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君臨する母

    ……………


 忍如はこの攻撃を好機として、下級怨霊たちの攻撃を受けに行き、『反撃』の魔術その『弾』を貯めて夜叉母へ火球の掃射として発射していく。

 夜叉母による持久戦の戦況はヨシノリの一手で簡単に覆り、その莫大な魔力はぐんぐんと削り取られて行く。しかし、そのように一手で覆った状況は、同じく一手で転換するとも言える。

 経験豊富な魔術師である忍如と霊魂の知識に富むアナスタシヤは夜叉母の『動きの鈍さ』と『動きの変化』に気づいておりその次なる手もある程度予期していた。忍如は自身にとっても危険なオカグレサマの結界の近くで暴れる下級怨霊の攻撃を受け、『弾』を補給しつつ冷静に次なる道を思案する。


――ヨシノリが出した『二つ目の呪物』は、岩による質量攻撃を得意とする魔術か。この速度でこの破壊力……。発動条件の緩さから言っても持続時間ありの連続発動不可であろうが、元の呪物によっては一時休眠でもう一発食らわせられよう。だが、夜叉母の動き……。何らかの予備動作、大技か、あるいは……。


 忍如は背後の明王像より火球を発射、夜叉母を攻撃する。彼は少しでも長く、夜叉母の集中力を削ることに執心していた。彼の思考の裏には夜叉母の発する気迫より感受される『嫌な予感』がある。

歴戦の魔術師ゆえに予知能力型の魔術師でなくとも彼は相手の思念のわずかな気配を察知できていた。それは第一級の魔術師に及ぶことはなく、不確かな要素も多いが、それでも彼にとっては重要な戦いの要素であった。


――せめて、このヨシノリの術が発動する中では奴の動きを止め……。


「!?ッ」


 その『変化』はひそかに、音もなく発生した。全てをなぎ倒し土地を均す岩と瓦礫の竜巻は夜叉母の大樹を荒々しく傷つけ、無数の爆裂を起こし勢いよく夜叉母の魔力を削っていたが、その瞬間に爆発は全て止まり夜叉母の傷は新たに生まれることはなくなる。

 この突然の変化にいち早く対応したのはアナスタシヤだった、彼女は霊たちと共に夜叉母への攻撃の手を止め退く。彼女の攻撃に手の空いた夜叉母が対応することを危惧したのだ。

だが、それもまた相手の思う壺。地面の引き裂かれたアスファルトを勢いよく突き破り、夜叉母の『根』がアナスタシヤを掴み取る。当然彼女は抵抗し、霊魂を招集しつつ自身の腕を掴みかかる根に振り下ろす。


『バチャッ!』


「!? なんだとッ!」


 アナスタシヤの拳がとらえた感触。それは『肉』。彼女はその『肉』が夜叉母の一部にある事は話を耳に挟んでおり、警戒もしていた。だが、現在、忍如の火球掃射が続き夜叉母も防御姿勢を始めていた。その防御には『肉』が当然必要となる。そのよく見える目、よく回る機転、そして危うい彼女の魔力残量、その全てが彼女を追い詰めた。

 彼女はすぐに拳接着面へ魔力を流し衝撃波を発する。だが、食い込んだ『肉』は彼女を離れず、せり上がる血管のように彼女の腕を這い上がる。それは強力な魔術と呪いによる作用であり、彼女の発する魔力では掻き消すことなどできはしなかった。

 

――解呪……。現代日本語ではない術式構造か……。しかも現代型の構造化が為されている。私の知識では安全な解体は不可能!

 

 彼女はその判断と共に『肉』に呑まれる自身の右腕に向け左腕を振り下ろす。


『ビチャッ!』


 彼女の腕を切り落とす覚悟を嘲笑うかのように彼女を這い上がる『肉』が意志を持った生き物の如く左腕へと飛び移り、彼女の魔力操作を無力化する。

 だが彼女は諦めない。肉に飲まれる中、到着した彼女の四体の霊魂は肉へと殴打や蹴りの応酬を絶え間なく浴びせ少なくとも拡大することと彼女を引き込むことを阻害する。


――四体での攻撃も足止めがやっと……! この『肉』、忍如たちの話と同様に内部は結界となっているな……。私の魔力操作が阻害される……。クッ……! たった一手で……!


 一方、ヨシノリは『偽即身仏』による質量攻撃を無力化する夜叉母の現状に困惑を覚えていた。


「どういうことだ……? 突然攻撃が効かなくなった……!」


 彼の下から心念が答える。


「『透過』です。霊体というのは本来物理的な実体を持たない魔力によって構成される存在で、通常の兵器や一般の人間による攻撃は効きません。代わりに霊体も物理的な干渉はできないのです。本来、霊というのはそう言う事情もあり魔術だけしか物理世界に干渉する方法は無いのです」


「それでおれがはじめて見た怨霊は壁を……。でも奴も家具を踏んで壊したハズ……」


「霊体というのは魔術で作られているのです。そして、霊魂はその魔力を高めることや人々の信仰によってその知能さえも高めていきます。一般的な人間ほどでないにしても、魔術を操ることが出来れば『自身の身体を構成する霊体』それ自体を『改変』して物理世界に干渉することが自在にできるのです……!」


