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呪いと太陽

     ……………


「偽物……! 偽物の主……! 私は、騙されていた……? ゆ、ゆるさん……。許さなぁーい!」


 美しい女騎士の姿にノイズが走り、声も歪みつつある霊が剣を神霊の喉元へ突き立てながら叫び、突撃する。流石の神霊も二体の強力な霊を相手取る中でこの攻撃には対処しきれない。無数の腕によって攻撃を防御していたため、首元を守る魔力はわずかであり、そこへ呪いの力が突き刺さる。


『ドガッ』


 ぶつかった剣は鈍い音と共に弾かれ、だが騎士は次なる攻撃を振りかぶる。二体の女性霊魂もまた連携攻撃を緩めない。燃え盛る炎の中心の如く、灼熱のオーラを纏う阿修羅の如き神霊に近づく三体の霊は確かに攻撃で相手を圧倒している。

 ヨシノリはその様子から勝機を見出していた。


――禍を転じて福と為す、か。あの騎士さっきよりもパワーを感じる。このまま圧して行けるか? いや……。あれは……!


 彼は数メートル先の魔力を感知して悟る、その攻撃を加えて優勢に立っている霊体たちは着実にその熱波のダメージを負い、自身を構成している魔力がどんどん減衰しているのだ。攻撃時点で姿に歪みが生じていた騎士はその姿のほとんどが黒い影のようなノイズに代わっており、数十秒長く攻撃を続ける二体の霊もまたその存在が薄れ始めていた。

 爆発を受けて折口や諜報員はすでに立ち上がりヨシノリよろしく十数秒状況をうかがっていたが霊たちによる攻撃の限界を察知し、動き出す。今ならば流石の神霊も彼女たちの動きに対応して火球を事前に爆破することはないだろうという見積もりだ。


「!?」


 だがその見立ては甘かった。


『ドガァアアアン!』


 二者がまたしても察することのできないほど的確に、その近辺数個の火球が同時に爆裂。足止めに成功してしまった。諜報員は再びの失態に焦りを覚える。


――感知、予知能力共に我々を凌駕する神霊……! 操る下級怨霊たちの爆裂はそこまで強くないにしても足止めには十分……。私の霊たち、そして心念を確実に始末し勝機を摘み取る算段だ……! 


 絶え間ない連撃と黒い騎士による防御のし難い一撃に晒される神霊は、しかしそれらの攻撃の重みが薄れていることを感じ取り、笑みすら浮かべ始める。無機質に攻撃を続ける二体の霊の存在も本格的に透明化している。ヨシノリの放った騎士の攻撃もまた弱まりつつあり、女騎士はその姿をほとんど影のようなものにしていた。

 三体の霊魂による攻撃は神霊の持つ魔力を削ってはいたが、神霊の熱気はそれを凌駕する力を放っていた。そして、神霊は三体が最後の力を振り絞り繰り出した同時攻撃を防ぎきる。諜報員が操る二体の霊はそれを最後に消滅。残るは、ヨシノリの黒い騎士だけである。


『バシュッ!』


 だがその時、阿修羅の如き神霊の腕が一本、閃光と共に吹き飛ぶ。


「ゲホッ……。十分だったようですね……! 死ぬかと思いましたよ……!」


 閃光を放つ金剛杵を握り、心念が不敵に笑う。神霊は相対する霊魂から来る攻撃を防御するべく心念を締め付けていた腕の魔力を減らさざるを得なかった。そして三体からの同時攻撃によって神霊の魔力は大きく操作され、心念が至近距離の一撃で腕を吹き飛ばせるほどに防御がほんの一瞬緩んだ。彼は備わる鋭敏な感知能力によって隙を見逃さなかったのだ。

 一つの腕が吹き飛んだ神霊、だがそのことに動揺することもなく即座に心念への攻撃が始まる。霊たち以上に近くで長い時間熱波に晒されていた彼は順当に弱っている。多数の腕による魔力の攻撃は彼の技量を優に超える操作が行われ、彼の防御に要する魔力量は膨大であった。拳が数発当たれば彼はすぐに倒れるだろう。そして、躱すこともできない。

 しかし、心念は退くことなく、神霊の懐へ向かっていく。彼には感知によって知覚されていた。そして恐らくは神霊もまた覚っていた。火球の園の中を小細工なく、まっすぐ進む霊、そしてそれに担がれるヨシノリの姿を。

 ヨシノリはとにかく、このまま心念がなぶられる状況を変えたかった。


――オレはあの僧侶の兄ちゃん以上に魔力がカツカツで抵抗力もない。だが、この白衣の霊がまだいる。この状況、どのみち退路はない。なら、とにかくやるしかねえんだよ!


