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イニシアティブ・ゲーム

     ……………


 巨大な結界を張るヨシノリと、その内部から夜叉母へ定期的に火球を飛ばす心念の二人は状況の移り変わりを前に、打つべき手を考えあぐねていた。夜叉母は取り込んだ『餓鬼道群体』の知能を受け継ぎ、忍如が反撃型の魔術をメインで操ること、アナスタシヤが長期戦に不向きである事を看破していた。

 ヨシノリが放った呪物『オカグレサマ』効果で同士討ちと混乱の渦にあった結界内の下級怨霊たちもすっかり消失し、他の霊たちは結界を避けて夜叉母の元へと向かっていた。

 術者であるヨシノリはこの状況で厄災の中心である『オカグレサマ』の像を動かそうと心念と協力して引っ張るなどしていたが、空中に固定されたそれはびくともしない。


『ヘイヘイヘイヘイヘイ! まぁだ説明が途中でしょうがァッ! 自分の術も理解せずにどうにか活躍しようなんてェ、ド三流のすることだじぇぇ? 理解したか?ドゥー・ユー・アンダースタンド


――それならさっさと教えてくれ! 使えないようなら次の術を引かなきゃならないんだ、人が戦ってんだぞッ! 早く!


『オーノー! 随分焦っているでゴザルねぇ。落ち着けよ、いま(おせー)えてやるよん。このぼろっちくて出来の悪いそこら辺の河原で取れそうなオカグレサマの御神体って奴をよ、動かすにはヨォ、コイビトを撫ぜるようにヨォ、やさぁしく撫でながら『オカグレサマのお移りです、畏み畏みお願い申し上げます。オンキリキリ・バサリ・マシサダ・ソワカ・シドジュウソ・ソワカ』って言えばヨォ、術式が一時的に休眠して動かせるようになるんだワ』


 耳の中へ直接流れ込むようなそのうざったい解説の通り、ヨシノリはなるべく優しく石像を撫でながら呪文を唱えた。

 すると周囲に張られていた結界は消失し石像はずっしりとヨシノリの手の中へと落ちる。ヨシノリは好機とばかりに心念へ指示する。


「心念さん、近づいてこの結界を発動させる! 忍如さんたちが攻撃をしている内に行こう!」


 心念はそれを受けすぐに浮遊術を操り全速力で夜叉母へと近づいて行く。だが、相手もそのまま彼らを近づけさせるほど愚かではない、二人の動きと次なる行動を予知した夜叉母の幹が一部、バリバリと音をたてて裂けると鉄砲水のようにウブメの群れが飛び出してくる。

 心念は手に持った金剛杵に魔力を送り形状を槍に変化させる。

 

――今まで産み落としていた量程じゃあない。だが、僕たちを足止めするには十分すぎる量だ……! 修典君を守りつつ、この量を突っ切ることは僕にはできない……!


 心念は槍を回転させつつ突進してくる下級怨霊を掻き消すように蹴散らす。怨霊たちは槍の発する魔力の前に蒸発するように消滅していくが、突撃の勢いはどんどん増していき、心念の飛行速度は徐々に圧され、退き始める。

 彼の背後に居るヨシノリは自分自身が荷物となっているこの状況を苦々しい思いで見ていた。


――これ以上の足手まといはご免だ……。このままでは押し切られ二人とも倒れるだけ……。今持っている呪物は状況に適していない。ならばやることは一つだろッ!


『ヒャッハッハァーッ! いい覚悟じゃぁん? ビリビリ注がれてくるぜェ、オメーの『熱意』ッ! 魔術にはこの『熱』が大事なンだよなァ~ッ。良いモン出る事、期待しなァっ! ドゥルルルルルルルル……』


 ヨシノリはペンダントに決意と共に魔力を注ぐ。現れたルーレットの像はぐるぐると絵柄を回転させつつ絵柄を揃えていく。そこに現れた絵柄は、袈裟を着こんだミイラと空中に魔力を帯びて浮かぶ石や岩の光景であった。


『デデン! いーいね! オメーさん、やァっぱ引きが良い! 良いよッ! コイツの名は『偽即身仏(TETSUO41)』念力を操るミイラだ。ただ穴ン中に間違って落ちて餓死した哀れなオッサンのミイラなんだが、ある村で間違って即身仏修行者として祀られていたがためにオッサンの霊が崇拝のパワーから呪に目覚め、呪物になっちまったんだなァ~ッこれが!』


