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血濡れの鬼

     ……………


 猛牛に跨る神によって散り散りに吹き飛んだ魔術師たちとヨシノリはブロック塀や地面に打ち付けられる。

 だが、山口コウはそんな中いち早く飛び起き空を蹴って一目散に空を舞う龍に攻撃を行う。

 その彼の口角は上がり、興奮に満ちていた。


――龍殺し、心躍るじゃあねえかッ!


 戦いによりランナーズハイに近しい状態になりつつあった山口は、先程の秘匿課とヨシノリらによる停戦の試みに内心不満を抱いていた。だが、そこから解放された今、彼は戦いの興奮を存分に味わおうと急いていた。


「近接戦はどうだぁッ、ミミズ野郎!」


 一気に距離を詰めた山口は龍の長い胴体へ拳を振るう。だが、魔力によって構成された霊体はその拳にぶつかった途端、硬質な金属がぶつかったような轟音を鳴らす。


――なんて硬さ! 鋼のカタマリを殴った見てえだ! 殴った俺の方が痛みを感じるなんて何時ぶりだ……?


 骨髄に沁みる衝撃に彼は更なる興奮を覚え、猛りをそのままに叫ぶ。


「楽しませてくれそうじゃあねえか!」


 山口は退くことなく連打を開始。だが、龍は上半身とも思える部位をよじる。山口はその動きを見て直接の攻撃を龍が試みていることを察知する。


――動きは大雑把、読みやすい。やはり強力な魔術と比べ近接戦はやや苦手か。


 彼へ爪を立てた龍の腕が殴りかかってくる。彼は様子見も兼ね防御姿勢へと移行する。だが、龍の腕は彼の防御姿勢が固まるより早く彼の身体を引き裂く。


『ザシュッ!』


――緩急! 見えてる動きだったはずなのに、反応できなかったッ! 実際のスピードなど戦闘において無意味なのは知ってる。だが霊体がここまで高度な近接戦闘技術を! 野郎ォ、俺をおちょくりやがって!


 遥か後方へ吹き飛ばされる山口だったが、空中で不可視の足場を展開、そこに叩き付けられることで停止してすぐに龍の下へ跳ぶ。その衝撃により彼のアバラにわずかな罅が入った。


「いいねぇ、暖まってきたぁっ!」


 そう叫んで果敢に龍へと飛び掛かる山口であったが真下から激しい光が彼の全身を包み込むように照射される。


――!? 下の連中より俺を狙って……。


 高熱が彼の全身を包み込むとともに彼の正面にいる龍は彼のもとへ突撃を仕掛ける。彼は防御姿勢も間に合わずその体当たりをまともにその身に受ける。


『ガキィイイイイイイン!』


 鋼鉄のぶつかり合う轟音が響くとともに山口はレーザー光線の如き速度で遥か後方、300メートル近く吹き飛び住宅へと突っ込む。


『ドガァアアアアアン! ガラガラガラ……』


 住宅を半壊させた山口は激しい全身の痛みを感じながら、すぐにむくりと起き上がる。


――アバラ4本、内3本はキッチリ折れてるがあとの一本は粉砕か。胸を含めた6か所の切り傷。胸のややえぐられたやつ以外は浅い。背中が全体にかけ打撲、結構な内出血も感じる……。戦闘再開可能まで8分てとこか。


 彼は移動のため立ち上がると、ある事を感じ取る。


――人間……。ガキが一人。この家の住人、世俗人(魔術師じゃねえ)……。今まで何とか隠れていたのか?


 山口が立っていた場所はほとんどぶつかった衝撃で吹き飛んでいるがリビングダイニングであることがかろうじてわかる。そこへ通じる室内の扉が開き、7歳くらいの大人しそうな男の子が怯えながら彼を見る。山口は面倒そうなため息を吐き、子供に向かって話かける。


「あー、すまねえな。お前ン家を。俺は……。あー、くそっ……。すぐ出ていくよ。お前は今まで通り隠れてた方がいい。俺に関わったことは忘れろ。死にたくなけりゃな」


 そう言って彼はすたすたと自分の明けた家の大穴から出て行こうとする。だが、怯えていた子供は彼に駆け寄りズボンを掴んで震えた声を上げて話す。


「ま、まって。たすけて。お、お化けが外に」


 山口はその子供を見て露骨に嫌な顔を示し舌打ちをするが、周囲に低級怨霊が集まりつつあることを察知して大きくため息を吐く。


「チクショウ、おい、ガキ。しょうがねえから肩に乗っけてやる。俺も今は休みてえんだ。別のどっか安全なとこまで送る」


「で、でも、お父さんとお母さんがまだ帰ってなくて……」


「ああ? 留守番か……。いや、帰って来ねえだろ」


 山口がそう言うと子供は不安気な顔から、顎を震わせ「え?」と泣き出しそうに声を震えさせている。


――クソガキが、泣きだして怨霊が寄ってきても邪魔なんだよッ。あー、クソクソクソッめんどくせええええええっ!


 山口はいらいらとしながらも子供をひょいと方に乗せながら言う。


「あれだ、多分避難してるって事だ。ここら一体が封鎖されててな。ああいうバケモンを閉じ込めてんだよ。だからおめーの親父もオフクロもこの遅くにまで帰れてねえんだ」


「……。いつももう少し遅くに帰ってくる……」


「アあ? ああ、そうかい、そりゃ御気の毒。だが、それでもこの状況じゃここまで帰ってこれねえことはわかるだろ?」


「うん……」


「だから俺がお前をああいうバケモンが近づかないとこまで送ってやるってんだ。いいか?」


 子供は頷く。山口は方に乗せた子供を含め気配を消す。彼の魔力操作はそこそこの技巧を持つが、他者に作用するタイプの操作に関しては初めてであるため中々苦労している。


――クソっ。俺は一人でやるのが一番慣れてるってのに。めんどくせえことになりやがった……。


 彼は静かに夜の闇に溶け込み住宅街の屋根を伝い跳んでいく。今宵の闇は皆既月食により一層深く、蠢く者たちはその闇で増長するように活発に動いていた。

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