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天出仁の計略

     ……………


 時は少し戻る。

 ヨシノリは折口レイと香室雅と共に住宅街を進んでいた。

 ミゾロギからなるべく遠くへと逃れるため、折口はヨシノリに肩を貸しながら、周辺の怨霊を避けつつ天出仁の結界から距離を取る。

 彼女は背後に現れた巨大な黒いドーム状の結界を見てその強靭な魔術としての強度に青ざめる。


――あんなに大きな効果付き結界を一瞬で……。天出仁。彼が所有している呪物は強力過ぎる……!

 第一級相当の違法術師どころじゃない、世界でも上位数百名しか居ない『特別指定級魔術師』が相手すべき存在……! 


 彼女がそう考える中、先を走る香室が足を止め、先を見つめたまま話す。


 「何者かが来ますわ。貴女、お知り合いに複数の防壁を操る方は?」


 「! 私の仲間です。合流しましょう」


 折口はそう答えつつ相手の力量を見定める。


――この人……。確か香室雅と言っていた……。

 恐ろしく広い感知能力範囲。

 私の感知範囲を大きく超える範囲の魔術を種類まで判定している。

 身体能力強化に加えて感知型としての能力も持つ魔術師。こんな人が無名の違法術師として活動していたというの……?


 折口は二級相当以上の違法術師資料で見かけた覚えのない名前、顔の香室雅をいぶかしげに見つめる。その間も香室雅は弱っているヨシノリをちらと見る以外はやってくるシュウメイの方を見て警戒を怠らない。


 やがて、前方から角を曲がり防護壁に囲われて走るシュウメイが現れる。彼は折口らを見ると声をかける。


「レイ! どうなってる?」


「話は後で! とにかくまず怪我人を!」


 それを聞いたシュウメイは折口に肩をかりて息も絶え絶えのヨシノリを認め、防護壁から抜け出して駆け寄る。

 彼は懐から護符をすぐに取り出し、ヨシノリの腕にある傷口にその札を張る。そしてまた、懐から方位磁石を取り出すと特定の方位に向けて呪文を口ずさみながら指で格子状に空を切る。


『オン ソチリュシュタ アジャミクダ ソワカ 北辰天帝功徳を顕わしたもうこと畏み畏み願い申し上げる』


 その呪文により彼から魔術的結合が紡ぎ出され、ヨシノリの腕に張られた護符へ、そしてヨシノリの傷口へと魔術的結合が伸びる。彼の傷から流れ続けた血は止まり傷口がかさぶたになる。同時に、ヨシノリは腕の内部がうずく感触を覚える。


「しばらくうずく感触があるだろうが回復反応だ。傷自体は数時間程度で直るだろう。一部骨が削れている部分があったようでその回復が一日程度かかる見込みだ」


 シュウメイの矢継ぎ早の説明にヨシノリは「ああ、ありがとう」と冷や汗を拭いながら言う。彼の腕の激痛と痺れもすでに引きはじめていた。

 その言葉を聞いてすぐ、シュウメイは折口の方を向き彼女に問う。


「で? 状況はどうなっている?」


「天出仁と彼女、香室雅そして彼、只野修典が一段で行動していたところにミゾロギが現れたようだった。恐らくミゾロギは吹き飛ばした私と山口コウを追ってきたところだったはず。天出仁は一人でミゾロギを相手している。私たちは巻き込まれないために逃げてきた」


「フム……。天出仁はこちらに危害を加えてはいないのか?」


 折口は頷く。香室はその言葉に反応し話に入る。


「あら、違法術師というだけで随分と信用が無いようね」


 シュウメイは呆れた様子で言う。


「当然だ。『国際的犯罪者』なのだから。

 だが、この状況とミゾロギの存在は君たちのような奴らへの対処を特例的に後回しにすべき状況だ。今の判断基準はこちらに対して『有害』か『無害』かそれだけに絞られる」


「では、有害とならないように気を付けますわ、できる限りは、ね」


 香室は皮肉っぽくそう言う。シュウメイはそれを一瞥した後レイとの話に戻る。


「とにかく、そのヨシノリ君の安全確保が最優先だろう。今まで私が住宅街を確認して回ったが『肉』となっていない『世俗人』は彼以外見つからなかった。

 尤も、あまりしらみつぶしに探せてはいないが……」


 折口は頷いて言う。


「とにかく霊魂を避けつつヨシノリ君を安全にここから遠ざけましょう。どうもこの街の山の方から遠ざかるごとに霊体は減っているようだから、ここからもう少し沿岸側へ向かえば安全だと思う」


 香室はその話を聞き、またしても話に入る。


「あら、貴方達、まだ『街の外縁』まで行っていらっしゃらなかったの?」


 役人二人はその言葉に、「?」を浮かべる。香室は話す。


「この街はあの山を中心とした巨大な結界に包まれていますわ。行けばわかりますけど脱出不可能ですわよ?

 じゃなかったら私、こんなところで油を売らずさっさと逃げだしてますわ」


 シュウメイは青ざめて言う。


「な……。なんだと?

 いや、確かに結界の反応はあったが、あれは『祠』の神霊を逃がさないため魔界府が幾重か設置した防御機構で人間には効かな……」


「わたくし見ましたの。天出仁が結界を改造しているところを。

 そのあと、私は結界から脱出できないことが分かりました。だから天出仁の人間性を見定め真相を問い詰めるために彼にゲームを持ち出したのですが……。それもミゾロギの登場で《《おじゃん》》ですわ」


 二人のスーツ姿の役人は凍り付いた表情で一瞬動きを止めたが、すぐにシュウメイが口を開く。


 「とにかく……。事実確認だ。結界を直接調べてその種類や利用される魔術を知るべきだ……」


 『脱出不可能』ヨシノリは全員の脳裏にその文字が浮かんでいることを悟る。


――あの天出仁は……。黒幕?


 彼は何故か、その可能性が信じられなかった。だがその可能性を否定することもできなかった。

 一行は全員で結界があるという住宅街沿岸方面へと進む。


 時間は19時半ごろ。月蝕は続く。


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