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お嬢様の西洋骨牌★遊戯《カードゲーム》

     ……………


 叫びと共に魔力をまとった強烈な蹴りが重力による加速と共に、空を切り、風を連れ、正確無比に天出仁の下へ飛来する。


『ドガァッ!』


「中々良い蹴りだ。

 魔力操作(スキル)はチョイ下手だが、身体能力強化型(パワフル)全快だね!」


 高さ数十メートルから飛来した魔力による蹴りを右腕で受けながら、余裕の笑みで天出はそう語る。

 飛来せし御令嬢(お嬢様)、香室雅もまた余裕に見える表情で答える。


「あら、おあずかり光栄ですわ、『黒幕候補』さん」


 彼女は素早いバク宙で、またたく間に仁との距離を取ると、そのままロープを利用するプロレスラーの如く、塀を蹴り一直線に仁へと飛び掛かる。

 その姿勢は体当たりを予見させた。


「ほお、面白い」


 天出仁は何が起きるのか完全に予知したような言葉を口走り、腕を組んで棒立ちである。


 次の瞬間。

 香室の呪文詠唱が行われる。


『生の喜びを嚙み締めましょう 負けて損をすることも 生きて受けられる幸福の一つ』


――『貧すれば鈍する(ルビコン・ピケ)』!


 フランス語で紡がれた詩のような言葉。

 それらが唱えられるとともに、香室は天出仁の目の前でブレーキを踏む如くアスファルトの地面に足を踏みしめる。

 その動きは物理法則をパワーでじ曲げるかのような力強さがあった。


『ドガぁぁッ!』


 地面を割るその脚の一撃は地面一帯に魔力による不思議な紋様もんようを浮かび上がらせる。


「な、なんだァっ!?」


 ヨシノリが叫ぶ中、天出仁が彼を呼ぶ。


紋章もんしょうの円の中へ!」


 地面に描かれた魔力の紋様もんようは半径二メートルほどの円に収まる。

 ヨシノリがその円に入ると紋章からは魔力によってつむがれた言葉の筋が沸き上がる水のように噴き出し、円内をドームのようにおおった。


 完全に外界と隔絶かくぜつされ、『魔術結合』の充満じゅうまんする空間から逃れる術は無い。

 そんな中、天出仁は空間にらめく魔術結合をからめとるように指をくるくると回しながら解説を続ける。


「こいつは結界術。

 魔力による紋章もんしょう呪物じゅぶつなんかで区切った枠内を『魔術的結合』でたすことで、結界内を完全に支配したり、結界外から内部を防御したり、結界内を外から全く隠してしまったり、マジックミラー号したり、ラジバンダリ、色々便利な術の一種だ」


 ヨシノリは自身にまとわりつく魔術的結合を見て、天出仁の冗談そっちのけで質問する。


 「つまりこの中はこの魔術を避けようがないってことか?」


 「それに自分の魔術的結合もかなり中和されて基本扱えない。

 あーでも、すっげえ燃費悪いけど充満してる結合よりパワー出せる『防御』の魔力操作で全身(おお)ったらどうにかできるよ。

 私、最大魔力量少なくてできないけど」


 「じゃあ、大ピンチじゃねーか!」


 ヨシノリはそう叫ぶ。

 呑気のんきな様子の天出仁と対照的に、彼の脳裏には先程、仁が怨霊おんりょうへ行った所業しょぎょうの数々が避ける余地も、逃げ出す余地も黒く襲い掛かることが想像された。


 彼は壁に一歩近づき触れて確かめる。ビルの冷たいコンクリートに触れるかのように硬質で巨大な感触がそこにはあった。


 ――脱出は不能。だが、相手は何もやって来ない……?


 彼は振り向き結界内にたたずむ『香室雅』に向けて疑惑の目を向ける。

 それを見た雅はふふっと笑い話す。


「安心してくださいまし、この結界内では私を含め誰も戦闘行為を行なえません。

 紳士しんし淑女しゅくじょの協定ですわ。それに、そちらの天出仁さんに私は用があって攻撃したのであって、貴方にはたとえ『外』でも何もしませんわ。

 私、淑女しゅくじょですもの」


「……」


――祠を出てから会った連中は天出仁あいつ含めて基本的に信用しにくいが……。

 この人は、大丈夫か……?

 いや、妙な独り言があったのが、やはり気がかりだ……。


 ヨシノリの中での疑いは中々晴れない。


 だが、そんな彼の想いはつゆ知らず、香室は天出仁を向き、語り始める。


「この魔術『貧すれば鈍する(ルビコン・ピケ)』は私とあなた、一対一でゲームを行い、勝敗が決するまでここから出ることはできません。

 そして、このゲームでの敗者は

 『5分間、勝者の言う事をきかなければなりません』」


 その宣言と共に結界の中央には二組の椅子と一つのテーブル。そして、カードの山札が一つ出現する。

 天出仁はそれを見て、術式の分析を語る。


「結界内の法則(ルール)付与・強制。

 ゲーム勝敗という、術者と対象者の対等な条件。そして恐らくは『5分間の洗脳』という効果……。

 まあ妥当か。

 でも、結界と結界内のルールの異様な強固さにリソース使いすぎて、洗脳(成果)は完全じゃなさそうだね。術式の組み方もちょいとつたない」


 天出仁は一通りの分析を述べながら椅子に座り余裕の表情で脚を組む。


「フフ。噂通りの博識はくしき饒舌じょうぜつですわね、『呪物コレクター』の天出仁さん」


 香室もそう言って不敵な笑みと共に椅子に座り脚を組む。


 二者の手練れの魔術師が向かい合うその様子はヨシノリにはまた違う見え方をしていた。


――香室雅……。体の中に凄まじい魔力を秘めている……!

 天出仁よりずっと多く見えるのは気のせいか……? 


 ヨシノリには香室雅が持つ魔力の潜在量は天出仁のそれよりもずっと大きく、強く見えた。その差、実に百倍近いと見積もれる。


 だが、それでもなお天出仁は余裕の表情を全く崩さず、むしろニヤニヤとした笑みを更に強めているようにさえ思える様子だった。


――カードゲーム……。一体何が出てくるんだ……?


 不敵な笑みを浮かべる両者に卓上の山札からそれぞれ五枚のカードが配られる。

 ゲームの火蓋ひぶたが切って落とされた。


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