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外宇宙よりの狩人

     ……………


 天出仁は向かい来る蛇の如き頭たちに臆することなく、ニヤリと笑いながら指を鳴らす。


『パチッ』


 その瞬間彼の右手人差し指と中指の間に水晶のような材質で作られた目が髑髏のサイコロのような(ヴィジョン)が現れる。彼はそれをぽとりと地面に捨てる。そして、彼は呪文をそらんじる。


『所詮この世はサイコロ勝負 分の悪い賭けだけでご臨終 死ぬか生きるかまた一勝負』


――『素晴らしきこの世界(ラッキー38)


 12の牙が、鱗に包まれた怪物の6つの頭が、天出仁の全身へと食らいつく。香室は全く自分がマークされなかったことと天出仁が動くことすらもしなかったことに驚愕する。


「なっ!?」


――既に私の術は解けているはず!?

 あの蛇のような化け物の牙はそれでなくても100g近い魔力が溜まっているというのに!?


 香室の思考がその言葉を紡ぐ中、蛇のような怪物のある数匹は天出の全身に纏わりつき、ある数匹はその肉を食いちぎろうと咀嚼を始める。


 だが、その頭上には奇妙な(ヴィジョン)が浮かんでいた。それはスロットのような三つの窓。それぞれが回転し、絵柄がつぎつぎに変化する。そして、そのスロットは一気に停止していく、ボタンを押して絵柄を合わせようとするように。

 そうして揃った絵柄は『繭に包まれた赤子の姿』をミュシャの如き耽美で一部簡略化された筆致の絵画によって示しているものだった。それと同時にファンファーレと謎のアナウンスが周囲に響く。


『ナンバー79! 蛯子の繭(ラブリー・ゴーレム)! 赤ん坊は大事に扱えよ!  もう死んでるけどなァ! ヒャハハハハハ!』


 そのアナウンスの後、天出仁をうずめる蛇のような全身がうごめく奇妙な生き物たちの塊は、巨大な半透明の白い繭に圧し潰される。


『ズッ』


 鈍い音共に、一息に圧し潰された化物たちがアスファルトの地面にめり込み、描き出す平面的な化物たちの図像の中心にて、天出仁が相変わらずの笑みを浮かべたまま立っていた。その右手には小さな白い繭が握られている。

 彼は足元でいまだ蠢く化け物たちを見て、感心した様子を見せつつ話す。


「へぇ、まだ動くかい。やっぱり『外宇宙』の生物は違うなァ」


 そんな言葉と共に彼は右手の繭を左手で撫でる。


『欲の時間だ』


 彼の呪文に呼応して、右手のちいさな繭、そして彼をその内側に含む半透明の巨大な繭が同時に敗れる。

 右手のちいさな繭の中には古い木像のように黒々としたものが入っている。それはミイラ化した胎児の死骸であった。


「アアアアアアアアアアアア!」


 巨大な繭からは巨大な赤子がその巨躯に似合う大きさの産声と共に現れる。そして、その赤子は、繭の底で潰される翼を盛った蛇たちを根こそぎ掴み、歯のないその口に含み、むさぼる。

 ブチブチと音をたてながら歯茎によってすりつぶされ、化物は殺されて行く。黒い奇妙な血を流す化け物が食らいつくされる中、その光景を唖然として見ている香室とヨシノリに向けて、天出仁は話す。


「オイオイ、敵はまだまだ来るぞ~う。私に見惚れてたら死んじゃう、ゾ★」


 香室がブロック塀の先から来る『存在』の気配を察知し、その言葉が聞き終わる前に再び臨戦態勢へ戻る。その数秒のち、前方から蛇のような化け物が3匹ほどまた現れる。

 今度は香室を狙っているようだ。


「キシャアアアアアアアアッ!」


 直線的に襲い掛かる怪物であるが、香室はそれらを最低限の動きで避け、すり抜けざまにうごめく黒い鱗を拳によって削り取る。


――動きは速いようですが、読みやすい。攻撃はかなり危ないですが、回避と攻撃を重ねれば問題なく殺れますわね。


 だが香室の回避の後、目の前にある家の二階部分が突如吹き飛んだ。


 『ドガァアアアアアッ!』


 どうやら奥の方から先程の山口同様、何者かが吹き飛ばされてきたようだ。

 それと同時に天出仁は何かを察知しブロック塀の方へと歩み出す。


「『彼』のご所望は私のようだね」


 そう言って彼が向かう先、ブロック塀を超えた場所の闇からは赤いフードを被った男が現れた。その男は笑いながら、天出仁へ上機嫌に話かける。


「ああ、やはり、『天出仁』! 君が一番の障壁か! あはははは! どうしてだ! なぜ私を邪魔する! みんな、みんな、みんな、みんなッ! なぜだ! なぜだぁあああああああああああああああああああああああ! うわああああああああああああああ!」


