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魔術師たち

     ……………


     ◆


 他方、住宅街のはずれ、畑が広がる山沿いの道路周辺では、例のバンを守るように三人の『日本魔界府秘匿二課』に所属する魔術師、折口レイ、西園寺ミサキ、土御門シュウメイらが取り囲む無数の魑魅魍魎(ちみもうりょう)はらっていた。


「チッ……。キリが無い。やはり祠に向かうのは落ち着いてからの方が良いんじゃあないか?」


 ズレた眼鏡をくいと上げつつ、『土御門シュウメイ』は眉を吊り上げて、切れ長の目を仲間に向けて苦言をていする。


 その言葉を聞いた『折口レイ』は腰に下げた刀を目にも止まらぬ速さで抜刀し、鬼のような怪異を縦に一刀両断した直後、話す。


「そんなことを言っていたら、いつまでたっても祠に行けずに怨霊おんりょうの被害者が増えるだけでしょ!

 とにかく、私たちが行って封印を試みるしか……」


 両断された鬼がじたばたと足元で動くところに彼女は刀をするりと入れ、怨霊を消滅させる。

 そしてそのまま次の相手を見定め、納刀する。


 そこへシュウメイが反論を返す。


「レイ、魔術強度の観測結果を思い出せ! 『二十ギガトン級』だぞ! この日本のトップクラスの術師でも封印には時間を要する。それを私達ができるわけがない。祠が完全に崩れていたら私たちは本当に為す術がないんだ!」


 彼はそう語りつつ、自身の魔術を操作していた。

 彼と魔術結合で繋がる、周辺に展開された『36枚の魔力の防壁』は彼に向かってくる怨霊おんりょうの攻撃を防ぎ、怨霊たちの集団を蹂躙じゅうりんするようにぶつかり、化け物を消滅させていく。


 その防壁の動きは全て彼の制御下にあるが、流石さすがの彼もこの程度の敵にフル稼働はさせない。

 あくまでも自分の周囲にある一部の壁と仲間の近くに展開しているものをまれに動かす程度である。


 だが、怨霊おんりょうは闇の中より無数に表れ、数によってわずかながらも魔力がどんどん削られる状況。不利とも考えられる。


 冷静さを失いつつある二人の議論に眼帯を着けた『西園寺ミサキ』が介入する。


「祠に行く必要はないよ。この騒ぎの黒幕は『奴』だ」


 彼女は弓を体に掛け、矢筒に数十の矢を持っていながら、頑なに怨霊おんりょう拳闘けんとうや蹴りで消滅させていっている。

 彼女の繰り出す鋭い蹴りは一息に複数体の低級怨霊の首を消し飛ばす。他二人にはない荒々しさがその攻撃に垣間見かいまみえるようである。


 他方、機動力で数々の大型怨霊(おんりょう)の間をい、居合による抜刀で両断しつつ、とどめを刺していた折口は、先ほどの西園寺の言葉を聞き、察する。


「……。

 確かに『天出仁』は魔界府の最重要指名手配の一人で、第一級魔術師相当の実力者……。

 けど、流石の彼でもギガトン級強度の『神霊しんれい』を操るなんて――」


 さえぎるようにミサキの返答が飛んでくる。


「操る必要はない……!

