ゲームの法則
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シルクのテーブルクロスの上にトランプカードの山が置かれる。枚数は18枚。数字ではないカードを集めた山札である。
天出仁は魔術的結合が充満する結界の中、魔術による『力場』によって反発力と像が再現された椅子にゆったりと体重を預けて座り、何が始まるのやらとニヤニヤ笑っている。
ヨシノリもまた、この空間の支配者である香室雅によって再現された椅子に座り、これから始まるであろう天出と香室の『ゲーム』をやや緊張して見守る。
香室雅は椅子に座り足を組み替え、縦にロールしながらもなお床に着きかねないような尋常ならざる美しい黒髪を少し撫でた後、淑女然とした柔和な声色で説明を開始する。
「使うカードは18枚。A、K、Q、J、各4枚、そしてジョーカー2枚。つまり絵札のみを使用しますわ。ちなみにカードの強さはAが最強、そしてJが最弱、ジョーカーは特殊カードとなっていますのよ」
その説明と共にテーブル上へ山札からふわりとカードが浮遊し、並ぶ。全てのカードが種類ごとに分けられて整列した。
香室は説明を続ける。
「ルールは単純。初めにどちらが『親』でどちらが『子』かを決定します。方法は、同時に山札から一枚引いて絵柄の強い方が『親』同様の場合は戻して引き直し。とりあえず決めましょう」
その説明により卓上のカードは再び浮遊。ひとりでに山札へと戻り、勝手にシャッフルされるように動いた後、山札が卓の中心へと移動してくる。
「わかったよ。でも一発で決めるのムズイんじゃない?」
天出仁はそう言いつつも、香室と同時に山札から一枚カードを選び引く。そして、引いたカードは天出が『J』、香室は『Q』。
「あら、意外にも早く決着しましたわね。それに『親』は私。では、ルール説明を続けますわ」
にこりと笑う香室に対して天出は一本取られたというように笑い返す。
二人の持っていたカードはふわりと浮遊し山札へと帰還。自動的にシャッフルされる。
「次に、それぞれ手札を5枚引きます。基本的にこのゲームでは手番は『親』が優先されるので……。まず私が引いて、次に貴方ね」
香室が山札よりカードを5枚引き、天出も同じく5枚引く。
「カードの絵柄の意味を説明しますわ。まず『A』こちらは『+100』を意味します。」
香室がそう言うと山札よりAのカードが浮遊し卓の空中に留まる。そして、+100の文字がその上に像として出現する。
「次に『K』こちらは『+10』を意味します。
そして『Q』こちらはちょっと変わって『-10』を意味しますの。
また、最弱の『J』は『-100』を意味し、最後に山札に二枚入るジョーカーは『|×10 or ×-10《場に出るまでの合計値×10もしくは×-10を任意で選択》』という意味を持ちます」
それぞれのカードが空中に浮遊しそれぞれのスコアを表示する。それを見て天出仁は所感を述べる。
「先行有利っぽいね」
説明を聞いた天出仁は配られた手札を見ながらそう言い、次なる説明を待ちわびる。
「まあ、まだルール説明は続くのでご安心を。では次はゲームの流れについて……。
プレイヤーはそれぞれの『場』を持っています。
プレイヤーは親から順に手札から一枚カードを自分か相手、どちらかの場に出すことができますわ。自分の場は自分のスコア、相手の場は相手のスコアに加点・減点となりますわ、まあ見ていてくださいまし」
香室は自分の近くのテーブル上に『ダイヤのA』を置く。すると、彼女の右隣りの空中に『SCORE 100』の像が出現する。
天出は感心した様子で語る。
「へぇ、至れり尽くせりだねぇ。んで、私の手番か」
香室は柔和な笑みを浮かべ説明を続ける。
「今回はチュートリアルですので本番の勝負とは無関係ですわ、ご安心を。
では、『子』の手番の特殊性を説明しますわね。『子』である貴方は手番中、カードを場に出す前に『一枚山札からカードを引く権利』があります。
ただし、貴方がカードを引いて、場に手札を出した後の『親』は必ず山札から一枚カードを引いてから場にカードを出します。そして……ドロー権は3回までの制限があります」
「なるほど、後攻がドロー権を支配する、と。ふーん、平等化に勤しんでいるわけか……。それに山札に余りがあるとゲームに一層深みが出るからねぇ」
天出仁は相手の場に『クラブのJ』のカードを出す。香室雅のSCOREが『0』と表示される。
「そう、貴方は自分の手札で相手のスコア上昇を妨害することもできます。説明の手間を省いてもらって感謝いたしますわ」
天出は笑って手を振りつつ質問をする。
「ワンゲームの終了条件は?」
「話が早くて本当に助かりますわ。
ワンゲーム終了条件はどちらかの敗北宣言か、双方の手札が切れたうえで『子』がドロー権を使い切った場合の二種類。ドロー権を使い切った際は、スコアがより大きい方が勝者となりますわ。勝者は勝ち星を一つ得て先に勝ち星を三つ得た方がこの術式の勝者となり敗者を5分間支配できます」
手札を扇のようにして扇ぎながら天出仁は返答する。
「なるほどねー。あくまでも『子』のドロー決定権はゲームを支配するものではないと……。それに君、他人を操ったり操られたりするの、相当『嫌い』みたいだねェ」
顎髭をいじりながら天出仁はニヤリと不敵に笑いそう語る。
香室はすました顔で返答する。
「貴方は他人の術式を見て心理を推察なさるのがお好きなようですわね」
「まあね、でも正確に言えば私は他者を見るのが好きなだけだよ。つまんない人間はほとんどいない、詳しく見れば人間はだれしも興味深いからねェ」
会話の中、彼の持っていた手札や場に出ていたカードは独りでに山札へ戻り、シャッフルされる。
「さあ、ゲーム開始の宣言をしますわよ……。ゲーム開始ですわぁあああっ!」
その宣言と共に両者の隣の空中にSCORE0の表示が現れる。
二人を見守るヨシノリにはイスとテーブルが用意されており、彼はそこに座ってゲームの推移を望む。
――なんだかんだ、香室さんはおれに椅子を用意してくれるぐらいの親切心はあるワケだが、一体なぜ天出仁に『支配を賭けた』勝負を仕掛けたんだ……?
目的が読めないな。
ヨシノリは彼女の淑女的態度から話の出来る存在として見始めていたが、この状況の意図、そして初めて会った際の奇妙な独り言の意味それらの謎から彼女に対して底知れない何かを未だに感じていた。