 修典の背後に呪いの瘴気を発するミイラが現れる。袈裟を纏ったそのミイラは、意外にも動き出して、ヨシノリの方へ向き話しかけてきた。


「あ、どうも。自分、テツオって言います~。よろしく」


「えっアッハイ、どうも……。ヨシノリです……」


 ヨシノリを抱える心念が怨霊の突撃に圧されながら槍による戦闘を続ける中、あまりにも軽いミイラのノリに彼は困惑しすぎた結果とてつもなく無難な返答をした。今まで彼が招来してきた呪物は一癖も二癖もある『性格』だったために、拍子抜けしたせいもある。そのようにヨシノリが困惑する中、ミイラは乾いた身体をパキパキと鳴らしながら周囲の状況を確認して提案する。


「ヨシノリさん。とりあえず『全員』攻撃するんでしょうか……。それとも、『魔術師』は攻撃対象ではないという感じですかね?」


 丁寧な口調でミイラは訊く。ヨシノリは相手のノリに圧倒されてしまい、同じく丁寧な口調で対応する。


「あーそうですね、『魔術師』は除外して、あの下級怨霊とあの巨大な怨霊を攻撃してもらえると……」


 ミイラはその言葉に乾き切った表情筋をほとんど無理矢理動かし、少々不気味であるが敵意の無い笑みを浮かべて答える。


「わかりました。では……」


 ミイラは念じ始める。その念には明確かつドス黒い『殺意』が込められていることをヨシノリは『感知』した。これは魔術師特有の魔術に籠められた念を感じ取る、感知能力の副次的効能であるが、今のヨシノリはその知識を持っていない。彼の頭の中に『ラッキー38』の声が響く。


『コイツは『平穏』が大事なンだとよっ……。静かに死んでいたい自分を勝手に崇拝していた人間を恨んではいるが遠ざけるだけで殺しはしない優しい奴だぜぇ。だが、呪物として魔術師に狙われて人殺しもヤっちまうキレた奴になったんだぜ~っ。アホの天出に絆されてすっかり丸くなっちまったけどなァ~っ』


 ミイラの黒い瘴気は何十もの魔術結合となり地面へと降りていく。そして、下級怨霊たちの圧力で崩された家の瓦礫や石、岩へ魔術結合が付着し、魔術によって浮かび上がる。『念力』と言えるその力は『投石』という最も原始的で最も確実な『攻撃』を繰り出し、怨霊たちを引き潰していく。

 漆黒の殺意によって自在に駆動するその攻撃は『岩の嵐』として怨霊たちを荒々しく消し飛ばし、巨大な夜叉母の幹に軽々と傷をつける。傷よりしみ出した火球による爆発も、岩をさらに細かく砕き攻撃の鋭利さを増すのみである。

 その強力な攻撃を目の当たりにした忍如とアナスタシヤはこれ幸いと一層苛烈な攻撃を仕掛けていく。心念も真っ直ぐ夜叉母へと突撃、ヨシノリも『オカグレサマ』の再起動に向け準備を始める。


『再起動かい? それには、そのきったねえ石像をさっきと同じく撫でながら『オカグレサマのお目覚めです。畏み畏み申し上げます。どうか、どうか、お守りください。畏み畏みお願いします。オンキリキリ・バサリ・マシサダ・ソワカ・シドジュウソ・ソワカ』ってな呪文を唱えるんだぜ~っ。やったらメンドクせえだろ? 天出もオレもややっこしくてコレ嫌いだぜ~ッ』


 ヨシノリはその余計な感想を無視して、心念が十分に近づいたところで呪文の詠唱を開始する。だが彼は詠唱中ふと、視界の端、地上を歩く一人の影が気になった。そこにはコソコソと動く香室が、夜叉母の本体に近づき、パッと姿を智衆に変容して少しそれに触れた後、また香室へと変化し別の位置へと移っていった。ヨシノリはその光景に幾つもの疑問を思い浮かべる。


――なんだ……? 香室さんたちは一体何を……。いや、それより、何故下級怨霊の中であれだけ自由に動き回れているんだ……? 夜叉母の感知能力も高い筈……。


 だが、そんなことを考える間もなく彼の呪文詠唱は完了し彼の周囲6メートルを守る結界、そしてその外半径数十メートルに混乱と苦痛をもたらす二重の結界が展開される。夜叉母の巨大な幹は一部その結界に呑まれ、夜叉母の眷属たる下級怨霊たちも暴れ出し同士討ちや結界外に出てもなお凶暴性を示し続けるなど夜叉母の支配を揺るがしていた。

 これでまた戦況は変動していく。


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