 泣き叫びながら、彼はあらゆる衣服の隙間から蛇のような化け物『忌まわしき狩人』を噴き出すように召喚する。そして、狩人たちは一気に天出仁へと飛び掛かった。


「アアアアアアアアアアアアア!」


 だが、それらは泣き叫びながら四つん這いで突進してきた赤子によって掴み、食らわれる。

 その時、天出仁は赤フードの男がその狩人たちの動きと共に、動き出したことを察知する。


――同時攻撃……。私のゴーレムちゃんは大物を狙う傾向にあるからすり抜けてきちゃうね。


 案の定、赤子の腕をすり抜け、赤いフードの男は単身飛び込んできて、天出仁の首を掴もうと手を伸ばしてくる。


 『ガッ!』


 天出はその手の軌道から首を避けるべく後ろに倒れ込み、左手の掌底打ちでさらにその動きの軌道を変化させる。

 次の瞬間、フードの男の手は『忌まわしき狩人』の頭部に変貌し、狩人が空へ飛び出していく。

 天出は更に背中で接地し、それを支えに両足でフードの男の無防備な腹を蹴り上げる。


 『ゴッ、ドォオオオン!』


 「うひぃっ」


 奇妙な歓声と共にフードの男は異常な衝撃波をその腹に受け、後方へ飛んでいく。だが、彼は空中で両腕を『忌まわしき狩人』に変貌させ、浮遊して停止する。そして彼はニヤリと笑って言う。


 「素晴らしい! 素晴らしいぞ、天出仁! 最悪だ! 貴様さえいなければすべてうまくいったんだ! ぶち殺してやる!」


 怒声を受けた天出はそれを煽るような調子で答える。


「お役に立てたようで何よりだ。ええと……。失礼お名前は?」


「ミゾロギ。ミゾロギタクヤだ! どうぞよろしくお願いいたします。そちらのお嬢さんがたも宜しく」


 突如として丁寧なお辞儀をし出した男にヨシノリは困惑の色が隠せなかった。しかし、香室は飛び回る自分をマークした狩人のせいもあって警戒を続ける。彼女のその対応は正しかったことがすぐにわかる。


「よろしくついでにみんな、死のうか」


 そう、真顔で言った瞬間、空中で静止するミゾロギの身体から数十匹の『忌まわしき狩人』が沸き上がり、分散して天出、ヨシノリ、香室へと飛び掛かってくる。また、ミゾロギは飛び込むように再び天出仁の元へと飛来していく。

 『幽霊の赤子』は二、三体を食らうのみ、香室も先程まで相手していた狩人三体にもう三体が加わることで状況が悪化、回避が間に合わないことが容易に想像できた。


――六体、さっさと数を減らす必要がありますわね。でもそれ以上に……!


 彼女の視線の先では今まさに二体の狩人に襲われつつあるヨシノリの姿があった。

 天出仁はミゾロギの恐るべき連打に対処中。彼を守る者はいない。


「クソッ!」


 ヨシノリは口を開く狩人に向け、必死で魔力を集中した拳を叩き込む。だが、強靭かつ奇妙な弾力ある蠢く黒い鱗にはその攻撃は無意味であった。


『ガッ』


「ぁああああああッッッ!」


 電撃のような痛みが彼の腕に走る。ただの刺し傷とは異なる、ざらりとした感触、彼の必死の防御を易々と破る鋭い牙は彼の腕の肉を味わうように微弱な振動でえぐる。


「クソッ! クソッ!」


 動こうにも傷によるショックで動けない彼をそのままもう一体の狩人がとぐろを巻いて締め付ける。

 正にそれは蛇の如き『捕食』の動作である。


――このままだと……。おれは……!


 彼の腕の痛み以上に、彼の胸中は『死』の感触が支配していた。そしてその感触は純粋な恐怖と、生存本能を呼び起こす。

 だが、今の彼にはどうすることもできない。全身がゆっくりと締め付けられていくだけなのだ。


「キシャァアアアアアア……」


 狩人の呪わしい息づかいがヨシノリの耳にかかる。

 香室は未だ六体の狩人の連続攻撃を回避し、天出はミゾロギとの格闘戦を続けている。

 万事休すである。


『ガラッ……』


 その時、前方、ブロック塀が崩落した先にある、先程吹き飛んだ家二階部分のがれきから何者かが起き上がる。


「只野修典さん……。約束通り来ましたよ……!」


 そこに居たのは傷つきながら、刀を携えた『折口レイ』だった。


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