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戦略と運

     ……………


 両者並んだ第三試合、再び親は香室。


 彼女の手札はK一枚、A二枚、J一枚、ジョーカー。この時点でかなり彼女は良い手札を得ていた。

 彼女は自分の手札を一瞥(いちべつ)した後、目の前の相手がいつドローするのかについて注意を向ける。

 天出仁の手札にジョーカーが無ければ彼はドローを急ぐ。そうでなく、彼にジョーカーがある場合、先手である香室は先に自分がジョーカーを使わざるを得ない状況に追い込まれるのだ。

 相手の出方をうかがいながら、自身の有利盤面を創り上げ、なるべく早くジョーカーを出し、相手の場を荒らす。着実な勝利のため香室はまずAを自らの場に置く。


 手番の回った天出仁はすぐさま山札より一枚カードを引く。そして引いたカードではなく手札からJを自らの場に置き、スコアを-100に下げる。


 彼の動きに香室は思考を巡らす。


 ――ジョーカーを期待している?

 それが妥当でしょう。彼はまだジョーカーを手にしていない、あるいは今引いた。でも初めからJを出すことは決めていたような動きでもあった……。今までの行動から見て、彼は生粋のギャンブラー……!

 彼は自分がどんな状況であろうとジョーカーを持っている前提で動き出す。そこが一番厄介……!


 香室は思考と共に山札より一枚カードを引く。出たのはK。


 ――こちらのスコアを上げ揺さぶってみましょうか……?

 まだこちらにジョーカーがある動きを見せるのは得策ではないと見えますわ。


 香室は自らの場にAを置く。


 次の天出の手番。彼はまたも手札を引く。そして自分の場にJを出しターンを終えた。


 ――やはり読めない男。ジョーカーを持っている前提の動きであるのにジョーカーを持っていない可能性が高い。果敢なドローはこちらの手数を増やすというのに。


 香室が山札よりカードを引く。出たのはA。彼女はそのままAを自らの場に出しスコアを300にする。


 ――彼の次の手番が終わってからが勝負。彼の出方次第で私のジョーカーを使うタイミングが決まる……!


 彼女が固唾をのんで見守る中、天出仁はひょいとドローを行う。そしてそれを見てニヤリと笑うと香室の盤面にJを置く。

 香室は手番にて山札を引くが、そこに来たのはQだった。


 ――ここに来て抑え込みに来ましたわね。少しでも優位を作っておきたいところですが、手札のJとQの使いどころが難しくなりますわね……。とりあえず、今の手番はこちらを高めて、次にジョーカーを使いましょうか。


 彼女はKを置きスコアを210に高める。

 次の手番、天出仁は自らの場にQを置き、スコアを-210にする。

 香室はその次に勝負に出る。彼女はジョーカーを自らの盤面に出し2100に自らのスコアを変化させた。その様子を見て、天出もゲームの佳境に入ったことを察し一層楽しげな様子を見せる。

 彼の手番が回ると彼は自分の場にQを出す。

 香室は相手のQの枚数に関してやや懸念を抱いていた。


 ――こちらのKはもう一枚。相手に最後のQが渡っていた場合私の敗北の可能性は高い。それにもうこちらの手札はQとJ。相手にはプラス、こちらにはマイナス!


 ジリ貧、だが彼女は先程ジョーカーを出す以上の最善手はあまりない。結局のところこのゲームは戦略と同等に運を試すものでもある。先程の天出の勝ち星は、まさにそれをハッキリと示す出来事であった。

 彼女は、その不安がありながらも、毅然と、そして優雅な手つきで迷いなく、相手の場へKを出す。


 それを見た天出は感心したように言う。


 「随分な自信だ」


 「心で負ければ運も掴めませんもの、それに私には戦う理由もありますので」


 ふふんと微笑しながら彼女は語る。


 天出は満足気な様子を見せつつ、自らの場にQを出す。この時、香室は敗北を覚る。だが彼女は態度の一切を変えず、そのままQを相手の場に出した。


 皮肉っぽく天出は言う。


 「これはどうも」


 「いいえ、どういたしまして」


 香室はそう言って笑い、気丈な態度を崩さない。


 天出は次の手番、ジョーカーを自らの場に出しスコアを2300に変化させる。

 香室は最後のJで天出のスコアを-100するも、彼は最後に残る手札Aを自らの場に置き、スコアを200の差に戻して勝利する。

 

 香室は第四試合の準備が自動的に進む中、拳を握り、自らを奮い立たせていた。


 ――今、流れは彼に来ている……!

 その勝利の流れ、運の流れをこちらに掴まなければいけない!

 私が勝負の下り坂に居るというのなら、そこを駆け上る!

 私はやらねばならない……!

 私の身体も、意志も、私とあの人だけのものなのだから!


 彼女のその思考の中に、ある言葉が()()()()


 ――『最悪、術の途中解除をしてもいいんだぞ。反動(ペナルティ)は私が請け負えば……』


 ――貴方(アナタ)、本当に……。

 お馬鹿ね。そんなこと(わたくし)が許すわけないでしょう?

 これは私の術。確かに私たちは()()()()でも、この罰は私が請け負うわ。励ましてくれるのは嬉しいけれどね。


 彼女は自身の思考において何者かと対話を行う。その様子を見て、天出仁は何かを洞察するように、自らの魔力的感性に集中していた。


 ――強力な魔術の感触。結界だけじゃあない。何かもっと大きな『妨害』が彼女を守るように覆っている。

 思えば彼女の魔力自体も妙な気配がある。まるで大きな魔力の中に別の小さな魔力が入っている様な……。『二重』の感触……。ククク。興味深いねェ……!

 

 天出はそう考えながらほくそ笑む。


 そして、卓上は整理され、山札は整い。次なる第四試合の幕が上がる。

 天出仁がここで勝利すれば、彼はこの『術』の操作権限を譲渡され、香室雅を5分間『支配』できる。

 

 「さぁ、全力で楽しもうか……!」


 両者、同時に山札より一枚引く。

 


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