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全ての黒幕

     ……………


 ヨシノリ、土御門シュウメイ、折口レイ、香室雅ら四人は一段となって街を徘徊する怨霊を避けつつ、街の南へ歩みを進めていた。その中で、ヨシノリは腕の違和感に耐えつつ、折口に尋ねる。


「あの、折口さん。その……。色々、聞きそびれてたんですが、道中でうかがってもいいですかね?」


「あ、ええ、勿論。すみません気が回ってなくって……」


「えっと、まず、折口さんは、『魔界府秘匿課』というところに務めているんですよね?」


 ヨシノリは天出仁から聞いた情報を確認すべくそう伺う。


「ええ。そうです、私たちは日本魔界府府庁、魔術呪術物品秘匿二課所属の公務員です。

 主に魔術や呪術によって作り出されたり自然発生した物品を回収・保護すること、そして許可なく魔術を行使・喧伝する『違法魔術師』を取り締まる業務を日本政府および国連から認められ執行しています」


 それを聞いた香室は笑って言う。


「普段はわたくしたち、取り締まられる側ですからね。ホホホ……」


 呆れた様子でシュウメイが言う。


「指定されていればの話だ。初犯は私達も流石に尋問して正規の手続きを案内するよ」


「あら、存外話は通じるのですね。だからと言って手続きを踏む気はないですが」


 いちいち逆なでするようなことを言い連ねる香室を無視してヨシノリは質問を再開する。


「あの天出仁というのはどういう人間として知られているんですか」


 折口が少々ためらう中、シュウメイがそれに返答する。


「魔界においては最重要指名手配の一人として認知されている。複数回にわたる魔界への不法侵入、魔術大学資料の無断閲覧、秘匿物品の窃盗、怨霊封印セクターの解放、何より……」


 シュウメイは言いよどむが、すぐに口を開き答える。


「日本魔界名家『西園寺東家』の虐殺」


 ヨシノリは予想外の罪状に唖然あぜんとする。


「虐殺……」


折口は苦々しい表情をしながら語る。


「私たちのもう一人の仲間、西園寺ミサキの生家です。唯一の生存者である彼女の証言、状況証拠からも天出仁が犯人であると判明しています」


 シュウメイは前方を警戒しつつ語る。


「使用人、当主、親族、総じて36人を魔術の犠牲とした。

 何らかの魔術儀式に死体を『利用』した痕跡も見られている。前々から奴は死体に関しては雑に扱うことで有名だった。本人が『死体はただの物質』と堂々語っているそうだ……。

 それも相まってミサキの天出仁への恨みは強い。魔術というのは個人の感情でもパワーが増幅する。その感情が恨みであれ、愛であれ、なんであれだ」


 折口レイは口を開く。


「正直……。さっきの場所、天出仁の居た場所にミサキがいなくて良かったとさえ思ってる。

 彼女があの場で奴を見過ごせるはず無い。ミゾロギよりも優先して殺しに行く。ミサキと天出の一騎打ちならまだ勝算は持てるけれど、ミゾロギも相手となると厳しい……」


 香室は再び話に入る。


「本当に天出仁さんがその虐殺の犯人ですの? 魔術による殺人の痕跡は時間がたつほど証拠としての価値が減りますわ」


 シュウメイは答える。


「魔力的痕跡の調査は難航していた。

 何せ今年の上半期は魔界府の戦争で行政は大混乱。未だに秘匿課も動きが鈍い。

 だが、天出仁は確実にあの場に居て、ミサキと戦闘を行った。不明な魔術儀式で当主などは殺されていた。魔界公認の術を使用する西園寺東家の者が扱うはずのない術だ……。奴以外考えられない」


 香室は信じていない様子でその話を聞いていた。

 ヨシノリもまた、己の抱く天出仁の心象(イメージ)から大きく異なる事実に困惑と不信感を覚えていた。

 だが、もしも今確認に向かっている『結界』が内側から脱出不可能にしているのが、香室の言うように天出仁である場合、その虐殺のイメージとも適うように思えてくる。


――怪しい人物であることはずっと変わりない。俺の方がアイツに騙されているんじゃないか……?


 疑念は彼の脳裏で渦巻き続ける。

 そんな中、彼らが歩みを進めていると上空に違和感を覚え始める。空が半透明な黒い膜に覆われていることが認識され始める。シュウメイが確認する。


「アレが結界か」


 香室が返答する。


「ええ。元は白い結界でもっと近づかないと見えませんでしたわ。天出仁が書き換えた事で性質が変化したようでした」


「……。直接確認しなければ何とも言えないが……。

 基となっているのは確かに秘匿課が管理していた結界だ。『祠』の封印が壊れれば何重かの結界が起動するのだが、道中壊れているのを見た……」


 ヨシノリは街にあった奇妙な祠の楔を思い出す。そして、ミゾロギタクヤが初めて彼と邂逅した際、信者と思しき人々に何かの破壊を命じていたことも繋げて思い出された。


「ミゾロギが、恐らく信者を利用して……」


「なるほど。用意周到な奴だ」


 そして一行は黒い半透明の結界による壁が道路を寸断している場所までやってくる。シュウメイはその結界に触れ結界を構成する魔術結合を読む。


「ううむ……。かなり複雑な記述形式だ。

 複数の文を混交させている上に使用言語も複数。意味的な分け方も難しい。術式から効果を推定するのは無理だな……。だが、明らかに『第一級魔術師免許クラス』の知識で構成され、改変された痕跡も残っている。単純な秘匿管理結界とは全く異なるものだ」


 シュウメイはそう語りながら結界を手でノックする。音は出ない。


「脱出は不可能に近いな。触れるだけで進行不能の神経操作術と精神操作術、物理的な反発が同時に起きてはじき出される。攻撃性能はないが……。!?」


 話す中でシュウメイは何かを察知して後ずさる。折口はその様子に驚き訊く。


「シュウメイ一体何が……」


 シュウメイは目の前の結界を凝視している。折口がそのことに気づき、彼の視線の先へ目を移すとそこには結界を通り抜け、外から『こちら側』へ入ろうと怨霊が顔を出していた。


「ギャハハハッ! ばぁ」


 怨霊は肥大化した頭部でニヤリと不気味に笑いながらシュウメイたちに近づく。彼は言う。


「結界は、外から侵入可能……! 天出仁はこの結界を『犠牲者を増やすトラップ』として使っているということか!?」


 その言葉とほぼ同時に襲い掛かる怨霊。

 シュウメイはすぐに攻撃態勢を構えるが怨霊は『矢』に眉間を射られ消滅する。その矢は文字が描かれた『破魔矢』であった。

 背後を振り返った一行はその場にスーツ姿で少々のかすり傷を負った眼帯の女性、西園寺ミサキがいることを認める。彼女は口を開く。


「やはり、天出仁がこの事件の黒幕で間違いない。奴を捕まえて結界を解除させ、脱出する。それが私たちの目的だ!」


 その片方の瞳は黒い決意に満ちていた。


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