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香室雅と『謎の男』

     ……………


 闇夜を爬行する龍が近づく中、近距離での相手の力量を図ることに長けた感知を持つミサキと心念らはその龍が極めて強力な魔力を帯びる怨霊であることを悟る。ミサキは叫ぶ。


「第一級相当の『神霊』だッ! 全員でかからないと死ぬぞッ!」


 龍はその叫びの一瞬後、腕に握った雨雲から雷鳴がとどろき、稲妻が落ちる。その標的に取られた香室はその瞬間脳内に『声』が響く。


――『雅、左に跳べ、その後なるべく多くの魔術師を髪で掴んで跳躍して逃げろ、そのあとは『私』がやる』


――貴方が『表』に? 駄目ですわ。忠告は聞きますが、これは私の戦い。手助け以上は必要ありませんわ。


 『ドガァアアアアアン!』


 香室が思考の最中跳躍した直後、彼女のいた地点に落雷が落ちる。その雷撃は並大抵の魔術師を一瞬で焼き殺す強力なモノであった。だが、雷鳴は今だ鳴り続け、予知能力に長けた魔術師たちはこの場に何発もの雷が落ちることを悟っている。

 香室は指示のあった通り、周囲に居た忍如、コウメイ、ミサキを髪で掴み取る。彼らがその意外な行動に一抹の驚きを見せる中、彼らのすぐ近く、アスファルトが盛り上がり太陽光のようなまばゆい光が、そのアスファルトをコールタールに溶かし尽くして地下より漏れ出る。


 「何だッ!?」


 地下から、猛牛に乗った三面六臂の阿修羅が姿を現す。光に包まれたその姿は荒れ狂う牛に刃を突き刺し、西洋的な顔と東洋的な顔、中東的な顔の三つの顔を持つ奇妙なモノであった。香室は即座に悟る。


――これもまた『神霊』! ですがこちらは怨霊信仰とは異なるようですわね。『神』として我々人間とは全く異なる『霊魂』を持っている!


 香室たちを後方に吹き飛ばした『光』と共に現れたその神霊は六つの腕のうち一対を合わせる。その直後周囲に様々な姿をした低級怨霊が10体円状に現れる。ミサキはその異常性を目の当たりにして分析を行う。


――低級怨霊の生成と使役! 神霊としての格が高い。それにあの出現した怨霊の形状はいずれも西洋、東洋、中東の区別ない妖精や妖怪の類を基にしている。あれだけ格が高く洋の東西を問わない信仰となると特別指定、特異指定存在級の力を持っていてもおかしくない!


 全員分が悪いことを悟り、逃避の動きを見せる中、牡牛に跨る阿修羅は三対の腕を一度に合わせ、祈りを行う。

 それと同時に周囲の低級怨霊が一斉に炸裂、爆発を発生させた。


「マズいッ!」


 爆発により全員が散り散りに吹き飛ぶ。だが、香室雅は髪によって掴んだ人間を抱えたまま遠方へ向け跳躍し難を逃れる。一跳びで地上20メートルほど飛び上がり緩やかな放物軌道を描く香室はまたしても『彼女の中に居る彼』と対話を始める。


――この程度の危機であれば私だけで十分逃れられたでしょう? 少々過保護すぎるのではなくって? もちろん貴方が私の身を案じてくれるのは嬉しいのですがね。愛を感じますわ。


――『いや、まだだ、私に代わってくれ。一瞬でいい。まだもう一体攻撃が来る。それは私でなくては対処できないと予知されている』


「なっ!?」


 香室が忠告に驚く中、広範囲感知タイプであるシュウメイ、忍如は一抹の違和感を周囲に覚えていた。シュウメイが話す。


「100メートル余り遠くにもう一体、こちらを向こうも感知している怨霊が……。いや、コイツ……。なんだ……?」 


 更なる鋭敏な精度を持つ忍如が言う。


「実体がある。恐らくは贄となった肉体を混ぜ合わせたものだ」


 ミサキが考察を述べる。


「天出仁の作り出した怨霊か、ミゾロギの隠し玉か……」


 香室は遠方に存在するもう一体の怨霊に対して『自分の中の彼』が警戒する理由が分からなかった。だが、彼女の狭い範囲ながら『隠された魔術的結合』を鋭敏に感じ取れる感知能力へ集中したことでその理由がはっきりとわかる。


――高度な隠匿が為された魔術!? この遠距離へ!? 


 彼女がそれを察知した瞬間。忍如、シュウメイ、ミサキを包んでいた『髪』が消失する。


「!?」


 全員がその一瞬の出来事に驚愕し、同時に現れた異常な瘴気に警戒する中、香室、いや、一瞬前まで香室であった謎の男は黒一色に統一されたスーツの懐から七つの霊符を取り出し投げ捨てる。隠匿された魔術結合が彼へととりつく中、その札は五芒星を魔術結合によって示しつつ残った二枚が月と太陽のイメージを(ヴィジョン)として示し魔術結合へと収束していく。

 陰陽師である土御門シュウメイはそれを見て術を把握する。


――陰陽五行封印! あらゆる属性の相剋によって全ての術を封じる陰陽道の五行思想を基盤とした術……。日本語である魔術ならばほとんど介入可能であるが、無詠唱ながらあの強度と方位・星座配置確認の精度! それにあの霊符の強度! 私が見た中でも有数の使い手だが……。記法が独特だ。正当な陰陽師ではない。


 霊符が隠された魔術結合の合間に挿し挟まり術式は封じられる。だが、魔術結合に強力な魔力が注がれると同時に結合は崩壊、霊符も焼かれ消滅する。

 それを確認した謎の男は一瞬で香室雅へと姿が戻る。周囲の面々はそれが彼女の見せる(ヴィジョン)ではなく本物の肉体であることを感知能力から知っている。そして同時に先程見えていた謎の男の肉体は異常とも言える強度の『呪い』を宿し、その瘴気に包まれていたことも知っている。

 だが、地上へ降り立った彼らはそのことへの警戒心よりも先にまたしても懲りずに近づく『実体を持つ怨霊』への対処に集中するのだった。


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