めた最後のうなり声をあげる。

 その声は幾千もの女性、そして中にいくらかの男性の声を混ぜ込んだような響きがあり、夜叉母を構成していた人間の感情が混濁するように混ざり合っていた。


 そして、そのうなり声の中から、ハッキリと強力な呪詛が響き渡る。

 

『不浄なるものと誹る者たちへ罰を、不潔なるものと嘲る者たちへ罰を、不埒なるものと怒る者たちへ罰を、穢せ、汚せ、辱めよ、そうして責め苦の果てに魂さえも食らいつくし未来永劫の苦しみを為してやる』


『ドガァアアアアアアアアアアアアン!』


 言葉と共に霊体の解体されつつあった残骸が最後の魔力全てを使い爆裂した。

 魔術師たちはヨシノリと心念以外その爆発に巻き込まれる。

 

「師匠!」


 心念はそう叫び、一目散に結界の中、忍如の元へと飛び込んでいく。

 ヨシノリは慌てて呪文を詠唱し『オカグレサマ』の結界を解除する。


     ―――――


 爆発のあと、夜叉母の居た地点を中心に巨大なクレーターが存在していた。心念はその荒野の中、地上のある地点へと一直線に向かい、瓦礫を薙ぎ払っていく。

 その様子は明らかに焦りを覚えていた。


 だが、そのすぐ近くの地面が割れ、瓦礫が粉々に破壊される。

 そこから忍如が現れ、彼は周囲を見ながらつぶやく。


「最後っ屁とて油断ならんとは、何たる強大さ……。倒してもなお恐ろしいわい」


 爆心地近くの瓦礫から智衆が立ち上がる。アナスタシヤも瓦礫の中より立ち上がり、操作する霊魂や魔術を解除していた。


 忍如は急いで飛んできた心念を見て言う。


「近くに反応は無いな?」


「あ、はい、ありません。先程の爆裂で魔力を全て使い果たしたのでしょう。どの道、内部からの解呪、助かる見込みは全くありません」


 安心した様子の心念の答えに、忍如もやや安心した様子を見せる。

 だが、すぐに彼は指示を向ける。


「では、急いで秘匿課のあとを追おう。回復は道中でいい。今は『天出仁』のことが心配だ」


「はいッ」


 智衆やアナスタシヤもすぐに忍如らのもとへ集まり、次なる場所へ移る準備ができていた。

 その中で移動のために香室が智衆と入れ替わり、天出仁の下へ向かう道すがら話を始める。


「皆さん意外と私と智衆について質問なさらないのね」


 彼女の近くを走るヨシノリがそれを聞いて彼女に尋ねる。


「まぁ、どこまで聞いていいのかわからないので……。さっきの霊の中に潜り込んだ方法とかは聞いてもいいんですか?」


「ああ、当然の疑問ですわね。そうですね、仔細は伏せますが、簡単に説明すると私と智衆は魔術上『死体』として認識されるということです。霊は基本的に『魔術的』に周囲の状況を感知しますので、夜叉母の下級怨霊の中にバレることなく紛れ込めたのですわ」


「霊は目でモノを見ているのではなく、感知によって認識していると……」


「ええ、その通り。それにあの霊体は『生物』を透過することはできませんが『物体』は透過可能。なので私と智衆は『透過』するようになった霊体内へと潜り込めたのです。まあ、中間的な『死体』は中途半端な適応でしたので内部ではちょっと動きにくかったのですがね」


 忍如はその話に耳を傾け、術の特性を分析する。


――条件操作に近しい術か。

 あるいはあの二人の人間が一つの身体に統合されている術の副次的効果の可能性も高い。

 恐らく我々の術では『死体』であっても通常の人間とほとんど同じ術適用ができるはず……。

 香室雅は確か『除霊』を生業としていた、それと合わせて考えると対怨霊の専用魔術と言ったところか……。


 忍如は抜け目なく少ない情報から相手の魔術効力を予想し分析を進める。

 だが、彼はその中で隣を走る心念の表情がやや神妙な様子である事を見つけると、心念に話を伺う。


「どうした? 感知で何か見つけたのか?」


「師匠……。前方から秘匿課の三人が来ます。ですが……」


 忍如はその報告に耳を疑う。

 あの天出仁に対して三人で無事に逃げおおせた事が信じられない様子であった。

 特に天出に対して強い恨みを抱くミサキが共にこちらに向かって来ている事に驚愕していた。


「何だ? 何を言い淀んでいる。負傷度合いが甚大だということか?」


「いえ、違います……。折口レイと土御門シュウメイの二人が、『西園寺ミサキから逃げている』……! 西園寺ミサキは魔術で二人を攻撃しています!」


「……!?」


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