 アイツはおそらく、強い力にかれてやってくるこういった怨霊おんりょう呪物じゅぶつを集めたいだけ……。

 自分の目的のためなら犠牲も手段もいとわない『極悪人』なのだから……!」


 怒りのにじむミサキの声。

 彼女の拳は数を増す怨霊おんりょうに対してより苛烈かれつに攻撃を強めていく。

 だがそれを阻むように、シュウメイが壁を動かし、ミサキ、レイを囲って彼女らの方を見る。


「とにかく、今は怨霊おんりょうをすべて倒すのは無理だ。

 一旦、比較的怨霊(おんりょう)の少ない住宅街に潜伏せんぷくし魔力を温存しよう。

 どう動くかの議論はその時たっぷりできる」


 折口は納刀した状態ながら戦闘態勢を解かず反論する。


「待ってる間の住人の犠牲は?」


「道すがら助けられる人を助ける」


 シュウメイの反論にミサキが付け加える。


「一番手っ取り早いのはその道中で天出を見つけることだがね。

 それですべて終わる」


 ミサキはそう言いつつバンに近づいて行く。折口もそれを受け苦々しい様子でバンに向かい始めた。


 シュウメイは三十枚余り展開されているカード状の防壁をそれぞれ操作し、怨霊おんりょうたちの間にバンの通る道を開けようとする。

 だが、その時、彼の鋭い『魔力感知能力』によってこちらへと来る魔術師の存在を察知した。


「襲撃! 相手は三……。いや、四人! これは……!?」


『!』


 シュウメイの言葉に呼応しバンに乗り込もうとしていた二人は即座に散り臨戦態勢(りんせんたいせい)を取りつつ周辺の魔力感知に集中する。


 四人の魔術師は闇夜の中、空中より一人、山側から二人、そして近づくまで感知能力に長けるシュウメイですら見逃しかけた一人が畑の方から、それぞれ凄まじい速度でやってくる。


     ―――――


「約束通り、オレが切り込むぜ」


 歓喜の声を混じらせそう叫ぶのは空より飛来する一人の男。


 彼の顔、身体のあらゆる場所に傷跡が刻まれ、顔の右側は痛々しい火傷によって頬の一部が失われている。

 

 土御門シュウメイは空中より近づく彼を恐ろしく鋭い『感知能力』によって子細しさいに把握した。その強靭きょうじんな肉体と特徴的な容姿から彼の正体をさとる。


――アレは……。第一級相当違法魔術師にして傭兵、『諸刃の拳・山口コウ』! なぜこんな場所に!?


 山口コウはシュウメイの高度な感知が行える圏内に入った直後、呪文を詠唱し始めていた。


『白日の下でも偽れよ 不壊者の権限の名の下に 見えざる足場よ現れよ』


――『見えざる足場』


 ラテン語で紡がれるその呪文の意味を彼自身ほとんど理解していない。


 この魔術は魔界において古代より伝えられるとされる術であり、魔術師によって使い続けられることによって、呪文を唱え、やや多い魔力消費をすれば術の仔細しさいを理解しなくともこの術を操ることができるのだ。


『ダッダッ』


 魔術によって山口は虚空こくうを蹴り、飛来する速度を上げる。

 その蹴りだす脚力は、魔力操作によるものではなく、彼の人知を超えた域に発達した肉体が練り出したものである。


 シュウメイは両手に魔力を込め、魔術による防壁を操作する。山口の機動力に勝る動きはできないものの数の多い防壁はバンの周囲を囲い守るように整列する。


「薄い、遅い、ヌルすぎるぜェ?」


 そう言って笑う山口コウは腕を突き出し、防壁を勢い良く殴りつける。

 怪異たちの攻撃をものともしなかった防壁はその一撃を受けヒビが入り、もう一撃で破壊される。


「くっ……!」


 シュウメイの防壁操作により破られた壁の両隣りょうどなりが山口を挟みつぶすように動き出す。


「遅えって言ってんだろ!」


 彼はそう言うと軽々駆け出し防壁による攻撃をするりと通り抜けてシュウメイへと向かう。


――なんて身体能力!

 見た目通り無数の魔術攻撃を受け身体のあらゆる箇所が魔力に順応しているようだな……。

 殆んど身体能力だけで一級魔術師相当の実力と言われるだけはある!


 シュウメイに拳を振り上げた山口だったが横から射られたミサキの矢を寸前でかわしそちらへ向き直る。


「破魔矢なんて人に向けるもんじゃあねえだろっ……」


 向かってくるミサキに標的を変更した山口はそう言って動き出す。しかし。


『ドスッ』


「!?」


 避けたはずの矢は彼の背に刺さっている。

 そして、矢はそのまま強力な熱を発し始める。


『ドガァアアアアアン!』


 爆煙の中、山口は背中で爆発した矢をものともせず経験と感覚を基に術の分析を行う。 


――破魔矢は本来祝福効果のはずだが……。反転か?

 それも怨念がビンビン伝わってくるぜ……。

 『神祇寮』の貴族やら神職共には珍しいな。


 彼は自身の感覚を元に分析を更に深める。


――矢の操作もしくは標的誘導(ホーミング)……。それに爆発。

 爆発規模は爆薬1kg程度。

 爆発の弱さと矢自体の魔力強度を鑑みて標的誘導がカタいか……。くくくっ。


「まだまだ足りねえ」


――火傷は軽いが良い感じにヒリついてる。もっと楽しませてくれや!


 彼は裂けた口の端をさらに歪ませ、悪魔のような笑みを浮かべた。

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