 心念は目の前の巨大な夜叉母へ火球を放つ。眼下では彼の師忍如が火球掃射を行っているが夜叉母の伸ばす触手のツルによって防がれていた。彼はその光景を苦々しく見つめ拳を握り締めながら言う。


「霊体の実体化・物理化はコストがやや高いため、下級怨霊はそれをころころと切り替えて運用します。ですが強力かつ魔力に余裕のある怨霊はずっと実態を保ち、攻撃を避けるべく切り替えるのです……。ただ、この実体化は体積が大きいほど切り替える際に時間がかかり処理も複雑化するようで巨大な怨霊はほとんどやらない! やっても間に合わない! 僕も教本でそう知っていた! それを……。コイツは……!」


 ヨシノリは彼の背から震えていることがハッキリと伝わってくるのを感じた。動揺、焦り、恐怖。彼の首筋に冷や汗が滴るのも見える。ヨシノリはそれを見てなお、次の一手を模索し始める。


――オレにできる事。それをやらなきゃ、またお荷物だ! 見たところ忍如さんのように魔力を帯びた魔術攻撃は効く。だが、奴の防御をぶち抜けるパワーある攻撃はオレには無理だ……。『オカグレサマ』を移すか……? いや、忍如さんの攻撃を寸断するのは更に悪手。現状を崩壊させかねない……。


 そしてヨシノリの脳裏に『ラッキー38』の回答が思い浮かぶ。それと同時にやかましい声が彼の耳に再び響く。


『ヘイヘイヘイ! 困ったときの俺ちゃんってかい? (/ω\)イヤン。もう、このスケコマシ! まあ魔力注がれたらやることはやっちゃうけどさぁ、仕事ではするけど心は売らないんだからねッ!』


 ヨシノリは「チッ」と舌打ちをしながらペンダントへと魔力を注ぐ。彼の最大魔力量は戦闘ごとに受ける傷のおかげか、それともペンダントの影響か、ぐんぐんと上昇の一途をたどっており、ギリギリ3度の魔術発動に耐えることができた。彼は身を守るための魔力を全てベットしてルーレットを回す。


『フワーオ! 何が出るかな! 何が出るかな! ドゥルルルルルルルル……』


 ぐるぐると回転する絵柄、そこに描かれるのは柱に打ち付けられ、血を滴らせる腕、その場所は日本家屋……。


「アッ!?」


 ヨシノリは思わず叫ぶ。絵柄は最後の最後で明らかに異なる呪物を示す絵柄で止まった。


『デデーン! ヨシノリ、アウトー! 絵柄四枚揃えたのは評価してやるがウチのスロットはこれ、ハズレ。また魔力を入れて挑戦してねってコト。だがまあ、良かったなァ? 絵柄三枚以上揃わないと大ハズレ、出した呪物ぜーんぶボッシュートだったんだぜェ~? ヒャハハハハハハハァ~ッ!』


 その言葉にヨシノリは心中悪態をつく。


――クソッ! 何て不便な魔術なんだッ! そもそも一回目でハズレ引く可能性すらあるのか!? アイツ、これで毎回命のやり取りをやってるのか!?


『そうだぜ、天出(あのバカ)、毎回楽しそうに俺ちゃんを出すんだ。特にヨォ、ハズレた時がいっちばん楽しそうなんだよ。そんで、大体ここぞって時にハズレを引くんだ。最高だろ?』


「くっそッ……! イカレ野郎……!」


 ヨシノリの手は全て切られた。間もなく『偽即身仏』の念力による岩の嵐が止む。

 悪いことはさらに続く。攻撃を続ける魔力切れしらずの忍如だったが相手の夜叉母はじわじわと忍如の周囲を包み込むように自身の霊体を変形させていた。攻撃を止めるわけにはいかない忍如はその巨大な体躯を最大限に生かした戦法に突破方法を見つけられずにいた。


――なんて大きさだ……! ヨシノリの出した結界ごと儂を覆いつくし上書きする結界を張るつもりだ……! だが儂はこの結界を離れればすぐに『弾切れ』、相手は即座にこの身体の拡張と変化を完了させるだろう。心念もヨシノリも動けん……。儂らは……。詰みッ……!


 アナスタシヤの身体をゆっくりと包み込む『肉』もすでに彼女の身体をほとんど飲み込み、残るは足先と頭部だけであった。彼女の霊魂たちによる攻撃も続けられていたが、彼女自身の負担と疲労が頂点に達しつつありその攻撃の密度もやや低くなりつつあった。

 夜叉母の幹、その高い位置に存在し、全てを見下ろすように見つめる幾つもの女性の顔は勝利を確信したのか笑みを浮かべていた。だが、その表情はすぐに曇り、何かの異変に気付いたような様子を見せた。

 戦う魔術師たちの中で唯一夜叉母を見上げていたヨシノリはいち早くその慌てように気づいて驚く。


「何だ……?」


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