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呪いのコレクション

     ……………


 『バッ! ガララッ……』


 折口レイは瓦礫より足に魔力を集中して衝撃波を生み出し、一気に数メートルの距離を詰め、ヨシノリの下へ降り立つ。そして、腰に携えた刀へ手を掛ける。


 一閃。


 音もなく、抜刀、文字通り空間を切り裂く斬撃がヨシノリに夢中で食いつく忌まわしき狩人たちに走る。狩人たちがその斬撃を知覚することはない。


 『ズリッ……』


 うねる狩人たちの胴体がすぐにズレて、地面に転がる。それでもなお、ヨシノリの腕に一体の狩人が食らいついている。


 「クソッ!」


 抜刀そのまま、折口は頭だけがヨシノリに食いつく狩人を斬ろうとするが、それよりも先に、拘束を解かれたヨシノリが狩人の頭を殴りつけ、コンクリートの地面に腕ごと叩き付ける。

 その拳には本人も自覚しないうちに魔力が込められていた。


 「ギャッ!」


 ヨシノリの攻撃に食らいつく狩人の牙が緩む。

 そこへさくりと刀の切っ先が入り、すぐに抜かれる。

 忌まわしき狩人は黒い血を噴き出しながらもがき、死ぬ。ヨシノリはその頭と刺さった牙を引き抜いて捨て、深々と腕に空いた穴をおさえる。赤い血液がジワリと吹き出る。


 「くそ……。痛い……!」


 「応急処置は後です。とりあえず今はここから離れます」


 彼女がそう言う背後、ミゾロギが一方的に天出に格闘攻撃を繰り出し続けている場に向けて、ブロック塀の瓦礫の奥から6つの半透明な壁が迫る。


 ミゾロギがそちらを見た一瞬の隙に、天出仁は忌まわしき狩人を食い散らかす『赤子の幽霊(ラブリー・ゴーレム)』をけしかけ、折口らの方へ抜け出す。

 彼はミゾロギを向きつつ背後の折口へ話かける。


「ヘイ、秘匿課の。ここは休戦といこうや。君はヨシノリ君と香室チャン連れて逃げてよ。私はスタンドアローンが得意なもんで」


「く……! 仕方ない、今だけは見逃します。」


「お役所にしては柔軟な対応ありがとう」


 彼はそう言うと赤子に殴りつけられるミゾロギを注視しつつ、香室と戦う忌まわしき狩人六匹へ飛び込む。


「よく見て、よく察知していかないとね」


 彼は空を舞うように飛ぶ一匹の狩人の頭部を飛び掛かって、掴む。そしてそのまま勢い任せにコンクリートの地面に叩き付け、めり込ませる。


『ドガァアアッ』


「一匹」


 彼は二匹の狩人が自身に向けて飛ぶことを察知、飛び掛かり、口を大きく開く蛇の頭部に対し、両腕に一瞬魔力を集中。それぞれの脳天を内側から貫く針のように細く鋭い衝撃波を発生させ、狩人をその場で絶命させる。


「これで三匹……。ふう……。疲れる」


 一方、香室雅も一方的に攻撃されるだけではない。

 飛び掛かり、牙によって彼女の腕などにわずかな切り傷を与えて抜けていく戦法を取る狩人たちに対し、彼女も負けじと拳をぶつけ、相手の鱗を弾け飛ばし、確実にダメージを与えていた。

 その様子は縦横無尽に飛ぶ狩人たちの様子から巨大なドレスを身に纏うような残像を作り出している。

 忌まわしき狩人らの蠢く生物的装甲が拳にぶつかってはじける音とじわじわと切り傷が香室の腕などについて行く様子は痛々しくもあったが、香室雅は冷徹に状況を見極め、狩人の動きに集中している。


――今ですわッ!


