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闇の|西洋骨牌遊戯《ゲーム》★決着へ!

     ……………



 再び、『親』は香室に決まる。

 山札より引いた彼女の手札五枚はA、K二枚、Q、J。

 方向性の異なるカードが揃うもジョーカーはなし。相対する天出仁は依然として笑みを浮かべた表情を続ける。だが、そのまなざしは香室には僅かに、彼女の出方をうかがうような気配が感じられた。


――フン。やはり彼はこの戦いで、()()()()()()()()相手の性質を見定めようというわけですわね。切羽詰まった勝負の修羅場にこそ、人の強き意志が出るというもの。見せて差し上げますわよ!


 香室は黒く艶のあるカールした髪を撫で払い、決意に満ちた眼差しで勝負に挑む。その様子を見る天出仁はほくそ笑む口角をより吊り上げ、満足気な表情を見せる。

 そのまま香室はAを自らの場に置く。

 方針は変わらず、大胆な動きを続ける意思表明である。


 それに対して天出仁は悪戯を企む子供のようなしたり顔で答える。


「では、こちらも遠慮なく」


 彼は山札より一枚カードを引き、香室の場にAを置く。1試合目の再現だ。


「随分な自信ですこと」


「我が強いものでね。ああ、でもそれはお互い様か」


「誉め言葉と受け取っておきますわ」


 香室はそう語りつつ山札よりカードを引く。引いたカードはK。手札にはこれでK3枚、Q、Jが揃う。


――Jを向こうに置く?

 相手にジョーカーが渡っていた場合の対応としてはそれが優先事項……。何より、攻めていかなければ勝利は手にできない!


 彼女はJを相手の場に置く。双方の点差は300。香室が大きくリードする。


 手番の回った天出仁は真っ先に山札よりカードを引く。彼はそのままJを自身の場に置き、手番を終えた。


 香室は自らの手番でAを引く。そして彼女には今、二つの道が目の前に示された。一つはAを使い自身のスコアを伸ばしていくこと。もう一つは相手のスコアの絶対値を下げること。


――こちらにはジョーカーが来ていない。相手の持つジョーカーの有無は不明。だが、第一試合のように私は焦らない。相手がどう動くか、私の一手で定める。主導権も場の雰囲気も、勝利のために勝ち取らなければ。


 彼女はAを相手の場に出す。その一手が吉と出るか凶と出るかはこの場ではわからない。


 天出仁は次の手番において山札からカードを引く。そして、彼はQを自分の場に出しスコアを-110とする。彼は嬉しそうに話す。


「ままならないものだね」


 皮肉ともとれるその言葉だが、香室は天出仁の人格から何となく、その言葉の自嘲的な意味合いを感じ取った。


「まだ勝負は終わっていなくってよ」


「もちろん。まだまだ勝負は未知だ、だが私は私の出し得る手については既知だ。これは悲しい」


 香室は天出仁のその言葉から、彼の人格の概観を掴んでいく。


――未知を楽しむタイプ。『子』になるとドローをし続けることも、ジョーカーを持たずにジョーカーを持つ素振りをするのも、リスクを楽しみ、運に任せること自体を楽しんでいる……?

 ともすれば自身の自由が侵される危険のあるこの状況においてまだ「楽しもう」とする。いや、その状況すら楽しむとは……。中々の大人物ですわね。


 彼女はそう分析しつつ、自らの運命を決めるドローに臨む。


――ジョーカーを手にできなければここで敗北の可能性が高まる。正念場ですわね。


 彼女はそう考えつつ、山札へと手を置く。そして一枚のカードを引く。

 そこで出たのはジャック。ジョーカーではなかった。

 だが彼女はその落胆を覆い隠すように天出仁の場へKを出し、天出のスコアを-100に上昇させる。


――私にできるのは相手に屈さない姿勢。最後の最後まで勝利を手繰り寄せ続ける!


 覚悟を定める香室と打って変わり、天出仁は余裕を見せつつ、楽しむように手札からQを自分の場へ出す。


 香室はすかさずKを相手の場へ。


 続いて天出はJを相手の場へ。これにより香室のスコアを100に減少させる。


 香室はなお、Kを相手の場に出し、相手のスコアを-90に圧しとどめる。あくまでも相手がジョーカーを使った際の差を減らそうと動く。彼女がジョーカーを持っているという印象を相手に与え続けるために。だが、彼女はその行為の意味はあまり感じてはいない。対峙している天出仁は自分が確実に勝利するようなジョーカーを二枚得た状況でもない限りは最後まで戦う人間だと知っているからだ。

 それでもなお、戦う事を続けるのは諦めるという行為を嫌っているからに他ならない。そう言う意味では、天出仁も似たような存在なのかもしれない、香室はそう考えた。


 試合の終わりが近づく中、天出仁は口を開く。


「やはり勝負は分からない。君の言う通りだ。くくく」


 香室はその言葉を邪推することなく。そのままの意味に受け止める。


「ええ勿論。最後までいい試合をしましょう」


 それは純粋な、対戦相手への敬意を含んだ言葉であった。


 天出仁はQを自らの場に置き、スコアを-100とする。


 香室はすでに手札にはQとJしかなく、相手の妨害は不可能となっていた。この土壇場においてこのマイナスのカードをどちらの場に置くか。だが、香室の行動に葛藤はなかった。

 彼女はJを相手の場に出す。


――自身の絶対値を下げる行動はしない。勝ちの目を最後まで取る。この場合で勝ちの目が大きいのは『相手にジョーカーがない』状態! 


 香室は第一試合のように天出仁がジョーカーなしに自身のマイナスを伸ばす動きを見せることに賭けた。

 天出仁はすかさずKを香室の場に置く。それは勝利の煽りか、敗北宣言か。天出は不敵な表情を変えずに語る。


「さあ、試合も終わる。お祈りは済ませたかな?」


「私は祈らない主義ですわ」


 毅然とした態度に天出仁は更に楽しそうに笑う。


「奇遇だね、私も祈らない主義なんだ。くくく」


 香室はその言葉を聞いたのち、Qを相手の場に出す。天出仁のスコアは-210。ジョーカーが出ることで全てが逆転するだろう。

 香室が覚悟の眼差しを天出仁の手札へ向ける。


 天出はゆっくりと裏のまま手札を自身の場に置く。

 そしてゆっくりとそのカードを返す。


 そこにはAが示されていた。


 香室はそれを見て安心と共に天出に語る。


「随分ともったいぶりましたわね」


「サプライズした方が面白いだろう?」


 そう言って天出仁は笑う。


 香室の勝ち星は2、天出仁も勝ち星2。両者の均衡状態は次の試合ですべて決する。


 だが、その顛末は意外なほどにあっけなかった。



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