 歯を食いしばり、ヨシノリはそう強く思う。その思いに呼応してか彼を担ぎながら快活な走りを見せる霊も力強さを増す。

 だが、そんな彼の決意も爆発によって塗りつぶされる。


『ドガァアアアアアン!』


 無策に突っ込む彼の周囲三個の火球が的確なタイミングで自爆。神霊は彼を担ぐ霊魂の到達を警戒したのだ。

 しかし、その爆炎の中から、わずかな火傷を負ったヨシノリが神霊に向かって飛んで来る。それは凄まじいスピードであり、神霊は彼が抱えられていた霊魂によって投げ飛ばされてきているのだということを察する。

 だが、ヨシノリの魔力はほとんど底をつき、今でさえ火傷を完全には防ぎ切れていない。神霊は彼を一瞥することもなく、無視し心念への攻撃に意識を向けているようであった。

 その判断が間違いであったことに、神霊は自身でいち早く気付いた。


「ゆるさなあああああああああああぁいっ!」


 咆哮。黒い衝撃。瘴気。

 ヨシノリに向けられたその叫び。しかし、攻撃の矛先は神霊。

 黒い影となっていたヨシノリの騎士は『執着の対象』であり『術者』であり、『恨み』を向ける相手でもあるヨシノリが近づくことによってその呪いの力を増幅。強力かつ、素早い一撃を神霊に叩き込んだ。

 ヨシノリはその様子を地面に叩き付けられながら見て笑う。


――ハハッ……。賭けに勝った。オレを恨むパワーは、奴の予想外だったようだな……!


 だが、全てを見通す神霊は心念への攻撃も、そして予想外だった黒い影の騎士への防御も中途半端なものにして、『自身の背後を守る腕』に防御を集中する。それは、この一瞬後、ヨシノリに触発され己を顧みず爆発を超えて突貫してきた折口が神霊の背後から攻撃を仕掛けるためであった。


 『ドガッ、ガッ、ザバッ!』


 心念は神霊より受けた攻撃を何とか防御し致命傷を避け、黒い影の騎士は神霊の腕に強力な一撃を叩き込み一本、腕を砕く。そして折口レイが振り下ろした刀による全力の一撃は神霊の一本の腕によって防がれる。


 折口は神霊の予知能力に驚愕を覚えていた。


――ヨシノリ君の登場は予想外だったようだけれど、私の一撃を察知して心念さん、霊魂への魔力操作を緩め、こちらの防御に回した! 驚異的な予知能力。でも、完全な詰みは予知できても意味がない!


 折口は即座に二撃目を用意すべく刀を振り上げる。その大きく隙ができる攻撃に、神霊はしかし、攻撃をすることはない。

 折口の働きを見て負けじと迫りくる諜報員による走りざまの一撃、影の騎士によるもはや剣かどうかもわからない黒いものによる殴打、そして弱り切っている筈の心念が執念で放つ魔術の閃光。神霊はそれらすべてを受ける決心を固めていた。


『ザバババッドガガッ!』


 本来対立し合うはずの者たちによる奇跡的な同時攻撃、二つの刃、一つの打撃、そして閃光によって焼かれる神霊は、削られてもなお残る魔力の一部を動員し腕が欠けていながらも三対の手を合わせる格好を遂行し祈りを成就させる。


 立ち上がりかけていたヨシノリが叫ぶ。


「ここから離れ……」


『ゴォオオオオオオオオオッ!』


 真昼の太陽のような輝きが神霊から放たれ、周囲を焼き尽くす。近隣は一瞬昼のように明るくなった。


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