『ガガガッ!』


 突如、狩人たちは空中で動きを静止する。

 丁度、香室を切り裂いた直後だ。そして、二体の狩人が彼らの置かれた状況を把握しきる前に、その頭部へ香室の重い一撃が開いたままの口の中へ叩き込まれる。


『パァン! パァン!』


 炸裂音と共に狩人二匹は拳の衝撃により頭部が風船のように破裂する。


「奇襲と内部攻撃に弱い……と」


 彼女は最後に捕らえた一匹へ振り替える。彼女と戦っていた二体の忌まわしき狩人の残骸には彼女の美しく艶やかな巻き髪が触手のように巻き付き、締め付けている。

 彼女の髪は生き物の如く自律して動き、最後の一匹の身体もがっちりと拘束していた。


――『黒の踊り子(マカーブル・ダンス)


『ドガガガッパァンッ!』


 一方的な連打により忌まわしき狩人は死を迎える。そして彼女はそのまま、ターゲットをミゾロギへと向ける。

 だが、その次の瞬間、天出仁からあふれ出す『呪い』のオーラに圧倒され動きを止める。


「!?ッ」


 ヨシノリ達も同じく天出仁の方から強い寒気を感じる。

 彼は笑って言う。


「ククク……。私のコレクションの子たちが外へ出たいと蠢いている。早く逃げないと君たちもこの子らに食われちゃうよ? この子たちは私すらも食らおうという可愛い子たちばかりでね……」


 その笑顔は今までのものとは異なり、より純粋な幸福感を感じさせる『いい笑顔』だった。その事実が、より、ヨシノリ達に恐怖を感じさせた。


 折口はヨシノリを担ぎ、先程見せた歩法によりシュウメイの魔術防壁まで走る。

 香室は一瞬ためらったが、すぐにそれに続いた。


『ギシャァアアアアアアアッ!』


 無数の忌まわしき狩人たちが半透明の巨大な赤子に憑りつく。暴れる赤子をしり目に、ミゾロギは天出仁を見る。


「天出仁。ケヒヒヒヒ……。聞いているぞ。聞き及んでいるぞ。お前さえいなければ……!」


「私ごときがいなかったところで、ガバガバな計画だろ。すぐどこかで詰まるぞ。もっと臨機応変に楽しんで動かないと……。私みたいに」


 肩をすくめて天出は呆れたようにそう言う。

 ミゾロギはその言葉を聞いてか聞かずか話し続ける。


「偉大なる無貌の神の一部がここに降臨なされるのだ。貴様にはわからんだろう? この意味が」


「さあね。意味が分かる時なんて今まで一度もなかったしこれからもないと思うが」


「ハハハハ! 愚か者め! 貴様はおろかだ! 貴様は、何でも知っているつもりだな!」


「まさか、『我々は何も知り得ない』ということしか知らないよ」


「ではなぜ知ろうとする。知ることを求める? 出来ないとわかっていることを? 愚か者が」


 天出仁はその質問に心底つまらなさそうな、呆れた様子で答える。


「出来ないからこそやろうとするんだろ。真実を得られないからこそ真実に挑む。不可能であることに無駄な努力を行う。初めから何の意味などないのだから、意味は私達の被造物なのだから。できっこないをやらなくちゃ!」


 冗談交じりのその回答に、ミゾロギは怒り心頭であった。


「お前に救いはない。今、俺が殺す……!」


 彼はそう呟き殴りかかってくる。


 だが、その一瞬前、天出仁は指を鳴らし、手元に現れたサイコロを地面に落としていた。その数字の出た目は1。そして、彼の頭上にまたも巨大なスロットの(ヴィジョン)が投影される。


「何が出るかな! 何が出るかな! ハイハイハイハイ! ドゥルルルルルルルル」


 やかましい音と共に絵柄が揃って行く。

 そして、その絵柄がすべてそろうのと同時にミゾロギの渾身の拳が天出仁の顎を正確にとらえた。

 揃った絵柄には日本家屋を背景に、柱に釘で打ち付けられた『人間の腕』二の腕より下はなく、血が柱を伝って流れている様子が示されている。


「巻き込みに気ィ付けろよォッ! ナンバー24! 愛の手(ネビロスの庭園)!」


 アナウンスと共に、周辺一帯は巨大な日本家屋へと変貌する。


「!」


「結界術だ。だがこれは、『呪い』美しい家族愛の生み出した素晴らしい呪いさ」



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